初恋の相手を探してポケモントレーナーになった男のはなし 作:姉醤油
「どうしておねえさんはトレーナーになったの?」
そんな質問をしたことがある。
「そやねぇ……うちは昔、ポケモンになりたいと思っとったんよ」
「えぇーっ、おねえちゃんは人じゃないの!?」
「そう。うちは人やったから、なにしてもポケモンにはなれへんかった。それでもな–––––」
それでもにこっと微笑んで、彼女は言った–––––。
「おーし! 敗北を知ったな少年!」
いや「おーし!」じゃないが……?
ポケモンセンターの外のベンチで呼び出しを待ってる間、横から矢継ぎ早にコガネトークをかましてくる
「へっへっへ、まぁそう落ち込みなさんな! よく言うでしょ? 『失敗は成功のオカン』ってさ」
「……『母』じゃないですかね?」
「おっ、元気が戻ってきたね!」
……やっぱりか。……たぶんこの人は、俺のことを励まそうとしてくれてるんだろう。うちのママもこういうタイプだったから、なんとなく分かる。
以前イチカさんから「ポケモンリーグで勝てなかった」って話をされた時、この人は今の俺みたいな目をしてた。あんな目を見せるのは、俺と同じように……いや、俺以上に打ちのめされてきた証なんだろう。
「……ありがとうございます」
「うむ、復活したのね。それなら彼らに会ってやりたまえ」
「……はい!」
そうだ、俺がなったのはポケモントレーナー。一度の負けでへこたれるヤツが進める道じゃない。もっと強くなって、今度こそ勝つ。
その決意に応えるように、ポケモンセンターのアナウンスが鳴った。
『受付番号十七番でお待ちのユウイチさん、ポケモンの治療が完了しました。受付までお越し下さい』
「お預かりしたポケモンはみんな元気になりました! またのご利用をお待ちしてます!」
宿泊中の部屋に戻ってすぐ、自分のポケモンたちをボールから出す。
ヒノアラシ。最初に仲間になった相棒。大人しいけど、バトルの時には尻尾の炎が一層強く燃え上がる、強い情熱を持ってる。
コイル。この前捕まえたばっかりで付き合いは短いが、俺やイチカさんにも目をキラキラさせて甘えてくる、人懐っこくてかわいいヤツだ。
「ふたりともごめんな、この前は勝たせてやれなかった。もう一回、俺と一緒に闘ってくれるか?」
ふたりは顔を見合わせると、笑って俺の胸に飛び込んできた。
「へへっ、ありがとう……!」
「うっし、特訓じゃい!」
あの後イチカさんからバトルフィールドに呼び出され、そう告げられた。
「特訓って言っても、どうやって?」
「さっきのバトル、君は何に苦戦した?」
「んーと……エアームドのたつまきですかね……? あれを使われてから相手にペースを握られたような気がします」
「その通り、攻略のカギはたつまきにあり! ……ということで本日は専門家の方にお越しいただきました。チルタリス先生、お願いします」
「ちるるっ!」
気付くとイチカさんはなぜかサングラスを身につけていた。
教師のつもりか?
「なんでサングラスかけてるんですか?」
「先生も先ほどのバトルをご覧になったそうですね?」
「なんでサングラスかけてるんですか?」
「ちるっ! ちるるるっ!」
チルタリスがもこもこの胸を張っている。
「なんと! あのエアームドのたつまきを先生が実演してくださるんですね!」
「ではお願いします! ちっちゃく“ぼうふう”!」
「ちる〜!」
張り切ったチルタリスのぼうふうはすごい勢いで隣のイチカさんのサングラスまで吹っ飛ばした。
「ギャー!!! こっちじゃなくてあっち! ヒノアラシにやるの!」
「ちるっ!? ちるるる!」
うぉー! 今度はこっちに飛んできた!
……すごい。あの時エアームドが出したたつまきと、強さや数、配置までかなりそっくりだ……。
「っへへ〜! この子は器用だからね! さっき試合を見せといて再現できるようにしてもらったよ! さぁ……どう攻略する?」
たつまきか……。
ミカンさんのエアームドの怖い所は二つ。
一つ目はフィールドにしばらく残る点。
たつまきに触れないように避けながら戦うと当然動きは制限されるし、避けることに集中し過ぎると、今度は攻撃に意識が回らなくなる。
大変だが、俺とポケモン、ふたり分の視点を活用して対応するしかない。
「よし、今度はエアカッター! 手加減しっかりね!」
「ちるっ!」
マジか!? エアカッター戦法まで使ってくるのか!
これが二つ目……! 最大の壁と言ってもいいだろう、エアカッターだ。
このエアカッター、羽ばたきを鋭い円形の斬撃にして飛ばすだけの技……のはずなんだが、あのエアームドのは違った。
「右に避けろ!」
指示に従ったヒノアラシは、目の前に迫るエアカッターから身を逸らした。
だが斬撃は、追いすがるように軌道を変えてヒノアラシを襲った。
これだ。この「曲がるエアカッター」に俺は負けたんだ。
実のところ、
エアカッターは曲がる瞬間、いつもたつまきの近くで曲がっていた。
たつまきがエアカッターを曲げているのは間違いないだろう。
問題は、どうして
エアカッターは空気でできた刃だが、それだけだとたつまきに触れても変な方向に吹っ飛んでくだけだろう。
こっちを正確に狙える理由だけが全くわからない。
とりあえず思いつくままに色んな戦法を試していくしかない。
ヒノアラシとコイルでの「たつまき&エアカッター対策」は数時間に渡って続いた。
……が、結局いい案は浮かばず。
とりあえずふたりともたつまきの特徴については把握してもらった。
間違いなく前進はしただろう。
明日こそは、と決意を固め、その夜は眠りについた…………。
翌朝。
俺はイチカさんに引きずられ、アサギジムの前までやって来た。
どうして……。
「大丈夫、リベンジは早い方がいいの!」
「いくらなんでも早すぎでしょ! まだ勝てる目処も立ってないし!」
「昨日は一日たつまき対策やってたんだからもう大丈夫! 後は本番で見つかる!」
、
「俺まだ駆け出しですから! 無茶言わないでください!」
「だーかーら……いけるって、師匠を信じなさい! アンタみたいなのはね、一回負けるとあれこれ理由付けてぜんぜんバトルしようとしないんだから!」
……痛いとこ突きやがって……!
腕を引っ張られ入口前で抵抗する俺を、ついに自動ドアのセンサーが検知した。
「…………あの……なにを?」
ちょうど開いたドアから、ミカンさんが顔を出した。
「……や、その……再戦をお願いします……」
言っちゃったよ……。
「それじゃ、今日もよろしくお願いします。昨日も言いましたけど、あたしの使うポケモンはシャキーン!! は、はがねタイプです……!」
((二回目も言うんだそれ……))
「前回同様、ジムリーダーの使用ポケモンは一体、チャレンジャーは全て使用可能となり、交代はチャレンジャーのみ認められます! それでは、両者同時にポケモンを出してください!」
タイプ通り、鋼のメンタルでルールを説明する審判の声をよそに、俺たちは互いにポケモンを出した。
「エアームド、今回もおねがい!」
「コイル、今回はお前からだ! 頼んだぞ!」
あとは本番で答えを見つけるしかない……!
去年初めてリアルのポケモンセンターに行きましたが、グレイシアのぬいぐるみを買ったとき、レジの店員さんから「グレイシアを可愛がってあげてくださいね!」と言ってぬいぐるみを渡されてとても驚きました。
店員さんが世界観を忠実に守られいて、これからも行こうかなと思えた素敵な体験でした。