【正直】某騎士団の副団長なんだが親友のイケメン金髪騎士団長が女の子と入れ替わって俺に泣きついてきた【ドチャクソ好み】   作:ディム

1 / 4
登場人物紹介
・アッシュ
 灰髪灰眼な鉄面皮しかめ面イケメン。
 名前の由来は灰色。
 おっぱい派のむっつりすけべ。

・オリアス
 アッシュくんの親友。現・美少女。
 名前の由来は『aureate』(きんぴか)。
 むっつりすけべ。

・騎士団のみんな
 オープンすけべとむっつりすけべが8:2の割合で在籍している。
 全員男のむさくるしい職場。


俺の親友がドチャクソ好みの美少女になった

 この状況は、一体どういうことなのだろうか。

 俺は、確かに親友からの呼び出しの手紙に応じ、それに記された場所……帝都西部、歓楽通りの路地裏広場へ向かったはず。事実、そこかしこの建屋からは叫び声だの嬌声だのが聞こえてくるし、三つ向こうの大通りは夜だというのに賑やかだ。

 場所は間違っていない。時刻も。だが、いつもならば遅刻しない筈の親友の姿は無く。代わりに、刻限から少し遅れて現れ、俺の姿を認めるや否や抱きついてきたのは――

 

「う゛ぅぅ、アッシュぅぅ……! あ゛っじゅぅぅ……!! ぼくぅ……僕、こんな身体だけどっ、オリアスでっ……!」

 

 俺の腰にしがみ付いて、胸に顔を擦り付けて涙を流す――少女。

 身分は一目瞭然、この襤褸の服と手枷、足枷は奴隷以外に有り得ない。

 名前は不明。見た目は……まず、薄汚れてはいるものの、見事な白紫の長髪。手触りもよく、丁寧に洗えば輝きを取り戻すであろうことは想像に難くない。

 声は鈴の音のように澄んでおり、耳障りが良く、顔立ちも美しい。奴隷であるにも関わらず仄かに甘い香りを放っており、その肢体は嫋やかで、服装と汚れさえ整えれば何処ぞの令嬢と言っても通じるだろう。

 そして、何より。

 

「アッシュぅ……?」

 

 気弱そうに潤んで、しかし俺に対する怯えのない……信頼を窺わせるその瞳と。

 俺の身体に押しつけられる……その……なんというか――柔らかくて、デカくて、あと柔らかい『それ』。

 

(いかん――)

 

 端的に言って。

 この、自分のことを、我が友……オリアスだと言い張る美少女は。

 

(――辛抱たまらん!!)

 

 俺の好みど真ん中……ドチャクソ好みのタイプだった。

 

 

 ――時間は今朝に遡る。

 朝日が昇り、騎士団の隊舎に光が差し込む。騎士団員の皆が起き出すその時刻のおよそ二時間ほど前、薄明かりが空に満ち始めた頃から、俺……アッシュは一人、団の練兵場で木剣を振るう。

 無心で、ただ身体を動かすというのは……気が休まるものだ。

 息を吐く音、剣が風を切る音、流れてくる冷たい風。静かなそれらが、俺の心を鎮めてゆく。こうして、他の団員がいない時であれば尚のこと。

 

「……だが」

 

 が、気になることもある。普段なら、欠かさずここに居て、俺と剣をぶつけ合わせている筈の親友。この誉れある騎士団の長にして、俺の親友……オリアス。

 団長を務め上げるだけの剣の腕に加え、騎士団全体の指揮・運営……俺たち、騎士の群れを一個の生き物として統率しうる傑物。

 俺と違って街の女性たちにも人気があり、と言ってもいい親友。

 平民上がりでありながら、その智勇で騎士団長にまで昇り詰め、そして努力を欠かさぬ彼を、俺は心底から尊敬している。

 

 まあ、剣に限っては俺の方が強いのだが。

 

「……来ない、な」

 

 その分、俺には統率能力も指揮能力もない。書類仕事くらいは出来るように鍛えたが、基本的に俺に備わっているのは直接戦闘能力だけだ。だからこそ――騎士団は生まれよりも実力がものを言う世界の中で――俺より弱いあいつが団長に収まっている。

 俺のことが強い、というのはあいつも承知の上。だから毎朝互いに研鑽を重ねていた。だからこそ、オリアスが姿を現さないことはおかしい、と思う。

 思うのだが……突撃するしか能のない俺と違って、あいつにはあいつの果たさねばならぬ責務があるのだろう。急用ができたのならば……騎士団絡みならば俺に話を通すだろうから、私用である筈。ならば詮索するのも無用、俺はあいつの分まで研鑽を――

 

「……む」

 

 バキッ、という鈍い音。『素振りの圧に耐えかねて』、俺の木剣が砕けた音だ。俺は、使い物にならなくなったそれを練兵場の端に戻す。

 

「……いかんな」

 

 気が緩んでいる……と言うよりは、力み過ぎだろうか。

 オリアスとの訓練中にもいくらか壊しているが、そちらはあいつと打ち合っているからだ。素振りで破壊してしまうのは、不覚と言うより他はない。

 俺はひとつ息を吐くと、訓練を切り上げる。いつものように練兵場そばの井戸から汲んだ井戸水を口に含む――冷え切ったそれが、火照った身体を冷ましてゆく。

 いつものように食事を摂って、汗を流して。いつも通りの日常を始めようとして――しかし。既に、『いつも通り』が壊れていることに、俺は気付いていなかったのだ。

 

 

 

 騎士団の仕事、というものは多岐に渡る。最たるものはかの隣国との戦に戦力として駆り出されることと、人の住む領域に迷い出てきた強大な魔物を打ち倒すことだが、大きな異変がない場合――俺たちを動かす必要のないくらいの、魔物も居らず戦線もが 小康状態の時は、本国に待機している。

 設備運営であったり、新入りには警邏の手伝いをさせたり、あるいは団員に訓練をつけたり……俺たちのような幹部であれば、書類仕事をしたり。本国でやることは概ねこのあたりで、その筆頭になるのが俺……副団長と、あいつ……騎士団長オリアス、なのだが。

 

「……おい」

「ひっ!? あ、ええ、何です……何かな、副団長」

 

 これだ。我らが騎士団長にして、我が親友オリアスは、今朝からこの調子。声を掛けるたびに動揺して声を裏返すし、妙に口籠るし、顔を見れば目を逸らすし、俺のことを名前でなく『副団長』などと呼ぶ。

 立ち振る舞いもぎこちなく、いつもと重心の置き方も違う。これではまるで、偶に団員と街へ飲みにいった時によく見る……俺に怯える街娘か何かのようだ。

 

「…………」

「ひっ、そ、その……? な、何か用で……」

 

 偽物か、と思ったが……顔も形も、オリアスのもので間違いない。隊舎の結界が機能していないから、幻惑、錯乱、洗脳、その他心を惑わす魔法の形跡もない。

 だが、ならばこの有様は。……しばらく眺めていると、どんどん顔色が悪くなってゆくオリアスに、声を掛ける。

 

「……妙だ」

「へっ!? な、何が!?」

「何があった、オリアス」

「な、何も!? 何もない……よ! 本当に! わ、僕が信頼できない!?」

「……今日は仕事をするな、休め。俺がやる」

 

 その通り、今のお前は信頼できない――と言ったところで、解決はしないだろう。だが、この状態で仕事が務まるとも思えない。

 

「へっ? い、いやでも……」

「休め」

「あの、そのっ、私っ」

「休め」

 

 何のかのと喚くオリアスを、騎士団長の私室に――無理やり――押し込んで……とりあえず、今日の訓練を終わらせなければ書類仕事にも取り掛かれないため、団員を片っ端からボコボコにした。

 仕方あるまい。俺は向いていない書類仕事をせねばならないし、反面、団員たちへ訓練をつける義務もある。多少厳し目に、圧縮して指導を行っても理解は得られる筈だ。俺と彼らの間には、断金、固い繋がりがある。

 

「解せぬ」

 

 何故か恨み言をぶつけられた。「俺たちを殺す気か」――などと言われたが、死なせないために訓練しているのだろうに、実に解せぬ。

 

 ともあれ、訓練を――強制的に――手早く済ませて、普段は縁のない書類仕事をぼやきながら片し。陽も落ちてきた頃、そろそろ食堂にでも……と椅子を立った時、来客があった。

 

「入れ」

 

 入室許可を出す。姿を見せたのは、この時間は門前に立っているはずの団員だった。

 

「はっ。副団長、このようなものが」

「……手紙? 俺にか」

「はい。持ってきた本人はただ預かっただけのようでしたが、『宛名の相手がこの街に居るか分からないから、騎士団に届けてくれ』と言われたと」

「……預けた者は?」

「いえ。ただ……敢えて言わないあたり、およそ検討は付きそうなものですが。西通りの、煤けた匂いもしましたし」

 

 まあ、そうだろう。相手の名前を出すことで、不利益を被る……西通りとなると宿で買った女か、流れの商人か、そいつらの商品である奴隷か。

 俺個人は、そのどれとも個人的な付き合いはない。知り合いはいないはず。無視をしても良いのだが……。

 封を切り、中を検める。中身は単に俺を呼び出すだけの内容で……署名は、『オリアス』。我が友の名前が記されている。

 ……様子のおかしい友と、その友の名で認められた呼び出しの手紙。

 

「……わかった。出る」

「よろしいので?」

「書類の一枚や二枚、溜めても構わん」

「一束、二束の間違いではありませんか、副団長」

「……俺は出る」

「あっ逃げた!」

 

 勤勉で真面目な俺は自分の仕事を差し置いてでも、民の嘆願を聞かねばならない。門番団員くんにはそう言い訳をして、扉を閉める。

 服装は……鎧ではない、制服。部屋着でもないし、これで良いだろう。腰のベルトに剣を差し、両手にガントレット――俺の特注である専用品――だけ身につけて、隊舎を後にした。

 

 陽の落ちた、魔導灯で照らされた道を歩きながら、考えるのは手紙の差出人のこと。

 あいつが俺に用がある、と言うのならば、隊舎の中で伝えれば良い筈。あいつの部屋や俺の部屋ならば、二人だけの話も可能。手紙など出して、呼び出す必要はない。

 であれば、やはり騙っただけの偽物か。しかし、そう判断するには……文面、言い回しがあいつのようでもあった。

 我が事ながら、俺の名前は広く知られている。呼び出して害そうと企む者も居ないではないだろうが、ならばもう少し賢い手段を選ぶ筈。

 

「……分からんな」

 

 悩みながら歩いていると、待ち合わせの場所に辿り着いていたようだ。時間ぴったり……だが、待ち合わせ場所には誰もいない。

 この時点で、呼びつけたのが本物ではないと判断する。あいつは、時間に遅れるようなことはしない。ならば――そう考えた俺の耳に、遠くから、声が聞こえた。

 

「はっ……! はっ……こ、の身体っ、脚、遅いし、体力もっ、げほっ……」

 

 息を荒げながら駆けてくる誰かの声。

 魔導灯の灯りも遠い、仄暗い路地裏の奥から姿を見せたのは――

 

「……む、胸も……っ、揺れて……っ! 追いつかれ――あ、」

「……お前は?」

「あ、あっ、あっしゅ……っ!!」

 

 目尻から涙を零し、胸に飛び込んでくるその少女。感極まったように俺の名を呼び続ける彼女に、俺は。

 

(うわめっちゃ柔らけえ)

 

 そんなことを考えて――そして、今に至る。

 

 

 

 ぐずぐずと、制服の裾を掴んだまま離さない少女――自称・オリアス。その言葉を信じるか、と言えば否、信じられる訳などない。無いのだが……。

 

「……ぐす、ごめんアッシュ。迷惑をかけた。……僕にも正直、何が何だか分かっていなくてね」

「……いや、構わん。気にするな」

「ありがとう。……君のお陰で、ようやく自分を取り戻せた気がする」

 

 これだ。ああ言えばこう返すだろう、という信頼の通りに投げ返される言葉。声色こそ違うが、見知った話し方。何より――色も形も、造形の何もかもが違うのに、瞳に宿る意志の色は同じ。

 目を見れば分かる、とはよく言ったもの――俺は確かに、この少女こそが、我が友。この世で最も信頼できる、背を預けられる相手だと、確信していた。

 

「……信じて、くれるの?」

「お前の目を見て分からないほど、安い友情を抱いた覚えはない」

「……そっか。感謝するよ、アッシュ。君という友を持つことが出来て、僕は幸せ者だ」

 

 朗らかに、嬉しげに頬を緩める少女――いかん、どうにも心が揺さぶられている気がする。内心の動揺を隠すように、話題を変える。

 

「……しかし、何が起こった?」

「僕にも分からない。今朝目が覚めた時にはこの身体で、知らない場所で目が覚めた。挙句、誰もが僕を僕でない名前で呼び、奴隷の……そ、その。……女の子、として、扱う」

「……う、む」

「て、照れないでくれないか!? ぼ、僕だってこう……恥ずかしいんだよ! 身体は頼りないし、力は弱いし、今日だって何度……い、いや。この話はやめよう、うん」

 

 少女……オリアスは、頬を染めて咳払いをする。その振る舞い自体は見慣れたものなのだが、どうしても……その少女が同じ動きをすると、妙な気分になる。

 

「ともかく、僕はこのしょ、しょっ……少女として、目が覚めて。どうにか君とコンタクトを取ろうとして――」

「――見つけたぞッ!!」

 

 足音と怒声。腰の剣に手を掛ける。オリアスは――らしくなく、怒声が響くと同時、肩をびくりと振るわせ全身を硬直させていた。

 俺の殺気をまともに受けても動揺しない男が――今は少女となっているが――この程度で?

 疑問を抱えつつ、その姿を盗み見る。細い肩をかき抱き、恐怖に震えているようだが……同時に、『恐怖を覚えること』に疑問を覚えているようにも見える。まるで、身体が勝手に震えているかのように。

 

「下がれ」

「あっ……」

 

 オリアスは庇われるほど弱い男じゃない。だが、今のこいつは少女だ。一歩前に出て、その身体を半分ほど背に隠したあたりで、こいつを追っていたであろう足音の主が現れる。

 顔もかたちも平凡そうな男だ。身形だけは多少豪華で、右手には大きな宝石のついた指輪をひとつ。そして、隠しても隠しきれない埃っぽい匂いとなれば。

 

「いきなり逃げ出しやがって……おら、店に帰るぞ……っ、てぅえっ!? あ、あんたっ、その黒のガントレット……!」

「……奴隷商か」

「ま、待て待て待ってくれよ! 俺ぁ怪しいモンじゃねえ! 悪いこともしてねえ! ちゃんと認可取ってやってるトコだぜ!? だから殺さないでくれっ、俺にも家族が……!」

 

 いきなり何を言っているのだろう。奴隷商か、と確認しただけでそんなに怯えることは無いだろうし、何がどう転んだらいきなり殺すだの殺さないだのという話になるのか。

 そもそも、皇帝陛下からの任を受けて運営しているというのは右手の指輪を見れば分かること。それを俺が勝手に殺しては、罪に問われるのはこちらだ。

 

「……はぁ」

 

 溜息を吐く――何故か、男の顔が蒼白になる。背後で、オリアスの呆れる気配がする。いつもの、馴染み深い気配だが、今の少女の顔でどんな表情をしているのかは、分からなかった。

 

「……証を見せろ」

「は、ひっ」

「指輪だ、右手の。それだろう」

「わ、分かった……」

 

 差し出される指輪を見る。大きな真紅の宝石と、その内部に施された精巧な魔導刻印。間違いなく認状代わりのもの。

 

「……間違いなく、陛下から賜るものだな」

「は、はっ……」

「……?」

「アッシュ、アッシュ。ちゃんと『罪はない』って言ってあげないと」

 

 証を確認した、と言っても、緊張を崩さない男。それを見兼ねてか、背後で友がそう囁く。

 なるほど。確かに。オリアスはかしこいな。

 

「……ああ、確かに。何も問題はないとも。お前に罪はない、面倒をかけたな」

「ほっ……。い、いやぁ。聞いてたより、旦那が話の分かる方で――」

「ところで、こいつのこの有様はなんだ?」

「グェッ」

 

 ……話を途中で遮ったのは悪かったとは思うが。そこまで驚くほどのことだろうか。

 首を絞められたような顔でばたばたともがく男をどうにか宥め、聞き出したところによると……この奴隷の少女――つまり今のオリアスの身体――は、奴隷としてこの男に身柄を抑えられるまでの間に、相当な扱いを受けていたらしい。

 寝ても覚めても泣くか、暴れるか、壁に向かって何かを呟くか……それしかなかったそうだ。

 奴隷商の男も、別に悪鬼ではない。奴隷の扱いについては無体を禁ずると法で決まってはいるものの……どうせならば少しでも良い環境のところに買われてほしいと(この男、かなりの善人であった)ツテを当たるためにこの街まで来たところだったと言う。

 ところが今朝、打って変わったように正気を取り戻した少女。これならば、とより良い環境の売り先を探していたところで――脱走したという。

 何のことはない。この男、誰の所有物でもない奴隷がどんな扱いを受けるか理解していたから、身柄を保護しに来たのだ。

 

「……いい奴だな」

「だね……その、すまない。急に逃げたりして。事情があったとはいえ」

「いや……まあ驚いたし、気が気じゃなかったが。無事で何よりだ。俺も、お前の境遇とかよく理解してやれてなかったしなあ」

 

 オリアスと奴隷商が和解する。良きかな……だが、だとすると。

 

「では、こいつはお前が引き取って帰るのか?」

「そりゃそうなるだろ。当然だ」

「……!?」

 

 こうなる。オリアス、そんな驚いた顔で俺を見ないでほしい。普通に考えたら当たり前だろう。だから服の裾を引っ張らないでほしい。分かってるから。というかお前ちょっとこう、気弱になっていないか。

 

「……なるほど。では、売約済みか?」

「いや、誰ぞに声を掛けようかとは思っていたが――そういうことかい?」

「ああ。この……少女は、昔馴染みでな。無論、法を蔑ろにする気はない。幾らだ」

「あ、ああ。値段は……」

 

 なるほど。……高いな!?

 いやまあ、人間一人を買うのだから然もありなんと言うべきか……内心、慄きながら魔法契約を結ぶ。高いが、どうせ使い途のない金だ。ならば使っても構わんだろう。

 

「あ、アッシュ。その、僕……」

「気にするな。お前の方が余程価値がある」

「あっしゅぅ……!」

 

 泣くな泣くな。いや本気で、泣かれると……理性が揺らぐというか。心にきゅんきゅんと……いや抱きつくな、柔らかいんだよ!!

 

「お熱いこって。ま、収まるところに収まったってことかねえ……じゃあまあ、達者でな」

 

 俺がこの可愛らしい生物に四苦八苦している間に、奴隷商の男はさっさと退散してしまった。判断が早いのは良いことだ。騎士団に入らないものか。

 などと、現実逃避はさておき……とにかく、オリアスと思しき少女は確保できた。だが、匿う……と言うと聞こえが悪いが、住まわせる場所はない。騎士団の隊舎、俺の部屋に連れ込むしか無さそうだが……。

 

「?」

(くそッ! かわいいッ!)

 

 こてん、と首を傾げ、こちらを見上げる好みど真ん中の少女――我が友の姿を見下ろす。……仕方あるまいか。気を強く持てば大丈夫な筈だ。おそらく、きっと。

 

「一先ず、隊舎に戻るぞ。お前は……流石に、『オリアス』としては扱えんな。隊舎にも、『お前』がいる。様子は可笑しいが」

「そっか……なら、僕とこの子の魂だか精神が、入れ替わったってことになる……のかな」

「分からん。明日か、その次か。教会と魔法院と……行かねばならんだろう」

「だよねぇ……」

 

 はあ、と互いに息を吐く。こいつ溜息すら可愛いのどうにかならんか――もとい、並んで歩き出す。歩き出して……はたと気付く。

 オリアスの身体は今、誰とも知らぬ奴隷少女のもの。その上身ひとつで逃げ出してきた訳だから……靴を履いておらず、服もぶかぶかで粗末なもの。おまけにほんの少し眠そうにしており……仕方あるまい、と覚悟を決めた。

 

「わ、っ!? ちょっ、アッシュっ!?」

「裸足だろう」

「そ……っ、でも、これ、ちょっと恥ずかし……っ」

「……軽いな」

 「そういうことじゃなくてっ!」

 

 白紫の少女の背と膝裏に手を差し入れて持ち上げる、所謂姫抱きの態勢。顔が近くなったことで緊張も一入。気取られないうちに、と顔を逸らし、人通りの少ない道を通って隊舎の前に辿り着いた。

 

「副団長。お帰りなさ――!? あ、アッシュさんが女を連れ込んむぐっ」

「違う。昔馴染みが、奴隷になっていたのだ。先程の手紙で助けを求められた。分かるか?」

「オェッ……い、息……っ」

「アッシュ、アッシュ落ち着いて。威圧で死んじゃうから」

「……む。すまん」

 

 妙なことを叫ばれそうになったから、門番の彼に咄嗟に軽く敵意を向けて、機先を制してしまった。謝りつつ、彼から意識を外す――激しく咳き込みながら、彼は呼吸を再開した。

 

「はぁーっ……はぁっ……ふ、副団長の圧、久しぶりに体感しましたけど……とんでもないですね」

「すまん。動転してしまった」

「いえ……それで、その少女が馴染み、というやつですか。お名前はなんと?」

 

 名前――確かに。彼……彼女? 我が友はオリアスではあるが、身体はそうではない。別人のものである以上、その身体の名前がある筈なのだ。

 ちらり、と抱き上げたままの少女に目を落とす。桜色の、形の良い唇が開き、

 

「ぼ、私は……ウィオラ。ウィオラと言います」

「ウィオラさんか。奴隷になったのは災難だったが、この人が居てくれて良かったな。もう安心だぞ――お待たせしました。魔導検査、問題なしです。副団長、ウィオラさん、お通りください」

「ああ。引き続き頼む」

「ハッ!」

 

 門番に礼を告げ、オリアス……ウィオラ? を姫抱きに抱き上げたまま廊下を歩く。幸いだったのは、今が食事時だったこと。揃いも揃って欲望に忠実な団員どものことだ、今頃は食堂で大いに騒ぎながらメシを食っていることだろう。

 お陰で、誰に見つかることもなく俺の部屋にたどり着いた。オリアスをベッドに座らせ、部屋の鍵を閉める。誰に見られる心配も無くなれば、彼女は露骨に気を抜いて、安心したような素振りを見せた。

 

「んぅっ……ありがとう、アッシュ。お陰で助かった。君が来てくれなければ、僕は最悪……その、奴隷の女の子として売られていたかもしれない」

「……構わん。ともかく、今晩はここで過ごせ。俺は……」

 

 ちらり、とベッドに腰掛ける少女を見遣る。先行きに憂いを感じ、儚げに眉を下げるさまは美しく――ではなく。

 非常に可愛らしいのは確かだが、何よりもその形の良い目に怯えがないのがよい。

 

「……」

「……? アッシュ?」

 

 何故だか皆目見当もつかないのだが、俺は女性に怯えられ、距離を置かれることが多い。騎士団の皆と街の酒場に出向けば店員は俺だけを避けるし、騎士団に武具を卸している鍛冶屋の娘は目を合わせてもくれない。稀代の変人と名高い魔法院の主席術師ですら泣いて逃げられた。

 

「……」

「おーい。どうしたんだい? 大丈夫かい?」

 

 その点、目の前の美少女は俺に対する隔意などなく、むしろ無条件の親しみと信頼を向けてくる。俺という男のことを理解し、完全に心を許し。その上で……正直しんどいくらい好みの容姿なのだ。胸も大きいし。

 

「……可憐だ」

「……へぅぁっ!? な、なんてっ!?」

「なんでもない。俺はお前と俺の食事を取ってくる。お前はその間に湯でも浴びていろ。終われば俺の着替えを着ておくといい。今のお前にはかなり大きいだろうが、その襤褸布よりはマシなはずだ。そうだな? よし。なら俺は出る」

 

 危なかった。ボロを出すところであった。だが歴戦の騎士である俺はそんな隙を晒さない。襤褸の服を押し上げる胸やサイズ違いの布越しにでも分かる尻、柔らかそうな白い太腿をガン見していたこともバレていない。

 なので、急いで部屋を出た俺が扉を閉める――間際に聞こえた、「あ、アッシュっ、いま僕のか、身体を……っ」みたいな言葉も気のせいに違いない。

 

「ふう……落ち着け」

 

 バレていないので気のせいに違いないが、それはそれとしてその危険があったことは確かだ。いくら可愛くても……そう、いくら俺の好みのタイプドンピシャな上に気心の知れている美少女でも、あいつは我が友、オリアスなのだ。

 あいつはオリアス、と口の中で転がしながら食堂へ行き、食事をトレイに乗せる。書類を捌きながら食うのだ、と言えば拍子抜けするほどに追求はなかった。また、『オリアス』……おそらく中身はかの少女であろう、我が友の肉体は、食事を済ませ終わったらしい。鉢合わせになる心配もない。

 

「戻ったぞ。食事だ」

 

 意気揚々と部屋に戻る。あとはお互い冷静に、明日以降のことを話し合って終わりだ。

 部屋に少女の姿はない……代わりに水音が聞こえる。汚れを落としているのだろう。ちょうど良い、それが終わるまでは気を鎮めつつこれからどうするかを考えて――

 

『んっ……あ、れ? このくらいの温度のはず……ひゃっ』

 

 考えて――

 

『んっ、はぁっ……疲れと、強張りが……蕩けて……』

 

 考えて――

 

『髪と、か、身体……どうやって洗うんだろう……ひあっ!? ……感覚が、全然……』

 

 考え、て――

 

『う、わ……重っ、それに……ひうっ、柔らかっ……これ、本当どうしたら……んんっ』

 

 考え――

 

「――考えられるかァ!!」

『!?』

 

 俺は感情のままに床を叩いた。

 床には穴が空いた。




※オリアスくんは何もやましいことはしていません。

お読みいただきありがとうございました。
オリジナルでTSモノで非R-18でラブコメを書くのは初めてなので緊張してます。
お気軽に感想どうぞ。よければ評価も……

Tips:戦闘力
彼らの戦闘力はこんな感じ。

・一般騎士団員
→ふつうの兵士や一般的な冒険者相手なら10〜20人まとめて相手取れる。
 精鋭。

・騎士団長オリアス
→上の一般騎士団員を10vs1で一方的にボコボコにできる。

・副団長アッシュ
→上の騎士団長オリアスをオッズ9:1で一方的にボコボコにできる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。