【正直】某騎士団の副団長なんだが親友のイケメン金髪騎士団長が女の子と入れ替わって俺に泣きついてきた【ドチャクソ好み】 作:ディム
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正午を少し過ぎた頃。俺と『オリアス』……ウィオラと、『ウィオラ』……オリアスは、三人揃って魔法院最奥の研究室前に居た。
扉をノックすれば、返ってくる女の声。頷いて、『オリアス』を先行させた。
「あら、いらっしゃい騎士団長さま。今日は喫緊の用事と言うことだ、けれ、ど……? ……?? あれ? どうしたの、その魂……?」
「あの、えっと、これは」
流石は魔法院きっての才媛。一眼見て、我が友の身体の中にある魂の違和に気付いたようだ。伊達に眼鏡を掛けている訳ではないらしい。
今の我が友オリアスも眼鏡を掛けてくれないだろうか。きっと似合う――いや、この話は置いておこう。
『オリアス』を先行させたのは、形式上、少なくとも見た目と肉体の上ではあれが俺の格上……騎士団長であるからだ。まずは奴が入り、次に俺。最後に『ウィオラ』だ。
ごほん、と咳払いし、扉を潜る。
「才女殿に用件とは、当にその事だ」
「げえっ『黒の腕』ッ!?!?」
どんがらがっしゃぁん、と大きな音を立て、高価そうな巻物や魔導書を巻き込んで、才女……リム殿が椅子からひっくり返る。
うむ、今日も平常運転らしい。……燃えるような真紅の髪と目、濃紫の魔法衣に包まれた豊満な肢体、キラリと光る眼鏡のレンズ。うむ、素晴らしい。これで俺のことを極度に恐れていなければ完璧なのだが。
「どうした」
「どうしたもこうしたもないわよ!! あんたウチに来るなら三日前から連絡しろって言ってるでしょ!?」
「緊急時だ。それに、手紙で先程連絡したではないか。俺も顔を出すと」
「心の準備が出来てないのよ!!」
がおー、と吼え猛るリム殿。解せぬ。
数時間前に連絡を通しておいて、心の準備が出来ないとは如何なることか、とは思うが。彼女曰く、俺と顔を合わせるには最低三日は猶予が必要とのことだ。何に使うのかと言えば、覚悟を決めるのに使うという。全く意味がわからない……のだが、団員はこれに頷いていた。解せぬ。
「そうは言うがな。俺がリム殿に危害を加えたことがあるか?」
「実際に殺されたことはなくても
どこが怖いのかと言えば、魂が怖いのだという。解せぬ。以前は――眼鏡を掛けていることもあり――お近付きになりたいと思ったこともあったが、こうまで恐れられてはそうもいかない。切実に、今のオリアスが眼鏡を着用してくれることを祈るばかりである。
「……まあ、いい。良くはないが。実際、面と向かえば慣れて話は出来るのだからな」
「無理やり脅かされてるだけだけどね。……で? 例の用事っていうのは……そこの、騎士団長さんと女の子のこと?」
「ああ。そうだ。……オリアス」
俺が促すと、オリアス……つまり、白紫の髪の美少女、『ウィオラ』が前に出る。きょとん、とした顔のリム殿。その表情が疑いに変わり、そして驚愕へと移る。
「実は――」
……話を聞き終えたリム殿は、深く唸ると黙り込む。五分、十分と思索へ耽り、そして暫く経ったあと。
「……その事、私以外の誰に話した?」
「誰にも。知っているのは私と彼女……当事者の二人と、アッシュ。あとは貴女だけだ」
「大正解。迂闊に話してたらタダじゃ済まないところよ」
はあ、と溜息を吐き、指で眉間をぐりぐりとするリム殿。その様子を見るに、余程のことらしいが……流石にその程度であれば、俺も理解できる。
心と身体を入れ替える呪法。それも、年齢も性別も無視して。ならばおそらく、その入れ替えに制限はないのだろう。
だとすると……それが渡る相手次第では、面倒なことになる。例えば――金ばかり持っているが老い先の短い老人貴族、など。
身体を乗り換える――肉の器の寿命から解き放たれる。精神だけではあるが、無限に生きられるようになるのだ。禁術も禁術、闇に葬られて然るべきだろう。
「……そっちの人型
リム殿は周囲にぺらぺらと、『魔人』の拠点から押収し渡した資料を浮かべつつ、教会から取り寄せた水晶を取り出す。それは鈍い光をだけ返しており、俺の見たものとは似ても似つかない。
「ああ、そうだ。とはいえ、俺が最後に見た……オリアスがそれを持って教会へ発った時は、内側から光を放つ紫水晶であったが」
「そ。なら……これに術式ごと封じていたのね。魔力の痕跡があるわ」
「ふむ。では?」
「……魔力の痕跡はある。けど、魔法の痕跡はない。魔法にはその魔法式の名残……どんな理論でどんな効果を発揮したい、と編まれた式があり、所謂魔法具はその式自体を道具に刻み込んだもの。けど、コレはそれと違う。魔法式自体を魔力にして、水晶の中に閉じ込めていたようね」
「……凄いな。少し見ただけでそこまで分かるのか」
「そりゃまあ、私はリムですから。まあ、そう言うわけで――」
リム殿が此方を向く。まずい、完全に何を言っているのか分からなかった。とりあえず訳知り顔で頷いておく。
「露骨に首を傾げるな、人型
「なるほど」
「……本当にわかってる?」
頷いて、オリアスを見る。我が友はその整った顔に渋い表情を浮かべ、溜息をついた。
「……今の話を聞くに、どんな魔法が使われたかを特定するのは、難しいということだね?」
「ええ。というより、あの馬鹿が開発した魔法でしょうね。流石に、魂をどうこうする分野では私以上って言われてただけあるわ」
彼女は肩を竦めると、俺の左右に立つ二人に目を向ける。
「さて。長めに時間を取っておいて良かったわ。こんな事態になってるんじゃ、検査もしないと何が起こるか分からない。団長さんと……ええと、ウィオラさんだっけ? あなた達は少し残って頂戴。詳しく視させてもらうわよ」
「分かった。ウィオラ、君も構わないかい?」
「え、ええ。私は大丈夫です」
「ふむ。ならば俺は――」
「あんたは私から離れたところで寝ておいて。終わったら呼ばせるから」
……仕方あるまい。
そこはかとなく、理不尽を感じるが……そしてリム殿と『ウィオラ』に挟まれる『オリアス』に羨ましさも感じるが。まあ、いつものことだ。
俺は部屋を出て、適当な魔法使いに声を掛け――その相手(女の子だった)を恐怖で気絶させ、怒られるのだった。
◆
数刻後。
「まあ、これでも失敗作の魔法みたいだけどね」
「……これで、か?」
「ええ。これで、よ」
リム殿は、紙束をぺしぺしと叩きながら呆れ顔となる。視線の向く先は……俺だ。
「話を聞いて、資料と突き合わせてやっと何がしたかったのか分かったわ。自分で使わなかった理由もね」
「いやそんな事より何故我が友オリアスはサイズと丈が絶妙に短く太腿と胸元が大凡肌色な魔導服を着せられているのだ?」
そう。
いつの間にか設られた簡易寝台に腰掛け、脚をぴっちりと閉じ。膝に両手をついて――その肘の間に大きな胸を挟み込んで変形させた。顔を真っ赤にして震える
あと、その脇でちょっと困ったふうに笑うウィオラも。
「何故、と言われてもね。肌面積が多い方が調べやすいのよ。本当よ?」
オリアスを見る――艶やかな髪を揺らし、白い肩を露出させ赤い顔で震えている。
ウィオラを見る――ここへ連れてきたままの服装で、少しばかりリラックスした様子で苦笑している。
リム殿を見る――
「いやこんなのやるしかないでしょ?」
――彼女は笑った。
俺も笑って、右手を差し出す。がっしりと握手。そこには、確かな敬意と信頼があった。
「帝国随一の才媛、『紅の杖』の慧眼……伊達ではないということか。侮ったつもりは無かったが――御見逸れした、と言わざるを得んな。だが欲を言うならば眼鏡も欲しかった」
「……!! ……眼鏡とはね、『黒の腕』。あんたがここまでの審美眼を持ってたとは。顔も魂も怖いけど――やるじゃないの」
「何の話!?」
……暫くして。
可愛らしい声で絶叫しながら繰り出されたオリアスの攻撃で
先程は取り乱したが……うむ、ほんの少しだけ取り乱したが、今はもう平気だ。何故ならば、オリアスを視界から外している――ではない。あいつは男で、俺の親友だ。
繰り返す。あいつは男だ。俺の無二の友だ……よし。
「で、そっちのに話の腰を折られたけど……」
「悪いのは俺か?」
「あんた以外誰がいるのよ。……で。まずこの魔法の用途、というか。本来の目的は――あんたよ、『黒の腕』」
リム殿は、爪の先まで整えられた白い指をびしり、と俺に突きつけた。
「この魔法は、本来……あんたの身体と、そして技を奪う目的で開発されたものよ。『黒の腕』、『悪鬼』、『帝堅騎士』……帝国最強の騎士、アッシュ」
「……なるほど。確か『魔人』は教国の連中と内通していたのを暴かれたんだったね。ならさしずめ、アッシュの身体を手土産に向こうへ寝返るつもりだった……のかな。……ああ、そうか。『だから』失敗作なのか」
……帝国でも最大の魔法使いの一人であった、魔法院元No.2……『魔人』。畏れ多くも皇帝陛下の信頼を裏切った、その女の名を口に出すことは無いが、しかし。その才能は本物だった。
「流石ね、騎士団長さま。……そう。この魔法、身体は入れ替わるけど、それ以外……記憶とか、身体に宿ってるほうの魔力とか、技能とか。身体以外は入れ替えられないの」
「ああ。試してみたけど、勝手が違うとはいえ僕も僕が習得した技は使えるし……」
「はい。私も、なんとなく身体が覚えているような気はしますけど、団長さんと同じくらい強くなれた訳じゃありません」
なるほど。ここまでお膳立てされれば俺にも分かってきた。仮に誰かが……『魔人』が俺と身体を入れ替えることに成功していたとしても、目的を果たせた訳では無いと。
腑に落ちた。頷いた俺を横目に、リム殿が口を開く。
「そういうこと。だから『魔人』はそれを使わず、研究を続けようとしてたけど、内通がバレて逃亡」
「結果、それを使う間も無く、身体を狙っていた俺に真っ二つにされたということか」
納得がいった。
それと同時に……心底恐ろしいとも思う。もしもこの魔法が完成していたならば、俺は俺の身体と技、記憶をそっくりそのまま盗まれた挙句、『帝国騎士アッシュ』がそのまま連中に寝返っていたことになる。
戦力としても。そして、俺の身体が皇帝陛下に弓引くものとなっていた可能性としても……まったく、恐ろしい。あの場で斬り捨てたのは正解だった、という訳だ。
「その通り。あんたがアレを討伐したのは大金星だった、って訳ね。だからまあ、騎士団長さま。どうしても、元に戻すための手掛かりは少ないけど、そこは我慢して頂戴」
「……今の話を聞いては、ね。流石に、『アッシュ』が敵方に寝返る事態と天秤に掛けたら仕方ない」
仕方ない、とは言うものの。やはり、どこか消沈した様子の我が友。然もありなん、『何故こうなったか』は判明したが、『だからどうすれば良いのか』に関しては何も分かっていないのだ。
……俺は、項垂れる友の肩に手を置く。
「……アッシュ?」
「案ずるな、オリアス。きっと戻れるとも。それに……お前が身体を取り戻すまでは、俺がお前を守ろう。無論、其方の。ウィオラも同様だ」
身体こそ違えど、オリアスは我が無二の友だ。なれば、その友が窮地に瀕しているのならば身体も心も守ってやるとも。
ウィオラに関しては言わずもがなだ。帝国の民であるならば、帝国騎士たる俺が守らずして誰が守るというもの。
そんな意図を込めて友の背を押した――ところ、何故かオリアスはその整った顔をぽけっと惚けさせ、頬に桃色を差してこちらを見上げてくる。
あーいけません。いけません我が友よ。その顔は可愛すぎます。
このままでは保たない。確実に何かが保たないため、目を逸らし。
「どうした、そんなに呆けて。俺はおかしなことを言ったか」
「ぁえ!? い、いや、なにも!?」
「そうか」
ばばっ、と音が聞こえて来そうなほどの勢いで背筋を伸ばし、俺から目を逸らす我が友……我が友である美少女。あーいけません。背筋を伸ばすとボディラインが。
『それ』に誘引されそうになる視線をぐっと堪える。俺は、こいつを、そんな目で、見ない。……見ないように努力する。
「ま、当分は守ってもらうしかないわね。でもまあ、悪いことばっかりじゃないのよ」
「と、いうと?」
「この魔法、入れ替えるのは魂だけ。だから肉体に宿った特性は置いていかれるの。持って行けるのは、魂に宿った才能や素養、知識や記憶だけね」
「既に聞いた。それがどうした?」
「騎士団長さんが入れ替わっちゃった、その子……ウィオラさん。その子、魔法の才能の塊だったのよ。魂も、そして肉体もね。ただ、それが相互に悪干渉を――」
リム殿がはた、と口を噤む。噤んで、俺の傍のオリアスとウィオラ、それぞれに目を遣り……二人は何故か、困ったように苦笑して、頷いた。
どういうことだ? 何か、隠しておかねばならぬ事でもあると言うのか。もしそうであるのならば、無理にでも聞き出さねばなるまい。
奴は俺の友だ。その身に何かあるのであれば……。
「――詳細を説明してもどうせ分からないだろうから割愛するけど」
「おい」
そういう訳ではなかったようだ。
「強すぎる才能を分割した結果、彼と彼女……どっちがどっちかは置いておいて。二人は魔法が使えるようになったのよ。尤も、騎士団長さん……ウィオラちゃんの身体のほうは、属性魔法限定で。ウィオラちゃん……騎士団長さんのほうは、支援系の魔法限定だけど」
「……なんと。いや、それは……」
「隠れ蓑に使える、だろう? 僕も同じことを思ったよ、アッシュ。僕……その、ええと、うー……『ウィオラ』が君の傍に侍る言い訳にも、『オリアス』が稽古以外に注力するのにも、ね」
どうせ白兵戦力は充分以上なのだし、と自虐するオリアスの頭を、軽くはたいておく。冗談ではない。俺は、こいつならばいずれ俺の身体に傷をつけられると信じているのだから。
「……分かった、詳細はこちらで詰めよう。世話になったな、リム殿」
「用件が終わったらすぐ帰る。風情のない男ね」
「此処で寝泊まりしてやろうか?」
「やめてくださいわたしがわるかったです」
引き留めるようなことを言うから勘違いしてしまったではないか。残念だ……残念だ。うむ、ああ、残念だ。非常に。
肩を落とし、後ろ髪を引かれつつ。俺達……もとい、未練があるのは俺だけだが。俺たちは、魔法院を後にした。
Tips:魔法
……について記載すると非常に長くなったので別の機会に。
今回出てきたものに限れば、オリアスくんが使えるようになったのは『自分の中の魔力を使うもの』で、『魔法に適した身体であれば、訓練すれば誰でも使えるようになるもの』で、『所謂黒魔法』。
ウィオラちゃんが使えるようになったのは『身体の外、大気の魔力を使うもの』で、『魂に魔法の才能がなければ訓練しても使えないもの』で、『所謂白魔法』。
こんなものだと思ってください。