ありふれたガチャこそ世界最強   作:月が好き

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プロローグ

 ガチャとはソーシャルゲーム、特にアイテム課金型のゲームでよくみられる有料アイテムの抽選のことを指している。一般名はランダム型アイテム提供方式と言うらしいが、ガチャの名前でほぼ100%通じるほどにありふれた存在と言える。

 

 抽選ということで手に入るアイテムは確実に手に入る確証はなく、ゲームの種類によっては数万円単位の課金をしてレアアイテムやレアキャラを手に入れるプレイヤーも多いし、逆にそれだけ課金したのに手に入らないプレイヤーもいる。

 

 なぜガチャについて述べているのかと言えば、俺はガチャが好きなのだ。

 

 ガチャを引く時のドキドキ、引いている最中の欲しいアイテムやキャラが当たれと願う瞬間、欲しいアイテムが当たった瞬間の高揚感と嬉しさ、当たらなかった時の残念さと今度こそという願い、課金する時の葛藤と決意などなど。全てをひっくるめて俺はガチャが好きなのだ。

 

 しかし勘違いしないでほしい。俺は決してガチャ狂いではないし廃課金でもない。

 

 ガチャのためなら何でもするわけでもないし、生活に影響が出るほどの金額を課金することもない。確かに課金したこともあるがそれも生活に全く影響のない範囲でのみ。自分の生活が危うくなるほどに課金する気など起きない。だってそんなことしたらガチャどころかゲーム自体が出来なくなるかもしれないし。

 

 というわけで俺はガチャ狂いでも廃課金でもない。どこにでもいるありふれた一般のプレイヤーなのだ。

 

「……あの、その話はまだ続くのですか?」

「あと5時間くらい続きますね」

「もう勘弁してください!」

 

 目の前で鳴きながら土下座してくる女性。別に土下座を強要させているわけではなく、というかむしろ被害者は俺の方だ。

 

「いや土下座なんてやめてくださいよ。俺が悪者みたいじゃないですか」

「確かに悪いのは私たちですけど!こちらの問題であなたを死なせてしまいましたけど!だからと言って5時間もガチャについて延々と聞かされているとおかしくなりそうなんですよ!というかなんで私が聞かなくちゃいけないんですか!これはあなたが死んだことに直接原因があるゼウスのクソ野郎が請け負うはずでしょ!!」

「自分の上司をクソとか言っちゃったよこの女神」

 

 涙を流しながら叫ぶ女神様。その姿に心が一切揺れ動くことはないが、その必死さだけは伝わって来た。

 

 俺が死んだとか女神とかゼウスとかなんだか変な言葉が出ているが、そこは順を追って説明しよう。まず一つ目、俺は死んだ。いきなり何言ってんだこいつ、と思っているかもしれないが本当だ。俺は死んだのだ。覚えているのはガチャをしながら歩いていること。FGOというガチャの排出率が非常にシビアなゲームで星5確定演出が出たので喜んでいるとトラックが凄まじい速さで突っ込んできて、トマトのようにぐちゃっと潰れて死んだことだ。

 

 そして二つ目。死んだと思ったら前後左右上も下も白単色の空間にいた。単色の世界は非常に目に痛い世界だったが、そこで今土下座している女神に出会った。そこで俺が神のミスで……というか夫婦喧嘩で死んだと聞かされた。夫の浮気を知った妻が激怒して大喧嘩となり、巡り巡って俺が予定よりも早く死ぬことになったのだと言う。

 

 そして三つ目。そんなわけで謝罪に来た女神に5時間ほどガチャの素晴らしさと思いを語り掛けていたのだ。これでもまだ半分くらいなのだが。

 

「まあいいや。それより女神様。いい加減に起きてください。女性に土下座させるなんて端から見たら最悪の男ですからね」

「うぅ……それでは失礼して」

 

 こちらの言葉で土下座を止めてくれる女神。もし現実でそんなことされていたらヒソヒソ話しからの警察に通報される。そして世間からとんでもない鬼畜男として晒されることになるだろう。年齢=彼女いない歴の俺には厳しすぎる。

 

「で、話しの続きなのですけど、コホン……あなたは我々神々の不祥事で死にました」

「急に真面目モードになった」

「うるさいですよっ!本来ならば死んだ魂は死後に天国か地獄へと導かれます。しかしあなたの死は我々神々の責任。そこで我々はあなたに二度目の人生、あなた方の文化で言えば異世界転生をさせることを決定したのです」

 

 先ほどまで土下座していたのが嘘のような神々しさを纏った女神。しかし異世界転生、という言葉に意識の全てが持っていかれた。

 

 異世界転生。

 日本において漫画やアニメの人気ジャンルの一つであり、異世界転生物のラノベも数多く存在しているほど人気の高いジャンルの一つ。それは何かしらの要因で死んでそれまでとは異なる別の世界に転生していたと言う、人間ならば誰しも一度は考えることを話にした物語。

 現実ではありえないフィクションの世界。しかしだからこそ人は夢と妄想を持って、こうなってほしいという願いで物語を綴る。

 それを俺が?本当に?

 

「本当です。あなたを転生させることは神々の間で承認されました。転生後の世界について詳しくお聞きになりますか?」

「聞いたら教えてくれるのか?」

「はい。その程度のことなら別に問題ありませんので」

 

 問題ないと言っているがそれは大きなアドバンテージだ。こういう転生物の物語では転生後の世界について詳しく知っていた方が上手くことが運べる。情報は大切な武器となる。あちらで世界のアレコレを調べるより最初から知っていた方がうまく立ち回れるだろう。

 

「転生後の世界はありふれた職業で世界最強と言う世界になります」

「ありふれ世界かよ」

 

 ありふれた職業で世界最強。それは地球から主人公がクラスメイトと共に異世界トータスと言う世界に転移させられ元の世界に帰るために魔人族と戦うことになる。しかし主人公の南雲ハジメはクラスメイトがチートなスペックと天職を有する中で、一人だけ平凡であり天職の錬成師はただの鍛冶食で最弱。そんな主人公がクラスメイトにより裏切られて奈落の底に落とされ、その先で力を手に入れ元の世界に帰るために神代魔法と呼ばれる特殊な魔法を手に入れる旅に出かけ、最終的に神を殺しクラスメイトと共に地球に帰ってくる物語。

 

 漫画やラノベはもちろんアニメ化もされており外伝も出版されているほどに人気の作品。俺も好きだったのでよくわかっている。そんな世界に転生か。ちょっぴり嬉しい。

 

「それはよかったです。では転生後の特典を決めさせていただきたいのですが」

「特典も貰えるのか?」

「はい。神々から一つのみですができるだけ要望に応えるように「ガチャで!!」おおせ――はい?」

 

 特典を貰えると聞いて言葉を遮って要望を出す。ならばガチャだ。ガチャをさせろ。

 

「……聞き間違いではないようですね。特典としてガチャを希望するのですね。欲しい力があれば何でも聞き届けますよ。鏡花水月とか王の財宝とか虚数魔術とか月牙天衝でもなんでも一つだけ」

「それならガチャで。ガチャを回して力とか武器とかアイテムとか能力なんかを入手できるようにしてほしい」

 

 女神の提案もなかなかに魅力的だが、俺にとってガチャよりも魅力的なものはない。異世界物の作品だってここ最近はガチャに関係するものも出ているほどだし、不可能ではないだろう。

 

「確かに不可能ではありませんね。それも一つの願いとして受け入れられるはずです……しかしよろしいのですか?」

「何がですか?というかちょくちょく人の心読んでませんか?」

「あなたの願いは確かにかなえられる範囲です。ですがガチャと言うことは狙った物が手に入らない時も、逆にすでに持っている物がダブってしまうこともあり得ますが」

「それの何が問題ですか」

「あっ、はい。もういいです」

 

 何だかあっ、これ何言ってもダメな奴だ。むしろ長話しする前にさっさと切り上げよう、という心の声が聞こえてきそうな表情になったな。

 

「ではあなたの天職を召喚師とさせていただき、特典として与えるガチャを問題なく使えるようにさせていただきます。またガチャのラインナップやピックアップなどは私が担当させていただきます。またガチャで手に入れた物を実体化させることも当然できますが、悪用だけはしないように」

「まあ分かっています――あっ、一つだけお願いがあるんですけどいいですか?」

「特典を増やしてほしい、などと言った願いは叶えられませんよ」

 

 そんな願いなどない。むしろ異世界転生させてもらえるうえに特典としてガチャを貰えるのだ。それ以上の願いなどあるはずもない。

 

「では何ですか」

「転生したら俺からありふれた職業で世界最強についての記憶を全て消してください」

「……はっ?」

 

 要望を言ったら信じられないと言う顔で見られた。解せぬ。

 

「いやいやいや。確かあなた情報は大切な武器とかうまく立ち回れるとか思ってましたよね。なのになんで記憶を消そうとしているんですか」

「……さあ?」

「――――」

 

 絶句。女神が絶句している。しかし俺だってよくわからない。なぜか記憶を持っているとあまりよくないような気がしてならないのだ。某アホ毛の金髪騎士王の持つ直感スキルでも持っているのかもしれない。とにもかくにも直感的に記憶を持っていない方がいい、と思ったのでお願いしているのだ。

 

 女神はしばらく考え込むように固まっていたが、少ししたら溜息を吐きながら呆れた眼で見てきた。

 

「はぁ……わかりました。ではあなたが転生したと同時にあなたの記憶から情報を抜き取ります。二度と思い出すことは出来ませんがよろしいですね」

「はい。あっ、特典とか転生したことは覚えていたいです」

「承りました。その辺りは抜き取りませんので安心してください」

 

 良かった。それなら安心だ。

 

「それから特典のガチャですが無料ではありません」

「当然ですね」

 

 無料でガチャができるのはチュートリアルのみ。それ以外は基本的に何かしらのアイテムがいるのが普通だ。

 

「アイテムではありません。あなたがガチャを回すのに必要なのは善行ポイントです」

「善行ポイント?あと本当に心読んでません?」

「善行ポイントとはその名の通りいいことをしたら与えられるポイントです。ポイントは良いことをすればするほど溜まります。そのポイントを使って特典のガチャを使えます。別に悪いことをしてもすでに獲得している善行ポイントは変動しません。ポイントが減るのはガチャを使った時だけ。同時にポイントは良いことをしなければ手に入りません。1回のガチャに必要なポイントと10連に必要なポイントは後々で設定しますので」

 

 善行ポイント。つまりいいことさえしていればガチャは使えるのか。しかも悪いことをしても減らないと言うのは何とも良心的だ。課金できないのはあれだが、そもそも善行を課金すると言うのはちょっとアレだし。まあそこは別にいいか。

 

「それからガチャでは武器や武器に該当しないアイテムや技能が手に入ります。しかし生物は手に入りません」

「生物?」

「はい。例えばアズー〇レーンに登場するキャラやポケ〇ン、FGOに登場する英霊など……簡単に言えばキャラクターは手に入らないのです」

 

 なるほど。ガチャの一番の魅力であるキャラは手に入らない。それは何ともガチャ好きからすれば納得しがたいことだろう。

 

「あなた一人の転生であれば問題はありません。しかし異なる世界からさらに異なる世界のキャラを呼び出せば世界の崩壊の危険性もあるのです。どうか納得していただけないでしょうか」

「まあ別に問題はないですよ」

 

 しかし俺は転生させてもらえる。しかもガチャを特典としてもらえるのだ。それだけで十分すぎる。確かにキャラが出ないのは非常に、とても非常に残念だけど。これだけしてもらえるのだから文句など言えるはずもない。

 

「随分と残念そうですね」

 

 やっぱり心読んでるでしょ。

 

「それでは問題なければあなたを転生させます。よろしいですか?」

「お願いします。後無視しないでください。本当は心読んでるでしょ」

「では転生させますね」

 

 その言葉と同時に足元が光り輝く。それはそれとして本当に人の質問を悉く無視しているなこの女神。まあガチャのラインナップやピックアップも担当してくれるのならまあいいか。

 

「それでは神々を代表して一言。どうかあなたの先行きが幸せであらんことを」

 

 そう言って微笑む女神。不覚にもドキッ、としてしまった。まさしく女神の微笑みとはこのことだ。

 

「女神ですよ。何をいまさら」

 

 やっぱり心読んでんだろこの女神。最後にそんなことを思いながら意識が途切れた。

 

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