魔人族との戦争に参加することを決めてから一日が過ぎた。
あれから俺たちはイシュタルに連れられて聖教教会本山がある神山から麓に存在するハイリヒ王国へと案内された。
王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。
王国に向かう途中で魔法を見ることができたが、それ以上に驚いたのが王国で王様に謁見した時のことだ。
この国の国王はエリヒド・S・B・ハイリヒと言う初老の男。その妻で王妃のルルアリア。その娘で王女のリリアーナと、リリアーナ王女の弟で次期国王のランデル王子。その他の騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。
問題はここから。エリヒド国王はイシュタルに連れられた俺たちを立ち上がって待っていた。玉座に座っていて立ち上がったのではなく、最初から立って待っていたのだ。それも玉座とは離れた場所で、だ。
イシュタルが玉座の間に着くと扉を守っていた兵士たちはすぐに来訪を知らせた。しかしイシュタルは中からの許可を待つことなく入った。その時点で国王が玉座に座ることなく待っていたのは確定になる。
極めつけはエリヒド国王がイシュタルの手を取って軽く触れない程度のキスをしたこと。これは国王より教皇であるイシュタルが立場が上であることを意味している。それを見て早々にハイリヒ王国についての認識を改めることになった。もちろん悪い意味で。
それからは勇者とその一行を持て成すと言うことで晩餐会が開かれた。異世界料理ということで少し憧れた大きな警戒があった。万が一毒でもあるのではないかと不安に思って皿を取り替えたり、この国の貴族や王族が先に手をつけた物しか食べないように警戒した。
最も他のクラスメイト達はそんな警戒なんてどこかに捨てて思いっきり食べていたけど。
ちなみに異世界料理と言っても料理自体は球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが、まあ味は良かった。
晩餐会がお開きになると、王宮内に用意された各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。部屋の内装は天蓋付きのベッドで豪奢な部屋。一人一部屋ということで警戒していたが、警戒し続けたこととベッドのあまりの快適さに緊張の糸が切れてしまい、すっかり熟睡してしまった。
そして翌日。早速訓練と座学が始まった。
まず集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。
騎士団長とはこの王国で最も強い存在であり、メルドさんは現王国最強戦士というわけだ。そんな偉い人が直々に訓練してくれるのはいいのか、と思ったがメルド本人曰く、勇者一行を半端なものに任せるわけにはいかない。内外的にも対外的にも、という政治的思惑があることを笑いながら話していた。
「このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
メルドさんは気さくに話しかけてくれる。彼は豪放磊落な性格で、謀略やら策略などを使う相手には見えない。なので信頼は無理でも信用は今のところしている。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。ステータスオープンと言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという聞きなれない言葉に反応する天之河が質問する。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
なるほど、と頷き生徒達は針で指先をチョンと指し、浮き上がった血を魔法陣にこすりつける。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。その様子を見ながら同じようにやっていく。ステータスプレートが光り輝くのと同時に、ズボンが振動した気がした。
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神無月夢月 17歳 男 レベル:1
天職:召喚師
筋力:50
体力:50
耐性:50
敏捷:50
魔力:300
魔耐:300
技能:道具製作・高速魔力回復・言語理解・高速詠唱・魔術礼装スキル・魔力変換(霊力)・魔力変換(チャクラ)・鑑定・対魔力(B)
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表示されたステータス。それはさながらゲームのステータス画面のよう。しかし魔力変換というスキルに示されている霊力やらチャクラやら、それどころか技能の中に見覚えのあるようなスキルがかなりあるのだが。
「全員見れたか?説明するぞ?まず、最初にレベルがあるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらレベルが上がってステータスが上がるのではなく、ステータスが上がってレベルが上がる仕組みのようだ。ゲームとは真逆だな。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
どうやらただ戦い続ければいいという話ではないらしい。地道な訓練が必要なようだ。
「次に天職ってのがあるだろう?それは言うなれば才能だ。末尾にある技能と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
天職が召喚師。きっとこれは転生した際に望んだ特典がガチャだったからだろう。ガチャと言えば召喚。召喚と言えばガチャ。当然の結果か。
まあ今はそのガチャが一度もできてない状況なんだけどな!
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
それを聞いて嫌な汗が流れる。魔力と魔耐以外はオール50なので平均10であれば普通に許容範囲。しかし魔力と魔耐はそれぞれ300。これでは確実に悪い意味で目立ってしまう。
内心で焦っているとメルドさんの言葉に反応した天之河が最初にステータスプレートを報告しに向かった。
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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滅茶苦茶焦って来た。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め!頼もしい限りだ!」
「いや~あはは……」
メルドさんの称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみにメルドさんのステータスはレベルが62でステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さらしい。
で、その平均ステータスを魔力と魔耐で持っている俺はどうすればいいのだろうか。そして技能の数や種類では負けるが、ステータスの合計や魔力などで勇者を上回っている。これは絶対に目立ってしまう。
「ね、ねぇ夢月君。どうだった……?」
「は、ハジメか」
焦っているのを察したのかハジメが話しかけてくれた。しかしよくよく見てみればハジメもどうやら焦っているのが見てわかる。その様子を見て互いに互いがステータスに何らかの問題があるのだと思い、言葉を交わすことなくステータスプレートを交換した。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
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別の意味で問題だった。
「(あ、はは……僕って)」
「…………」
乾いた笑みを浮かべているハジメに何も言えない。何かしらフォローした方がいいと分かっているのに、俺のステータスを見たハジメに掛けられる声がない。ここで何かを言っても嫌味に聞こえてしまうかも。
報告の順番が回ってきたのでメルドさんに自分のプレートを見せるハジメ。
「……ん?」
ハジメのプレートを見たメルドさんは笑顔のまま固まり、プレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。
「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」
歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルドさん。その様子に内心で怒りが湧いたが、そんなメルドさんの反応に檜山がニヤニヤとしながら声を張り上げる。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か?鍛治職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~お前、そんなんで戦えるわけ?」
悦に入っているのかハジメと肩を組む檜山。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤わらっている。
「ぶっはははっ~なんだこれ!完全に一般人じゃねぇか!」
「ぎゃははは~むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」
「ヒァハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」
ハジメから無理やりプレートを奪った檜山は爆笑した。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。
その様子を見ていた女子たちの視線は不快そうにしており、中には檜山が拘っている白崎さんも、檜山に対して厳しい視線を向けている。
だがそれは俺も同じだ。
親友をここまで馬鹿にされて動かないほど辛抱強くない。下手に目立つ行為はしたくないが、それ以上に檜山たちは許せない。白崎さんや畑山先生が動くよりも前に檜山を殴ってでも止めようと動き始める。
「――何をしているのです」
「ッ!?」
声が聞こえた。何も感情を感じさせない静かでいて綺麗な声が、檜山の背後から。その声に驚いた檜山が後ろをバッ、と振り返ると、その声の主がはっきりと分かった。
「もう一度聞きます。何ですかこの騒ぎは」
その声の主は女性。銀色の綺麗な髪と白い肌。その瞳には何も感じさせないのではないかと錯覚してしまいそうになるほどに静かで透明な透き通った瞳。修道女の服を着ているが、俺にはその女性が最初に出会ったあのメイドだとすぐに気が付いた。
「答えなさい。何をしているのですか」
「…………」
女性は檜山に質問をするが、当の檜山は突然現れた女性に目を奪われたのか見つめているだけで何も反応しない。檜山だけではない。先ほどまで騒いでいた男子たちも、それを不快そうに見ていた女子も、誰も彼もが反応できていない。
「…………」
「ッ!」
一瞬。本当に一瞬。一秒にも満たない僅かな時。俺を見て微笑んだような気がした。しかし目の錯覚だったのか、もう一度見てみれば無表情のままそこに佇んでいた。
「メルド団長。これは一体何の騒ぎでしょうか」
「あ、ああ。シスターノイントか」
「何度も同じことを言わせないでいただきたい」
ノイント。メルドさんの言葉から察するに彼女の名前なのだろう。ノイントさんはメルドさんから話を聞く。そして粗方話を聞いたのかその視線と歩みを檜山へと向けた。そして檜山の手に握られていたプレートを奪った。
「これが南雲ハジメ様のプレートですね……これはお返しいたします」
ハジメのプレートを見たノイントさんは、少ししてハジメにプレートを返した。
「先ほどはメルド団長が失礼をいたしました。この通りお詫び申し上げます」
「あ、い、いえ!大丈夫です気にしないでください!?」
「そう言って頂ければ幸いです。それではこれにて」
ノイントさんは優雅に一礼して去っていく。その姿に誰もが何も言えず見惚れていた。俺もノイントさんの後ろ姿に見惚れてしまっていた。
それからノイントさんの登場で忘れられていた俺のステータスプレートをメルドさんに渡し、勇者並みのステータスだと驚かれたり、ハジメと同じ非戦闘職でありながら十二分にチートな畑山先生にハジメがダメージを受けたりしたが、それ以前にノイントさんの登場により後々のことはあまり話題にはならなかった。
それほどまでにノイントさんの登場は全員にインパクトが凄すぎたのだった。
◇
ステータスプレートを受けった夜。訓練と座学により全員が疲れて寝ているであろう時間。綺麗な月と月あかりが差し込む自室で俺はまだ起きていた。その手には形態が握られており、視線は携帯に届いたメールに釘付けになっている。
「マジか」
メールには、ガチャ解禁と表示されていた。
ちなみに主人公が自分の天職を忘れていたのは、原作を忘れているから天職も忘れているからです。
とあるキャラがフライングして登場してますが、物語的には正常なのであしからず