私の音が聞こえない   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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28.夢の夏(しゅわしゅわ)

「夏といえばラムネだよね」

「日本人のノスタルジックサマーは幻想だって言うけどな」

「忍、まじで夢ない……」

 理屈っぽいと昔から言われてきた。真面目すぎるのは自分でもわかっている。真面目なので、小中学校の合唱――たいてい男子は不真面目にやる――をも真剣にこなしていた。そして口うるさい女子のように何かを言うことはなかったけれど、自分一人が頑張ってもどうにもならない状況にやきもきしていた。だから高校は合唱部に入って、自分が満足できる音楽をやろうと思っていた。志望校の合唱部が強いということも知っていたから。

 けれど結果として、僕は最後のコンクールの舞台には立てなかった。実力が足りなかった。小学生の頃から強豪校の合唱部で鍛えてきた下級生にあっさり追い抜かれてしまったのだ。それが悔しくて、今でも合唱を続けてしまっているし、色々あって副指揮者にまでなってしまった。

「梨恵は夢で生きてるよな……」

 梨恵がある俳優の熱烈なファンであることは団員全員が知っている。彼が作り出した夢の中で梨恵は生きているのだ。彼の本当の姿なんてファンには見えていない。夢を壊さないように作り上げられた美しい虚像を、それが虚像だと知った上で愛している。

「音楽も夢じゃない? 映画とかと同じだと思うけど。ノスタルジックな夏なんて本当は無いってわかってても、その夏を作ることができるじゃん」

「一理あるな」

 映画も、音楽も、それから詩も、人が作った夢なのかもしれない。気をつけなければ泡のように弾けて消えてしまう。扱うには最新の注意が要る。だからこそやりがいがあると思えるもの。

「夏にしろ何にしろ、ノスタルジックなものが美しく感じられるのは、それが思い出の色を持っているからかもしれないな」

「また何か難しいことを」

「夜に見る夢っていうのは、記憶の再構成とも言われるだろ? 思い出だってあちこち抜け落ちたり補完されたりして物語のように再構成されるから綺麗なのかもしれない」

 梨恵が、クーラーボックスの中からラムネをもう一本出して僕に差し出す。ラムネなんて何年ぶりだろうか。僕は蓋の代わりのビー玉を白い部品で押してから、冷えたそれを喉奥に流し込んだ。

「美しい夢として思い出したいから、忘れてしまいたいんだろうな」

「曲の話……。忍っていっつも曲のこと考えてるよね」

「梨恵はいつも推しのこと考えてるだろ」

「確かに」

 僕たちは夢のようなものをいつも見ている。自然にはありえない美しさ。整えられた物語の夏。ラムネよりもペットボトルの炭酸の方が量が多いとわかっていても、夏はラムネだと思ってしまう心。けれどそれでいい。舞台で奏でられるのは束の間の夢。僕たちはそれに魅せられて、その中に飛び込むために歌っている。

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