「ということで、コンクール銀賞おめでとうパーティを始めます!」
遥希が東京から帰ってきて数日後、伴奏合わせにやってきた遥希にサプライズパーティをしかけた。といっても簡単なものだ。みんなでケーキを食べるというのがメインのパーティーだが、ケーキというのはテンションが上がるものだ。しれっと他の団員に混じっている樹里もどのケーキにするか迷っているようだ。
「ところでこのケーキの予算はどこから……フォルテシモアッシュのケーキとか値段考えると怖いんだけど」
遥希が小声で私に尋ねてくる。確かに店がある場所すら高級なケーキを目の前にするとそうなるのは当然かもしれない。
「主役が値段に怯えるパーティとは……大丈夫、今回はパトロンがいるので」
「パトロン?」
「樹里がそう言ってた。あと内祝いって言ってたけど、何のことだろ?」
「内祝い……?」
結局遥希にもわからなかったようだが、ケーキ代は樹里から出ているのは間違いない。
「遥希は何選んだの、ケーキ?」
「このピスタチオのやつ。ピスタチオ流行ってるけど食べたことないなって。純恋は?」
「私はチョコケーキ。でもすごいよね、このケーキ。食べるのが勿体無いくらい綺麗」
「そうだね」
二人で笑い合う時間が何より幸福だと感じる。これからは何の気兼ねもなく二人で一緒にいられるのだ。
*
そんな賑わいの中、樹里は一人で練習室を出て電話をしていた。
『破産するかと思ったんだけど……』
「嫌がらせしたい気持ちもわかってくださいよ。あげたでしょ、ご祝儀」
『内祝いでマイナスだけど?』
樹里は電話越しの瑞希の声を聞きながら微笑んだ。復讐なんて大それたものではなかった。ただ、遥希が遥希自身の演奏ができるようになれば瑞希へのちょっとした嫌がらせになるのではないかと思っただけだ。だからこそ正気の沙汰ではないと思いながら、遥希に伴奏をやらせた。純恋との出会いが遥希に何らかの変化を与えるかもしれないと思ったから。
「瑞希さんが何もかも放り出したせいで色々面倒なことになったんだから、このくらいしてくれたっていいじゃないですか。瑞希さんも結婚して幸せ、遥希も恋人ができた、それでみんなハッピーなんだし」
『樹里はどうなの?』
「正直今いちばん欲しいのは内定ですねぇ。斡旋してくれます?」
『伝手なんてないって知ってるでしょ……』
マリアが現れた時点で、樹里の想いは叶わないことが確定していた。でも告白してきた後輩にすら何も言わずにいなくなるような人は、多分自分と付き合ったところでろくなことにならないこともわかっていた。
『……まあ、結果オーライなのかもしれないけど』
「何、全部解決した気になってるんですか?」
ここまで上手く行ってしまったのだから、最後までやってしまおうと樹里は考えていた。余計なお世話かもしれないけれど、瑞希への嫌がらせのためにも遥希には幸せになってもらわなければならない。