私の音が聞こえない   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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25.アフタヌーンティー(報酬)

「木野さんが、この前の学祭のときのお礼だって」

 遥希がくれたのは笹島にあるホテルのアフタヌーンティーの招待券だ。まさか少し演奏しただけで、こんな報酬をもらえるとは。私は驚いて遥希がくれた招待券をまじまじと見つめた。

「お金持ちなの……?」

「まあ、そこそこはお金あるんじゃないかな。正直仲が良いわけではないからあんまり知らないんだけど」

 高校が同じだから顔見知りで、会えば少し話をする程度だという。そんな人にこれだけの報酬をくれるなんて驚きだけれど、音大生の中ではそれが普通なのだろうか。

「木野さんが、たまたま歌える人がいてくれたおかげでいい曲になったって言ってた」

「い、いや……私はただ言われたとおりに歌っただけだけど」

「でも、純恋の声は沢山の人を惹きつける力があると思うよ」

 面と向かって言われると照れてしまう。私はそれを隠すために、もらった招待券をいつ使うかの話し合いを始めた。

 

 

「おお……これが憧れの三段のやつ……」

「ここ、紅茶もたくさん飲めるみたい。すごいね」

「でもそういうので調子乗って飲み過ぎると胃が……とかなるよね」

「確かに。どうせならって思っちゃうよね」

 三段のプレートが出て来ただけで私は興奮してしまった。憧れていたけれど、機会がなくて食べたことはなかったのだ。今は不思議の国のアリスがコンセプトらしく、食べるのがもったいないほど綺麗なお菓子がプレートの上に乗っている。

 しかも私たちが通された席からは、外にある大聖堂が良く見えた。今日は一組のカップルが結婚式を挙げているらしい。私はそれを見ながら遥希に尋ねた。

「遥希はウエディングドレス派? 白無垢派?」

「ドレスはよく着るからなぁ……あえて白無垢っていうのもいいかも。でも迷うな……」

 遥希がウエディングドレスや白無垢を着ている姿を想像するだけで楽しくなってきてしまう。一生一緒にいるだとか、結婚するだとかをまだ現実的に考えられてはいないが、漠然とした憧れはある。

「教会で、賛美歌聴きながらの結婚式とかも憧れるんだけど、正直賛美歌聴きたいだけではあるんだよね」

「教会の音の響きって、ホールとはまた違うから私も体験したくはあるな。でも神社とかもわりと好きで……」

「いっそ両方やっちゃうとか?」

「いや、それは結婚式で破産しちゃうって。写真だったらいいかもね」

 いわゆるフォトウェディングというものだ。式を挙げるよりも手軽だからと、それだけを選ぶ人たちもいるらしい。フォトウェディングなら二人で着たい衣装を好きなだけ着られるかもしれない。

「合唱団の人たちが結婚すると、披露宴とかでその団の人が歌うみたいなことがたまにあるんだけど、そのせいでこれを歌われると別れるって曲があってね……」

「それってだいたい何度も歌われるから離婚する夫婦に当たる確率も上がってるだけじゃない」

「私もそう思う。いい曲なんだよ。でも私たちの結婚式だったら何かなぁ……『ここから始まる』とかでもいいけど」

 そんな他愛のない話をしながらゆっくりと時間をかけてたくさんあるお菓子を食べていく。それが全部なくなった頃には、結局調子に乗って飲み過ぎてしまった紅茶のせいもあって、二人でお腹を撫でながら「もう少しここで休んでから出よう」ということになった。

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