ガンダムビルドダイバーズRe:TRY   作:守次 奏

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ヒロインちゃん初登場にして大暴れ


Ep.02「恋をしちゃった責任取って」

「宣言しよう、アンタらは五つで終わる」

 

 それは、ただの事実とその確認でしかない。

 白手袋を叩きつけるように、右手で持ったバトルブレードの切っ先をプロヴィデンスガンダムに突きつけながら、俺は宣言する。

 五手もかけているのかと、どこかで笑われそうな気がしたけど、少なくともバージョン1.78で操作感がガラリと変わったことやら、諸々を鑑みればそれでも早い方だろう。

 

『我々に敵対するということかね?』

「そのつもりだ」

『何故だね? 何故我々の理想を理解しようとしない? 再生数の低い動画など、誰も見ていないのと変わらないだろう。それが消えればGBNはより快適になるのだぞ!』

 

 なるほど、ジョークだとしたら笑えないな。

 本気で言ってんなら頭の中身が心配になってくる。働き蟻の法則って知ってるか?

 なんて問答をしたところで、俺がこいつらの主張を一ミリも理解できないように、こいつらは俺の主張を一ミリも理解しようとしないのだろう。

 

 だったら斬って捨てるだけだ。

 救難信号が出ている都合、出されてる側に対しての攻撃はPK行為と認定されない。

 つまり、後腐れなくこいつら清浄化委員会とやらを始末できる。運営の粋な計らいだな。

 

『やむを得ん、我々の崇高な理念を理解できないとあれば浄化する他にない! 相手は一機だ、ナノラミネートアーマー持ちとはいえ囲んで粛清すればいい、各機──』

「一つ」

 

 数で劣っている相手を包囲して殲滅する。

 戦術における基本中の基本だ。

 だからこそ、読めている。手玉に取るようにその考えは理解できる。

 

 アインフェリアの背部に装備していたユニバーサル・ブースターポッドからミサイルランチャーを展開し、俺は包囲を試みる敵に対して一斉射撃をお見舞いした。

 狙い通りに、アインフェリアを囲もうとしていたスラッシュザクファントムやブレイズザクウォーリアは分断されて、一旦背後に回られる事態は回避できたといったところか。

 これで一手。さて、残り四手で五機をどう始末するかはアドリブ力が問われるな。

 

『ええい、ミサイルならばこちらにも……っ!?』

「二つ」

 

 ブレイズウィザードに格納されているミサイルポッドから、ファイアビーとかそんな感じの名前だったはずの誘導弾を放とうとしたブレイズザクウォーリアの懐に機体を急加速させて飛び込んで、バトルブレードをコックピットへと突き立てる。

 これで二つ。宣言通りに決めるなら、残りは三手か。

 別に宣言通りに決めなきゃいけないって話はないんだろうけど、あれだけ盛大に喧嘩売っといて五手以上かかりました、ってのはなんというか赤っ恥だ。

 

 だったら、五手以内に相手をどう仕留めるか。

 結論は単純だ、頭を働かせて手番の中に敵の行動を組み込んでしまえばいい。

 流れるように、考えていた一瞬の隙を突いて俺を挟み撃ちにしようとしたスラッシュザクファントムとジン・ハイマニューバ2型は中々賢いのだろう。

 

『天誅……じゃない、浄化ァーッ!』

 

 だが、その賢さが仇になる。

 要約すると、その行動はチャートに組み込めるってことだ。

 二機が俺を前後から挟み撃ちにしようとしたのをフレーム単位で視認して急上昇を先行入力、スラスターの大推力に任せて飛び上がったグレイズ・アインフェリアを捉えることはできず、正面衝突のようにジン・ハイマニューバ2型とスラッシュザクファントムはお互いにお互いの得物を突き立てて、盛大に爆散した。

 

『アバーッ!?』

「……結構きついな、これ」

 

 バージョン1.78からはGや揺れのフィードバックも実装されたとは知っていたけど、さすがに機体を推力に任せて急上昇させた時のそれは中々堪えるものがある。

 建前的にはリアルさを追求した、って感じだけど、実情としては環境を席巻している高機動型に対して、ダイバー側でそれを制御するだけの技量が求められるという制約を課してきた形なのだろう。

 乗り換えを余儀なくされるやつも出てくるかもしれないな……と、そんなことはどうでもいい、これで三手。

 

『なんだこのグレイズ、動きが違う……!?』

「四つ」

 

 動揺を見せたゲイツRが放ったビームライフルとレールガンの一斉射撃を側転で避けつつ、俺は左手のナイトブレードをコックピット目掛けて投擲する。

 無事に命中してくれたことで四手。

 残るはあと一手とあと一機だけだ。

 

『馬鹿な、四機のガンプラが三分も経たずに全滅だと!? ええい、だがこれ以上好き勝手はさせんぞ、ドラグーンの熱線に焼かれるがいい!』

 

 プロヴィデンスガンダムの背中やら腰やらに装備されているドラグーンが、ダイバーの大仰な叫びと共にパージされる。

 重要なのはこの一瞬、技が発生した瞬間の動きだ。

 GBNにおけるオールレンジ攻撃には、オート操作とマニュアル操作の二種類がある。

 

 どっちもどっちというかそれぞれに利点と欠点があるけど、基本的に「弱い」とされているのはオート操作の方だ。

 何故ならそれは、挙動が固定化されているからに他ならない。

 オートで放たれたドラグーンやらファンネルは、必ず円運動を描く形で対象の後ろに回り込んで、全方位攻撃を仕掛けてくる。

 

 つまり、パターンさえわかっていれば、そして機動力があれば、避けることも振り切ることも可能だということだ。

 プロヴィデンスから放たれたドラグーンの軌道が円をなぞろうとしているのを視認した俺は、迷うことなく機体を加速させる。

 オート操作のドラグーンなら、アインフェリアの機動力があれば振り切れる。そう見ての判断だった。

 

『ば、馬鹿な……速い! 速すぎる! 本当にこのガンプラ、グレイズなのか!?』

「……五つ、チェックメイトだ」

 

 間違いない。正確にはグレイズリッターとシュヴァルべグレイズのミキシングだけどな。

 それはともかく、オールレンジ攻撃の雨を最低限のマニューバで回避しながら、俺は速度を乗せたバトルブレードの一撃をプロヴィデンスのコックピットへと突き立てることで五手とする。

 宣言通りのチェックメイト。Gのフィードバックに耐えながらもなんとか上手いこと五手詰めできたことに小さな達成感と安堵を覚えつつ、コックピットの中で一息つく。

 

「終わったか……」

 

 操縦桿を握り締めていた手を離せば、それは小刻みに震えていた。

 もう二度と、戦うことなんてないと思っていた。もう二度と、剣を抜くつもりなんてない、そのはずだった。

 なのに俺は剣を取って、救難信号に対する助太刀とはいえ、またガンプラバトルに足を踏み入れている。

 

 どういうことなんだろうな。

 理由は、自分でもわからない。

 ただ、あいつらの、「清浄化委員会」とやらのやってることが許せなくて、無我夢中になっていて。

 

 草原に倒れ伏している真紅のケルディムガンダムに視線を向ければ、損傷した機体がブロックノイズ状に解けて、乗っていた女の子が地面にふわりと降り立つのが見えた。

 腰まで届く、長くて癖のない赤髪が宙に舞い、白いワンピースの裾も風に踊る。

 どこかあどけない顔立ちをしたその子は、アインフェリアをなにか神様でも見たような目で、じっと見つめる。

 

 俺もこれは機体を降りた方がいいんだろうか。それとも、あの子が満足するまで眺めるに任せた方がいいんだろうか。

 なんというか、判断に困る。

 このまま女の子を無視して納品ボックスまで直行するという選択肢もあるといえばあるけど、それは流石に失礼がすぎるだろう。

 

 二、三分くらい迷った挙句に機体から降りる選択肢を取った俺は、踵を鳴らして草原に降り立つ。

 そして、「清浄化委員会」に襲われていた、赤毛の女の子と相対する。

 率直にいうと、かなり気まずい。

 

 アインフェリアを降りても尚、神様か救世主でも見てるのかってぐらいその子はキラキラと大きな金色の瞳を輝かせていて、正直衝動に任せて戦っただけだと言いづらい雰囲気を醸し出していた。

 それに、救世主なんて柄じゃない。

 ただ単に、自分の中に湧き起こった理不尽に対する怒りが撃発した、言ってしまえばエゴが理由である以上、これが胸を張るようなことじゃないのは、他でもない俺自身がよくわかっている。

 

 それでも、その子は。

 

「わぁ……ありがとう! 救難信号出したのに、誰も来てくれなかったから……」

「……災難だったな」

「そう、災難! でも、運命の人が来てくれた!」

「……は?」

 

 エゴにまみれた俺の手を取ってくれた。

 それ自体は、ありがたいことだと、感謝すべきことだとわかっている。

 だけど、理解を超越した言葉がその子の口から飛び出してきたせいで、俺はしばらく口を半開きにしたまま呆然とする他になかったのだ。

 

「わたしルリナ! これでもG-Tuberやってるんだけど、知らない?」

「……いや、知らない」

「がーんっ! あ、でも今知ってくれたよね、これも運命! ねえねえ、貴方の名前、聞いてもいいかな!?」

 

 突っ込みどころが多すぎる。

 恐ろしくポジティブなやつだ。それにがーん、とか、今時口に出して言うやつがいたのか、思うところは色々あるけど。

 そもそも、運命ってなんだよ。

 

 あまりにも理解を超えた出来事に正面衝突を起こしたせいで、きっと宇宙を背景にした猫みたいになってるぞ、今の俺の顔は。

 それはともかく、名前を訊かれたけど、どうしたものか。本格的にアレな人に絡まれた感が物凄い。

 いや、それでも経緯はともかく結果としては俺が助けた相手になるんだし、訊かれた以上は名乗り出ておかなきゃ失礼に当たる。

 

「……アスカだ」

 

 今もキラキラと瞳を輝かせながら俺を上目遣いで見つめているルリナとかいうらしい女の子から目を逸らしつつ、半分ぐらい諦めが混じった口調で、俺はそう答えた。

 

「アスカ! シン・アスカみたいで素敵な名前だね!」

「……よく言われる」

 

 苗字のアラタニもシンタニと読めるからか、本格的にシン・アスカがあだ名になりかけていた中学時代を思い返してげっそりする。

 いや、戦禍に翻弄され続けたシン・アスカって悲劇のキャラクターは好きだけども、それが自分のあだ名になるってのはなんというか気恥ずかしいというか気まずいというか。

 それに俺はSEEDもDESTINYも好きだけど、一番好きなのは鉄血のオルフェンズなんだよ。

 

「うん、やっぱりアスカはわたしの運命の人なんだよ! だってデスティニーだし!」

 

 デスティニーってなんだよ。

 というかそっちもリアルでのあだ名候補だったんだからマジでやめてくれ。

 最早理解を超えたどころか第一宇宙速度を突き抜けて成層圏の彼方までぶっ飛んでいきそうな謎理論を引っ提げて、ルリナは頻りに頷くと、手元のコンソールを目にも留まらぬ速さで操作する。

 

 気付けば、どうやって入力したのかもわからなければ読む気も起きない長文メッセージと共に、ルリナからのフレンド申請が叩きつけられていた。

 困ったな。

 いや、ルリナが嫌……かどうかはこの際さておくとしても、俺は一人で気楽に採集でもしながらバージョン1.78の世界を楽しめればそれでよかったんだ。

 

 だから、アイツを助けたのだって気まぐれというか若気の至りというか、とにかくそういうものなわけで。

 要するに一人にしてくれ、というのが俺の願いではあったんだけど、事の発端が、助けてしまった責任が自分にある以上、断るのも気が引ける。

 メッセージウィンドウから視線を逸らしてちらりと横目でルリナを見遣れば、未だにキラキラと目を輝かせて、得意げにやたらとでかい胸を反らしていた。

 

 どうやら、断られる可能性は頭の中から既に消え失せているようだ。

 それにしたって、運命の人、か。

 今時ドラマでも聞かないような台詞だ。ふざけているようにも聞こえるかもしれない。

 

 だけど、ルリナは本気だった。

 それだけはわかる。

 ただPKから助けられたってだけで俺を運命の人認定する思考回路についてはノーコメントだとしても、悪ふざけや撮れ高のためにそうやってるんじゃないことは、その純真無垢な瞳からひしひしと伝わってきた。

 

「……わかったよ、俺からもフレンド申請返しとくから、また会ったら」

「ありがとう、アスカ! あっ、えっとね、フレンド申請メッセージにわたしの連絡先のアドレス書いてあるから、ちゃんと読んでね?」

「は?」

 

 思わず面食らった俺は、閉じていたメッセージウィンドウを反射的にもう一度開く。

 そこには発言通り、リアルでの連絡先と思しきアドレスが記されている。

 訂正しよう。ルリナは本気という言葉でも足りないぐらいに本気だった。なんでそこまで本気なんだ。誰か教えてくれ。

 

「……リアルでの連絡先とか、普通は載っけるもんじゃないぞ」

「でもアスカは普通じゃないもん! だってわたしの運命の人なんだよ? 格好よかったなぁ……五つで終わる! って、わたしもできるかな?」

「発言の前後が繋がってない」

 

 ついでに五つで終わる云々は忘れてくれ。あれも若気の至りだ。

 

「むぅ……だってだって、アスカはたった一人でわたしを助けてくれたんでしょ? だったらそれって運命だよ! だから恋しちゃった責任取って!」

 

 第二宇宙速度をぶっちぎったルリナの謎理論にあてられて、頭の中が宇宙と猫で埋め尽くされていく。

 恋しちゃった責任ってなんだよ。せめてまずはお友達から始めましょうとか、そういう話からじゃないのか。

 理解を超越しすぎて、そろそろ刻の涙が見えてきそうだ。俺はこの恋の暴走ロケットになにを言えばいいんだろうな?

 

「……とりあえず恋とかそういう話は一旦脇に置かせてくれ」

 

 恋とか愛とかラブとか夢とか、そういうのに関して全くといっていいほど縁がなかった人生だったのに、歩いていたら頭に隕石が当たったような出会い方をしたことはなんとか飲み込もう。

 ただ、ルリナが良くても俺の方の準備ができてない。初対面でいきなり運命の人だの恋しちゃった責任だのなんだのとか言われても、正直こう、なんというか、困る。

 ただ、責任という言葉には一理あるな、と、そう思ったのは確かだった。

 

 手を差し伸べるだけ差し伸べてはいさようなら、というのは中々に酷薄だ。

 最後まで付き合うのが筋とまではいわなくても、フレンドとしてやっていくぐらいはしてもいいんじゃないかと、虫の息な理性が瀕死の体でそう囁いてくる。

 一人でいるのは気が楽だ。そこには過去も未来もなく、今があるだけだからな。

 

 だとしても、俺があのとき、ルリナを助けたいと思った気持ちに、あの衝動に──理不尽を許せないと思った心になにか理由があるのだとしたら。

 それこそが理由であり、ルリナが言うところの責任なのかもしれない。

 

「運命とか、恋とか……そういうのは俺はわからない。だけど……まず、フレンドから始めないか?」

「えっ……いいの、アスカ? 本当に?」

「……それぐらいなら、俺でもできるから」

「わーい! ありがとう! やっぱりアスカはわたしの運命の人だよ!」

 

 ぱあっと、明かりが灯ったかのようにルリナの表情が輝いたかと思えば、次の瞬間には抱きつかれて、俺は草原に押し倒されていた。

 ごろごろともつれて転がる中で、虫の息だった理性くんは静かに息を引き取る。

 しかし、草の匂いやら肌触りやら胸板に押しつけられる柔らかくてあたたかい感触やらなにやら、無駄に色んなとこまで再現してくれやがったな、バージョン1.78。

 

「──本当にありがとう、アスカ。だってわたし、ずっと一人ぼっちだったから」

 

 怖かった。悲しかった。悔しかった。

 突然しおらしくなって、そんなことを言い出したルリナの真意はわからない。

 ただ、耳元で囁かれた言葉と、服に零れ落ちた涙が滲んでいく感触を黙って受け止めるのが、今の俺にできる精一杯だった。




あーぱー天然娘のエントリーだ!

Tips:

【清浄化委員会】……過激派自治厨フォース。再生数の低いG-Tuberを検索妨害と称して粛清という名の私刑を下そうとするなどその行動は極めて悪質であり、パトロールの周期を把握した上で運営の目が届かないところを狙って活動しているので、悪辣さに拍車がかかっている。
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