ミッション「イフ・コンクルーダー」。
これを攻略するためのチャートは既に先人が構築済みだ。
推奨ダイバーランクもCだということもあって、これを受けるときに特別なにか身構える必要はない。
と、いうのはあくまでも適正ランクと適正人数が揃っている時の話であって、ルリナのダイバーランクはDと一段落ちる都合、あいつは事実上、格上を相手にすることになる。
その辺は織り込み済みで受けたんだからまあいいとして、問題は格納庫でルリナがぶち上げてきたオリジナルの攻略チャートだ。
(アスカが敵を食い止めてくれてる間に、わたしが狙撃ポジションについて超長距離狙撃でハイネ専用デスティニーを仕留めちゃう! これってどうかな、アスカ?)
確かにそれも有効な戦術だろう。
その上動画映えもしそうな構図だ。できるんなら、と前置きがつくけどな。
どこまでも能天気にそんなことを言い切る肝の太さというか度胸というかは買いたいところだけど、正直ルリナの狙撃の腕前に関して俺は大分懐疑的だ。
万里の狙撃手がどうのこうのと言ってたけど、少なくとも俺はそんな二つ名を聞いたことはないし、なにより、ランクなんて飾りだとはいえ、まだまだ一人前には半歩届かないDランクだ。
そんなルリナが、超長距離狙撃を成功させられるとは申し訳ないけど思わない。
だったら、失敗を最初から織り込んだ上で行動するのが最適解だろう。
「……なにやってんだろうな、俺」
思わず口をついて言葉が飛び出る。
本当に、なにやってんだろうな。
それでも今日はルリナに付き合うと言ったんだから、動画映えはともかくとして、このミッションぐらいはクリアさせてやりたいと思うのは確かだった。
「アスカ、準備できた?」
「……こっちはいつでもいい」
「よーし、それじゃ行こっ、アスカ! ケルディムガンダムスカーレット、ルリナ、目標を狙い撃つ! なんて」
「……行くぞ、アインフェリア」
射撃武装の一つも持ってくるべきだっただろうか。
カタパルトに灯る赤ランプが緑に変わると同時に、機体が射出されたことによるGの圧迫感を覚えながら、薄らぼんやりとそんなことを考える。
それでも、なんとかなるか、ならないかの二択なら確実に「なる」と答えられるだけの自負はあった。
ゲートを飛び出して蒼空に投げ出された俺たちは、ローエングリンゲートを守護しているハイネ専用デスティニーの存在を遥か遠くに認める。
向こうのAIにはローエングリンゲートの防衛を優先するルーチンが組み込まれている都合、ハイネ専用デスティニーはあの場所から大きく動かないと見てもいいはずだ。
代わりに、地上からは一部がオレンジ色に染められたバクゥや、左肩に同じペイントを施したザクウォーリアやらグフイグナイテッドの集団が大挙している始末だった。
「ふふふ……リスナーの皆に、万里の狙撃手と呼ばれたわたしの力を見せるときだね! フォロスクリーン展開、狙撃態勢に移行!」
「……本当に信じていいんだな?」
「ふふふ……えっと、多分! 半分ぐらい! そこそこ!」
「どんどん目減りしてるぞ……」
どうやらほぼ当てにならないということで間違いなさそうだ。
事前に立てた作戦はあくまでルリナの狙撃が決まることが前提になってこそいるものの、俺がそこに組み込んだチャートはその失敗を前提にしたものだった。
Cランク相当のNPDなら、「今自分たちにとって一番脅威になる存在はなにか」を優先して排除しにかかってくることだろう。
だから、俺は暴れるだけ暴れて敵の目を引きつける。
そうすれば、フリーになったルリナが比較的安全にハイネ専用デスティニーと戦えるはずだ。
例え狙撃機と万能機のタイマンは相性が悪くても、ケルディムの武装はなにもスナイパーライフルだけじゃない。だったら、やれると見てもいいだろう。
「そこは信じてるからな……!」
ユニバーサル・ブーストポッドの中に仕込まれているミサイルを展開、地上を疾走するバクゥを爆撃しながら、空を飛べるグフイグナイテッドの動きを警戒する。
戦闘行動の基本は、NPDが相手だろうが、人が相手だろうがさして変わらない。
と、俺は勝手にそう思っている。
『ロゴスの残党がのこのことやってきたか!』
『我らオレンジショルダーの誇りにかけて、ここは通さん!』
「なるほど、俺たちはそういう設定なのか」
早速とばかりに得物を大上段に振りかぶったグフイグナイテッドのコックピットをバトルブレードで貫く。
基本はNPDが相手だろうが人間が相手だろうが変わらない、といったのは、「読み」の話だ。
ブレイズウィザードの推力で無理矢理急上昇し、背後をとってきたブレイズザクウォーリアのコックピットを、逆手に持ったナイトブレードで串刺しにしつつ、俺はその懐かしい感触を思い出す。
相手がなにをしてくるのかを、その一手先を予想して行動に組み込めば、自ずと勝利への道は見えてくる。
一手先が見えれば、そこから更に二手、三手先がわかる。そうすれば、何手で詰むかが自ずと頭に浮かぶものだ。
逆にいえば、相手を何手で詰ませるかを考えて戦え、という話でもある。
望む結末に、思い描いた勝利の形に相手を誘導するのもよし、自らの腕で追い込ませるのもよし、とにかく相手が展開する守りの手を削ぎ落とす攻めの姿勢を保つのが、俺のやり方だったはずだ。
わらわらと押し寄せてくるオレンジショルダー部隊に囲まれるのを避けて、俺は橙色の波濤をじわじわ押し返していく。
近づくやつをなます斬りにして、時にはフレンドリーファイアを嫌うルーチンの隙を突くように敵の残骸を盾にして。
『我々の味方を盾に……おのれぇつ!』
「使えるものはなんでも使うんでな」
心配しなくても、お前もお仲間が待ってるあの世に送ってやるよ。
バージョン1.78へのアップデートによって進化した、人間味がぐっと増したNPDの反応には舌を巻くものがあった。でも今は関係ない。
盾にしていたザフト機を放り捨てて、宣言通りにバトルブレードでスラッシュザクファントムを袈裟斬りにする。三途の川の渡賃はやらねえけどな。
とにかく数の優位が相手にある以上、Cランク相当のNPDとはいえ囲んでボコられるのが一番避けたい結末なら、そうされないように立ち回ればいい。
乱戦になれば、フレンドリーファイアを嫌うNPDの思考ルーチンは鈍くなる。
ただ、背後を取って攻撃してくる型はいるから、そいつの存在にだけ気をつけてさえいれば、逆説的に背後を常に警戒していれば、あとは描いた結末への詰め将棋だ。
「どうしよう、アスカ!?」
「どうした、ルリナ」
「狙撃、外しちゃった……ぐすん」
やっぱりな。
とは口にこそ出さなかったけども、予想できた範疇のことではある。
襲いかかってきたケルベロスバクゥハウンドをノールックで二枚おろしにしながら、俺は小さく溜息をつく。
「そんなに悲観することじゃない、また狙えるか?」
「うん! やってみる!」
「ハイネ専用デスティニーはローエングリンゲートからそう動けないはずだ。多少近寄ってもいい、道中の敵は全部俺が引き受ける」
ルリナのチャートは崩れても、未だにNPDが俺のことを最大の脅威として認識し続けているというなら、リカバリーは機能している。
「アスカ……やっぱりアスカはわたしの運命の人だね! よーし、それじゃあ今度こそ頑張らなきゃ!」
「……なんだか知らんが、前向きでなによりだ」
格好良くびしっと一発で決められなくても、生きているならチャンスはある。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、というのは流石に失礼だとしても、試行回数を重ねれば大概のミッションはなんとかなるものだ。
そんなことを考える傍ら、試作型──ザフトオリジナル仕様のドムトルーパーが持っているドリルランスを右手のバトルブレードでパリィして、ガラ空きになった胴体にナイトブレードを突き立てることでテクスチャの塵へと還す。
「ダメだよアスカ、全然当たんない!」
「敵はこっちを狙ってる、近づけないか!?」
「うぅ、もっと近づかなきゃ当たんないのかなぁ……うわっ!?」
「ルリナ!」
『おっと! これ以上狙われっぱなしってのも趣味じゃないんでね!』
一瞥した通信ウィンドウには、カウンタースナイプとして、長距離長射程ビーム砲を展開したハイネ専用デスティニーが、ルリナのケルディムガンダム・スカーレットを狙っている姿が映っていた。
アップデートでNPDの挙動が人間らしくなったとは聞いていたけど、中々どうして作り込まれている。
確かこのミッションの敗北条件は、味方の全滅と。
俺の危惧を体現するように、ルリナからの通信に映り込んでいたローエングリン砲台が、次第に地下から迫り上がってくる。
確か、あれの発射が敗北条件だったはずだ。
だったら、そう悠長に時間稼ぎをしている暇はない。
「攻めに転じる……!」
多少ルリナが狙われる危険は出てくるかもしれないけど、敵を引きつける囮役をやめて、俺はアインフェリアのブースターに急速点火、何機ものNPDを置き去りにしてローエングリン砲台へと直進した。
考えろ。ここから勝利条件を満たすまでに必要な手番はいくつだ。
それをアインフェリアが、俺が実行するための障害になるものは、なんだ。
「まずは一手……!」
『うわああああッ!』
断末魔の台詞を遺して爆散するNPDには一瞥もくれず、背後からの攻撃もレーダーと気配を頼りに回避して、ひたすら俺は前に進む。
ルリナもどうやら、ローエングリン砲台が作動したことで、狙撃は諦めたらしい。
GNスナイパーライフルIIを折り畳んで、バルカンモードに切り替えて、ハイネ専用デスティニーへとドッグファイトを仕掛けに行っていた。
「シールドビット展開、アサルトモード!」
『痺れを切らして飛び込んできたってか!』
ルリナが叫ぶ。
その左手にはGNビームピストルII。どうやら完全に狙撃は諦めて、近接戦闘に移行するようだ。
だけど、中々どうしてハイネ専用デスティニーの思考ルーチンは上等なものが組まれているらしい。
アサルトモードになったシールドビットから放たれる収束ビームを、「光の翼」と残像によって回避し、ビームライフルをカウンターとして連射する。
当然、シールドビットをアサルトモードに回している都合上、ケルディムスカーレットの守りは薄くなっていることをわかった上での行動だ。
やや大振りなマニューバではあるものの、ハイネ専用デスティニーから放たれたカウンターを、機体を左右に振ることで回避したルリナは、再びGNスナイパーライフルIIをライフルモードに切り替えての狙撃を試みることにしたようだった。
「お願い、当たって!」
『当たってやるわけにはいかないんだよなぁ!』
「だったら、自分から突っ込んでもらう……!」
『なにぃっ!? 防衛網を抜けて、もうここまで……!』
道中の敵なら、ほとんど全部なます斬りにしてやったよ。
最後に立ちはだかってきたスラッシュザクウォーリアをバトルブレードで串刺しにして、俺はその残骸をハイネ専用デスティニーへと投擲した。
当たることなんか期待していない。これは次の手に繋げるための、ルリナを信頼しての布石だからだ。
「……っ、ありがとう、アスカ! 今度こそ、狙い撃つよ!」
『シールドが、間に合わないッ!?』
質量弾と化したスラッシュザクウォーリアの残骸を回避したハイネ専用デスティニーに生まれた後隙を見逃すほど、ルリナも甘くはなかった。
放たれた一条の閃光が、オレンジ色をしたデスティニーガンダムの左肩を貫いて爆散させる。
NPDは、制御を失って地上に激突するスレスレでなんとか機体を立て直そうと試みたが、それはもう遅い。
なぜならそこは、俺のキリングレンジだからだ。
「行くぞ、アインフェリア……!」
スラスターを全開にして急加速、背後からの砲撃は、ハイネ専用デスティニーを巻き込むと判断したのか、ほとんど飛んでこない。
飛んできたのも狙いがブレにブレて、アインフェリアを捉えるにはあまりにもお粗末だと言わざるを得なかった。
それが、NPDの限界なのだろう。
俺が逆の立場なら、ピンポイントでアインフェリアのスラスター類を撃ち抜いて止めようと試みているはずだ。
精度が強化されても残っている、NPD特有の「甘さ」に救われた形となるのは釈然としないけど、それでも勝ちは勝ちだ。
この機は最善最短の手で、一手で掴みにかかる他にない。
「これで終わりだ……!」
『うおおおおーッ!?』
ローエングリン砲台が迫り上がってくる中、空中姿勢を立て直したハイネ専用デスティニーの上を取る形で、俺はそのコックピットに速度を乗せたバトルブレードの一撃を叩き込み、砲台に質量弾として直接ぶつける。
結果、機体の爆発に巻き込まれたローエングリン砲台も誘爆を起こして、地上に姿を表す前に炎の華と散っていく。
その爆発に巻き込まれないようにと急速待避した空中から見下ろすその光景は、中々どうして見応えがあった。
「わぁ、クリアできた……! ありがとう、アスカ! やっぱりアスカはすごいんだね!」
「……ルリナがあの場面で狙撃を当ててくれたからだ、俺はそれに乗っかっただけだ」
「でもでも、びゅーんって飛んで、一撃でハイネ専用デスティニー倒しちゃったし! すっごく格好よかったよ!」
キラキラと大きな目を輝かせながら、まるでヒーローでも見るようにルリナは称賛の言葉をかけてくる。
褒められることには慣れてないし、こういうのも久々だから、むず痒いというかなんというか、有り体にいうなら、少し照れ臭い。
一手でハイネ専用デスティニーを詰めると意気込んではいたけど、正確には二手だな。ルリナがいなければ、きっと間に合っていなかった。
「……ありがとう、でも、ルリナがいなければ間に合ってなかったのは本当だ。だから、その……そこは自信持ってもいいんじゃないか」
「本当に? わたし、いっぱい狙撃外しちゃったけど……」
「勝てば官軍っていうだろ、今は勝ったんだから、笑えばいいさ」
「うん! やったやったー! えへへ、アスカとわたしの、はじめての共同作業だね!」
配信しているのも忘れて、ルリナは満面に笑みを浮かべながらそんなことを言ってのける。
これはもしかしなくても、自分の手で墓穴を掘ったことになるんだろうか。
だとしたら、俺も迂闊が過ぎた。これで炎上とかしたら、土下座でもするほかにない。
「それじゃあ今日の配信はここまで! 楽しんでくれたら嬉しいな、えへへ」
ただ、締めの挨拶をするルリナの様子からするに、特段問題はなかったようだ。
ならよかった。
そもそも女子の配信に野郎が映り込んでるって時点で大分需要が怪しいもんだけど、何事もなかったのならそれが一番だと、ほっと胸を撫で下ろす。
【Mission Success!】
ミッションをクリアした通知が出ると共に、俺たちの機体と仮想世界における躯体は数秒のあと、ブロックノイズ状に解けて、セントラル・ロビーへと再構築されていく。
何事も中々、理想通りにはいかないものだ。
だけど、少しずつ積み重ねて前に進んでいく。
今日はほんのちょっとだけ、背伸びをしたかもしれないけど、近道なんてものはどこにもないんだろう、多分だけど。
それでも、例え遠回りだとしても、一つ目の前の壁を乗り越えた瞬間がなによりも楽しい。
そして、それはずっと。
ずっと、俺が忘れていたことなのかもしれない。
ロビーへと帰還するなり、無邪気に喜んで俺の左腕に抱きついてくるルリナの笑顔を見つめながら、そんなことをふと、考える。
忘れ物。探し物。色んなものを残して、ここに、GBNに戻ってきてしまったんだということを。
迷走する主人公、変な方向に全力疾走するヒロインちゃん