ガンダムビルドダイバーズRe:TRY   作:守次 奏

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相変わらず前書きになにを書けばいいのか、コレガワカラナイ


Ep.08「ヒバナ、散らして」

「アスカ!」

 

 惰性のようにログインしたGBNでの一日がルリナの出迎えから始まるのに、すっかり慣れきってしまった。

 人間の適応能力って凄まじいな。未だに胸を押しつけられるのには慣れないけど。

 ぎゅっと抱き寄せられた左手に伝わってくる柔らかな熱から意識を逸らすように、俺は薄らぼんやりと頭にそんなことを思い描く。

 

「……前にも言ったけど、女の子が男にベタベタ引っ付くもんじゃないぞ」

「それならわたしだって前に言ったよ? こんなことするのはアスカだけだって」

「……俺が相手だとしてもだよ」

「むー……アスカが相手だからそうしてるんだもん」

 

 だってわたしの運命の人なんだから、と、お決まりの台詞を口にして、ルリナは頬を膨らませつつ左手に体重を預けてくる。

 あいつの中での理屈が運命でもなんでも構わないけど、俺の方はそろそろ通行人からまた惚気てやがる、みたいな殺意を向けられるのがいたたまれなくなってきたんだよ。

 引き剥がせばそれで済むといえば、まあそうなんだけど。

 

「えへへ、アスカはあったかいね」

 

 こんなに幸せそうな顔をしてるルリナへ無理にそうするのは良心が咎めるというかなんというか。

 結局なんだかんだと言いながら尻に敷かれてるんじゃないかと詰られれば、ぐうの音も出ない。

 だけど、俺なんかの存在でルリナの心が満たされるというのなら、それは。

 

「やはり君たちは夫婦漫才をしているんじゃないのか」

「……ツバサか、だから俺たちはただのフレンド同士であってだな」

「夫婦なら恥ずかしがることでもないと聞いている。少なくとも私は気にしない」

「頼むから話を聞いてくれ」

 

 孤立無援、四面楚歌。天然が二人に増えるとこうなるのか。

 フレンドワープでやってくるなり、小首を傾げながらそんなことを言ってのけた第三の刺客に頭を抱えつつ、俺は小さく溜息をつく。

 ツバサちゃんはわかってますね、じゃないんだよ。でかい胸を反らして得意げにしてるルリナを一瞥すれば、なんか口から魂が抜けていきそうだった。

 

「冗談だ、アスカ、まだ君とルリナは結婚していないんだろう? 夫婦というのは原則的に結婚をするものだと聞いている」

「……そういう問題でもないんだけどな」

「そうだよね! アスカ、式は和風と洋風どっちがいいかな? どうせならハワイとかで素敵なハネムーンにしたいよね! あっ……でも、よく考えたらわたし、心の準備がまだ……」

 

 ルリナは突然耳まで真っ赤になってもじもじと俯く。

 なにを想像したのかは考えたくないけど、とりあえずそのまま準備とやらをしててくれ。できればずっと。

 ルリナにいらんことを吹き込んでも、しれっといつもの真顔から一ミリも表情が変動しない辺り、ツバサも相当ズレてるというか天然度合いが深刻だというか。

 

「……君たちはロビーで漫才するのが趣味なのかい?」

 

 ギャラルホルンの制服に身を包んだ男に声をかけられたのは、半ば俺が思考を放棄して中空を見上げていた時のことだった。

 別に漫才する趣味はないんだけどな。お前もこの二人に挟まれてみろ、絶対俺みたいになるぞ。

 という言葉は飲み込みつつ、声をかけてきたこの金髪のダイバーが誰だったのか、一旦落ち着くのも兼ねて俺は記憶の引き出しを開け放つ。

 

「……確か、この前のシャフランダム・ロワイヤルで会った」

「いかにも。覚えてくれていて光栄だよ。僕はルドガー。そっちのお嬢さんは確か味方だったね?」

「その認識で間違いない。ただし今は、アスカとルリナ、この二人と行動を共にしている」

「なるほど。こちらとしては手強いが好都合といったところかな」

 

 ルドガーと名乗ったダイバーは恭しく一礼すると、なにやら剣呑な気配を漂わせる言葉を口に出す。

 果たしてなにが好都合なのかは、聞くまでもないだろう。

 礼儀正しくも、背中から滲み出すひりついた感覚は、ルドガーがきっとダイバーとして、ファイターとして、抑えきれない本能だからだ。

 

「……戦いにきた、って理解で問題ないか」

「話が早くて助かるよ。それに、僕との約束も覚えていてくれたようだ」

「……次は勝つ、だったか」

「そう、僕は君の剣に勝ちたい。ただ、この話をつけにきたのは僕個人としてじゃないんだ」

「……どういうことだ?」

 

 てっきり、「鉄血」のクランク二尉よろしく一騎討ちでも申し込みにきたのかと思ってたけど、どうやら事情が違うようだ。

 ふむ、と俺は首を傾げた。

 少なくともルドガー以外になにか因縁があるとしたら、あの「清浄化委員会」とかいうろくでもない連中ぐらいのもんだけど。

 

 俺が考え込んでいるうちにようやく妄想の世界から現実に帰ってきたのか、なにがなんだかよくわかっていない様子のルリナが小首を傾げて、ルドガーへと問いかける。

 

「個人じゃない、ってことは他に誰かがいるってことですか?」

「そうなるね。君はルリナ嬢だったか……そろそろあのお方がいらっしゃることだろう。ここから先の話はあのお方から」

「待たせてしまったな、ルドガー!」

 

 刹那、はっはっは、と不敵に笑いながら、話に割り込む形でルドガーと同じギャラルホルンの制服を着た女の人を連れた銀髪の女性が、よく通る声をロビーに響かせて、現れた。

 ぴこぴことその人の頭上では猫耳……というかキツネの耳が動いているし、尻尾も感情に合わせてから上機嫌に揺れている。

 俗にいう獣人型のダイバールックだ。

 

「リシッツァ様、この方たちが以前お話しした」

「うむ、此方もわかっている! 其方が『アスカ』で相違ないな?」

「……一応は」

 

 同じ名前のやつなんか腐るほどいるだろうけど、リシッツァとかいう人が訊いてるのはそういうことじゃない。

 ルドガーから話がいっていた、ということに加えてあの態度から考えれば、十中八九、リシッツァさんとルドガーはなにか関わりがあるのだろう。

 それもきっと、俺たちのようにフレンド同士の結びつきとかじゃない、ガチのそれだ。

 

「ならば重畳! 此方はリシッツァ。フォース『フォックストロット』のリーダーを務めている!」

「わたしはルリナ! G-Tuberやってます!」

「その意気やよし! 其方の名前は知らなかったが覚えておこう!」

「ありがとうございます! チャンネル登録とかしてくれるともっと嬉しいです!」

「そうかそうか、ならば此方としてもやぶさかではないな!」

 

 はっはっは、と、意気投合した様子でリシッツァさんとルリナは笑い合う。

 天然がまた増えた。ジェットストリームアタックかよ。

 どうしてくれんだとばかりにルドガーへと恨みがましい視線を向ければ、これが平常運転ですよ、とばかりに肩を竦めて返された。ちくしょうめ。

 

 律儀にルリナのチャンネルを登録してくれたらしく、リシッツァさんはこなれた様子でぽちぽちと手元のコンソールを操作する。

 全く知らない相手にも自分の存在をPRできる辺り、ルリナも相当肝が据わっているというかなんというか。

 その当人であるルリナは、いえーい、とばかりにピースサインを指先に形作って、ヒマワリのような笑みを満面に浮かべていた。

 

「ありがとう、アスカ! リシッツァさんっていい人なんだね!」

「……お前の力だろ、俺はなにもしてない」

「ううん! アスカはわたしに運命をくれたんだもん! だから、わたしだけの力じゃないよ!」

「一理ある。君の存在がルリナに良い影響を与えているなら、間違っていない」

「……もう好きにしてくれ」

 

 今度は「貴方たちいつもそうなんですか」とばかりに呆れたような苦笑を浮かべて、ルドガーがこっちに視線を向けてくる。

 少なくともいつもじゃない。ツバサとフレンドになったのは昨日のことだからな。

 と、言ったところで俺の事情なんてあっちの知ったところじゃないんだろうから、意趣返しってわけじゃないけど、俺はただ溜息と共に肩を竦めるしかなかった。

 

「さてさて、此方もチャンネル登録を終えたところだ、改めて本題に入らせてもらおう。単刀直入に言って、アスカ。此方は其方との戦いを望んでいる!」

「……だろうな、ただ」

「私たちは君たちと違ってフォースを組んでいない。もしも戦うのならフリーバトルという形になる」

 

 俺が言おうとしていたことを、先回りしてツバサが口に出す。

 そうだ、あくまでも俺たちはフレンドであってフォースじゃない。リシッツァさんがフォースバトルをしに来たって用件なら、残念だけどまたの機会にってことになる。

 生憎、その機会がいつ来るかはわからないけどな。

 

「此方はそれでも構わん! というより、無粋なレギュレーションを設けるより、真正面からぶつかってみたいというのが此方の本音だからな! フリーバトルになるのなら大歓迎だ!」

「……なるほど」

 

 剛毅に笑ってこそいるけど、リシッツァさんは余裕ぶったり、油断をしているわけじゃない。

 瞳に煌々と燃えている闘志が、それを何よりも如実に物語っていた。

 ルール無制限、なんでもありの戦いを挑みたいって辺り、バトルジャンキーっていったら失礼なんだろうけど、その気を感じる。

 

「此方も三人、其方も三人。条件は互角だと思う! 返答は如何に!?」

「……少しだけ時間をくれ」

「アスカ、受けるんじゃないの?」

 

 勢いに水を差すようだけど、そうとしか答えられない。

 三対三、確かに数の上での条件だけ見れば互角に見えることだろう。

 だけどそれは、実力差を全くといっていいほど勘案していないということでもある。

 

 ルリナは、きょとんと小首を傾げていた。

 俺としては別に受けようが受けるまいがどっちでも構わない、というのが本音だけど、あの「イフ・コンクルーダー」を受けた時と同じように、あいつにとっては格上との戦いってことになる。

 いや、間違いなくそれ以上だと、直感が、リシッツァさんから漂う戦いの、鉄と血と硝煙の気配が、それをはっきりと感じさせた。

 

「……ルリナ、もしもこの戦いを受けるんだったら、多分だけどお前にとってはかなり格上の相手をすることになる。それでもいいのか?」

 

 格上にチャレンジして敗北することは、別に恥でもなんでもない。

 ただ、勇気と無謀は別物だ。格上を相手に勝てると思い込んでいるならそれは迂闊で、最初から勝てないと思って戦うなら、戦う意味それ自体がない。

 要するに僅かな、砂漠に紛れ込んだダイヤモンドを探すような勝算と敗北への覚悟、その両方を持っていなければ、わざわざこの戦いに挑む意義は薄いということだ。

 

「わたしに気を遣ってくれたんだね、アスカ」

「……それは、そうだけど」

「うん……わかってる。リシッツァさんはすっごく強いって。でも、せっかくわたしたちのところに……アスカが目当てでも、わたしなんかのところに来てくれて、チャンネルだって登録してもらったんだから、なにもしないで帰ってもらうのはダメだと思う。だからわたし、精一杯がんばる! それじゃ、ダメかな?」

 

 フット・イン・ザ・ドアに絆されたのかと、一瞬そんな心配を抱きかける。

 だけど、じっと覗き込んだ金色をした瞳の中には、リシッツァさんの碧眼に煌々と燃えていたそれと比べれば微かに小さいけど、確かな闘志が、覚悟の兆しが灯っていた。

 それは、流されたんじゃなく、ルリナ自身でその選択をしたということだ。なら、そこに口を挟むのは野暮というものだろう。

 

「……ルリナがそれでいいなら、俺は構わない。ツバサはどうだ?」

「私も二人がそうすると判断したのならそれに従う。反対する理由はない」

「……わかった。なら、リシッツァさん」

「此方の挑戦を受けてくれるということでいいのか?」

「……ああ」

 

 答えてしまった以上、後戻りはできない。

 久しぶりに背筋を電撃が伝ったような、脳がちりちりと焦げ付くような感覚を抱きながら、俺は真っ直ぐにリシッツァさんの瞳を見据えて、差し出された挑戦状を受け取った。

 受け取ってしまったと、いうべきなのか。

 

「うむ! 感謝する! それでは互いに死力を尽くし、剣で語り合おうではないか! 往くぞ、ルドガー、ショコラ!」

「はっ! 僕も君と再び剣を交えるのを楽しみにしているよ、アスカ」

「戦いとなれば全力を尽くします、全てはリシッツァ団長のために!」

 

 リシッツァさんはフリーバトルを申請を送りつけると、こっちが承諾したのを確認して、エドガーと、ショコラというらしい女性ダイバーを連れて格納庫へと満足げに解けていく。

 その瞳から激しく蒼い火花を散らしながら、剛毅に、あるいは戦いに飢えた獣のように犬歯を剥き出しにして笑いながら。

 ──なら、俺は。俺も、また。

 

「アスカ? どうしたの? お腹痛いの?」

「……それ昨日も訊いてたよな……いや、なんでもない。俺たちも全力で戦うぞ」

「了解した。アスカとルリナへの攻撃は私とフォルトレスが通させない」

 

 確かに俺とルリナの二人で「フォックストロット」の三人を引き受けるとなれば難しかったかもしれない。

 ただ、この前と違って鉄壁を誇るツバサが味方にいてくれている。

 なら、取れる戦術の幅も自然と広がっていくということだ。

 

 俺たちもまた格納庫エリアへと転送されていく中で、チャートを、勝利への方程式を組み立てる。

 例え厳しい戦いが待っているとしても、最初から負けることを前提にしてたんなら、さっきも言った通りに戦う意味がないからな。

 やるってんなら、やってやるさ。なんとでもなるはずだと自分にそう言い聞かせて、俺は、アインフェリアの操縦桿をきつく握り締めた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 戦場として選ばれたのは、漆黒の宇宙空間だった。オブジェクトとしてモビルスーツの残骸は漂っているものの、遮蔽物らしい遮蔽物もなく、開けたバトルフィールドだ。

 こっちのメリットは、ツバサのダインスレイヴが使いやすくなること。

 逆に、デメリットは。

 

『なるほど、開けた宇宙空間……此方としては天運招来といったところだな!』

 

 それぞれガズアルとガズエルの肩とヒートランスを装備したジークルーネを従えて、両肩のパーツをグレイズ改「流星号」のそれと交換、ヴァルキュリアラウンドシールドをグリムゲルデのシールドに持ち替えたジークルーネが、ヴァルキュリアレイピアを抜剣しながら宣言する。

 俺たちにとってのデメリットは、リシッツァさんが言った通りに、彼女たち格闘型にとっても、この地形は有利に働くということだ。

 

『シャフランダム・ロワイヤルではお見せできませんでしたが、これが僕の真なる愛機、リシッツァ様の騎士たる姿……ジークルーネR』

『そして私の愛機もまたリシッツァ様の守護騎士、ジークルーネL!』

『さあさあ、放送しているのだろう、ルリナ? ならばリスナー諸君はお立ち会いだ! 此方のジークルーネ・キャバルリーの力……存分に振るうとしよう!』

 

 リシッツァさんはヴァルキュリアレイピアを俺のアインフェリアへと突きつけて、高らかに名乗りを上げる。

 それぞれカスタムは施されているけど、ジークルーネ三機で構成されたフォース。

 方向性がわかりやすくていい。射撃武器を持っているのはRとL、ガズアルガズエルのビームライフルじゃなくてグリムゲルデのライフルをわざわざ持ってきてる辺り、鉄血の世界観へのこだわりも相当なものなのだろう。

 

「……なら、尚更負けられないな」

「アスカ、どうするの?」

「……こっちのやることは変わらない、ツバサが引き付けてくれているうちに俺が本丸を抑える! ルリナはその支援を!」

「わかった! やってみるね!」

『果たしてそれができるかな!』

 

 スラスターを全開で噴かしてすっ飛んできたジークルーネ・キャバルリーのコックピットから、獰猛な笑みを浮かべてリシッツァさんが叫ぶ。

 ちょうどいい、自分からわざわざ来てくれるなら好都合だ。

 護衛の二人も同じジークルーネをベースにしているだけあって、リシッツァさんに遅れをとっていない。だけど。

 

「……ツバサ!」

「了解した。まずは連携を分断する」

 

 戦いの始まりを告げる号砲に代えて、ダインスレイヴが「フォックストロット」の三機へと撃ち放たれる。

 一機でも撃ち落とされてくれれば好都合だったけど、流石に見られていれば回避もされるか。

 だけど、こっちの狙い通り、陣形を崩すことには成功している。

 

『ダインスレイヴとはな! 此方を分断したのは見事! だが此方の狙いは……初めから其方一人だ!』

「……だったら、受け切ってやるさ……!」

 

 交わす視線に火花を散らし、俺はダインスレイヴに怯むことなく先陣を切ったリシッツァさんへと向けて、130mmブレードマグナムのトリガーを引き絞った。




開戦、フォックストロット!
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