『シュヴァルベカスタムの130mm弾……否、それをブラッシュアップしたマグナム弾か? 確かにナノラミネートアーマーにも効果的だな。良い、実に良いッ!』
「……そう簡単に当たってはくれないか!」
俺はジークルーネ・キャバルリーの装甲、その隙間やジョイントみたいな脆い部分に狙いをつけて130mmマグナム弾を撃ち放った。
けど、最小限の動きでそれを回避してみせたリシッツァさんは、抜剣したヴァルキュリアレイピアを構えて突撃をかけてくる。
ダインスレイヴで分断された随伴機にはルリナがGNスナイパーライフルⅡを放つことで合流させないように牽制し、GNフィールドを展開したツバサが盾役として先行した、その瞬間だった。
『其方の装甲と競り合うのも悪くはないが……此方の狙いはアスカただ一人! 故に抜かせてもらうぞ!』
「私を踏み台に……!?」
どういう理屈なのか、GNフィールドの上に「降り立った」リシッツァさんは、粒子のバリアを足場にして跳躍、中衛を務めていた俺へと急速接近をかけてくる。
踵になにかギミックでも仕込んでいたのか。いや、考えている場合じゃない。
敵の機動を予測して130mmブレードマグナムの弾をそこに置いていたはずが、その先を読んでいたかのようにリシッツァさんのジークルーネ・キャバルリーは小刻みな回避運動でそれらをいなして突撃してきた。
『まさか撃ち合いだけで満足したとは申さぬよな! さあ、其方の本領を此方に見せてくれ!』
「……作戦変更! ツバサ、リシッツァさんは俺が引き受けるから、悪いけどRとLの二機を引き受けてくれ! ルリナは自衛しつつツバサの援護!」
「了解した、その作戦に従おう」
「まずは身を守って……うん、わたしがんばるね、アスカ!」
頼もしい返答だ。
撃ち合いではどのみち不利になるから踏んだのか、ツバサのガンダム・フォルトレスはガトリングランスの先端から砲身全体を包み込むようにビーム刃を発生させる。
そしてルリナは接近してくるRとLの格闘攻撃に備えてバックブースト、ここまでは概ね想定通りといえば想定通りだ。
「予想より早く抜かれるとは思ってなかったけどな……!」
『はっはっは! あまり此方を見縊ってもらっては困る! さて……御託は終わりだ、存分に死合おうか!』
リシッツァさんが繰り出してきた、ヴァルキュリアレイピアによる刺突をブレードマグナムの刃で受け止めていたのはいい。
そうだとしても、相手のそれはレアアロイ製で、こっちは普通の金属でしかないなら、高出力なヴァルキュリア・フレームに押し切られるのも必然だ。
ブレードマグナムの刃を犠牲にしつつも一撃をいなした俺は、ジークルーネ・キャバルリーに蹴りをお見舞いし、残った全ての弾をひたすらに叩き込む。
『ははははは! これは重畳ッ! 思ったよりも楽しめそうだ!』
「くっ……!」
グリムゲルデから持ってきたのであろうシールドが、ディフェンスロッドのように回転することでマグナム弾を弾き返す。
姿勢が崩れた状況でも的確に直撃弾を防いで、即座に立て直しを図れるリシッツァさんの腕前は尋常じゃない。
一切射撃武装を持たないそのスタイルもまた、戦いの中で磨き上げられ、洗練されていったものなのだろう。
だからこそ、一撃たりとも通しちゃいけない。
ブレードマグナムを投棄して、肩のウェポンラックに懸下していた、バトルブレードとナイトブレードを抜き放つ。
剣戟の間合いに持ち込まれたのは俺の落ち度だ。名誉挽回というつもりはなくとも、ここであの人を止められなければ、詰ませられなければ、負けるのは俺たちだ。
『此方の出方を窺っているのか? ならばその答えは決まっているぞ!』
「真正面からの、突撃……!」
『七つだ、七つ防いでみせるが良い!』
思った通りに、リシッツァさんのプレイスタイルは俺とよく似通っている。
何手で、いかに相手を詰ませられるか。
とにかく相手が嫌う行動を押しつけて、自分が思い描くシナリオに誘導するやり方だ。
わざわざ七手詰めを宣言したってことは、リシッツァさんは剣の腕前にそれなり以上に自信があるってことなんだろう。
冗談じゃない、と吐き捨てたくなるけど、これは俺たちが受けた戦いだ。
無様なままにバトルアウトして終われるものかよ。
『まずは一つ!』
「思い通りになんてさせるか……!」
一手目、露骨にわかりやすい刺突がくる。
俺はバックブーストをかけて大ぶりな動きで回避、そしてユニバーサル・ブーストポッドからミサイルを全弾一斉発射して牽制をかけた。
あれはブラフだ。恐らく二手目に「なにか」を隠し持っていたからこそ、威力を重視するあまり明らかに隙だらけな一撃を放ってきたのだろう。
『ブースターポッドにミサイルを詰め込んでいたとはな! ははは、良いぞ! だがな!』
「突っ込んでくるのかよ……!」
ミサイルの雨霰を掻い潜り、時には直撃弾をもらいながらも、リシッツァさんが止まることはない。
ナノラミネートアーマーがあるとはいえ、どちらかといえば装甲が薄い部類に入るジークルーネでも、どこまでが耐えられて、どこまでが耐えられないかを熟知した行動だ。
相当長いこと愛着を持ってあの機体を、ジークルーネ・キャバルリーを使い込んできたのだろう。
──それなのに、俺は。
横道に逸れかけた意識を無理やり引き戻しつつ、一旦は稼いだ距離を再度小刻みなマニューバで回避、肉薄してくるリシッツァさんの行動に、意識を集中する。
あの人は、他のことを考えて戦えるような相手じゃない。
常に考えろ、そして読み解くんだ。相手にとっての必殺の一手を、言い換えるのであれば、それを外したら全てが終わるという乾坤一擲の一撃を。
『二つ、三つ、四つ!』
「……刺突、打ち払い、回し蹴り!」
刺突はパリィの要領で弾く、打ち払いも同じように左手の剣でいなす、回し蹴りは、ユニバーサル・ブーストポッドを互い違いに向けた回転機動で無理やり回避。
Gのフィードバックと三半規管へのダメージを感じつつも、全て無傷で乗り切ってみせた。
だけど、本当に冗談じゃない。パリィの要領でなんとかなってくれたとはいえ、あと数フレーム反応が遅れていれば、コックピットに風穴が開いていたところだ。
『やはりな……此方の思った通りだよ』
「……ッ!」
『その機体、悪くはない! むしろ好ましい! だが……高機動型には二種類ある。一つは、此方のように小刻みな型だ。そして、もう一つは……其方のように「大振り」な型だ!』
リシッツァさんは瞳孔を開きながら、犬歯を剥き出しにして笑う。
確かにアインフェリアは直線加速力を重視した機体だ。シュヴァルベグレイズ譲りの各部スラスターで小刻みな動きもできなくはない。
だけど、基本的にはあの人が言った通りに大推力を活かした大振りな機動になりやすいのもまた、確かなことだった。
『さあ、此方が仕掛けるは残り三つ! 生き残って……その先の可能性を此方に見せてくれ、アスカ!』
「……残り三手、仕掛けるならここしかない……!」
ジークルーネ・キャバルリーのスラスターに焔が灯る。
こっちが迎撃に使える射撃武装は全て失った以上、打ち合いになるのは避けられない。
その上で見極めろ、リシッツァさんが嘘をつくとは思えない。あの人は、確実に三手でこっちを詰ませる算段で、仕掛けてくるはずだ。
『我が剣の本義を見よッ! 螺旋・重!』
「……そこだ!」
五手、六手。それらを重なり合わせた二重の刺突に持てる最大の推力を乗せて、リシッツァさんはアインフェリアのコックピットを躊躇いなく狙ってくる。
俺が選んだ答えは、その剣が発生するより早く潰すことだった。
一度発生してしまえば、ナノラミネートアーマーの正面装甲があったとしても受け止めきれない。そう思わせるだけの気迫と、そして恐怖が背筋を震わせて伝わってくる。
恐らく猶予は数フレーム未満。かなりギリギリの賭けになるだろうけど、幸いそれは──似たようなものだけど、見たことがある。
ならば、どうとでもなるはずだ。
外せばやられる、凌げばその先に活路を開く一手が見えてくる。
実にわかりやすい、シンプルな賭けで助かるよ。
意識を集中させろ。
研ぎ澄ませろ。己を心火の炉にくべて、その一瞬に、刹那に全てを注ぎ込むんだ。
「──そこだ!」
『な……ッ……!?』
刺突が発生するより早く、俺は右手に持ったバトルブレードでジークルーネ・キャバルリーの右手を、その手首の軸となるところを、刀身のリーチを活かす形で斬り裂いていた。
なにより疾く、なにより鋭く。
鉄の刃に滾る血を込めて、俺はただそこにある剣で、真正面からその必殺剣を粉砕した。
だけど、相手にはまだ一手が残されている。
その証拠に、リシッツァさんは驚愕に目を見開きつつも、動揺したのは僅かな間だけだった。
今度はこっちの後隙を狙って、なにかを仕掛けようとしているかのように、口元には隠しきれない獰猛な笑みが浮かぶ。
『……ふ、ふふふ……ははは! 見事! 見事だぞアスカ! 此方の必殺剣を発生する前に潰したんだぞ? 実に素晴らしい!』
「……生きた心地はしなかったけどな」
『当たり前だ、舐めてもらっては困るッ! そして全力を尽くしてくれた其方に敬意を払って……真なる必殺剣にて七つとしよう!』
後隙を取るように放たれた刃は、盾の先端から見えていた。
あの盾は、なんだったか。
確か、グリムゲルデの。
切れかけていた集中力が、全力で警鐘を鳴らす。
そうだ、あの盾がグリムゲルデから流用されたものなのだとしたら、そこに隠されているものはただ一つしかない。
気付いた瞬間、即座に回避運動を先行入力、間に合うかどうかはかなりギリギリのラインだ。
『七つ!』
「……間に合えッ!」
そう叫んだはいいとして、間に合っていたかどうかは別の問題だ。
グリムゲルデのシールドに隠されたヴァルキュリアブレードが、グレイズ・アインフェリアの装甲を舐めるように穿ち、斬り裂いていく。
幸いコックピット判定からは数センチか数ミリほどズレていたらしく、撃墜判定こそ降りなかったものの、かなり危なかった。
反応が少しでも遅れていたらそれだけでお陀仏だったことに、間違いはない。
『此方の七手を凌いだか! そして此方にヴァルキュリアブレードまで抜かせた相手はいつ以来だったか……! 滾るッ! 心が躍るな!』
リシッツァさんは凌がれたというのにどこか満足げに笑って、ヴァルキュリアブレードを盾からパージして、残っていた左手に持たせる。
そして、息つく間もなく突っ込んでくる。
どれだけ損傷していようと、どれだけ不利な状況であろうと、得物がその手にある限り、剣を握っている限り、倒れたりはしない。
それこそがリシッツァさんの矜恃というやつなんだろう。なにをどうしても、誰に言われても、決して譲ることなどできないもの。
俺は、どうなんだ。
データリンクされたモニターから戦況を俯瞰してみれば、ビームランスと化したガトリングランスを振り回しながら、ジークルーネRとジークルーネLの猛攻を一身に受けるツバサの姿が見える。
そして、相性が不利であったとしても、格上であったとしても、諦めることなく攻撃のチャンスを見出して懸命に戦っている、ルリナの姿も。
状況全体で見るならジリ貧もいいところだろう。リシッツァさんを例え墜とせたとしても、待っているのはあの人を守る二体の騎士だ。
だから、諦めるのか?
問いかける。
この戦いは野良バトルだ。負けたところでなにかがあるわけでもなければ、誰かの咎めを負うこともない。
だとしても、それが戦いを捨てていい理由になんてなるものか。
負けたくない。そう願って、ツバサが、ルリナがここにいるのなら。
操縦桿を握り締める手に力が篭る。
まだだ、まだ終わりじゃない。
誰より疾く、なにより速く。
そう願ったのなら、それを叶えるだけの力はお前にあるはずだ、アインフェリア。
そして、足りないものがあるとするなら、今からお前に捧げてやろう。
俺のやろうとしていることは、決して大層なものじゃない。
ジークルーネ・キャバルリーの斬撃をいなしながら、その僅かな後隙を狙ってハイキックを叩き込む。
『が……ッ!?』
「バージョン1.78からは、感覚のフィードバックが実装されている……!」
顎を打ち抜かれれば、機体だろうが生身だろうが、頭は、あるいはコックピットの中は大きく揺れることになる。
だからこそハイキックを叩き込んで一瞬の隙を作り、俺は一旦、ジークルーネ・キャバルリーから距離を取った。
追い討ちをかけるという選択肢はない。なぜなら、リシッツァさんであれば、確実にカウンターを決めてくる──そういう信頼があったからだ。
そして、俺がこの戦況をひっくり返すために、僅かな猶予が欲しかったからでもある。
操縦桿を握り締める両手に力を込めて、俺はコンソールのスロットを、「FINISH MOVE 02」と書かれていたそれを選択した。
「今から見せるのは、アンタの期待に応えられるようなもんじゃないかもしれない」
『ふふふ、ははははは! 世迷言を! アスカ、其方は既に此方の期待を超えている! ならば遠慮なく見せてみるがいい! 此方も全力で迎え討つのみよ!』
ありがたい限りだ。
リシッツァさんほどの人にそう言ってもらえるのは、死力を尽くして戦ってもらえるのは、光栄の至りといったところなのだろう。
だから俺は、今は考えない。戦いのことと、剣のこと。その二振りだけに全ての意識を集中させる。
「──鉄剣、造血」
これは、大層な偉業を持つ名剣じゃない。
ただ純粋な力の化身たる魔剣でもなければ、求める者に応えて無限の勇気を差し出す聖剣でもない。
ただこの手の中にある、二振りの鉄剣。銘はなく、名もなく、そこにあるだけの剣。
その刃に、血が通う。
白銀を塗り潰すように赤熱した刀身が、返り血を塗りたくったかのように、真っ赤に染まる。
原理的にはγナノラミネート加工と似たようなものなのだろう。リミッターを外したエイハブ・リアクターから流れ込む全てのエネルギーを剣に注いで、鉄の塊が血の脈動をその身に宿す。
「……行くぞ、アインフェリア!」
『来るがいい、アスカ!』
ユニバーサル・ブーストポッドに、全てのスラスターに光を灯して、アインフェリアは赫耀の彗星となる。
頭に浮かんだカウントは三つ。
その条件で、俺はこの戦況を覆すことを、意識の中心に固定した。
「……一つ!」
『な……ッ!? 此方の出力を、超えたのでもいうのか!?』
振り抜かれたヴァルキュリアブレードの刀身ごとジークルーネ・キャバルリーの胴体を縦に一刀両断、そのままの足で俺はGNフィールドの展開限界時間を迎えたのであろう、ツバサの救援に向かう。
急激なGのフィードバックに、ぎり、と奥歯を噛み締める。
出力比べという意味であれば、別に上回っているわけじゃない。ただ、こっちは本来機体の強化に回す分を剣に回しているというだけだ。
『嘘、そんな! リシッツァ様が!?』
「……動揺しているところを悪いが……二つ!」
『はっ……申し訳ありません、リシッツァ様ぁぁぁ!』
ジークルーネLもそのまま速度に任せた鉄剣の力で強引に胴体を正面装甲ごと両断。
コックピットを引き裂いて、鉄の呻きを上げながら、俺は残ったジークルーネRへと、反撃の準備も許さないまま刀身が真紅に染まったバトルブレードを突き立てる。
「……これで三つだ……!」
『ふっ……これが君の真なる力というわけか……』
「……俺は」
『君はリシッツァ様を下したほどの相手なんだ、君の事情がどうあれ誇るべきことは誇るべきだ。ああ、僕もこれで退場、か』
──良き試合でしたよ。
そう言い残して、ルドガーのジークルーネRもまた漆黒の宇宙に深紅の華を一つ咲かせて爆散した。
本当にそうだったのかどうか、自信はない。こっちはいうなれば、奇策に打って出ただけで、戦術的には相手の方が間違いなく一歩上を行っていたはずだ。
「すごいすごーい! 今のなに? 今のどうやったの? アスカ、すごい!」
「私も驚愕している。そして感謝する」
それでも、きらきらと目を輝かせてそう問いかけてくるルリナと、相変わらず真顔で会釈をするツバサの二人を見ていると、なんだかあれこれ考えていたのが馬鹿らしくなる、とまではいかなくたって、肩の荷が少しだけ下りた気がした。
(すごいわ! その……ありがと、アスカ)
(流石は蒼翼、アスカといったところですね……ふふ)
いつか聞いた声がリフレインする。
どこまで行っても、どこまで逃げても、きっとそれは、ずっと追いかけてくるのだろう。
わかっている。それでも今は、ただ。
【Battle Ended!】
システムダイアログが表示され、ロビーに強制帰還する感覚の中で、俺は静かに目を伏せて、ルリナの笑顔と、ツバサの真顔を思い返していた。
それはただ、そこにあるだけの剣。されどこの手に握った剣。
Tips:
【リシッツァ】……三人組のフォース「フォックストロット」を率いる女騎士風のダイバールックに身を包んだ女性。近接格闘一本でやってきながらもダイバーランクはSSSと、超がつくほどの上級者ではあるものの、気さくな一面も持ち合わせており、上級者や見込みのあるダイバーとの戦いをなによりも楽しみとしている。