【完結】ツインターボは諦めない   作:クロ

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祝・ナイスネイチャ新衣装!!!
せっかくなのでツインターボにも新衣装ください(強欲)



第13話 友達

 

 中京盃が終わってから一週間が過ぎて、地方トレセン学園で過ごす日常が帰ってきた。今日もツインターボはトレーニングだ。誰もいない真昼のカサマツトレセン学園のコースを限界ギリギリの状態でランニングしていた。

 

 

「はっ、はっ……はひぃ……! ようやく七周だぁ〜……」

 

 

 ゴールラインに辿り着いた時点で、ターボはへろへろになってうつ伏せに倒れた。生温い芝の感触がチクチクと頬に当たったがしんどくて動けない。普段ならタオルを持ってきてくれるトレーナーがいるが、今日はその姿はどこにも見当たらなかった。

 

 

「大丈夫か? 水分補給は大切だぞ」

「ふへぇ、オグリ……あんがと……」

 

 

 そのかわりに同じく黒いジャージを着たオグリキャップが近付き、屈んで、持っていた冷水のペットボトルを差し出した。ペットボトルを受け取ったターボは緩慢な動きでキャップを回して口に含む。

 

 んぐ、んぐっと喉を絶え間なく鳴らした後、たっぷり十秒ほどで中身をすっかり空にした。

 

 

「ぷはぁっ、息できなくて死ぬかと思った〜〜」

「あまり無理するとトレーナーに怒られてしまうぞ」

「だいじょーぶ! オーバーヒートは終わったからな。まだまだ走れるもんっ」

 

 

 汗を滴らせながら言い張るターボ。しかしそれを聞いたオグリは困ったような顔をした。

 

 

「無茶をしすぎないように見ていてほしいと頼まれているんだ。いまは無茶をしていると思う。だから休憩してほしいんだが……」

「やだ。ターボももっと速く走れるようになるんだもん。オグリみたいに、ターボも早くスカウトされたいのっ!!」

 

 

 ターボは両拳を握ってむーっと唸ると、オグリキャップは何も言い返せずにいよいよ困り果てた。

 

 中京盃のあとオグリがスカウトを受けたことを聞いていた。確約である。ターボ自身はスカウトを受けるために条件をクリアする必要があり、トレーナーはその条件をクリアするための方法を考えている最中だ。

 

 

「とれーなーが言ってたぞ。オグリをスカウトしたのって、しんぼり……しんぼり。えっと、んー……すっごいウマ娘なんでしょ! 来年からトゥインクルシリーズに出るんだよね!!」

「ああ、その話……まだ決めかねている」

「うんうん、そうだろう……うえーーーっ!?!?」

 

 

 ターボは奇妙な悲鳴をあげて素っ頓狂に驚いた。疲れ果てていたことも忘れたように、その場で両手を地面について詰め寄った。

 

 

「なんで!? オグリすっごく強いのに、すごいレースで走らないのか!?」

「いや、まだ決めたわけじゃない。ただ迷っているんだ」

「なんでなんでっ。確かにこの前のレースだってターボの勝ちだったけどさ……!」

「……まだ一敗しただけだ。決着はまだついていない」

 

 

 落ち込み気味だったオグリは、むっと反論した。落ち込んでいる様子から元に戻ったのを見たターボはちょっとだけ安心した。

 

 

「ターボに一つ聞きたいことがあるんだ。トゥインクルシリーズに戻りたいと言ったが、そこで何を成し遂げたいんだ?」

「そんなの決まってるぞっ! 勝って勝って、勝ちまくって。誰にも負けない最強で、みんなを喜ばせる最高のウマ娘になるの!」

 

 

 胸を張って即答した。これこそがターボの原点であり一生懸命走る理由だ。オグリは納得したように頷いたものの、再び悩ましげにずんと落ち込んだ。

 

 

「考えてみたんだが、ターボのようにレースで明確に成し遂げたいものがあるわけじゃないんだ」

「それならターボと戦えばいいぞ! ターボはぜったいトゥインクルシリーズに戻るからなっ!!」

 

 

 見つからないなら自分を理由にすればいい。そんな主張をするもオグリキャップの態度は煮え切らないままだ。ターボは不満げに尖った歯を噛み締めて、ついには両腕を振ってだだをこねはじめた。

 

 

「なんで悩むのさーーっ! オグリも来てくれなきゃヤだっ!」

「……トレーナーと一緒に夢を叶えると約束したんだ」

 

 

 普段は掴めないぼんやりとした表情を見せるオグリが、感情をあらわにして言った。

 

 

「へ?」

「私の一番はトレーナーの夢を叶えること。だが、このままだとそれは叶わない」

「とれーなーの夢……?」

「大勢の人を幸せにできるような凄いウマ娘にしてやると言ってくれた。私もトレーナーと一緒に勝ちたかった。でもカサマツを離れたらそれは叶わない」

 

 オグリは握った自分自身の拳を見下ろして重々しくつぶやいた。それは辛い経験を重ねてきたターボにも理解できる話だ。駄々をこねる気はなくなって、神妙にかえした。

 

 

「……そっか。オグリもターボと一緒だったんだね」

「そうなのか?」

「うん! とれーなー言ってた! ターボが走って、みんなを笑顔にして! そんな風になれる最高のウマ娘を育てたいんだって!!」

 

 

 大勢の人を幸せにできるようなウマ娘。それはターボの語る『最高』とそのまま同じものだ。

 

 同じ夢を持つ者としてオグリキャップの気持ちが理解できた。レースを走るのは自分の夢のためだが、大切な人の想いに応えるためでもある。その理由を失うのは絶対に嫌だ。ターボ自身、もしトレーナーがいなくなると言われたら、今みたいにがんばれる気がしなかった。

 

 

「オグリもとれーなーとすっごく仲良しだもんね。それなのにとれーなーとお別れになっちゃうのか」

「そうなんだ。だから困っている」

「うんうん。ターボも負けてお別れになるかもしれなかったとき、すっごく悲しかったからな」

 

 

 幸いトレーナーが一緒に地方まで来てくれたためことなきを得たが、未勝利戦に負けた日の晩は大変だった。あんなに辛い気持ちになったことは人生で一度もない。ゴミ箱は涙と鼻水を吸い込んだティッシュでいっぱいになり、翌日は気力がなくなってベッドから動けなかった。

 

 オグリキャップが置かれているのはそういう境遇なのだ。ターボがトレーナーを大切に想っているのと同じなら、絶対に失いたくないと思う気持ちは痛いほど分かる。しかしだからといって、夢を諦めれば後悔するだろう。

 

 トレーナーを取るか、自分をとるか。即決即断がモットーのターボでも難しい問題であった。

 

 

「私はどうすればいいんだろう」

「それはとれーなーに相談しないと分からないなあ」

「え……?」

 

 

 延々と悩んでいたオグリは虚をつかれた風に目を丸くした。逆にターボは首をかしげた。

 

 

「まだとれーなーと話してないのか?」

「あ、ああ……こんな悩みを打ち明けるわけにはいかないだろう」

「なーんだ。それなら簡単じゃん! ターボでわからないことは、とれーなーがなんとかしてくれる! 一緒に考えればきっと悩みはなくなるぞ!」

 

 

 直接本人に聞けばいいのだと。超単純なツインターボの腕組みドヤ顔解答。この場にナイスネイチャがいれば『それができたら苦労しないわ』とでも言いそうな解決法だった、

 

 しかしオグリキャップは突っ込まずに真剣に考える。実のところなんどか打ち明けようとして、結局諦めて何もいえずにいたからだ。しかしターボに言われて改めて考えると、なぜそうしなかったのかと思わされる。

 

 

「むむっ……だがこんなことをトレーナーに相談してもいいものか。困らせてしまいそうだ」

「でもさ、オグリもとれーなーと一緒に頑張るって約束したんでしょ? だったらいいじゃん」

「いいのだろうか」

「頑張ってるウマ娘はわがまま言ってもいいんだぞって、ターボのとれーなーが言ってた! オグリのとれーなーもなかなかやるやつだからきっと同じだぞっ!」

 

 

 こんなふうに困ったときに助けてくれるのが本当の『トレーナー』なのだと、ツインターボは知っている。だから困らせたり悲しませたりしないようにするためにターボは存分に頼ることにしている。

 

 

「トレーナーに聞く、か。確かにその通りかもしれないな」

 

 

 考えてみれば、これまで悩んできたときは必ずトレーナーが助けてくれた。オグリキャップにとってのトレーナーは、一番ウマ娘のことを考えて助けてくれる信頼の置ける人だ。最終的には自分で決めなければならないとしても、一緒に考えて決めてもよいのではないか。

 

 

「大変ならターボが一緒についていってやるぞ!!」

「ありがとう。だがそれには及ばない。これは私とトレーナーの問題だからな」

 

 

 感謝を伝えつつもターボの心遣いを丁重に断った。これは二人で選ばないと意味がないからな、と伝えると、ターボは尻尾をぴょこぴょこ上下させつつ満足げにニッと笑った。

 

 

「ライバルがいてくれるというのは、本当にありがたいものだな」

「フフフ。そうだろう……えっいまライバルって言った? ターボ、オグリのライバルなのか!!?」

「うん。ターボはライバルだが……急にどうしたんだ?」

「ほんとにほんと!?」

「あ、ああ。本当だ」

 

 

目を丸くしてオグリの顔面に前のめりに迫る。やはり聞き間違いではなかった。急なテンションアップにオグリがおどおどとしながら認めると、赤青オッドアイがキラキラ輝いた。

 

 

「フフフ、ターボの物語にもライバルの登場だっ」

「中央でターボほどのウマ娘なら、競い合う相手には困らないんじゃないのか?」

「最初に怪我しちゃったからなあ。友達以外のウマ娘のことはよく知らないんだ」

「ああ、そういえば。大変だったんだな」

「そう、大変だったんだぞ。ターボと走ってくれるやつがいなかったんだ」

 

 

 ターボは最初、入学したあとはみんなが自分に挑戦してきて、バッタバッタとライバルを薙ぎ倒していくような生活をイメージしていた。幼い頃に見たテレビアニメの影響である。

 

 しかし現実にはそんなことはなく、夢の中央トレセン学園で踏み出した第一歩目でこけてからはさんざんだった。よかったことといえば、今のトレーナーに出会えたこととナイスネイチャと親友になれたことくらいか。そんな境遇だったからこそ、ライバルの出現という望んでいた展開になったことが嬉しかった。

 

 

「ターボのライバルってことはさ、これからもずっと勝負してくれるってことだな!」

「先のことは分からないが、勝負は望むところだ。この間のレースでは負けてしまったからな。負けたままではいられない」

「ならさっそく走ろうっ! とれーなーいないけど、レースはできるぞ!」

「そんなに疲れ切っていたら、対等な勝負ができないだろう」

「えーっ!? ターボまだやれるぞー!?」

 

 

 不満の声をあげたが、しかし練習後で汗まみれの疲労状態。一方でオグリキャップは授業から戻ってきたばかりなので体力は満タンだ。そんな差のついた状態で走っても勝負にならない。

 

 

「それに君のトレーナーにも、ターボが怪我をしないようにちゃんと休ませるように頼まれているんだ。まずは疲れを取ってほしい」

「う、う〜〜わかった……」

 

 

 ライバル出現で上がったテンションは急降下した。体力はどうでもよかったが、トレーナーの指示と言われてはやむをえない。仕方なく芝に寝転がり、足を伸ばして、「あ"〜〜」と大口を開けてリラックスする姿勢をとった。

 

 体から力を抜いたターボをよそに、オグリはカサマツトレセン学園の校舎のほうに視線をうつした。その瞳にはかすかな哀愁の念が宿っていた。

 

 

「トゥインクルシリーズ、か……」

 

 

 スカウトを受けたオグリは、人生が変わるような話にまだ戸惑っていた。遠く離れた土地に移り住むなんて考えたこともなかった。ターボが一緒についてきてくれるというなら不安もないが、トレーナーがいない世界にどんな意味があるのだろう。想像しても、なかなかイメージが浮かばない。

 

 二人で休んでいると、青緑色のコントラストが入ったターボのウマ耳がぴょこんと跳ねた。起き上がってキョロキョロと周囲を探しはじめる。オグリはその様子に気付いて首をかしげた。

 

 

「どうしたんだ」

「あれ、オグリの知り合いか?」

 

 

 ターボが指差した先は建物で、柱の影からこちらをうかがっている数人のウマ娘がいた。オグリも遅れて気付く。彼女達はカサマツトレセンの生徒だが、クラスメートや友人ではない。レース場に立った二人の様子を見ているのに、近づいてこようとはしなかった。

 

 

「知らない顔だ。ターボの知り合いじゃないのか」

「んー話してくれるウマ娘いないからなぁ。仲良くなりたいんだけど、オグリ以外はみんな逃げちゃうんだ」

「なるほど。みんなシャイなんだな」

「ん〜〜〜ちょっと行ってくる!!」

 

 

 相変わらず避けられているターボだったが、友達作りを諦めてはいなかった。ひょっとするとあのウマ娘は自分と友達になりにきてくれたのかもしれない。一縷の希望をかけて、自分達に用事がありそうな雰囲気のウマ娘たちのほうに走り出した。彼女たちは「え、わわっ、こっちにくる……!?」とビビりながらも、その場から逃げなかった。

 

 

「おいおまえら! ターボに話しかけにきてくれたのか!?」

 

 

 いよいよターボに話しかけられて逃げ場を失った彼女達はビクンと尻尾の毛を逆立たせた。しかしターボの問いかけに返答することはなく、お互いに顔を見合わせて黙り込むばかり。

 

 むー、またいつもみたいに無視されるのか。そんな風に思ってガックリしたものの、今日はそうではなかった。先頭の子が全員を代表しておずおずと言った。

 

 

「いや、あのぅ。ええっとぉ。二人の走るところを見せてもらっていたんです」

「ふむふむ……あ、そうか! みんなターボと勝負しにきたんだな! しかたないなぁ、勝負なら受けてたってやる!!」

「ええっ!? ちちちっ違います! 中央のウマ娘さんに、そんな恐れ多いことできません……!!」

 

 

 ターボが目をカッと見開いて彼女らを指差したが、ビビっていた彼女たちにとっては晴天の霹靂だった。「とんでもない!」とブンブン首を横に振る。遅れてきたオグリキャップが隣から「まだ休憩中だろう」とターボをたしなめた。

 

 

「君たちはトレーニングを見にきたのか。今から私も参加するが、別に面白いと思うようなことはやっていないぞ?」

「そんなことありませんっ……! オグリキャップ先輩と、中央のツインターボさんがタッグで練習してるなんて見逃せないですよ……!!」

「そうなのか?」

「はい! ここにいるみんな、この間のレースでファンになったんです!」

 

 

 後ろにいる子たちも揃ってうんうんと頷いた。

 

 この間のレースといえば中京盃だ。地方トレセン学園の中で重賞レースは注目度は高く、彼女たちは感心を持って見に行った。そこで目撃したのは、トゥインクルシリーズにも劣らない二人の火花散らしあうデッドヒートだった。

 

 ウマ娘としてあんな風に走りたいと思わせられるような、そんなレースで彼女たちは魅了された。口々にそのときの感動を二人に訴える。

 

 

「あの勝負は本当にすごくて、わたし、憧れました……!!」

「ツインターボさんやオグリ先輩みたいになりたくて。でも、どうやればいいのかなって」

「どうやれば二人みたいに強くなれますかっ……!?」

「おうっ」

 

 

 彼女たちよりも身長の低いターボは見下ろされる形になって迫られ、逃げ場を失って表情を引き攣らせてビビった。だがターボに鼻先まで迫ったリーダーのウマ娘は必死だ。他の仲間達も遠慮がちながら、会話に集中して耳を済ませている。

 

 

「えっと。レースで勝ちたいってことだよね……?」

「そうなんです。わたしたちいつも勝てなくて、何度やっても一着がとれなくて。どれだけ頑張ってもダメなのかなって思ったんです」

「ふむふむ……ターボにはその気持ち、よくわかるぞ」

 

 

 ターボは腕を組んで何度も頷き、彼女たちの言葉に理解を示した。エリートウマ娘と思っていたツインターボがそういう反応を見せたことに、何人かは少し意外そうな顔をした。

 

 

「レースで勝つためには、生まれつきの才能が必要なんでしょうか」

「うーん。そういうのはわかんないな」

「ターボさんは中央トレセン所属だったんですよね。才能じゃないなら、特別なトレーニングがあったりとか。トレーナーさんの腕がいいとか。そういう秘訣があるんですか」

「ターボのとれーなーはすごいぞっ。でも一番大切なのは諦めないこと! 勝利の秘訣は、何があってもやめないことだ!」

 

 

 ターボは自信満々に言い張った。しかしその言葉を素直に受け止めるものは一人もおらず、「それができたら苦労はしない」「現実は厳しいんだ」と言わんばかりの表情を浮かべた。

 

 

「……そうは言っても、負けが続いたらへこみますよ」

「辛い気持ちはわかる、わかるぞっ。ターボも負け続きだったからなあ」

「負け続けって、この間は勝ってたじゃないですか」

「あれがターボの初勝利だぞ。その前はいっかいも勝てなくて、トレセンを退学になったんだ」

「え……ええええええっ!?」

 

 

 ターボがためらいもなくしたカミングアウトに、カサマツトレセンのウマ娘たちは顔を見合わせた。何人かは目ん玉を飛び出してびっくりしていた。そもそも学園でツインターボがローカルに来た理由を知っている者はおらず、中央を特別視していたカサマツトレセン学園のウマ娘には衝撃的事実であった。

 

 実のところターボの事情を知っているのはオグリキャップとそのトレーナー。あとは業務で手続きに関わった者と、熱心にツインターボの戦績を調べたトレーナー程度だ。だからツインターボが敗北したウマ娘だとは思われていなかった。

 

 

「普段から練習場やジムでトレーニングしてたり、早朝ランニングもしてるのに!?」

「なんでターボのこと知ってるんだ?」

「有名ですよ! あんな強いウマ娘が地方にくるなんておかしいって、みんな言ってますよ!!」

 

 

 カサマツのウマ娘総出で突っ込まれて、再び上から見下ろされて逃げ場を失ったターボはたじろいだ。

 

 

「中央ってターボさんほどのウマ娘でも退学になる魔境なんですかっ!?」

「みんな強いけど、ターボね、怪我しちゃったんだ。とれーなーに治してもらって最近やっと全部よくなったの」

「そ、そういうことだったんですか……」

「でもターボはまだまだなんだ。早く走りたいなら、今から強くなるターボの真似をすればいいと思うぞっ!」

 

 

 とれーなー特製の練習メニューだからなと。誇らしげに自分を親指で指すターボの言葉に、いつしかウマ娘たちは聞き入っていた。この場の全員、キラキラ輝いているウマ娘の言葉に強烈に惹きつけられた。

 

 

「真似をするといっても、どこから始めればいいんでしょうか」

「ん? そうだな、うーん……」

「トレーニングメニューを一緒にこなしてもらえばいいんじゃないか」

「それだ! オグリ天才っ!!」

 

 

 ライバルのアイデアを聞いたターボは、名案だとパチンと指をはじいた。話を聞いていたほかのウマ娘たちは「ええええっ!?」と背後で叫んでいた。

 

 オグリとターボは彼女たちを迎え入れることに乗り気だった。頑張っているウマ娘と一緒にトレーニングするのは楽しい。この場に集った彼女たちのジャージには傷があったりほつれていて、日頃から努力している証が見えた。

 

 迷惑になるのではないかと戦々恐々としながら、それでも期待を隠しきれずに先頭のウマ娘が尋ねる。

 

「で、でも私たちがいたらお二人のお邪魔になりますせんか……?」

「ならない!!」

「同じ学園の仲間なんだ、遠慮することはない。頼ってくれるほうが嬉しい」

 

 

 カサマツ希望の星が自分達を仲間と呼んでくれるなんて。さらりと微笑み言ってのけたオグリキャップに、数人のウマ娘の胸がずきゅんとハートの矢で貫かれた。

 

 

「そ、それじゃあ……おねがいします!」

「わたしも、ぜひお願いします!!」

「憧れのオグリ先輩や、ターボさんと一緒にトレーニングさせてもらえるなんて光栄です!」

「いいぞ。それじゃあ今日もトレーニングだ! みんなターボについてこいっ!!!」

 

 

 リーダーをはじめとしたウマ娘が次々に頭を下げる。ターボは腕を張り上げてコースに走り出していった。そのあとでオグリが数歩歩いて、「それじゃあ始めよう」と彼女たちに促したことで、全員トレーニングに参加することになった。

 

 

 

 

 そしてこの日から、二人だけで行われていたトレーニングに、カサマツのウマ娘が混ざるようになった。普段行っているメニューは相当にキツい内容でヒイヒイと辛そうにしており、翌日筋肉痛で動けなくなるなどの理由で参加できなかったウマ娘は出たものの、途中で投げ出すウマ娘は出なかった。憧れていた先輩と中央ウマ娘と一緒に練習ができた彼女たちは幸せそうだった。

 

 

「私も、脚を止めていてはいけないな」

 

 

 クールダウン中のオグリキャップが、コースを周回するウマ娘の姿を遠くから見ながらつぶやいた。

 

 実のところオグリはツインターボを尊敬していた。実力を認めていることも一因だが、一番は諦めずに這い上がろうとしている努力を知っているためだ。迷わずに真っ直ぐ夢を追いかけている姿をリスペクトしており、その背中に今度こそ追いつきたいと思っている。

 

 もっと強くならなければいけない。ライバルに勝つため、夢を追いかけて頂点に立つために、自分もすべきことをしよう。オグリキャップはライバルの背中を見て進むべき道を決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよーっ! みんな今日も一日エンジン全開でいこー!!」

「ターボちゃん、おはよう!」

 

 朝の教室でクラスで雑談していたクラスメートのウマ娘たちの輪があった。そこに扉を勢いよく開いて登校してきたツインターボが声を張り上げて入り込む。当然、いっせいに注目を浴びる。みんなに気合いをこめてブンブン手を振った。

 

 ターボとどう接していいのか分からずに視線を逸らすものもいたが、しかし今日は様子がいつもと違う。無視されるばかりではなく、近くの席のウマ娘が苦笑いしながら近づきターボの頬をつついていじった。

 

 

「ツインターボ、今日も元気すぎ。バテちゃうよ?」

「ふふ。ターボはいつも元気いっぱいだから、このくらい大丈夫なのっ」

 

 

 まるで友達同士のようなかけあいを見て、ターボを避けていたウマ娘はあんぐり口を開けながら仰天した。ターボを弄ったのは件の自主練で仲良くなったウマ娘だった。

 

 

「あ、そうだ。今日も午後からいっぱいトレーニングするけど、くるか?」

「いや〜遠慮しとく。あれハードすぎて次の日動けなくなっちゃうからさ。トレーナーにも今日は休めって釘刺されちゃった」

「あ、わたしは半分だけ参加させてもらっていい? そのくらいならいけそうだから!」

「いいぞ! ターボたちは同じ場所で毎日やってるから、いつでも歓迎だっ」

 

 

 クラスの雰囲気が良い方向に変わった。ツインターボは少しずつ声をかけられるようになり、着実に友達と呼べるウマ娘は増えていた。

 

 ついでに裏では他のウマ娘からの口伝てで、ターボがカサマツに移籍してきた経緯も知られるようになり、『中央のウマ娘』というイメージは完全に粉砕された。それなりに親しまれるようになり、あえて話しかけるウマ娘も増えてきた。それはターボにとってとても過ごしやすい楽しい雰囲気で、すごく嬉しいことだった。

 

 いつしかカサマツトレセンの教室は和気藹々と賑わうようになって、ターボの表情に純粋な明るさが戻ったのだった。

 

 

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