【完結】ツインターボは諦めない   作:クロ

17 / 47
第15話 目標

 

 錆びた金属の壁や削れたコンクリートの床などが目立つ殺風景な地方レース場。地元民のみが訪れる田舎のコースだが、今日は人が詰めかけていた。ウマ娘のファンが見ているのは、挑戦的な笑みを浮かべながら、いかにも楽しそうに先頭を駆け抜けている青色のウマ娘だ。

 

 

『ツインターボ速い、速すぎるぞ!! 後続と大きく距離を離したまま最後のコーナーを抜けたッッ!!』

 

 

 公平平等をモットーとする実況解説さえも魅了し、独走するツインターボをすでに勝利したかのように伝えていた。しかしそれも無理からぬことだ。序盤からつけた10バ身以上のリードを最終直線まで守り切っている。まばらに雨が降った状態の悪いダートコースでは決着は決まったも同然だ。

 

 だが当たり前のように、ターボは速度を緩めることはない。いつだって全力疾走。ほかのウマ娘が背後にいないことを感じながら悠々とゴールに飛び込んだ。

 

 

『ゴールイン! すごいぞツインターボっ!! セーフティリードを完璧に守りきりました!! これで三連勝、ツインターボの爆走は誰にも止められないのかッ!?』

『いやぁ。やはり大逃げのレースは華がありますね。私も思わず見入ってしまいました』

 

 

 ターボは汗と雨水で顔から水を滴らせながら、つたない足取りでスピードをゆるめてようやく立ち止まった。大きく息を切らしている途中で次々にウマ娘がゴールする。今日のレースは過酷だった。全員疲労が色濃く表情に浮かんでいて、膝を抑えたまま何度も荒っぽい呼吸を繰り返している。

 

 傘をさしながらレースをみていた俺は胸を撫で下ろした。ダートも悪天候も得意ではないターボが、実力を発揮しながら走れるか不安だったけれど、なんとか今回も勝てたか。

 

 

「いいぞツインターボーー!!」

「この悪バ場でたいしたもんだ。すげえウマ娘が出てきたなあ」

「去年ドリーム入りした、中央のサイレンススズカみてえで、なんかこう……いいな!」

 

 

 ファンの反応も上上だ。ゴールしたあとにはツインターボを讃える声援が飛んでいた。泥だらけになったターボも観客が見ているほうに視線を向け、ニッと笑ってピースサインを向ける。

 

 

「ふへへ……みんな見たか。ターボが一着とったぞ……!!」

 

 

 汗まみれ、疲れ果てているのに褒めてくれと笑顔でアピール。元中央のウマ娘であることは知られているが、気取った感じはなく親しみやすいと評判だ。人懐っこい子犬のように振る舞うターボに、温かい視線とまばらな拍手が与えられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ローカルシリーズのレースを終えたその晩。カサマツトレセンに戻ってターボを寮に送り届けたあと、トレーナー室に戻ってきた。すでに学園の建物の電気は、ここ以外全て消えている。手動で作成したデータや資料をノートPCで見返しながら頭を悩ませていた。

 

 今日のレースは勝って実績は積んだ。しかし時間的に考えて余韻に浸っている暇はない。トレーナー室の天井を見上げて、これからの道筋を思い描いた。

 

 

「このままじゃスカウトを受けるのは無理だ。一体何をどうすればいいんだ……」

 

 

 頭を悩ませていたのはマルゼンスキーから与えられた課題だ。あれから数週間経ったが、まだ彼女にかけられた謎を解くことができずにいた。

 

 思いつくことは全部やっている。スカウトされるためにローカルシリーズに出走のち勝利。テーブルの上にはターボを讃える地方のレース新聞が置かれていた。ピースして写真にうつる姿や、簡易ステージで行われたウィニングライブでセンターで踊る姿が一面に載っている。少しずつ知名度が上がってきた。

 

 適切な指導を受けさせてやったことで、出会った頃に比べれば劇的に強くなった。

 

 

 ある意味では順調だが、このままでは目指す場所には辿り着けない。基本の(フォーム)も身につけて順調そのものだ。しかし夢を叶えるためにはGⅠレベルに届かせる必要があって、いまだツインターボをその領域に至らせる目処は経っていなかった。

 

 テーブルの引き出しに視線を落とす。マルゼンスキーから受け取った電話番号のメモが今も大切にしまわれている。彼女に認められるためには、俺の気づいていない『何か』に自力で気付く必要がある。

 

 

(マルゼンスキーは、ターボを全力で走らせろと言っていた。そこに何かヒントがあるはずだ)

 

 

 合間の時間を見つけては考えているが、なかなか答えが見つからない。俺が不甲斐ないせいだ。一日中働いて疲労しきった頭を抑えてもどかしさに耐えた。

 

 

「ターボの現役期間は残り短いし、オグリも来年度からトゥインクルシリーズ出走だ。考えることは山ほどある……やっぱりトレーナーは死ぬほど大変だな。何人も受け持っている人ってどうやってるんだ」

 

 

 中央トレセンでは五人以上のウマ娘を受け持って勝たせているトレーナーもいるというが、今にして思えば怪物級だったんだな。正直二人でも忙しさがエグい。

 

 

 しかし休む暇なんてない。

 

 まずターボだが、いわゆる『最初の三年間』のうち二年目が終わろうとしている。無条件で走り続けられるのは三年間しかなく、その期間は残りわずかだ。

 

 四年目以降も走り続けることができるのは、応援してくれるファンが大勢いたり、何か特別な実績を残していた場合だ。そうでなければ出走枠がとれなくなってしまう。だから早く中央に戻して勝たせてやらないと、GⅠどころかトゥインクルシリーズ出走自体が危うくなるだろう。それに、いつか全盛期が過ぎてしまう時だってくる。

 

 オグリのほうは、来年始めから正式にトレーナー契約を結ぶことになったため、トゥインクルシリーズの出走計画を立てることになった。移籍を希望したオグリキャップの願いは正式に認められ、1月から出走、4月から入学という段取りになった。

 

 つまり俺のここからの仕事は3月までにターボのスカウトを勝ち取り、オグリをトゥインクルシリーズに勝たせて。その後も二人にGⅠに勝つ道筋を立てなければならない。

 

 

「新人トレーナーには荷が重過ぎる……だぁぁっ!! 気を抜いて休んでられるか!! もうひとがんばりだっ!!」

 

 

 とはいえ全て俺が望んで、みんなを焚きつけた結果だ。言うべきことを言っただけなので後悔もしていない。ここが二人の人生を決める正念場だ。エナジードリンクを口にしながら、ノートパソコンを起動して操作、動画ファイルを再生した。

 

 カサマツトレセン学園にはトレーナー同士の共有アーカイブが存在しており、その中には全レースのデータが保管されている。俺が選択したのはマルゼンスキーと出会った中京盃のレース記録だ。初対面のマルゼンスキーはこのレースを一度見て何かに気づいていた。ここにヒントがあることはわかっている。

 

 しかしゲートインからゴールする瞬間まで繰り返し何度も見たが、分からない。走り方や表情、ついには他のデータと照らし合わせた。いくつもの気付きがあったことは確かだ。それらは全て別なノートにメモを取っているが、そのどれもが俺の気付いていない弱点ではなかった。

 

 

「やっぱり分からん……」

 

 

 いよいよエナジードリンクも効かなくなるくらいの疲れが体を支配した。疲れ果てた俺は匙を投げて、動画を再生しっぱなしで椅子の背もたれに身体を預ける。映像の場面は全員がゴールした後のターフに変わっていた。そして画面には息切れしながらも危なげなく立ち(・・・・・・・・・・・・・・・)、無邪気に口をあけて喜んでいるツインターボの姿がうつっている。

 

 

「……あ?」

 

 

 わずかに違和感が湧き上がる。一瞬の閃きを逃さないように動画をストップさせて考える。疲れ切った脳みそを回転させながら違和感の正体を探り、そして見つけ出した。

 

 

「大逃げウマ娘が、走り終わった後にこんなに余裕があるものか……?」

 

 

 映像自体に異常はない。バテていないといっても、それは今回が短距離で得意のトップスピードに乗れないうちにレースが終わってしまったことが原因だ。しかし思い返せば今日含めたほかのレースも同じだ。かなり体力を消耗するような状況でも、常に余裕を残していた。『大逃げ』しているウマ娘にしては奇妙な話だ。

 

 いちど再生を止めて、今度は個人用のフォルダからトレーニング風景をおさめた動画をクリックする。一人で走っている姿、ナイスネイチャとの併走、オグリキャップとの練習風景。いくつかを見返して……ようやく確信を得た。

 

 

「マルゼンスキーはこのことを言っていたのか」

 

 

 ここに至って、ようやくターボがいまだ抱えている大きな課題に気付かされた。この数日間で酷使した脳みそに活力が戻ってきた気がした。謎が解けた快感が全身を支配した。

 

 ツインターボは常に全力で打ち込む素質を持っていて、『大逃げ』はまさにターボを象徴するような作戦だ。近年大逃げウマ娘として世間に名を轟かせたサイレンススズカや、マルゼンスキーのような怪物クラスの能力を備えているわけではないが、ブレーキをかけずにぶっ飛ばす走りでここまで進んできた。

 

 そんなターボが、レースで余力を残す(・・・・・)なんて絶対にありえないことなのだ。

 

 なぜそんなことが起きるのか。決まっている。俺はまだ、ターボが前のトレーナーに抱えさせられた負債を清算しきれていないのだ。こんなことに気づかないなんてと未熟さを浮き彫りにした自分を笑ったが、逆に言えばこれは、まだターボには俺の知らない底力があるということでもある。

 

 

「いける。ツインターボは、もっと疾く走れるウマ娘になれる……!!」

 

 

 勝利の道筋が見えた。となれば一刻も早くトレーニング計画の立案が必要だ。興奮の残滓とモチベーションが消えないうちに、暗い部屋でエナドリ片手に脳みそをフル回転させながら、ターボを一気に引き上げる作戦を立て始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大切な話がある。

 

 俺は事前に二人にそのように伝えて、トレーナー室に呼び出した。ターボとオグリ。それにオグリトレーナーが一同に会した。真剣に将来の話をするということは伝えてあったので、全員表情が引き締まっている。

 

 

「ターボ! オグリキャップも、よく来てくれたな!!」

「とれーなー! 今日はなにするんだ!? やっとレースか!!」

「まあ待て。色々と伝えることがあるから、順番に一つずついくぞ」

 

 

 いつも通りガンガン迫ってくるターボをなだめつつ、最初はオグリに向き合った。

 

 

「まずはオグリキャップ。伝えていた通り、正式に4月から中央トレセンに移籍することが決まった。まずはおめでとう」

「ありがとう。もっと早くから出走できると聞いているが……?」

「ああ、1月からトゥインクルシリーズに出走できる。そのために来年から書類上の担当トレーナーは俺になる。3月の年度末まではカサマツに残る形で構わないそうだから、それまで俺は中央関係のサポートだけ請け負わせてもらう」

「じゃあトレーナーと一緒にいてもいいのか」

「ああ。この学園にいる間は今のままだ」

 

 

 分かった、とオグリキャップは頷いた。3ヶ月間は、カサマツトレセンにいながらトゥインクルシリーズに挑戦する変則的な形になった。この点はトレセン学園との交渉も済んでいて、さまざまな条件ありで話を通すことができた。

 

 

「そしてターボ。前もって話はしていたが、今後はオグリの担当を引き受けることになる。それでも構わないか」

「ん〜……それって今までと変わるのか?」

「俺の仕事が変わるだけで、ターボにとってはオグリが部屋に出入りする回数が増えるくらいか。これはトレーナー同士で話したことでもあるんだが、基本は対等。二人が競うことになったときだけはターボを優先するつもりだ」

 

 

 担当を引き受けるのはあくまで一時的なことなので、唯一その条件をつけさせてもらった。念のためにオグリを見て意思を確かめる。特に異論はない様子で頷いた。

 

 一方で事前に話をしていたはずのターボだが、ここにきて難しいことを考えている時のように、腕を組んで唸った。

 

 

「でもとれーなー、それってちょっと変だぞ」

「なんだ?」

「バイクに三人は乗れないぞ。むむ。出かける時はどうするんだ……?」

「……それは難しくなるだろうな」

「ええーっ!? 行けなくなるのはヤだぞ!?」

 

 

 おおう。想像していなかったところで不満が出たな……。事前に話はした時は「いいぞ!!」と驚くほどすんなりOKが出ていたけれど、楽しみにしている機会がなくなるのはNGだったようだ。

 

 

「うーん。けどかわりに、これからも一緒にオグリと走れるぞ。トレーニングも勝負もやりたい放題だ」

「むぅぅ、でもでも……」

「レースに勝ったらご褒美で二人で行く機会を作るから。だから頼むっ……!」

「うー……分かった。とれーなーのバイクには絶対乗るから、約束だからね!!」

 

 

 手を合わせて頼み込んで、なんとか納得してくれた。オグリには悪いがターボだけを連れていってやる必要がありそうだ。

 

 

「オーケー。とりあえずスカウトを確定させてオグリと一緒に移籍するのが当面の目標になる。そのためのトレーニングも考えてきた」

「おおっ、さすがだねとれーなー!!」

「そのトレーニングについてなんだが……その前に二人に提案があるんだ」

 

 

 オグリとターボはなんだろうと揃って可愛らしく首をかしげた。念の為オグリトレーナーにもアイコンタクト。頷いたのを確認してから告げる。

 

 

「初日の並走は俺がストップさせて、中京盃は不得意な短距離レースだった。本気のレースで勝負したことはなかったと思うんだが合っているな」

「うん。ターボのトレーナー、それはもしかして……」

「ああ。中央に行く前に、二人には全力で勝負してもらおうと思っている」

「勝負できるのか!?」

 

 

 ターボは宝物を見つけた時のような表情。大口を開けて目を輝かせた。オグリキャップは真剣な表情から一転、ゾクゾクとした笑みを作って震える。

 

 すると今度はオグリトレーナーのほうが、オグリの目を見ながら伝えた。

 

 

「俺が担当しているうちに本気で勝負をしてもらいたい。この条件で勝負できるのは、これきりになるかもしれないからな」

「トレーナーと一緒に戦えるレース……ということか」

 

 

 オグリはすでに覚悟を決めているが、それでも神妙な表情を見せた。もしオグリトレーナーが一年でライセンスを取れたとしても、その頃にオグリキャップはシニア級、ターボは4年目だ。引退や怪我のリスクを考えると、今と同じ環境で勝負できる可能性は極めて低くなる。

 

 普段のトレーニングで二人はたまに勝負しあっているようだが、ゲームや勉強、トレーニングを終える速さなどを競っているだけで、本気のレースではない。今回の模擬レースは二人にとって一つの区切りになるだろう。

 

 

「オグリのとれーなー! いつレースする!?」

「来年、移籍する前。今後の出走レースとも相談になるが、2月か3月にしようと思う」

「ずいぶんと先なんだな?」

 

 

 時期を聞いたオグリは首をかしげた。今はまだ11月なので3ヶ月以上の間がある計算だ。直近で二人ともレースはないため、勝負自体は今からでもやろうと思えばできる。もちろん理由あってのことだ。

 

 

「時間を空けたのは、二人にお互いに勝つためのトレーニングをしてもらうためだ。せっかく伸びる時期なんだ。この機会を活かして最大限、お前たちの走りを伸ばす」

「なるほど。トレーニングの期間というわけか」

「それにあたって俺たちトレーナーから、成長課題を設定させてもらう」

「成長課題?」

「平たく言えば漠然とトレーニングをするわけじゃなく、目的意識を持って鍛えましょうってことだ」

 

 

 オグリトレーナーの言葉がよくわからなかったのか、オグリは首をかしげた。

 

 

「なあオグリ。話そうと思っていたことがあるんだが、お前はトゥインクルシリーズに出て何を目指すつもりだ?」

「何を……というと?」

「お前が走る姿は大勢の人を幸せにできる。最高に格好いいウマ娘になれる。俺はお前にそう言ったな。だがそうなるためにどのレースを走る。GⅠで勝てばいいのか。それとも宝塚や有馬記念のようなファン投票のレースか?」

「具体的に、か。それは……」

 

 

 オグリは何かを言おうとしたが、言葉に詰まった。トゥインクルシリーズに出走した後の明確な目標を持っていなかった。スカウトされたのは先日なので無理もないが、とはいえこの道を行くからには、分からないなんて温いこと言っていられない。

 

 

「トゥインクルシリーズで一番凄い称号を、お前も聞いたことがあるだろう」

「……まさか、トレーナー」

「どうせ一番凄い場所に行くんだ。お前にその称号を背負ってほしい」

 

 

 カサマツトレセンをもって別れる彼は、オグリキャップに夢を託した。

 

 出会った頃に『そのレース』への出走の準備をするよう勧めたことがあったが、その時は本気で目指すことになるなんて想像もしていなかった。だが今思えば、これほどオグリキャップにふさわしい称号はない。

 

 

「ウマ娘の頂点、クラシック三冠を獲りにいかないか」

 

 

 日本一有名な称号だ。オグリもその存在は知っていたのか、わずかに固まったあとに背筋を震わせて、隠しきれない笑みを口元に浮かばせる。

 

 トゥインクルシリーズには、生涯に一度しか出走できないGⅠが存在する。

 

 それが皐月賞、日本ダービー、菊花賞。そしてその3つのレースを勝ち抜いた者に与えられる栄誉がクラシック三冠。レースウマ娘界でそれを成したウマ娘は片手で数えるほどしかいない。

 

 

「今の俺にできることは多くない。だがお前に、生涯で一度の挑戦をさせるためのバトンを渡すことはできる。勝てば最高の舞台で、最高にかっこいいウマ娘になれる」

「トレーナー……っ!」

「東海ダービーを目標にしていたけど、勝つなら日本ダービーでもいいだろう?」

 

 

 オグリトレーナーはお茶目に言った。オグリはしばらく武者震いしていたが、唾と一緒に感情を呑み込んだ。そして瞳に紅い炎をともして……燃えた。

 

 

「お前に与える課題はライバルに勝つことだ。中央ウマ娘のツインターボを本気で超えろ。そのために三ヶ月間徹底的に鍛えてやる」

「……ありがとうトレーナー。私は最高の舞台で勝ちたい。そのためにツインターボに勝って、三冠ウマ娘になる」

「ああ。ライバルを倒せ。最速(ツインターボ)を超えて三冠ウマ娘になれ」

 

 

 強豪に名を連ねるオグリキャップを、さらに高みに押し上げる猛火が宿った。ツインターボはブレが多いものの上位の実力を持つウマ娘だ。全ての()を取り払ったツインターボさえ超えてきたのなら、それはクラシック級のウマ娘では相手にならない強さを持つことを意味する。シンボリルドルフやマルゼンスキーさえ超える、レジェンドウマ娘が誕生するかもしれない。

 

 

(ああ……いいな。この二人はやっぱり最高のコンビだ)

 

 

 二人を見て俺は嬉しくなり、同時に羨ましく思ってしまう。もし一年前にターボと出会えていたのなら、俺たちもこんな風に目指せたのだろうかと。今更考えても仕方のないことだが、ふとそんなことを考えてしまった。

 

 もちろん負ける気はない。相手が俺たちを倒しにくるというのなら、超えていくだけだ。

 

 

「それじゃあターボ。俺たちも勝つために……おうっ!?」

「とれーなー!! ターボも!! ターボも同じレース出たいっ!! 『サンカン』ほしい!!!」

 

 

 トレーナーとしての熱意を宿してターボに向かい合おうとしたのだが、突然突っ込んできて長袖シャツの胸元を掴んでブンブンと揺さぶってきた。ターボは焦り顔で、ウマ娘パワーを存分に発揮してくる。首ががくんがくんと揺れてヤバかったので慌てて止めた。

 

 

「お、落ち着け! 無理だ! 来年ターボはシニア級だから、クラシック三冠には出走できないんだよ!」

「やだ! 出たい出たいっ!! オグリとクラシックで勝負するもん!!」

「勝負はできるから! クラシック三冠はルール上無理だけど、勝ち続ければGⅠで対決できる!!」

「うぅ……ほんと? ほんとにでれないの……?」

「ああ、こればかりはどうにもならない」

 

 

 ターボは涙目のまま、納得いかなさそうにしていた。だがクラシック三冠、そしてトリプルティアラの条件となるレースをターボは生涯走れない。距離が長すぎるので出走はさせなかっただろうが、一年の出遅れはやっぱり痛い。

 

 

(申し訳ないが、今は目の前のことに集中させよう)

 

 

 どうにもならないことを言っても仕方がないので、切り替えてもらうほかない。ウマ娘パワーで引っ張られた名残で、だらんと伸びたシャツを軽く整えて咳払いする、

 

 

「確かに三冠は凄い称号だ。でも他のGⅠも劣っているわけじゃないし、GⅠ自体生涯で何度もチャレンジできるわけじゃないんだぞ」

「うう……でもターボもサンカン欲しかった……」

「でもGⅠに勝てば、未勝利でGⅠに勝った歴史上初のウマ娘になれるぞ」

「歴史上初!? ターボがはじめてなのか!?」

「三冠は成し遂げたウマ娘もいるけど、未勝利GⅠウマ娘になればターボが初だろうな」

 

 

 別な称号をもらえるかもしれないと聞いて、下がったテンションが突然急上昇した。実際GⅠに勝ったらクラシック三冠以上に歴史に名前を残すことになるだろう。

 

 

「だからまずはスカウトされるために、俺たちもやるべきことをやろう」

「ターボなんでもやるよ!! なにする!?」

「完全燃焼してレースを走れるようになってもらう」

「うんうん! ……え。どゆこと?」

 

 

 俺の言ったことが分からなかったのか、気が抜けたような顔できょとんと目を丸くした。いつの間にか話を聞いていたオグリキャップも首をかしげている。

 

 

「つまり今より速くなるための方法があるってことだ」

「ターボ、今よりもっと速くなれるのか!!  とれーなーすごいなっ!!」

 

 

 無条件に俺の言葉を信じたターボに、指を立てて説明する。

 

 

「だからさっそく今日のトレーニングで説明しようと思う。勝負までの三ヶ月でターボにこなしてもらう課題は、それをクリアすることだ」

「フフフ。もっと速くなって、強くなったオグリをぶち抜くぞっ!!」

 

 

 自信満々に指先をオグリに突きつけた。しかし俺がこれから指示するのは、強くなるためのトレーニングでもコツの伝授でもない。一ヶ月でも振り切れなかった『呪い』を今度こそ完全に解くための作戦だ。

 

 そして、四人でカサマツトレセンのコースへと繰り出したのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。