「ん、今日はずいぶんウマ娘が多いな」
トレーニングのためにツインターボたちを連れて外まで出ると、練習用コースが学生ウマ娘で賑わっていた。普段は閑古鳥が鳴いているのに、珍しい光景だ。彼女たちはどうやら自主練を終えた後らしく、首筋にかいた汗をタオルでぬぐったり水分補給している。
授業でもないのにこの光景は珍しい。イベントでもあったのだろうかと首をかしげていると、彼女たちはジャージ姿のターボやオグリの姿を見つけて大きく手を振ってきた。
「あっオグリ先輩とターボちゃんだ。もしかして今から走るのかな! おーい!」
「トレーナーさんもいるよ。もしかして模擬レースかな?」
「そうだぞー! これからオグリとトレーニングだー!!!」
ウマ娘たちの声にターボは大声で両手を大振りして応えていた。オグリのほうも親しげな様子で小さく手を振りかえしている。どういう関係だろうかと考えていると、ターボはそれに気づいて、ふふんを誇らしげに胸を張った。
「ターボのクラスメートだぞ! 最近ね、ここで一緒に走ってるの!」
「ああ、なるほど。あの子たちがターボの言っていた同級生か」
一緒にトレーニングしてくれるウマ娘の友達ができたとは聞いていたけれど、あの子たちがそうなのか。人数までは知らなかったけれど数十人を超える大所帯とは思ってなかった。みんなターボとオグリの友達なんだな。
「ってことは、この前渡した基礎トレのプランをやってるのか?」
「ああ。中央のトレーニングをやってみたいと言っていてな。みんなタイムが良くなったと喜んでいたぞ」
「そうだったのか、役に立てたのならよかった」
一緒にトレーニングしたい子がいると言っていたので、中央トレセン学園で教わる基本メニューをターボに伝えたのだ。指導要領に沿った伝統的なメニューなので独自性はないものの、こなせば間違いなく実力がつく。
カサマツトレセン学園の生徒に良い影響を与えられたというのはかなり嬉しい。ほんの少しでも貢献できたならトレーナー冥利に尽きる。大変なことも多い仕事だけれど、トレーナーになってよかったなと思うのはこういう瞬間だ。
「とれーなー。完全燃焼できるようになれって言ったけどさ、ターボ何をすればいいの?」
「おっと、すまない。時間も限られていることだし始めようか」
頭を指導者モードに切り替え、咳払いして外に出てきた目的を告げる。
「それなんだが、口で説明するより走った方が早くてな。今日は二人に走ってもらおうと思う」
「やっぱり今日勝負するのか!?」
「いいや。走ると言っても一人ずつ順番にだ。お互いどんな
「んー? ……とれーなー。ふぉーむ? ってなんだっけ」
ターボは興味深そうに縞柄のウマ耳をぴょこぴょこ跳ねさせながら聞いてくる。そういえばちゃんと説明したことはなかったな。いい機会だ、簡単だが講義の時間にしよう。
「綺麗な姿勢で走ったほうが早くなるから、視線は常にコースの先に向けろとか、体の軸をぶらすなとか。そういう風に教えた時があっただろう」
「うんうん」
「ウマ娘が力を発揮するためには、腕の振りや足の動かし方、顔の向きや呼吸に決まったコツがあるんだ。小学校でも正しい姿勢で走りなさいって教わったろ?」
「教わった!」
「そう。走るための姿勢が大切なんだ。でもターボとオグリは身長や体重、レースでとる作戦も全然違う。だからウマ娘ごとに走る姿勢は違うんだ。そういう各個人の姿勢に名前を付けたのを『
「ふうむ。なるほどなるほどだぞ」
……若干不安になる返事だ。だがまあ頷いているので、理解してくれているはずだ。話を進める。
「今までターボには基本を教えてきたが、練習の成果もあってかなり良くなってきた。ここからは発展、つまりターボの身体に合わせたフォームを作っていこうと思う」
「つまり完全燃焼! 今日はそのためのトレーニングだな!!」
「そういうことだ。オグリはすでに自分のフォームを持っているから、自分と比較して勉強するんだ」
乗り気で「はーい!」と返事をくれる。ターボは座学が苦手だけれども、こういう勉強は好きな様子。
「これはオグリにも必要なトレーニングだ」
「ターボの走りを見て、何かを学んでほしいということか?」
「というよりも、他のウマ娘がどんな風に走っているかを見るんだ」
俺の指示を聞いたオグリは頭上に疑問符を浮かべる。
「見るだけでいいのか……?」
「ああ。これは今後中央トレセンに行っても必要になる技術だ。ライバルの走り方から相手の弱点を見つけたり、あるいは自分の走り方を改善するきっかけにできる。そういう癖をつけるんだ」
「なるほど、レースというのは奥が深いんだな」
うんうんと納得顔で頷いた。特に中央トレセン学園はトレーナー同士が商売敵である都合上、ウマ娘を強くする技術は公開しない傾向がある。その中でも
「まず最初はターボで、オグリには観戦してもらう。走る方は、普段
「わかった! ようしターボの番だな! やるぞーっ!!」
最初に走れることになり、ターボは嬉しそうに握りしめた拳を空にかかげた。俺とオグリトレーナー、オグリキャップはコース上から出て柵の向こう側に待機するため移動する。その最中にトレーナー同士で小声で話し合う。
「どうですかね。ツインターボ、いけると思いますか」
「本人がどこまで違和感を感じているのかわからないから、五分五分ですね」
ターボに伝えた課題は表向きのものだ。
俺はマルゼンスキーに気付きの種を与えてもらってやっと気付くことができたので、ターボにも同じ経験をしてほしかった。失敗しても構わない。自分で考える経験は今後の人生でも必ず役立つだろう。
「とれーなー! いつもみたいにタイム測るよねっ!」
軽い準備運動を終えて体を温めたターボは、スタートライン付近に立って声を張り上げた。
「もちろんだ。二人の記録をつけなきゃいけないからな」
「ふふふ、ならオグリ! 今日はレースじゃないけど、レースタイムでしょーぶだ!!」
「ああ、望むところだ」
ターボはいつもの調子で勝負を挑み、歯を見せて笑いながらビシッと人差し指の先をオグリに突きつけた。オグリも慣れた様子で了承。おなじみの展開だ。ちなみに又聞きだが、突発的に発生する野良勝負の戦績はオグリのほうが若干優勢らしい。
いよいよスタートラインで走る構えを取ると、コースの向こう側から声援があがりはじめた。俺たちが来るまで練習していたほかのウマ娘がまだ残っていたのだ。
「がんばれー! ターボちゃん!!」
「いちばんでぶっちぎれーーー!!」
「よーし、ターボに任せろ。一着とるからなー!!!」
カサマツトレセン学園の同期に応援されてターボも嬉しそうだ。こういうところを見ると、負けて一人になっていた頃を知っている俺は嬉しくなる。
「ターボ、準備はいいか?」
「いつでもこいっ!」
「それじゃあ位置について。よーい……スタートっ!」
「だりゃぁぁーーっ!!!」
合図と共にウマ娘パワー発揮。視線を真っ直ぐコース先に向けていたターボは、芝生を思い切り蹴飛ばした。序盤の加速は平凡そのもの。ただしスタートダッシュはこれ以上ないほどに完璧だった。
「何度見て綺麗なスタートだ。ターボもトレーナーも、すごいな」
「あれは俺の指導じゃないけどな」
「教えたんじゃないのか?」
「スタート技術はほとんど何も教えてない。俺と契約する前、トレセンに入ってから一緒にいる友達と練習したらしい」
スタート技術を教えたのは俺ではなく親友のナイスネイチャ。ひいてはネイチャのトレーナーだ。前のトレーナーからの指導を受けられなかった時期に、せめて力になりたいからと、スタートダッシュの練習をたくさんやったと聞いている。
特に大逃げをするターボの場合、出遅れは致命的なミスになる。この技術を身につけていたことは不幸中の幸いだ。だからナイスネイチャに俺は深く感謝している。
オグリは指示通り難しい顔で、大逃げらしい息切れ必須の加速をじっと観察していた。そこにオグリトレーナーが尋ねる。
「どうだオグリ。何か気づいたことはあるか?」
「一歩の歩幅がとても短いんだな。だがそのぶん足運びが早い。私とは全然違う走りかただ」
「いいところに気付いたな。お前は歩幅を大きく取るストライド走法といって、ツインターボは足捌きを徹底的に早めるピッチ走法。そういう違いがある」
オグリトレーナーが淡々と解説する。それにしても、さすがいいところに目をつけるな。
「オグリの場合は最後にパワーを解放して駆け抜けることに特化している。ターボは全体的なスピードを押し上げることに集中する。ウマ娘ごとに
「むぅ……難しいんだな」
オグリキャップは腕を組んで言った。
納得した様子で頷いていた。そんなことを話しているうちにあっという間に一周して、青色の髪と尻尾を振り乱しながらターボがゴールラインまで戻ってきた。
「ごぉぉぉーーるぅ、だあぁぁぁっ!!!」
見ている側としてはあっという間だったが、最後まで走り切ったターボは疲れ果てていた。教え込んだ基本の
「はぁ、はっ。とれーなっ、にんじんジュース、あるよね……!?」
「ここにある。焦らずに飲むんだぞ」
顎から汗が滑り落としているターボは、姿勢を崩して芝に膝から座り込んだ。トレーニング後専用にんじんジュースのペットボトルを渡すと、ガブガブと勢いよく喉を潤して……途中で目を見開き、案の定大きく咳き込んだ。
「うぇ、げごっ。げほっ!! ごほっ!」
「ターボっ!? あ、焦らなくていいから。ゆっくり飲むんだぞ!!」
慌てて背中をさすった。幸い気道に入った量は少なかったらしく、咳はすぐに落ち着いた。
「走ってみてどうだった。うまく走れたと思うか?」
「うー……ちょっと、完全燃焼じゃなかったかも」
「どこか気になるところがあったのか」
「わかんない。まだちゃんと教えてもらった通りにやれてないのかな……?」
何かしらの自覚はあるようだが、分からないと首を横に振った。まだ基本の
ならばと今度はオグリの方に聞いてみることにした。ターボが本気で走っている姿をまじまじと見るのは初めてのはずだから、いい意見がもらえるかもしれない。それにターボの走りはまだまだ未完成なので、観察眼を鍛えるにはちょうどいい教材だ。
「今のターボの走りを見てどうだった」
「さっき言った以外でということか?」
「ああ。トレーナーと話していたところは聞いていたが、他に何かあれば教えてほしい」
オグリは、むむ、と考え始める。トレーナーから見れば指摘するべき点がまだいくつかある。クリティカルな問題を指摘するのは難しいだろうが、課題のどれかを指摘できれば上々だろう。少し考えた後に一つあげてきた。
「気になったことがあるんだが、間違っているかもしれない」
「構わない。どんなことでも言ってみてほしい」
「ひょっとしてなんだが、ターボは脚をかばって走っていないか……?」
オグリは考えるように口元に近づけていた手を外してターボをじっと見た。思いもよらないことを言われたツインターボはポカンと口を空けて、俺も同じようにあんぐりと口を開けた。いやマジか。いきなり
オグリトレーナーに視線をうつすと彼も目を丸くしている。事前に教えたわけではないらしい。ということはターボ本人も自力で気付いていなかったことに気付いたってことか。とはいえオグリ自身も自信があるわけではなさそうだった。
「オグリ、ちょっと待て。具体的にどんな違いを見つけたんだ?」
「なんだか、そういう風に見えてしまったんだ。足の伸びが普通と違って、踏み込みの思い切りも弱いような……すまない。口ではうまく説明できそうにない」
申し訳なさそうに言ったが、それはまさしく俺が伝えようと思っていた課題。それは無意識に負担を避けて踏み込む瞬間のパワーが弱くなるという、怪我を経験したウマ娘にありがちな悪癖だ。
しかしそれは一目見ただけで気付けるようなものではない。比較対象がなければ絶対に分からない微妙な差しかないからだ。特にピッチ走法を得意とするターボの足運びは非常に素早く、見分けづらい。
「……なら、どうしてそう思ったんだ?」
「昔、私がやっていた走り方に似ている気がしたんだ。あとで悪い癖だと教えてもらった」
「ひょっとして君は、怪我をしたことがあるのか?」
オグリはその問いに「小さい頃は膝があまり強くなかったんだ」と言い、自分の右足を軽くさすった。そういうことか。いくら勘が鋭くても無理だと思っていたが、経験者なら理解できる。強靭な脚と圧倒的なレース運びが得意なオグリキャップが、かつて同じ課題を抱えていたとはな。
そして正解を言い当てたということか、ターボも後ろでそれを聞いていたということだ。指摘されたターボは不思議な反応で、心当たりがありそうな雰囲気で思考の海に浸かっている。
「……ターボは今の話を聞いてどう思う?」
「とれーなー。もういっかい走ってみる」
「ああ、そうだな。やってみてくれ」
俺が尋ねると即座にターフに戻っていく。もし何も心当たりがなければ「そんなことないぞっ!」と言うはずなので、薄々違和感の正体に勘付いたようだ。
ターボはコースに立ち直して姿勢を整える。そして誰に言われるわけでもなく即座に地面を蹴って走り出した。注意して見れば、オグリが言った通りの特徴が微妙に走りに現れているのがわかる。
(踏み込みが、ほんの僅かに浅い。無意識に力を出し切れていないんだ)
レースで平均時速60キロで走るウマ娘のバ脚を肉眼で正確に捉えることは非常に難しいが、指導を行う立場のトレーナーはある程度慣れている。ターボはオグリのようなパワー重視の脚質でないため踏み込む力は弱くなるが、それを踏まえても僅かに不自然な動きが混ざっている。違和感は小さいものの、『最強』を目指すレースウマ娘としては致命的な差だ。
マルゼンスキーが俺に伝えてきたのも納得だ。気付き辛く、そして実際のレースにも大きな影響を及ぼす。ターボはほんの数十秒走ったあとで、不自然なタイミングで脚を止めた。どうしていいか分からないという表情でコース上で立ち尽くして、自分の脚を見下ろしていた。
「とれーなー……!!」
ターフに入っていくと、さっきまで楽しそうに走っていたターボが焦った表情で見上げてくる。癖に気付いた上で走ったうえで動揺しているということは、やはり意識して簡単に治すことができるようなものではなかったのだろう。
オッドアイに涙を滲ませたツインターボの頭を撫でて言い聞かせた。
「大丈夫だ。大丈夫」
「どうしよう。ターボまた走れなくなっちゃうのかな……?」
「いいや。今でも99%の出力はでているし、あとほんのちょっと治すだけだ。こんなこともあるかと思ったからこそ俺がいるんだ」
優しく触れていると固く絞っていたターボのウマ耳がゆるんで、こわばっていた緊張が少し解けた。そしてターボはどうすればいいのか答えを求めて俺を見上げる。
「じゃあ、とれーなーの作戦で治せるの……?」
「ああ。あと三ヶ月でターボエンジン100%。いや、出力1000%で完全燃焼させてやる」
安心してもらえるように笑いかけると、すると弱気になりかけていたターボの顔にも明るさが戻ってくる。
いつもなら行き当たりばったりで、その時々に死ぬ気で作戦を考えてきたけれど、今回はそうじゃない。一度怪我を負ったウマ娘に余計な癖がつくというのはありふれた話だ。難易度は高いが、前と違って途方に暮れるような問題じゃない。改善の目処もつけてきている。
「完全燃焼できるようになれば中央に戻れる。俺の言うことが信じられるか?」
「もちろん。だってターボを治してくれたのはとれーなーだから!!」
「よし。目標はターボエンジン1000%燃焼。三ヶ月はそのためにトレーニングしてもらうが、そのために次のオグリの走りを見るんだ」
「見るだけでいいの?」
「ああ。オグリの
「そっか、わかった! オグリをしっかり見てる!!」
ターボは完全にもとのやる気を取り戻してくれた。オグリの走りの中に改善のヒントが隠されている。だからこそ今回、このような形でのトレーニングを提案した。
話はついた。しばらく走ったターボと一緒にスタートラインまで戻ってくると、すでにオグリは出走準備を終えていた。準備運動がてら自分の腕を伸ばして体を温めているところだ。
「待たせてしまってすまない。準備ができ次第はじめようか」
「私はいつでも大丈夫だ」
待っていたオグリは一瞬心配したようにターボを見たが、当人は真剣な顔で凝視している。それを見たあとは気を取り直し視線をコースの先へと戻した。
次はオグリの番だ。自分の課題を自覚したターボに、100%のパワーを発揮して走るウマ娘のレースをじっくりと見せてやりたかったのだが、オグリキャップのおかげでそれが叶う。俺は手元のストップウォッチをセットして準備、オグリトレーナーが開始の声をかけた。
「いくぞ、位置について。よーい……スタート!!」
発声とほぼ同時。オグリキャップは地面を抉るパワーを叩きつけて、弾丸のようにスタートを切った。ギンギンに目を見開いて集中していたツインターボは地鳴りの大きさに、ウマ耳を跳び上がらせて驚いた。オグリはあっという間に最初のカーブに入っていく。
「とれーなー、オグリ飛んでるみたいだったぞ……!?」
「ああ。ここから見ると、なおさらそう見えるだろうな」
ターボはあくまで視線を外さないようにしながら、俺の袖をぐいぐい引っ張ってきた。オグリの走りは力強く、迷いがないため印象に残りやすい。しかし常に先頭を走るターボはほぼ初見だ。レース中のオグリキャップを見たターボは食い入るように見ていた。
「すっごく前のめりだけど、あれ前に転ばないの」
「ただ漠然と真似するのは危険だな。オグリキャップの場合は完璧にバランスが取れているんだ。自前の脚力を活かした合理的なフォームだよ」
「つまりターボ100%だ! じゃあターボもあれやればいい!?」
「んー。できなくはないが、脚質が合わないから、そのまま真似するのは難しいな」
オグリキャップは歩幅を大きくとって低姿勢で駆け続けている。背筋の軸も一切ぶれていない。鳥が地面スレスレに滑空しているような水平さで、前傾姿勢が最大の推進力を生み出している。何度見ても無駄のない完成された
理想系とも言えるが、あのフォームを支えるためには相当なパワーが必要になる。体が軽いターボなら短時間であれば同じことができなくもないだろうが、脚質が合っていない。だからそのままレースに使うのは無理だ。
「オグリの走り方を真似するんじゃないのか?」
「するさ。だから最初にイメージを持っておくんだ。あんな風に走るためにはどうすればいいだろうって考えてみろ」
「ふむむっ……ん〜〜うまくできなそうだ……」
イメトレ段階でも難しそうだと唸った。まあ見るからに大変そうな姿勢だからな。しかし走る際の踏み込みに若干躊躇があるターボに対して、いい教材であることは変わりない。克服するためには、常にどうすればよいかを自分で考えることが必要なのだ。
そしてそんな俺たちのやりとりをよそに、オグリキャップが戻ってきてゴールラインに到達する。コースの外から見守っていたカサマツのウマ娘から再び黄色い声援があがった。ストップウォッチを止めると、タイムは思った通りの値だった。
「うん。おめでとうオグリキャップ。ターボより速かったな」
「本当か!?」
膝を抑えながら荒く息をつくオグリを称えると、ぱっと表情を明るくした。タイムアタック勝負はオグリの勝ち。一方で薄々察していながらも敗北を突きつけられたターボはがっくりと肩を落とした。
「負けちゃった……ターボもあんな風に、思いっきり気持ちよく走りたい!」
「やりたいことがあるなら、うまくやっているウマ娘の真似をするのが早道だ。ここからの三ヶ月で専用の
「わかったぞ……!! とれーなー! ターボやるよ、次は完全燃焼できるようになるっ!!」
心機一転。気持ちを切り替えて新しい難問へと挑む。ターボは目指す場所をちゃんと分かっている。クールダウン中で、にんじんジュースに口をつけたオグリに指先を突きつけた。
「オグリっ! 今回はターボの負けだ……でも!! レースではターボが勝つからっ!!!」
「受けて立とう。ところでターボの課題は結局何だったんだ?」
「オグリに走り方を教えてもらうんだっ!」
「私に走り方を教わるのか。それは、手強くなりそうだ」
走っていたため会話を知らなかったオグリが尋ねると、ターボが堂々と宣言。オグリはそのまま納得してしまった……それでいいのか。まあターボも走り方やトレーニング法を教えていることだし、お互い様か。
(ここからもう一度始めよう)
今日からが新しいチャレンジのはじまりだ。俺は決意を新たに、ぐっと拳を握りしめた。