【完結】ツインターボは諦めない   作:クロ

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第2話 トラウマ

 

 

「トレーナーさん、本気ですか」

「本気です。これで手続きの方をお願いします」

 

 

 ツインターボと約束してすぐに職員室に向い、たづなさんのもとに向かった。差し出したのはターボとの契約に必要な書類だ。だがたづなさんはいい顔をしなかった。

 

 俺は担当ウマ娘がいなかったので契約すること自体は不自然なことではない。戸惑ったような反応が帰ってきたのは、おそらくたづなさんもツインターボのことを知っていたのだろう。案の定、そのことについて探るように聞いてくる。

 

 

「失礼ですが、ツインターボさんの経歴についてはご存じですか……?」

「トレセンの資料に書いてある情報は目を通しました。中等部二年生で、今日まで未勝利戦に勝てていない。そのことは本人からも聞いています」

「……新人の方が担当するには大変な子かもしれません」

「分かっています。引き受ける以上、全ての責任を俺が持つつもりです」

 

 

 たづなさんは俺を止めようとしていた。その理由は分かる。今まさに退学になろうとしているウマ娘を新人が引き取ってもどうすることもできない。自棄になったと捉えられても仕方がない行為だ。

 

 もちろん断じて自棄になったわけではない。むしろ再び胸の中でトレーナーとしての想いが燃えはじめたところだ。ツインターボは心の底から探し求めていた、俺の求めていた才能を持ったウマ娘だ。手放す気はさらさらなかった。

 

 

「お願いします」

 

 

 迷惑をかけていることを承知で頼み込むしかなかった。たづなさんも俺が絶対に譲らないと分かったのか「そこまで仰るのなら……」と、書類を受け取ってくれた。

 

 これで契約は成立だ。それはそれとしてもう一つ、聞いておかなければならないことがある。

 

 

「たづなさん。どうして、あの子はあんなことになっているんですか? この時期に担当トレーナーと契約解除なんて、普通ありえないですよね……?」

「ごめんなさい。守秘義務があるので、お話しすることができないんです」

「そうですか……」

 

 

 たづなさんは答えてくれなかった。だが、その返答は予想したものだ。別に俺に意地悪をしているわけではなく、所属している各トレーナーの情報を勝手に開示できないのだ。ウマ娘の育成に関する情報を勝手に明かさないのが中央トレセン学園のルールだ。今回のような進退に関わるケースであっても対応は同じである。

 

 しかしそんな縛りがある中でも、情報はゼロというわけではないようだった。

 

 

「一年前の最初の選抜レースで、ツインターボさんが怪我をしたことはご存じですか」

「……初耳です」

「トレーナーさんがついていない時期のことです。資料があったはずなので、後でメールで送付しますね」

「助かります」

 

 

 たづなさんは言える範囲で教えてくれた。俺はすぐに自分の記憶を掘り返す。

 

 

(そういえば、目を通した資料、ターボの初回選抜レースの結果が『中止』になっていたな)

 

 

 学園公式の選抜レースは周期的に行われる。その中でも一年生が最初に全員参加するレースがあるのだが、ツインターボの出走結果が記載されていなかった。欠席の場合は『欠場』と記載されて、怪我をしたケースでは『中止』と書かれる。

 

 なるほど。選抜レースで怪我をしていたのか。しかし、そうなると……

 

 

「今調子を崩しているのも、ひょっとして怪我が原因?」

「いえ。後遺症の残るような怪我ではありませんでした。ただ一番最初のスカウト時期を過ぎてしまっていたので……」

「……そういうことですか」

 

 

 たづなさんは遠回しな言い方をしたが、それで察しはついた。

 

 初回でスカウトされなかったウマ娘は、次回のレースでトレーナーに選ばれることを期待する。しかし回数を重ねるごとに枠は狭くなっていく。なぜならどんなに優秀な能力を持っているトレーナーでも、面倒を見られるウマ娘には限りがあるからだ。

 

 スカウト時期が後になるほど夢が遠のいていくというのは、ウマ娘・トレーナーともに持っている共通認識だ。現実を分かっているウマ娘はできる限り早くトレーナーを決めてしまいたいと考えるし、トレーナー側も優秀なウマ娘が他のトレーナーに取られる前に動こうとする。弱肉強食の世界に足を踏み入れる彼女たちにとって、スカウトは最初の関門となる。

 

 

(ツインターボの話を聞く限りトレーナーとの相性は明らかに悪そうだった。出遅れたせいで、いい出会いに恵まれなかったんだろう)

 

 

 ツインターボの未出走期間は約三か月。その程度で済んでいるのは運がよかったとも言えるが、致命的でもある。優秀なトレーナーはスカウトから育成にシフトしきっているからだ。

 

 

「ターボは契約を一方的に切られたと言っていました。その件についてはご存じですか」

「……私からはお話しできません。少なくとも手続き上では問題のない、正式な書類だったので受理しました」

「……分かりました、ありがとうございます」

 

 

 苦々しい表情を浮かべていたために、俺は何も言えなかった。たづなさんは俺が言うまでもなくターボのことを深く把握しているはずだ。そのうえで、どうすることもできないと言っているのだ。

 

 深々と頭を下げて部屋をあとにした。

 

 去り際の、たづなさんの悲しげな表情がやけに印象に残った。

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 契約した翌日、俺は早朝から練習用のコースにツインターボを呼び出した。準備をして待っていたのだが、ターボは約束よりも三十分も前にやってきた。駆けつけたターボの表情は不安と心配でいっぱいだ。トレーナーを得たとはいえ絶望の縁にいることに変わりはない。最後の希望をすがるように俺を見た。

 

 

「とれーなー……」

「そんな顔をしなくても大丈夫。出走手続きの書類は無事に通ったよ」

「ほんとか!? それじゃあ、レース出られる!?」

「ああ、出られる。ただ申込期限を調べたら昨日だったんで危なかったな……」

「うええぇっマジで!?」

 

 

 ターボはひっくり返らんばかりに驚いていた。俺も調べてびっくりした。二年目ウマ娘が出走できる未勝利戦は八月が最後になる。その中でも締め切られていなかった芝・マイルのレースはほんの僅かで、もし昨日のうちに決断していなかったら、レースに挑むことさえ叶わなかったかもしれない。本当に危ないところだった。

 

 

「さてツインターボ。契約したからには、君を勝たせるつもりで指導するぞ」

「うんっ。よろしく……おねがいします」

 

 

 俺が宣言するとターボは身構えた。視線を地面に逸らして、指をつついてチラチラと様子を伺っている。やはりよそよそしい感じだが……そりゃあ、まあそうなるか。ターボからすれば俺は全く知らない人間だから仕方ない。

 

 元々ターボが求めていたのは『レースの申請ができる中央トレセンのトレーナー』だ。現実的な話を抜きにすれば、トレーニングの面倒を見たいと言い出したのは俺のほう。しかし、だからといって手を抜くつもりはない。俺はこの子を勝たせるつもりで契約を引き受けたのだ。

 

 

「やるからには本気でやらせてもらう。トゥインクルシリーズで勝って最強のウマ娘になる。それが最終目標でいいんだな」

「う、うん……! ターボ、ぜったい勝ちたい!」

「ならさっそくそのためにトレーニング……と言いたいところだが。その前にやらなくちゃいけないことがある」

「何すればいいの……?」

「まずは実際に走るところを見せてほしいんだ。それを見ないことには何も方針が決まらないからな」

 

 

 スカウトしておいて何だが、俺はまだツインターボというウマ娘をデータの上でしか知らない。戦績などの資料には目を通したがそれだけだ。だからトレーナーとして最初に指示したのは、走る姿を見せてほしいという願いだった。

 

 走って欲しい。ただそれだけの願いのはずだが、しかしツインターボは気まずそうに視線を逸らした。

 

 

「とれーなーをがっかりさせちゃうぞ……」

「大丈夫だ。今まで勝てなかったのは知っている。それを承知でスカウトしたんだぞ?」

「走っているところを見ても、ターボのこと捨てたりしない?」

「しない。まず見ないと勝てない原因を解消していけないだろう。怪我をしないように、いつも通りに走ってくれればそれでいい」

「……分かった。じゃあターボ走ってくる!」

 

 

 やはり自信はなさげだったが、前向きに返事してくれた。

 

 ツインターボは未勝利戦に負け続けたと言っていたが、素質はあると考えている。その理由は初めてターボを見つけた夜のことだ。切り株の広場で逃げていくターボの逃げ足。あの全力ダッシュは、とても未勝利ウマ娘のものとは思えない速さだった。

 

 

(パフォーマンスは最悪。だが最初に会った時に見た逃げ足は本物ときている。どれほどのものか……)

 

 

 素質はあるのに負けているという、ちぐはぐなウマ娘。まず未勝利戦に勝つためにはそうなった原因を見定めなければならない。ストップウォッチを構えながらスタートの瞬間を待ち構える。

 

 練習用のコースに立ったターボは、深呼吸をしてからキッと鋭い視線で前を見る。コース上には誰もいないはずなのに表情はこわばっていた。一人で走るだけなのに緊張しているみたいだ。地面を蹴る音を聞いて、ストップウォッチを起動した。

 

 

「うぅっ、くぅぅっ……!」

 

 

 早々に、未勝利戦に負けた原因が明らかになる。俺は険しい表情を浮かべた。

 

 

(なんだ、この走りは……?)

 

 

 ツインターボは、とにかく遅かった。

 

 本人が必死に走っているのは伝わってくる。しかしまだ200メートルも走っていないのに苦しそうな表情を見せている。中団に控えて最後に一気に駆け抜ける『差し』の戦略を意識して走っているようだが……酷い。これじゃあ確かにレースで勝てなくても無理はない。

 

 

「違う。これはこの子の実力じゃない」

 

 

 その走りは、とにかく(いびつ)だ。

 

 ターボのバ脚は日頃から努力しているウマ娘のもので、そういう日々の積み重ねはレースには必ず現れてくるものだ。それなのに実際のツインターボからは成果がまるで感じられない。例えるなら、自分自身にリミッターをかけて走っているような状態だろうか。

 

 もちろんこの場において俺に実力を隠す意味はない。意識して抑えているわけではないのだろう。一周したターボがゴールラインを踏み締めたのを見届けてストップウォッチを停止すると、やはりタイムは平均よりずっと遅かった。

 

 顔面の汗を拭うのも忘れるくらい疲れ果て、息を荒げるターボに近づいた。すると不安そうに上目遣いで尋ねてくる。

 

 

「ハァ、ハァッ……どうだった、とれーなー?」

「残念ながら、あまりいいタイムは出ていないな」

「ターボ遅かった。ちゃんと走れなかった……」

 

 

 嘘をついても仕方がないので正直に伝えると、自分でも認識しているようだった。そしてそのことに落ち込んでいる。

 

 

「いま遅くても、速く走れるようにしてやるさ。まずは水分補給だ」

 

 

 色々と聞きたいことはあるが、まずは言う通りに走ってくれたことを褒めるべきだ。しょんぼり落ち込んだターボに、あらかじめ用意していたウマ娘用のにんじん風味スポーツドリンクを差し出した。目をきょとんと丸くした。

 

 

「にんじんジュース……? ターボが飲んでいいの?」

「ああ。あんまり高くないやつで悪いけどな」

 

 

 恐る恐る受け取ったターボは俺とペットボトルを何度か見比べた。本当に受け取ってもいいのか迷っている様子だったが、体は飲み物を欲していたのだろう。壊れ物を扱うように両手で大切そうに口をつける。そして喉を何度か鳴らしたあと、ターボは嬉しそうに口を大きく開けた。

 

 

「これおいしい!」

「それは良かった」

 

 

 お気に召したらしい。ターボは尻尾を回すようにブンブン振りながら一気に半分ほどを飲み干し、ようやく気が少し抜けたような息をついた。

 

 

「今の走り方。全力を出さずに抑え気味に走っていたように見えたんだが、意識してそうしているのか?」

「そうだぞ」

「それは前のトレーナーの指示か?」

「うん。ターボに最初から全力を出すなって。我慢しなきゃ勝てないぞーって言われたの」

 

 

 ターボはあっさりと首を縦に振って認めた。なるほど、前のトレーナーの指示……なんだか嫌な予感がしてきたぞ。

 

 

「差し戦略で走るなら、ゴール前で全力を出さなきゃ勝てないだろう」

「……うん。でもね、いつもうまく走れないの」

 

 

 ターボは言いづらそうにしながらも打ち明けてくれた。

 

 最後まで足を溜めて後半で一気に抜き去っていく。戦略自体はレースでは一般的なやりかただが、ターボのそれは違った。前半で足を溜めて、溜めたまま使わずにゴールまで駆け込んでいる。自分から負けたいと言っているような走り方だ。

 

 おそらくターボにはそういう走り方は合っていないのだろう。きっと前のトレーナーはターボを無理に『差し』で走らせようとしたのだ。コミュニケーション不足か、信頼関係の破綻が原因なのか。いずれにしても課題がはっきりと見えた。

 

 

(しかし中央のトレーナーがこんな指導を……? いや、契約破棄する時点で最悪か)

 

 

 中央トレセン学園のトレーナーに憧れていたわけだが、とてもそうとは思えないずさんな指導の片鱗がうかがえる。決めつけはできないが、少なくともツインターボに今の走り方を続けさせるのは論外だ。

 

 

「どうしたの、なんか怖い顔してるよ……?」

「ああ、悪いな。今後のトレーニング方針を考えていたんだ」

 

 

 ターボがますます不安げに俺を見上げていた。ちょっと怖がっているようにウマ耳をへたれさせて、上目遣いで。そんな姿を見てまず俺は方針を変えてもいいものかと悩んだ。

 

 残り一ヶ月の期間で戦略を変えるのは非常にリスクが高い。「そのほうが良い」なんて言っても信じてもらえないかもしれないし、無理をすれば信頼関係に決定的な亀裂が入る。

 

 しかし勝てない走り方だと分かっていて続けるのはありえない。変えるのは決定事項だ。ならばできるだけ丁寧に、受け入れてもらえるように伝えるのがトレーナーの役目だ。

 

 

「これから言うことはもしかするとターボを不安にさせるかもしれない。それでも聞いてほしい」

「やっぱりターボダメだったのか……?」

「いいや。ただ俺のことを信じてもらいたいんだ」

 

 

 ターボは俺の神妙な前置きを怖がったが、真剣に見つめると、飲み込んで無理矢理気味に頷いた。

 

 

「レースで勝つためにやり方を変える。前のトレーナーの指示はいったん全部忘れてくれ」

「ならどうするの……?」

「俺はターボには抑えずに走るやり方が合っていると思う」

 

 

 そう伝えると、ターボは大きく目を見開いた。

 

 

「『先行』でも『差し』でもない。先頭を走り続ける『逃げ』のやり方に賭けてみないか」

 

 

 突然の方針転換。理解してもらうためには時間がかかるだろうと思った。

 

 だが説得は全く必要なかった。俺がその提案をしたとたんにターボの怯えた空気が消えて、むしろ目を輝かせながら食い気味に迫ってきたのだ。

 

 

「逃げてもいいのか!?」

「え」

「ターボ、走るなら逃げがいいぞっ! ほんとにいいの!?」

「あ、ああ……」

 

 

 なんだ、この食いつき方は。鼻先まで迫ってくるので驚いた。

 

 いきなり信頼関係を傷つけるかもしれないと覚悟まで決めていたのに、この好意的な反応はいったいなんだろう。今までのやり方が合っていないのは薄々感じていただろうけれど、それにしてもターボは喜びすぎではないか。

 

 

「一応言っておくが、走り方を変えるからといって楽になるわけじゃないぞ。今までとは全然違う練習が必要になる。ペース配分だって難しくなるだろうし――」

「なんだってやる!! 逃げて勝ちたいっ、ターボずっと一番がいい!!」

 

 

 これはもう、『逃げ』に対して相当な思い入れがあるとしか思えない。言ったからにはもうぜったいに逃さないと、そう言わんばかりの必死さで十センチに満たない距離まで詰め寄ってくる。鼻先まで迫ったターボの両肩に手を置いて、いったん距離をとらせた。

 

 

「わ、分かった。未勝利戦は『逃げ』の決め打ちでいくぞ」

「うん!!」

「それならもう一回走ってもらいたい。今度は抑えずに逃げるつもりで、同じコースを走ってみてくれるか」

「うんっ、まかせて!!」

 

 

 逃げていいといったとたんにターボの雰囲気が変わった。表情が一気に明るくなった。どれだけ前のトレーナーとこじれていたんだ……? と、そう思わずにはいられない変わりようである。

 

 しかしこれはひょっとすると素晴らしい展開かもしれない。明らかに脚質に合っていない走り方だったので、それを止めさせれば勝てるようになるんじゃないか。前のトレーナーの指導がポンコツだっただけだとすると、未勝利戦はもらったも同然だ。

 

 

 ……当然、現実は甘くなかった。

 

 ターボは自分のタイミングで走り出した。しかし再び走り出したツインターボは遅かった。

 

 

「えっ。どうして……?」

 

 

 思わず声をこぼした。逃げていいと言ったのにターボの走り方が変わらなかったからだ。最初から全力で走りたいと言ったターボは、とても逃げを打っているとは呼べないような鈍足でコースを駆けている。

 

 ターボはコースの途中で走るのをやめて立ち止まる。汗を流しながら唖然と震えている。自分でもそうなる(・・・・)とは思っていなかったのだろう。両手を見つめて激しく動揺、戸惑い、大きなショックを受けているようだった。

 

 

「ハァッ、ハァ。どうして、なんで……?」

 

 

 ストップウォッチを止めてターボに近づくと、揺れる眼差しが俺を見た。

 

 

「とれーなー……い、今のは違うぞっ!! 次はもっと速く走れるから……!」

「分かった。もう一回やってみてくれ」

 

 

 もう一度、逃げるように走ってみてくれと指示して見守ってみた。結果は変わらなかった。

 

 しかしターボは全力で走らなかった。回数を重ねるたびにターボは激しく動揺して青ざめ、泣きそうな顔で呼吸を整えていた。やはり自分の意志でそうしているわけではないらしい。

 

 

(癖が抜けないっていう次元の話じゃない。トラウマか)

 

 

 未勝利戦に勝てなかった原因は脚質に合わない『差し』で走っていたことが理由。しかし本当の課題は、その作戦を変えられなくなってしまっていることだ。おそらくツインターボは全力で走ることができなくなっていたのだ。

 

 怪我を治して復帰したウマ娘は、その後走り方が変わってしまう……というのはレースウマ娘にはよくある例だ。肉体面ではなく精神面でショックを受けた場合にみられる。ターボはいま初めて、自分が負ける作戦でしか走れなくなっていることを自覚したのだ。

 

 

「とれーなーっ、これは違うの! ターボはもっと速くて、強くて……」

「大丈夫」

 

 

 自分の状態に戸惑い、困惑し、恐怖しているツインターボの小柄な身体を、胸の中に抱きとめる。

 

 

「大丈夫だ。わざと遅く走ったわけじゃないことは分かってる」

「うっ、うううっ。なんで、なんでぇ。ターボこんな走り方じゃ勝てないよぉ……っ」

 

 

 不規則に呼吸が乱れている。ターボは俺にすがってボロボロと泣いていた。俺はひたすら大丈夫だと言い聞かせた。

 

 未勝利戦まで残り一ヶ月。ツインターボを全力で走らせることが、最初の仕事となった

 

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