【完結】ツインターボは諦めない   作:クロ

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第22話 団結

 

 

 ナイスネイチャから相談を受けたその足で三人で校庭のコースまで出てきた。中央トレセン学園の空は青色の空が広がっていて、気持ちよく走るにはもってこいの晴々とした天気だ。練習用コースまでたどり着くと、ジャージへ着替えを済ませて合流したネイチャが不自然なタイミングで足を止めた。

 

 

「オグリ! 今日も練習がんばろーっ!!」

「ああ。準備運動はもう済ませたから、先に軽く走って待っているぞ」

「え!? むむ〜〜ターボもすぐ終わらせるから、待っててよ〜っ!!」

 

 

 ターボはいつもの調子で待っていたオグリを気安く指差して、それに対してオグリも軽く答えている。そんな光景を見ていた初見のナイスネイチャは絶句した。

 

 

「あ、あれ。今年の皐月賞ウマ娘の、オグリキャップじゃないですか……」

「俺の担当ウマ娘なんだ」

 

 

 ナイスネイチャは青ざめて口元を引きつらせていた。俺は、そういえばそうだったと両手で顔を抑えた。連日ニュースで皐月賞関連の話題が放送されていたこともあって認知はしていたようだが、トレーナー室にオグリがいなかったので失念していたみたいだ。

 

 去年度、ネイチャが誰よりも強く意識していたトウカイテイオーのポジションにいるのがオグリキャップだ。それが新人トレーナーだったはずの俺の担当ウマ娘だというのだから、それはそういう反応にもなる。

 

 

「あのトレーナーと一緒に来ている子。そうか、有馬記念に出ていたターボの友達か」

「うん! ターボの友達だぞ! ネイチャっていうんだ!!」

「ど、ども。ナイスネイチャです……」

「オグリキャップだ、よろしく頼む」

 

 

 クラシック三冠最有力候補に頭を下げられて、ネイチャはやはり顔を青ざめさせてビビっていた。それから二人の軽い雑談が始まったのだが、旧知の友人同士のように振る舞っているターボを見て、おそるおそる小声で俺に尋ねてくる。

 

 

「トレーナーさん。どうなってるんですかこれ……!?」

「一時的にトレーナーを引き受けているんだよ。あの二人はローカルで友達になったんだ」

「ええ……あっ。それじゃあレースの時にターボの走り方、ていうか(フォーム)がすごいことになってたのって。もしかして」

「ああ。地方トレセンでオグリと一緒に修行した結果だな」

 

 

 ネイチャはそういうことだったのかと、顔を抑えて天をあおいだ。

 

 具体的に言えばツインターボにパラダイムシフトを引き起こした『ターボジェット』と『変速(ギアチェンジ)』の必殺技の裏側にはオグリキャップの存在がある。強さを求めているナイスネイチャの答えの一端であった。

 

 

「じゃあターボが強くなったのは、クラシック三冠候補のオグリキャップに教わったからってことですか」

「そうとも言い切れないな。逆にターボがオグリキャップに教えたこともある」

「というと?」

「オグリキャップは元々あんなぶっちぎる走り方をするウマ娘じゃなかったんだよ。あの走り方は本来の得意分野じゃない」

 

 

 世間はオグリキャップを大きく持ち上げて、世代代表ウマ娘として扱っている。しかし唯一誤解を受けていることがあった。どうもオグリは逃げウマ娘と認識されているらしいのだ。

 

 確かに皐月賞では誰よりも先行して突っ走り、他のウマ娘が必死に追いかけようとしたところを更に末脚でゴールまで突っ切って勝利した。だがそれは逃げ脚質だからというわけではなく、ターボを意識してそうなったのだ。

 

 オグリはターボと同じトレーニングを受けてきた。前を行くターボの背中を見ながら走って、追い抜き、クラシック級ウマ娘の中で最も疾いウマ娘になった。件のレジェンドウマ娘・マルゼンスキーと同じく、『普通に走っていたら先頭だっただけ』というのが真相だ。

 

 

「めちゃくちゃ強いウマ娘だな……とは思ってましたけど。あの凄まじいスピードはターボの大逃げにまともに付き合ってきたからってことですか……?」

「ターボ基準で練習したからだな。そのおかげで序盤中盤終盤全部ぶっ飛ばして、そのうえ末脚でトドメを刺すレースをするようになった」

 

 

 ネイチャは驚き顔から一周回って、うわぁ、という顔をした。

 

 

「ターボの暴走にまともについていきながら勝つなんて……ヤバすぎますよ」

「最近も勝負させているんだが、ターボがなかなか勝てなくなってきてな。まあ、そんなわけで二人一緒に強くなってきたわけだ」

「──とれーなー! 今日はネイチャと一緒に走るんだよね!?」

 

 

 二人それぞれ鍛えあったという話をしていると、ターボはいつものように無邪気に迫り寄ってきた。ちょっと待て、と勢い余って突っ込んできたターボの肩を掴んでとどめる。

 

 初対面のオグリはネイチャに歩み寄って、それから手を差し出した。

 

 

「君はターボの友達なのだろう。尊敬しているウマ娘に会えて嬉しい」

「うぇぇ!? そそそ、そんな恐れ多いっ……!! アタシはどこにでもいる普通のウマ娘ですよ?」

 

 

 思わず、普通のウマ娘は有馬記念には出ないぞと、突っ込みそうになったがこらえた。しかしネイチャはGⅠウマ娘かつ、昨年度トウカイテイオーよりも注目されているオグリにすっかり萎縮していた。初対面の相手だから緊張しているのかもしれない。

 

 

「ぜひ、私とも友達になってほしい」

「え……えっと、オグリキャップ先輩……?」

「気軽に呼んでもらって構わない。そうだな、ターボと同じ呼び方はどうだろう」

「ターボとオグリはなかよしだからな! オグリでいいぞ!」

 

 

 横に立っているターボが、遠慮なくオグリの背中をポンと気軽に叩いた。上下関係を重んじるタイプのナイスネイチャは少し困ったような顔をしたが、やがて「よろしくお願いします、オグリ先輩」と言って差し出された手を握った。デビュー時期ではナイスネイチャが先輩だが、学年はオグリの方が上なのだ。

 

 

「ねーとれーなー、はやく走ろ! ターボもう待ちきれないぞっ!!」

「ターボと話していたんだ。一緒に走れるのならすごく嬉しいのだが」

「二人からの期待感がすごい……」

 

 

 ターボもオグリもすでに一緒に走る気まんまんで、期待をかけられたネイチャは若干引いていた。

 

 

「トレーニングの前に、オグリのレース予定の話をしよう」

「それってアタシが聞いてもいい話ですか?」

「ああ、公に言っていることだからな。オグリにはこの先、日本ダービーと菊花賞に挑ませるつもりでいる。ターボと練習していたよりも長い距離で、今回出走しなかったウマ娘も出てくるだろう」

 

 

 それを聞いたネイチャは、初めて納得したように頷いた。

 

 

「なるほど。出走経験のあるアタシが役に立つ、と」

「ああ。ついでに今日ターボとオグリと走ることについては、君のトレーナーに了承をとってある」

「はやっ、いつの間に……!?」

「二人とも君にとってはライバルになるかもしれないウマ娘だが、決して悪い話じゃないはずだ」

 

 

 ナイスネイチャはGⅠを勝てないジンクスを破るための方法を求めている。ならば、彼女が求める答えを持つターボの実力を大きく引き上げたウマ娘を知ることは絶対に必要だ。

 

 一方でオグリに必要なのは経験だ。ターボとの勝負ばかりで偏りすぎていて、基礎はあっても応用については皆無。皐月賞でもレース上の駆け引きはほぼなかった。いずれ中央の強者との勝負が必要になるだろう。ナイスネイチャとのレースはそれを満たしてくれる。

 

 最後にターボだが、かつての自分との実力を測るのにうってつけだ。有馬記念入着ウマ娘の実力を直に感じられる機会は希少だ。つまりこれは成長のチャンスである。

 

 

「というわけで模擬レースをやります」

「ほんとか!? ネイチャとレースだーーー!!」

「い、いきなりクラシック最強ウマ娘とガチ勝負ですかっ」

 

 

 この一年で得難い経験をしてきたターボ。三冠ウマ娘を目指すオグリと、中央で最強クラスの実力を秘めているナイスネイチャ。三人とも応援している俺は全員強くなってほしいと、そんな願いを込めて真剣勝負を宣言した。

 

 

 

 

 

 薄手のワイシャツにネクタイを締めた男性、ナイスネイチャのトレーナーがコースに来てから模擬レースを実施した。条件は全員得意な2000メートルの中距離走を指定。三人同時に練習用ターフで走らせることで着順を競った。

 

 レースの結果は、もののわずかな間のうちに出た。

 

 

「ゴール!! 一着はオグリキャップ!!」

「二着は半バ身差でネイチャさん。三着が、三バ身差でターボさんですね」

 

 

 本気の真剣勝負の結果。最初にゴールラインに鼻先を届かせたのは、滑空するような超低姿勢で飛び込んできたオグリだった。それから間を置かずにネイチャ、ターボがゴールに到達。特に全力で走り終えたターボは犬のように舌を出しながら、そのまま両手を大きく広げて芝にぶっ倒れた。

 

 

「ぜーっ……はひゅーっ、もう、だめだぁぁ〜〜〜っ、ねんりょー切れぇっ……」

 

 

 そして動けなくなったターボの横でネイチャが膝を抑えて荒く息をついている。一方体力を使い果たした二人の前で、オグリはほとんど息切れせずに堂々と立っていた。

 

 

「よしっ、私の勝ちだ」

「っ……これが、オグリキャップ……」

 

 

 勝利を確かめるかのごとく握り拳を作った。汗を流し息も乱しているものの、まるで体幹が揺らいでいない。それを見たネイチャは僅かに歯を食いしばった。

 

 普段微笑を浮かべているナイスネイチャのトレーナーも、驚きを隠しきれていなかった。

 

 

「まさか本気のネイチャさんが届かないとは思わなかった。凄いレースでした……」

「皐月賞の時よりもさらに強くなっていますよ。オグリは今がまさに伸びる時期ですから」

「ええ。しかし特にターボさんは見違えました。以前のGⅢで見させていただきましたが、あの(フォーム)は何度見ても驚かされてしまう」

「序盤はうまくやりましたが、フォームの切り替えが甘かったのが課題ですね」

 

 

 ナイスネイチャのトレーナーである彼は手放しで俺の担当二人を誉めた。彼は俺よりも遥かに経験のあるベテラントレーナーなのだが、そんな人から手放しに評価してもらえて正直嬉しかった。

 

 

 今回の勝負の内容はこうだ。

 

 出走直後、ターボが必殺技『ターボジェット』で二人を突き放した。二人ともそれが来るのが分かっていたはずだが、復活後初めて一緒に走るネイチャはその加速力に度肝を抜かれたのか動揺してペースを乱した。

 

 とはいえ数々のレースを経験したGⅠ出走ウマ娘、大勢に影響が出るほど大きな差にはならない。二番手が先行脚質のオグリ、三番手が差し脚質のネイチャという形でレースが進む。しばらくターボが先頭を突っ走ったが、カーブを抜けた最後の直線でオグリが末脚でターボを抜き去った。若干遅れてネイチャも末脚で背中を追いかけたが、届かないまま決着となった。

 

 

「えへへ。本気のネイチャはこんなに速かったんだな……!」

 

 

 結果的に最下位になったターボだが、全力を出して走れて楽しかったのだろう。満足げに満面の笑みを見せている。悔しそうな顔をしていたネイチャだが、そんな親友の様子を見て毒気を抜かれたのだろう。ふっと気を緩めたあとに笑みがこぼれた。

 

 

「ターボ、あんたすごいじゃん。なにあれ、すっごい加速だったよ」

「あれがターボの必殺技ね。ターボジェット、かっこいいでしょ!」

「うんうん。ところでターボさんや。走り方が綺麗になってたのはいいとして、フォームを途中で切り変えてたでしょ。あれはどこで習ったのさ」

「はぇ……なんのこと?」

 

 

 ネイチャの質問にきょとんと呆けた顔をする。話を聞いていたナイスネイチャのトレーナーも、同じような顔をした。

 

 

「確かに(フォーム)の切り替えは非常に難易度の高い技術です。どのように習得を?」

「まあ、えっと。練習させているうちに偶然できるようになりました」

「……本当ですか?」

「まあオグリみたいに、走っている途中に重心を落とさせるよりは簡単ですよ」

 

 

 信じがたいという顔で二人に見られたので、俺は頬を掻いて誤魔化した。

 

 もともとは躊躇した走り方を改善するためのチャレンジとして(フォーム)を真似させただけだったのだが、練習させるうちにできるようになったのだ。走行中に身体を持ち上げるだけなら簡単そうに見えるが……確かに足幅の変更などもろもろ込みで考えると一朝一夕で成せることではない。二人が驚くのも分かる。

 

 ちなみにオグリは逆に走行中にかかる力の向きに抗って、姿勢を前倒しして末脚を発揮する。ターボと似ているようだが難易度は桁違いに高い。あれは肉体を支える強靭なパワーと体幹、柔軟性が成せる奇跡の技だ。

 

 

「お二人ともかなり特異な走り方とお見受けしますが、大丈夫なんですか」

「リスクゼロとは言いません。ですがGⅠを目指す以上、このくらい尖った武器を持っていないと戦えないと思っています。もちろん怪我をさせないために最善を尽くしていますよ」

 

 

 カサマツトレセンで始めた触診を今も毎日継続して続けている。移籍してからは、オグリも同じように脚を見るようになった。データをもとに実際にかかる負担を専用の計算ソフトを使ったシミュレーションでリスクを洗い出したり、AIの予測で計算させるなどでリスクを測っている。

 

 

「無傷かつ、限られた期間の中で勝たせるためには相応のリスクを取ったうえで、それを最小化することが必要だと思ってやっています」

「なるほど。それであれば安心して走ることができますね」

 

 

 俺の言葉にネイチャのトレーナーは理解を示してくれた。一方で端で話を聞いていたネイチャは感心したようだった。

 

 

「ターボ。あんたのトレーナーって、そんなこともできたの」

「ネイチャ知らなかったのか? とれーなー、プロの資格持ってるんだぞっ!」

「私も定期的に診てもらっている。気付かずに無茶をしている時は止めてくれるから、助かっている」

 

 

 直に脚に触れれば成長度合いや疲労度もすぐに分かる。実際それで二人のトレーニングはかなり高い効率で進められるようになった。ターボはもちろんのこと、預かっているオグリに怪我を負わせて返すわけにはいかないからな。

 

 他にも生々しい話をすると、大逃げGⅢウマ娘と、皐月賞ウマ娘のデータは宝の山だ。今までは新人でノウハウなんてものはこれっぽっちもなかったけれど、今後の育成でこれは大きく役に立ってくれることだろう。

 

 大の字で倒れた体力切れ状態から復帰したターボが、今度は目を輝かせてうったえた。

 

 

「ネイチャもすごかったぞ! びゅーんって来て、最後は追い抜かれちゃった!!」

「いやいや。アンタと違ってアタシは前と変わらなかったでしょ……って、ああそっか。こんな真面目に勝負したのは入学式以来だもんね。でも結局、オグリ先輩は抜けなかったなあ」

「最後は冷やっとしたぞ。あともう少し距離があったら分からなかった」

 

 

 三人はそれぞれの視点から講評をはじめた。レースの結果に一喜一憂する時間はすぐに終わって、自分の走り方を改善するために時間を使う。そういう癖をカサマツの頃からつけさせていたのだが、その目論見はかなりうまくいっていた。

 

 そうして見ていると、俺はあることに気付いた。ターボは親友を持ち上げ、オグリも対戦相手の本気に感激していた。一方で、間に挟まれたナイスネイチャは困り果てて額を人差し指で掻く仕草をしている。

 

 

(これがナイスネイチャの抱えている課題か)

 

 

 ナイスネイチャにターボのような奇抜さはなく、かといってオグリのようなスター性のある走りでもない。しかし堅実。努力しているウマ娘らしい走りで、トレーナーとしては文句のつけようもなく高評価だ。

 

 しかし俺には彼女の抱えている悩みの一端が見えた気がした。今の模擬レースと走り終えた後の表情。着実に努力を続けてきたことは分かるのだが、あと一手。何かが足りないと言われれば確かにそうだ。

 

 

「ナイスネイチャ。二人と一緒に走ってみてどうだった?」

「……正直、よく分からなかったです」

 

 

 尋ねてみると、ネイチャは若干表情を曇らせながら答えた。彼女自身も自分の課題について考えながら走っていたらしい。しかし答えを得るまでには至らなかったようだ。

 

 

「ターボの強さの秘密の一つがオグリ先輩だったことは分かりました。ですけど、まだ前にレースを見た時ほどピンとこないっていうか……」

「簡単だぞ! オグリとターボみたいに前のめりで走るんだ!」

「いや無理だから。あの姿勢は体に合わないし、ちょっとできないかな」

 

 

 やんわり拒否されたターボが大口をあけて「え〜〜っ!?」と不満声をあげた。

 

 まあ、そうなるな。すでに自分の(フォーム)を持っているナイスネイチャに前傾姿勢を組み込んだって付け焼き刃だ。脚質も合っていないし、ターボのように無理をするメリットもない。強くなりたいから真似をするというのは、今回に至っては通用しないらしい。

 

 

「やっぱりそう簡単に、強くなれるわけないですよね」

「そのまま真似することが難しくても、ヒントにはなるかもしれませんよ」

「トレーナーさん……」

 

 

 落ち込んでいるネイチャに視線を合わせるように屈んで、ネイチャトレーナーが優しく言う。常に一緒に過ごしている二人だ。相手が抱えている不安は百も承知だろう。

 

 

「焦る必要はありません。あなたは今よりも強くなれる。私が保証しましょう」

「この練習は今日だけってわけじゃないしな」

 

 

 そう言いながら持ってきたにんじんジュースのペットボトルを、ナイスネイチャに差し出した。彼女はそれを遠慮がちに受け取りつつも、目を丸くする。

 

 

「えっ。それってどういうことですか……?」

「今後は定期的に合同でトレーニングができないか、調整しているところなんだ」

「んっ……!?」

「マジで!?」

「うぇっ。トレーナー、そうなの!?」

「はい。実はオグリさんが皐月賞に勝ってからすぐに、この話を頂いていまして」

 

 

 今日ナイスネイチャが訪問してきたことは偶然。模擬レースも突発的なものだが、合同トレーニング自体はもともと計画していたことだった。水分補給していたオグリは、途中で傾けていたペットボトルを不自然に揺らし、ターボは飲む前に、両手で結露したペットボトルを大切そうに持ちながら迫ってきた。

 

 

「とれーなー! もしかして毎日ネイチャとトレーニングできるのか!?」

「毎日ってわけじゃないが、定期的にな」

「う〜〜〜〜っ!!」

 

 

 言葉を見失いながら唸り、そのあいだも腕をジタバタさせて喜びの感情を表していた。嬉しさが弾けてしまった様子だ。オグリは「それはいいな」と何度も頷いた。ナイスネイチャは最初こそポカンとしていたが……

 

 

「まだチャンスはあるってことですか」

「望むならいくらでも」

 

 

 瞬間。悩んでいたネイチャは瞳に金色の闘志を宿した。ターボとオグリがたまに見せる貪欲な眼差しと同じ。彼女は勝利を渇望しているのだ。

 

 

(俺はまたライバルに火をつけてしまったのか)

 

 

 彼女に宿った炎はもしかすると二人を焼くかもしれない。

 

 しかしそれでいい。もとよりたった一つの席を奪い合うレースの世界に生きているのだから、終わるならそれまでだ。申し入れた選択が間違っていなかったと俺は確信したのだった。

 

 

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