【完結】ツインターボは諦めない   作:クロ

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第23話 計画

 

 

 中央トレセン学園、美浦寮の一室。

 

 二人組の相部屋が基本だが、ツインターボの部屋は編入の都合で一人しかいない。水色の寝巻きのお腹部分がめくれあがった状態で夢にどっぷり浸かっていたところ。ターボは、けたたましく鳴る目覚ましのベルの音で目を覚ました。

 

 

「んぁ……あさぁ……」

 

 

 青白カラーのウサギのぬいぐるみを抱えながら、うつらうつらと起き上がって半目で周囲を見回す。窓の外はまだ朝日さえ差し込んでいない。真っ暗闇な道を街灯が照らしているのが見える。

 

 入学した頃であれば眠気に身を委ねていただろう。しかし今は違う。ターボの目はパッチリと開いていき、口元は笑みを深めていった。なぜ嬉しそうにするのかと問われれば、ここにいること自体が嬉しいことだからだ。中央トレセン学園という、夢に挑める唯一無二のこの場所にいることが嬉しくてたまらない。

 

 規則正しい生活のおかげで早起きする癖がついたターボに二度寝するという発想はない。同室のウマ娘がいないため遠慮はいらない。うずうずと震えたあと、両手をぐっと伸ばして気合を叫んだ。

 

 

「ようし。今日もがんばるぞ。ターボ発進だあーーーっ!!」

 

 

 パジャマを脱ぎ捨てて、トレーニング用ウェアに着替えにかかる。途中で気付いたように「おまえはターボの代わりに寝てていいからな!」と、ツギハギウサギのぬいぐるみを身代わりのようにベッドに寝かせて、一人で部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「おっ。ターボ、ずいぶん早いじゃないか」

「ヒシアマじゃん! おはよっ!!」

 

 

 ステップを踏んで二段飛ばしで階段を降りていくと、可愛らしい桃色のエプロンをつけた褐色のウマ娘が上機嫌なツインターボを見つけた。出迎えたのは寮長のヒシアマゾンだ。寮長として食事の用意などの朝の仕事をしている最中だった。

 

 元気にピースサインを作って勢いよくかえしたターボに対して、退学前からよく知っている彼女は仕事の手を止めた。そして軽く息抜きするように雑談に興じる。

 

 

「前はギリギリだったのに、ここ最近ずっと早起きで偉いじゃないか。今日もトレーニングかい?」

「そうだぞ。ふふん、とれーなーのメニューやるの。ターボは偉いからな!」

「よしよし、偉いぞー」

 

 

 ヒシアマゾンは期待に応えて、撫でられたそうに頭を差し出したターボの頭を撫でた。撫でられ好きなターボの鮮やかなウマ耳が心地よさそうに揺れる。

 

 

「ヒシアマも偉いな! おしごとか? それともトレーニング?」

 

 

 今度はターボがギザギザの歯を見せて笑みながら言った。ヒシアマゾンは手元の配膳用お玉を見せながら示した。

 

 

「みんなの朝飯を用意しているのさ」

「おおっ! コックしてるんだ!」

「寮長の仕事さ。ちなみに今日のメニューは豆腐の味噌汁に納豆とご飯だ」

「え〜〜茶色ばっかじゃん……」

 

 

 それまで意気揚々だったターボだが、嫌そうな声をあげてテンションを下げた。好き嫌いの激しいターボは、特に納豆が大の苦手なのだ。あからさまな反応を見たヒシアマゾンは苦笑いする。

 

 

「まっ。トレーニングに真面目になっても、好き嫌いは変わるもんじゃないか」

「納豆のネバネバきらい。ね〜ヒシアマ、ドーナッツとか、オムレツとかさ。もっとカラフルなのがいいぞ〜〜」

「好き嫌いしてると強くなれないよ。色合いならバナナを付けるから、そいつで我慢しな。ほら、他の娘が起きてきちまうぞ」

「うーっ、わかったぞ。いってきます……」

 

 

 ヒシアマゾンは苦笑いしながらも甘やかさない。しょんぼり出ていったターボを見送ったあと。息をついてから背中に温かい目線を送った。

 

 入学したての頃を思い出す。ターボは野生児そのもので、まず駄々っ子で逃げ回っていた。起床時間もまちまちで、部屋まで叩き起こしにいくことが頻繁にあった。手のかかる子ほど可愛くて、かなり余分に世話を焼いてしまったのは良い思い出だ。

 

 退学から見事に復帰したターボは成長した。わがままは言えども文句は言わない。挫折した経験と、トレセン学園に戻ってくるまでの並大抵ではない努力。それがGⅠウマ娘も顔負けのウマ娘に生まれ変わらせたのだ。

 

 

「まったく。成長しちまいやがって。辛い経験こそがウマを成長させるってことなのかねえ……」

 

 

 成長を喜ぶ気持ちと同時に、複雑な気持ちも抱いてしまう。いくら良い方向に向いているとはいえ、心に傷が残るような辛い経験をしたのは良いことではない。一晩中泣いていた夜。ドア越しに聞いていたターボのしゃくりあげるような鳴き声は忘れられない。

 

 

「がんばりなよターボ……さてと、アタシも負けてられないねえ」

 

 

 ヒシアマゾンは、自分も空き時間にトレーニングを増やそうと画策して、再び仕事に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツインターボというウマ娘はトレセン学園に入学した時から、とにかく目立っていた。

 

 本人が目立ちたがり屋な性格ということもあったが、まず見た目の主張が極めて激しい。際立った青い毛並みに加えてオッドアイという珍しい容姿だ。視界の端に入れば「あっツインターボだ」と振り向かれるくらいには目立っていた。声も大きくテンションも激しかったので、退学後もターボのことをなんとなく印象に残していたウマ娘は多かった。

 

 だから新年度を迎えた日、しれっと教室に座っているターボを見た同期は目を疑った。

 

 

(((なんでこの子がここにいるの!!?)))

 

 

 何事もなかったようにニコニコと授業を受けているツインターボを見て、目を飛び出さんばかりに驚いていた。一度退学になったウマ娘が戻ってこないというのは常識だ。案の定、授業が終わった瞬間に彼女たちはなぜかいるターボに突撃していった。

 

 

「あなたツインターボさんだよね!!」

「地方に行ったって聞いてたけど、どうしてここにいるの!」

「いつの間に復帰したの!?」

「ふぇぇ。ちょ、おまえら。くるしっ……ふぎゅう」

 

 

 二、三十人にもみくちゃにされた。もう答えるどころではない。幸い押しつぶさながらも腕を伸ばしているところをナイスネイチャに見つけてもらって、その場はことなきを得た。

 

 しかし騒ぎは初日のみではなく、翌日以降も同じような展開が続いた。なぜそうなるのかと言えば、ターボは断固として経緯を語らなかったのだ。退学の理由も、復帰までの経緯も無言を貫いた。誰が何を聞いても腕を組んで「ふふん」と気をよくして微笑を浮かべるばかりだ。

 

 実は全てを知っているネイチャは、誰にも聞かれないようにこっそりターボに尋ねた。

 

 

「あんたさ、なんで黙ってるの?」

「ふふん。すごいウマ娘は背中で語るんだもん」

「そんなこと言ってると、またもみくちゃにされるぞ」

「とれーなーに言われたからそうするの」

 

 

 ああ、とネイチャは微妙な顔で納得した。トレーナーから「トレセン学園に戻れたのは特例だから、あまり話を広めないように」と口止めされているのだ。経緯が苛烈なので吹聴するのも憚られる話というのは確か。ネイチャも、誰かに聞かれたら知らないふりをしようと心に決めた。

 

 

「ようし。今日の授業終わりだな!! ターボじぇーーーっとぉっ!!」

「あ、ちょっと、ターボ……! あー、もう行っちゃった」

 

 

 放課後になると、ターボは誰よりも早く立ち上がって教室から『大逃げ』の全力脱出をかますようになった。ネイチャは次のトレーニングの話をしようと引き止めようとしたのだが、時すでに遅し。事情を聞き出してやろうとタイミングを狙っていたほかのウマ娘は、今日も揃って肩を落とした。

 

 

「あーもう行っちゃった。なかなか隙ないなー」

「別にいいじゃん。あのちびっ子のことがそんなに気になる?」

「そりゃそうよ! 噂もそうだけど、今年の皐月賞を勝ったオグリキャップ先輩と同じトレーナーなんでしょ。何があったのか気になる〜〜!!」

「ネイチャさ、そのへん詳しいんじゃないの?」

「うへっ!? あはは、いや〜〜どうだったかなー?」

 

 

 話を振られたネイチャは明後日の方向に視線を飛ばしてしらばっくれた。幸いバレることはなく、すぐに彼女たちの興味は別な方向に逸れた。ほっと安心して息をついたが、合同トレーニングをしていることがバレて数日後に問い詰められることになった。

 

 結局、ことの真相を知っているウマ娘は、本人たちとネイチャの三人のみだ。少なくともトレセン学園側が調査している最中に真相が明かされることはない。結果としてツインターボは『なぜか退学から復帰したウマ娘』として有名になっていた。

 

 

 

 

 

 

 ツインターボが一直線に向かったのはトレーナー棟だ。普段から出入りしている部屋の扉を、どーんと勢いよく開ける。Tシャツ姿で事務仕事に励んでいるトレーナーが顔を上げた。

 

 

「とれーなーっ!! 授業おわったぞ!!!」

「おっ、早いな。もう来たのか」

 

 

 笑顔で声を張り上げて突入。適当に鞄をソファに放り投げたターボは、わくわくした表情でテーブルの前まで駆け寄って、身を乗り上げた。

 

 

「オグリは!?」

「ここにはきてないぞ」

「なら今日はターボがいちばんだな! 勝負はターボの勝ちね!!」

「いや。今週ダービーで、レース前の休養中だから来ないぞ」

「ありゃ、そうだっけ?」

「そうなの。GⅠ前の調整ってことで休ませてる」

「ふーん……ええっ!? オグリ、またターボより先にGⅠ出るのっ!?」

 

 

 ターボは素っ頓狂な叫び声をあげた。テンションを乱高下がすごいなあ、なんて思いながら頬を掻く。

 

 

「すまん。ターボも出走できそうなGⅠもあるにはあるんだが、URAから許可が下りなくてな。申請条件的には満たしてるんだが……次のGⅢ出走もまだ確定できてないんだ」

「それってターボのせいか……?」

「大人の都合だよ。理事長が何とかしてくれるって約束してくれたから大丈夫だ」

 

 

 ターボはトゥインクルシリーズに戻ってきた。しかし先の予定はまだ決まっていない。未勝利ウマ娘をどのように扱うべきなのか上が議論している真っ最中だという。四月のGⅢ出走はスカウト時にマルゼンスキーが確約してくれていたが、それ以降は同じようにはいかないらしかった。

 

 とはいえ、もともとGⅠに出走する予定はなかったので大きく問題視はしていない。ターボの出走できそうだったGⅠは、直近の6月に行われる安田記念だ。しかしまだ勝てる実力には仕上がっていない。ファン投票が出走条件の宝塚記念も難しいだろう。

 

 

「一番早くて10月の秋の天皇賞だな。それなら距離適性的にも十分に勝負できる」

「なんかかっこいい名前だ!」

「ああ。GⅠは出走条件が厳しいから、それまでにGⅢ、GⅡを勝ちにいこうと思う」

「そこで勝ったら、ターボ最強のウマ娘になれるかな!?」

「そう言ってもいいだろうな」

 

 

 天皇賞。日本の象徴の名前を冠したGⅠで、トゥインクルシリーズの中でも特に格付けが高いとされている最高峰のレースだ。出走するであろうウマ娘の存在もあって、このレースに勝利することができれば『最強』を名乗ることも十分に可能となる。

 

 

「勝つのは簡単なことじゃないぞ。天皇賞といえば、間違いなくあの(・・)ウマ娘が出走するからな」

「だれのことだ?」

「現役最強。天皇賞覇者で『三強』の一角と言われているウマ娘、メジロマックイーン」

 

 

 固まっていたターボの青いウマ耳がピクリと動いた。

 

 世間ではすでに最強の存在として扱われている三人のウマ娘がいて、彼女たちを指して『三強』と呼ぶ。そのうちの一人がメジロマックイーン。かの有名なメジロ家のご令嬢だ。

 

 

「春秋の天皇賞を連覇し、GⅡ以下もほとんど勝利で飾っているステイヤーウマ娘。四年目を迎えても全く実力を落としていない怪物だ。王座に君臨するにふさわしい実力を持っている」

「おお、なんかかっこいい……!!」

「ターボが勝負できる『三強』のウマ娘は、メジロマックイーンとライスシャワーの二人だ。特にメジロのウマ娘が執念を燃やす天皇賞。それをターボが奪えたのなら、『最強』を奪うことができる」

「まっくいーん……ターボが倒すウマ娘……!」

 

 

 ターボは色違いの瞳にメラメラと闘争心をたぎらせた。

 

 

「もちろん勝つのは簡単なことじゃない。最強を名乗ることのできるチャンスも、一度きりだと思ってほしい」

「なんで!? 負けたってターボは何度でも走るぞ!!」

「それがそうもいかないんだ……ターボはもうシニア級。ウマ娘の選手生命が一般的には三年と言われているのは知っているな」

「え……う、うん。知ってる。退学するとき、みんな言ってたから」

 

 

 ターボは当時の辛かった時期のことを思い出したのだろう。垂れたウマ耳をこわばらせて、ぎゅっと拳を握りしめる。

 

 

「歳をとれば、いつかおばあちゃんになるのと同じ。レースウマ娘の全盛期は平均的に三年しかない。そしてターボも今年でデビューから三年目だろう」

「あ……でっ、でもでも! まっくいーんは四年目なんでしょ!?」

「ああ。実力を落とさずに勝ち続けるウマ娘もいる。でもな、そもそも四年目以降でトゥインクルシリーズを走れるのは、すでに支えるファンがついているからだ。トゥインクルシリーズではファンがいないと、四年目以降に現役は続けられないんだよ」

 

 

 レースウマ娘で四年目を迎えるウマ娘はごく僅かだ。多くのファンの後押しがあるウマ娘に限られていて、かつ実力を落としていないことが条件になる。次々と新人が入ってくるため、実績を残せなかった四年目ウマ娘に出走枠は残されない。

 

 そんな環境ゆえに、GⅠを目指すウマ娘たちにとって『最初の三年間』は特に重んじられるのだ。現時点でファンの少ないターボが、そこに居続けられる可能性は限りなく低い。

 

 

「三年目で引退になるかどうかは分からない。だから秋の天皇賞が最後のチャンスだと思って、挑んでほしい」

「ほかにはないのか……?」

「今年中なら、ほかにもある。例えばマイルチャンピオンシップとか。でもおそらく『三強』とは戦えない。それじゃあ意味はないだろう?」

「それはヤだぞっ!! 一番強いウマ娘にぶっちぎって勝つんだもん!! じゃあ有馬記念は!?」

「まあジャパンカップと有馬記念はあるが、どっちも距離が長すぎる」

 

 

 もし最高の舞台であるGⅠで『三強』と戦いたいのなら、秋の天皇賞・ジャパンカップ・有馬記念が考えられる。しかしそのうち後者2つのレースは距離が長すぎるのだ。

 

 ツインターボの『大逃げ』にはスタミナの限界がある。現時点では2000メートル、最も調子が良くて2200メートルが精一杯だろう。この数字はまず動かない。どれほど鍛えたとしても、長距離レースを走り切るのは不可能だ。

 

 

「だが逆に言えば、一度だけチャンスがある(・・・・・・・・・・・)ってことだ」

 

 

 くりっとした丸いターボの目をしっかり見つめた。

 

 最強のウマ娘として認められるためにはトゥインクルシリーズでGⅠに勝利して、現役ウマ娘の頂点に立つ必要がある。しかし中央トレセン学園からの退学を突きつけられた時、ツインターボの夢へと続く全ての扉が閉ざされた。ターボは戦う舞台にさえ上がれなかった。

 

 それでも諦めずに死力を尽くして掴むことができた。たった一度しか挑戦できないのではない。一度は、夢に挑戦することができるのだ。

 

 

「トゥインクルシリーズ、GⅠ。全てのウマ娘が憧れる舞台で、現役最強を倒す最後のチャンスだ」

「……うんっ!!」

 

 

 ターボは強気な表情で頷いてくれた。全てを失った時と同じで一直線で突き進む自分自身を疑わない。俺はターボのこういうところが大好きで、気合を入れている姿を見て炎が点いたみたいに胸が熱くなった。

 

 

「よしっ。それじゃあここからは秋の天皇賞出走に向けての話にうつろう」

「なにすればいい!? トレーニングでもなんでも、準備できてるぞっ!」

「そうだな。今日もトレーニングをするが、その前にこれを渡しておこうか」

 

 

 俺はターボに片手で持てる大きさの小冊子を差し出した。「えー!?」と、さっそくトレーニングに向かわないことに不満げな声をあげたが、冊子の表紙を見て目の色を変えた。『勝負服 オーダーメイド注文マニュアル』。わずかに固まった後、ターボは総毛を立たせて感情を爆発させた。

 

 

「しょうぶ、ふく……しょうぶ、え。勝負服っ!!?? うえええぇぇぇっ!?!?」

 

 

 ひっくりかえるのではないかと心配になるくらい背を逸らせた──すごいリアクションだ。さらに続けてトレーナー用の机に全身で飛び乗って、興奮しながら鼻先までぐいっと迫ってきた。

 

 

「勝負服!? これ、ターボの!?」

「そ、そうだ」

「ターボ、勝負服作ってもらえるのっ!?」

「ああ。GⅢに勝ったからな」

 

 

 そうしてしばらくターボは、勝負服を着たシンボリルドルフの写真が表紙になった冊子を見つめて固まっていた。

 

 URAではまだターボの出走について議論している段階だが、ルール上GⅢに勝利したウマ娘は勝負服を作ることが許される。ターボも自分だけの勝負服を手にする権利を得ていた。きっと喜んでくれるだろうと思ったのだが、しかし思ったよりも反応がない。

 

どうしたのだろうかと声をかけようとしたところ、予想外の反応が見える。ターボは冊子を抱えて涙声でつぶやいた。

 

 

「ターボの、ターボだけの勝負服。作ってもらえるんだ……っ」

 

 

 ああ……と。俺はすぐにその気持ちを察した。

 

 勝負服とは全てのウマ娘の憧れ。袖を通しただけでも一生誇れるような代物だ。この小冊子は自分だけの勝負服の確約(・・)だ。一度は夢を諦める覚悟をしたターボが、諦めずに走り続けてそれを手にすることができた。その感動はどれほど大きいものだったのかは、俺の想像にも余りある。

 

 

「まだデザインもしてないんだから、泣くのは気が早いぞ」

「……とれーなー。ターボね、入学前から色々考えてたのがあるの」

「デザインの要望を出す手順が書いてある。まだ時間があるから、納得のいくまで時間をかけてくれて構わないぞ」

 

 

 そろそろテーブルから降りろ、と言うと素直に言うことを聞いた。しかし立ちっぱなしで、宝物を吟味するみたいにページをめくっていた。トロフィーもそうだが、勝ったウマ娘しか手にすることのできないその冊子も一生の宝物になることだろう。

 

 

「改めて言おう。秋の天皇賞、勝負服で必ず勝たせてやる」

 

 

 俺は一緒に夢を叶えてくれるといったターボを『最強』にする。俺たちの心に猛火が広がった。ターボは冊子を握りしめる。そして涙目のまま俺を見つめて、歯を見せながら不敵に笑った。

 

 

「ターボ絶対やるよ。どんなウマ娘が相手でも、勝ってみせるからっ!」

 

 

 目標はレースに勝ち続けて、秋の天皇賞で『三強』を倒してそれを証明すること。成し遂げた時には、それが俺の望んでいた『最高』のウマ娘に成長した証になるだろう。

 

 あの日の約束の終点が、ようやく見えた。

 

 






【報告】
作者の身内に不幸があったため、しばらく感想返信ができなくなりました。
せっかく書いていただいたのに申し訳ありません...!
しばらく予約投稿なので、戻り次第一気に返したいと思います!
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