【完結】ツインターボは諦めない   作:クロ

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第33話 勝負服

 

 

 波乱のオールカマーが幕を下ろしてから三日後。

 

 今日はトレーニングをするかわりに、俺たちの城であるトレーナー室にレース後の短期休養から早くも復帰したターボとオグリを呼んだ。そして部屋の模様替え作業を手伝ってもらっていた。

 

 

「……よし。トレーナー、ここに置けばいいのか?」

「ああ、そのあたりで頼む」

 

 

 赤いジャージ姿の二人の手で一台の家具が運び込まれてくる。運んできたのはガラス製のショーケースだ。二人の身長よりも高く、相当に重いはずなのに汗一つかかずに軽々と持ってくる。やっぱりウマ娘パワーはすごいなあと感心してしまった。俺一人じゃ、とてもこうはいかない。

 

 よっこらせ、と、二人は部屋の壁あたりに下ろした。

 

 トレセン学園の備品ということもあってシンプルながらも高級感が漂う良い品だ。自分たちの部屋にものが増えたことで、ターボもオグリも物珍しそうな顔でまじまじと見つめていた。

 

 

「はぁ〜これ、めちゃくちゃでっかいね、とれーなー」

「一番いいのを貰ってきたんだ。それじゃあ部屋の整理を始めるぞ。俺とオグリで手入れをして一つずつ入れていくから、ターボは俺たちのところに次々と持ってきてくれ」

「わかったぞ、ターボにまかせろーっ!!」

 

 

 やることを貰ったターボが率先して飛び出した。部屋を駆け回ってやることは、トロフィーや賞状の類を根こそぎ集めることだ。そして受け取ったそれを、俺とオグリで丁寧に手入れをしてケースに収納していった。

 

 

「中央ではこういう備品も用意してくれるんだな」

「まあこのくらいはな。トロフィーも置く場所がなくなってきたから、ありがたいよ」

 

 

 オグリと一緒に、専用の布で傷つけないように金色の盃を磨きあげる。

 

 なぜ大切なこの時期に大掃除を始めたのかといえば、トレーナー室にものが溢れ始めていたためだ。もともと俺の仕事道具と二人分の荷物が置いてある。そこに加えて、二人がレースに勝つたびに、トロフィーや優勝レイが積み重なった。これは整理しなければ……ということになったのだ。

 

 ……GⅠ、GⅡウマ娘に雑用をさせてしまってよかったのだろうか? という考えがふと頭によぎったけれど。まあ自分たちの荷物の整理だから、このくらいは許されるはずだ。うん。

 

 

 

 それから一時間ほどかけて、ようやく部屋全体が綺麗になってきた。

 

 学園からもらってきたガラス製のショーケースも半分以上が埋まった。金銀のトロフィーや賞状、レイなどが並んでいるのを見て、オグリは感極まったようにつぶやいた。

 

 

「すごいな……こんなに勝ってきたのか」

「これで全部だぞっ! ターボのほうがたくさんあるな!」

 

 

 ふんすと頬を紅潮させているターボは、量がとんでもない。カサマツトレセン時代に受け取った表彰状や蹄鉄型の小さなトロフィー。そして中京盃のトロフィーもここに並んでいる。さらにその上にトゥインクルシリーズ用のスペースを作ってみた。GⅢが福島ウマ娘ステークス、七夕賞、そして先日のGⅡ・オールカマーの盃が飾られている。

 

 並べてみると凄まじい数だ。こんなに勝ってきたんだ、と、俺もオグリと同じ感想を抱かずにはいられなかった。

 

 

「数で勝負するなら私だって負けていないぞ」

「オグリはカサマツトレセンに寄贈したり、トレーナーに預かってもらっているもんな」

 

 

 オグリ用のスペースはターボより量が少ないが、それは事情あってのこと。そのかわりにターボよりも派手で煌びやかな大物が並んでいた。トゥインクルシリーズのメイクデビューからGⅡまで。中でも最上段では皐月賞・日本ダービーの黄金のトロフィーが爛々と輝いている。

 

 

(改めて、とんでもない戦績だよな。二人とも……)

 

 

 ターボが3戦3勝、オグリは5戦5勝。

 

 メイクデビュー・未勝利戦に勝ち残ったウマ娘であっても、ほとんどがその時のトロフィーを得るのみで現役を終えてしまう。トゥインクルシリーズは1勝するだけで優秀と言われる。だからこそ二人が今年に入ってから全勝しているという事実が信じられない。去年の自分にこの話をしても絶対に信じないだろう。

 

 そんな光景を作り出したオグリは他人事のように「雑貨屋みたいだな……」とつぶやいた。うーむ。良い感じに並べただけなので、もうちょっとこだわったほうがよかったかもしれない。

 

 

「う〜〜いいなぁ〜。オグリのあれ、めちゃめちゃでかいじゃん! ターボのより目立ってない?」

「GⅠのトロフィーだから、まあそういうもんだ」

「ずるいずるい! ターボも目立ちたいーーっ!!」

 

 

 

 ターボも最初は喜んでいたけれど、自分とオグリの棚を見比べているうちに不満げに頬を膨らませてごねはじめた。

 

 まあ、そうだな。言いたいことはよくわかる。全てのウマ娘の頂点に立ったGⅠウマ娘の証は、他のトロフィーに比べて別格の存在感を放っている。 だが俺はターボの頭を撫でてなだめた。

 

 

「そう言うな。オールカマーの盃もすごく立派で、目立ってるぞ」

「そんなの当たり前じゃん! これはターボが、強いウマ娘を倒した証拠だもんっ!」

 

 

 褒められたターボは一瞬で手のひらをかえした。

 

 黄金のカップも太陽光に照らされてキラリと輝いていた。さすがにGⅠのトロフィーと比べると多少小さいが立派という言葉に嘘はない。これを手にできるウマ娘だって、ほんの一握りなのだ。

 

 

「立派だよ。結局ライスシャワー相手に、七バ身差もつけて逃げ切ったんだもんな」

「ねえねえっ。ターボ『三強』に勝ったんだし、これで最強になれた!?」

「ああ、現役最強ステイヤーと戦って勝ったんだ。2歩も、3歩も前進だ。あとはマックイーンを倒せば、みんなターボを認めるよ」

 

 

 ターボがぴょいと飛び乗って、ぶらさがるように背中から手を回してきた。レースから三日も経ったのにまだ大喜びしているのが伝わってくる。そして……実のところ俺も浮かれたままだ。まだオールカマーに勝った余韻から抜けきれていなかった。

 

 

「……俺の担当ウマ娘が、こんな風に扱ってもらえるなんてなあ」

「フ・フ・フ。ついにターボの才能が認められるときが来たぞっ」

 

 

 手近なテーブルに置きっぱなしにしていた新聞を手に取った。新聞記事の一面は『未勝利ウマ娘、いよいよGⅠの舞台に挑戦か!』という見出しだ。写真はオールカマーで勝利した瞬間、灰色の雲の下で撮影されたスタンディングポーズの一番格好いい姿が掲載されていた……つまりこれがツインターボが主人公になった、初めての記事だった。

 

 今回はオグリの人気にあやかったわけじゃない。だからこそ何度も見た記事なのに、何度も嬉しくなってしまう。

 

 

「偉いな。本当によく頑張った」

「えへへ……」

 

 

 新聞を置いて頭を撫でる。ターボは俺のすぐ隣で、気分よさそうに目をつむってゴロゴロと喉を鳴らした。背中からぶらさがったままなのに青いウマ耳はすっかり緩んで前に垂れていた。

 

 

 オールカマーでは思いがけず、夢の達成に大きく近づいた。

 

 ターボの夢を叶えるためには強敵と戦う必要があるが、『三強』の中でもライスシャワーは長距離専門(ステイヤー)で戦う機会はないと思っていた。その機会が巡ってきて、しかもこんな大差で勝てるとは思っていなかった。おかげで最強を名乗る道筋に大きく近づくことができた。

 

 残念ながらもう一人の『三強』トウカイテイオーは療養中。よってあと一人。確実に出てくる秋の天皇賞でメジロマックイーンを倒せば、大手を振って最強のGⅠウマ娘と名乗ることが許されるだろう。あんなにボロボロだったターボが、本当に最強の一角を倒してしまったのだと思うと本当に嬉しい。

 

 遠い彼方に思えた夢が手の届く範囲にきた。だから、つい撫でて甘やかしてしまった。

 

 

「本当に今回のターボはすごかったよ。俺の予想もずっと超えてきたもんな」

「うん。あのレース、今までで一番速かったんじゃないか?」

「ふふん、当然だぞっ。だってターボは最強のトレーニングで、つねに進化してるもん!」

「それもそうか」

 

 

 ターボは俺の背中から飛び降りて、むふーと自信満々に胸を張る。そして奇妙なことを言った。

 

 

「そもそもターボが勝つのはわかりきってたからな!」

「え。それはどうして?」

「ぶっちぎって勝つところを何度も夢で見てたから。イメトレもばっちりだったぞ!」

 

 

 それを聞いた俺とオグリは、思わず顔を見合わせた。

 

 夢を見て勝ちを確信した……どこかで聞いたことのあるような話だ。とはいえ初耳だ。心当たりのある俺は慎重にそのことについて尋ねた。

 

 

「夢……というと? レースの結果を夢で見たのか」

「うんっ!!」

「ちなみになんだが、どんな夢だったんだ」

「えっとね。ターボがぐーんってみんなを置いていって走るの! 後ろからウマ娘に追いかけられるんだけどねっ、ターボ全開でぶっちぎりで逃げて勝つ!」

 

 

 身振り手振りも使って心底楽しそうに、本当にあったことのように語って聞かせてくれた。

 

 そして俺もオグリもそれを真剣に聞いていた。普通ならよかったねで終わる内容なのだが、レースウマ娘の見る『夢』は疎かにできない。オグリはそのケースに当てはまらなかったが、それが現実になるケースがあるからだ。

 

 

(とりあえず悪い夢じゃなかったみたいで、よかった)

 

 

 これだけ明瞭に語るということは噂の予知夢だったのだろう。怪我をするような夢だったら大変だったな。とりあえずほっとした。

 

 

「とれーなー、どうかしたのか?」

「いや……そうか。勝ったのが正夢になって、本当によかったよ」

 

 

 胸を撫で下ろした拍子にそう言うと、ターボは唇を結んでから表情を隠すみたいに俯いた。表情がかすかに曇った? ……一瞬見えた様子が気になって尋ねる。

 

 

「どうしたんだ?」

「あ……え、えっとね、なんでもないぞっ。ちゃんと勝てたからな! それより次はいよいよ本番だね!!」

 

 

 しかしターボは何かを誤魔化すように笑い、さらに話を強引に切り替えて身を乗り出してきた。

 

 

「そうだな。でもその前に今の話……」

「勝ったから、ターボぜったいGⅠに出られるんだよね! とれーなー約束したよね!?」

「あ、ああ。そのことなら頑張ってくれたおかげで100%確実に秋の天皇賞に出られるようになった」

「やったあ! オグリやネイチャみたいに、ターボもGⅠ走れるんだっ!!」

 

 

 ターボの言う通り。今の成績は全ウマ娘の中でも上位クラス。最高峰のレースにふさわしい実績を積むことができたため、これで担当が二人とも夢を叶える場に立つことになったわけだ。今日二人を集めたのは、そのことを伝えるという意図もあった。

 

 ……さっきの奇妙な反応が気になったけれど、本人が話したがっていない以上無理強いはできないな。忘れた頃に遠回しに聞くしかないか。脳裏の片隅にメモを留めて話を切り替えることにした。

 

 

「ところでターボ。片付けも終わったことで、もう一つやらなくちゃいけないことがあるんだ」

「えーっ!? まだトレーニングしないのか!?」

 

 

 両手を握って気合を込めていたターボは、ちょっと不満げな声をあげた。走りたくて仕方がなかったのに……という顔をしている。

 

 

「GⅠに出るために必要なことだぞ」

「そうなのか?」

「ああ。何か忘れていることはないか?」

「んー? ……あっ!! とれーなー、出走登録忘れてないよねっ!?」

 

 

 ターボは焦った様子で詰め寄ってきた……うん、確かにそれは大切だな。未勝利戦の時も危ないところだったから警戒心があるのだろう。忘れたら一大事だ。

 

 

「とっくに済ませたよ。ほら、他にもあるだろう?」

「んん〜〜なんだっけ……?」

「まあ、すぐにわかるさ。持ってくるからちょっと待っててくれ」

 

 

 ターボは自分の頭に、人差し指を置いて思い出そうとした。この様子だとやっぱり忘れているようだ。

 

 俺はトレーナー机の隅に放置していた真っ白な段ボールを運んできた。固く封がされているため、今の片付けでは触れていなかった。ターボはそれを見ても何か分からないようだった。しかしオグリはハッとしたような顔をした。

 

 

「トレーナー、それはもしかして……」

「そういうこと。頑張ったターボに、URAからご褒美のプレゼントだな」

「え!? クリスマスも誕生日もまだなのにっ!?」

 

 

 サンタさんを信じているターボは、変なポーズで目を丸くして仰天した。

 

 開けてみてくれと言うと、ターボは不思議そうにしながら未開封の段ボールの箱を開いた。上蓋を開けると、ターボは口をあんぐりと開けて、呆然と掲げるように袋の中身を取り出した。

 

 

「ほえっ……?」

 

 

 持ち上げたのは蛍光色の赤と緑が際立ったパーカーのような衣装だ。ダンボールには他にも、透明な袋に包まれた新品の衣装が詰まっていた。

 

 最初は何が起きているか分かないという表情だったのが、持ち上げた腕が小刻みに震え出す。

 

 

「え……えっ!!! わわわわぁっ!!!」

 

 

 スロー再生のように徐々に満面の笑みに変わっていった。さらにパーカーを持ったままダンボールの中を漁る。ほかの品々はライダースーツのようなインナー。ジェット噴射機のような装飾が付与された靴。そして、いつかクリスマスにプレゼントしたツギハギウサギのぬいぐるみも入っていた。

 

 

「ターボの勝負服……!! そうだよねっ!? これターボのだよね!?」

 

 

 ターボは顔だけでこちらを見て声を上擦らせた。オッドアイに僅かに涙が浮かんでいる。それを俺とオグリは暖かい目で見守った。もちろんと俺は頷いた。

 

 

「ああ。世界に一つだけのツインターボ専用の衣装だ。今日はこれを渡したかったんだ」

「着てみてもいい!? とれーなー、いいよねっ!?」

「ああ。俺は外に出ているよ」

 

 

 すぐに着てみたいと意気込んだターボに許可を出すと、その場で恥じらいもなくジャージの裾に手をかけて持ち上げた。判断が早すぎる! 俺は慌てて廊下に出た。

 

 とりあえず脱出に成功すると、後ろからオグリも一緒についてきた。俺の代わりに扉を閉めてくれる。

 

 

「なんでオグリまで出てきたんだ?」

「今は一人で、喜ぶ気持ちを噛み締めたほうがいいと思ったんだ」

「……ああ。それもそうだな」

 

 

 自分の勝負服を手にしたターボは本当に嬉しそうだった。着るのを手伝わせようかと思ったけれど、今は一人にするべきだろう。

 

 俺たちの読み通り。部屋の中から「うわ〜〜〜っ」と、喜びと泣き声が混ざったような大声が聞こえてきた。着替えている最中でさらに感極まってしまったようだ。一度は諦めることになった最高の舞台にデビューすることができるのだ。その喜びはきっと俺には推し計れないほど大きい。

 

 

「なかなか派手そうな色の勝負服だったが、あれはターボの注文か?」

「ああ。目立つ色にしてほしいってさ。ウサギのぬいぐるみも絶対につけてくれって、わざわざデザイナーに送ったんだ。あの服でGⅠを大逃げしたら、それだけで歴史に残りそうだ」

 

 

 待っている間は一緒に廊下の壁にもたれながら雑談した。あの勝負服のターボが視線を奪う様子を想像したのか、オグリは確かにそうなるだろうなと言ってクスリと笑った。

 

 

「それにしても私の時より届くのが遅いんだな」

「要望の提出が夏合宿直前になったからな。見ての通り、要望を詰め込みすぎた」

「私には分かる。色々アイデアを考える時間はすごく楽しいんだ」

「本当はトレセンに戻ってきた時点で届いていたんだ。オールカマーの前に渡すつもりだったんだが……まあ、知っての通り色々あっただろう」

「うん……あの時には渡せないな」

 

 本当は勝負服が手元に来たらすぐに渡したかったのだが、例の事情で後回しになってしまった。目の前の勝負に集中させてやりたかったのだ。

 

 

「ターボも夢を叶えるんだな」

 

 

 仲間の活躍を見たオグリは嬉しそうだった。しかし喜ぶのみではなく、天井を見上げる眼差しには闘争心をたぎらせている。

 

 

「やっぱりトゥインクルシリーズで再戦したいか」

「うん。勝負服でターボと戦いたい。今ならお互い前よりずっと強くなっているはずだ」

「まずは二人が夢を叶えてからだな。菊花賞が終わったら、再戦のレースを考えようか」

 

 

 カサマツトレセンを卒業する直前から比べれば、実戦経験を積んで、中央の環境や夏合宿でさらに二人は強くなっている。勝負服も手に入った。トゥインクルシリーズのGⅠでの再戦を俺も望んでいる。きっと熱い勝負をしてくれるだろう。

 

 まずは秋の天皇賞、菊花賞を乗り切ってからになる。直近ならマイルCSが一番だが……すでに今年中にこだわる理由はあまりない。なぜなら実績を作って有名になったターボには『四年目』の希望が十分にあるからだ。

 

 

(最初の三年間を超えられた、か)

 

 

 最初の三年間とは、すなわち分岐点。ファンを獲得できたウマ娘のみが次に進むことができる。そういう意味ではターボは何でもありだ……もちろん怪我や肉体の衰えなどを考慮しなければの話だが、とにかく選択肢はぐっと広がった。

 

 それもこれもオールカマーに勝ってくれたおかげだ。ターボは本当によく頑張った。もっと褒めてやらないとな、なんて思っていると。部屋から「もういいぞーーっ!!」といつもの元気な声が聞こえてきた。

 

 オグリと一緒に部屋に戻ると、両手を腰に当てて、勝負服で堂々と立ったターボが待っていた。

 

 

「どうだ。ツインターボだぞっ!!」

「おお……っ」

 

 

 思わず息が出た。端的に言ってターボはめちゃくちゃ格好良かった。

 

 勝負服は、思った通りツインターボのイメージぴったりだ。まず全体的に目立つ蛍光色が使われている。色合いが激しすぎるのに、青色の毛並みが映えてよく似合っている。黒いインナースーツも走りやすそうだ。

 

 パーカーに吸排気、靴にジェット噴射口。しかし特に目立っているのが、胸からぶらさがっているツギハギウサギのぬいぐるみだ。ターボはこいつと一緒に走るつもりらしい。本当にツインターボらしい衣装だ。これを作ったデザイナーは分かっている。

 

 

「ふふーんっ。ターボ、格好いいでしょ!」

「うん。超かっこいい……」

「そのぬいぐるみと一緒にレースに出るのか?」

「そうだぞっ! こいつを連れて行って一緒に勝ったら、サンタさんにも恩返しできるからな!」

 

 

 ターボはにいっと笑いながら両手でウサギの腕をとって、オグリの前でぐるぐると振ってみせた。セーラー服寄りのシンプルな勝負服を持つオグリは、走りづらくないのだろうかと首をかしげていた。

 

 俺は担当ウマ娘の成長を目の当たりにして語彙力を失い、口元を抑えてちょっと泣いた。スカウトして育てた担当ウマ娘が勝負服をもらえるなんて嬉しすぎる。トレーナーになって成し遂げたいことの一つだったので大感激だ。

 

 

「ぐすっ。俺の担当がこんなに立派になったんだなあ」

「とれーなー泣いてるのか? ターボが格好良すぎて感動したんだな!」

「格好よすぎて前が見えない……」

「トレーナー、私も勝負服を着たほうがいいだろうか?」

 

 

 ターボはさっきまで自分も泣いていたことを棚に上げて自信たっぷりで勝負服を見せつけてくる。オグリにはグイグイと袖を引かれた。俺は本当に心からトレーナーを続けていてよかったと思った。

 

 

 しかし勝負服を貰うことがゴールじゃない。

 

 この最高の衣装で、最高の舞台で勝たなくちゃいけない。 

 

 

「よしっ。それじゃあトレーニングだ! 今日は勝負服の調子を確かめにいくぞ!」

「おーーーっ!! ターボ、いつもより速く走れる気がするっ!」

「こうしてはいられない……!」

「え。あ、まだ俺いるから! ターボ、外に出るぞ!!」

「ふぇ。と、とれーなー!? なになにっ!?」

 

 

 オグリが意気込むあまりその場で、制服を脱ぎはじめて着替えようとしたので、俺は焦ってターボの手をひっつかんで廊下に飛び出た。全く外に出る必要のなかったターボは目を丸くしながらあとをついてきた。

 

 どうも羞恥心が欠けている担当ウマ娘には、普段通りの過酷なトレーニングを課して。俺も山のような仕事を一人でこなして。レース当日までの残り僅かな猶予を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 十数日後──

 

 

 まずはツインターボの奇跡の大舞台、未勝利ウマ娘GⅠ挑戦の幕が上がった。

 

 

 

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