【完結】ツインターボは諦めない   作:クロ

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第5話 vs未勝利ウマ娘

 

 未勝利戦が行われる中山レース場は、GⅠレースに訪れる観客さえ収容可能な広々とした客席が用意されている。しかし今日は今からレースが行われるとは思えない。寂しいくらいに閑散としていた。

 

 僅かな観客の中で特に目立っている集団がいた。今日、ウマ娘を出走させるトレーナーたちだ。

 

 

「頼む、勝ってくれよぉ。これが最後のチャンスだぞ」

「ここで負けたら終わりなんだからな」

「俺の評価が懸かってるんだ。分かってるんだろうな、あいつは……!」

 

 

 ウマ娘を想うもの、自分の経歴のことを考える者。出走バの担当トレーナーたちは全員揃って祈っていた。彼らに共通しているのは担当した子の退学が掛かっているということ。笑って会場を出ることができるのはこの中のたった一組だけだ。

 

 そしてツインターボのトレーナーになった俺も、その中に紛れてコースを見守っていた。しかし神には祈らなかった。

 

 

(やれることは全部やってきたはず。あとは本番で実力を発揮できるかどうか、か)

 

 

 今日このレースに勝つためにあらゆる手を尽くした。二人で命を削るような一ヶ月を過ごしてきた。結果、勝ちの目は十分にある状態まで持ってくることができた。だがそれでも必ず勝てるという確信は得られかった。

 

 ターボの課題はメンタルの問題で得意な逃げを打てないことだった。それを初めて解決できたのがつい昨日のことだったが、しかしたった一度成功しただけ。退学が掛かった大舞台で同じパフォーマンスが発揮できる可能性は低い。もっと時間があれば他の手を打つこともできたのだが……これが今の俺にできる限界だ。

 

 当然、負けましたでは済まされない。万が一の時の覚悟は決めてきている。誰にも見られないようにポケットから一枚の封書を取り出して、息を整えた。

 

 

「トレーナーさん」

「うわっ!?」

 

 

 突然背中から声をかけられて、ビクンッと背筋が震えた。慌てて振り返るとトレセン制服姿のナイスネイチャが訪れていた。異様に驚いた俺のことを怪訝そうに見つめている。

 

 

「あ、すいません。そこまで驚くとは思ってなくて……何を見てたんですか?」

「いや、これは、何でもないんだ」

 

 

 慌てて胸ポケットに封書をしまって隠した。危ない、こんなものを見られるわけにはいかないからな。

 

 

「わざわざターボの応援に来てくれたんだな」

「そりゃあ来ますよ。大切な友達のレースですから」

 

 

 咳払いして気を取り直す。わざわざターボの未勝利戦を見届けに来てくれたようで、難しい表情を浮かべながらレース場を見下ろした。確かちょうど夏合宿に差し掛かり、菊花賞の調整で忙しくなる時期だったはず。それでも時間を割いて来てくれたことは本当にありがたかった。

 

 第三レースが終了したばかりのコースには点検のスタッフが歩き回っている。準備中の中山レース場を見回したネイチャがぽつりと言った。

 

 

「普段のレースとは全然違う雰囲気ですね」

「後半の未勝利戦は大抵こんなもんさ。トゥインクルシリーズみたいに楽しいものじゃない。参加するウマ娘全員にとっては最後のレースになるから緊張もするさ」

「……トレーナーさん。ターボは勝てそうですか」

「あいつなら勝てると俺は信じている」

 

 

 強がりだが嘘というわけではない。

 

 逃げ脚を復活させることができたのなら、諦めずに努力してきたツインターボが勝つ。湖で見せてくれたあの走りさえできれば、他のウマ娘は敵ではない。だから今日のレースは自分自身との勝負になる。

 

 俺が頷いたことでネイチャは意外そうに目を開いた。彼女も一ヶ月前には勝算がほぼないことは知っていて、今はそうではないと俺が示したからだ。少なくとも絶望するような状況でない。そのことを知り、ウマ尻尾をこわばらせながら緊張した様子でコースを見下ろす。

 

 

「アタシも、ターボを信じてます。絶対勝って勝負するって約束しましたから」

「ああ、あとは見守ろう」

 

 

 ナイスネイチャの言葉にうなずき、そして二人で運命の時を待つ。

 

 レース場にファンファーレが鳴り響いたのはそれからすぐだった。地下バ場からコース上にウマ娘たちが続々と姿を表した。芝生を踏んだ九人、体操服にゼッケンを装備した彼女たちこそが今回参加するウマ娘だ。いよいよ幕を開ける第四レース。1600メートル未勝利戦。出走ウマ娘たちの中にはツインターボの姿があった。その顔を見て、やっぱりそうなったかと歯噛みする。

 

 

(ターボ……くそっ。心配していた通りか!)

 

 

 会場に一緒に来るまで、ターボは僅かに緊張していたものの笑っていた。コースの上では緊張と不安に包まれていた。顔色は見るからに悪く、青白い毛並みの尻尾は奇妙な動きでぎこちなく揺れている。

 

 無理もない。どれほどメンタルコントロールを心がけたとしても、レース人生が掛かった最後のチャンスである事実を忘れられるはずがない。恐怖心が勝ってしまったのだ。もっともそれはターボに限った話ではなく、ほかのウマ娘もプレッシャーに押しつぶされてしまいそうになっていた。中にはレース前からボロボロになっている絶不調のウマ娘もいる。前日まで無茶をして練習をしていたのだろう。

 

 明らかに問題のあるウマ娘がいてもトレーナー達は誰も動かない。もしこれが未勝利戦でなければ、担当トレーナーを責めただろう。しかし今日出走できなければ夢が終わるのだ。あからさまな怪我などではない以上、出走を決めたことを誰が責められるだろう。

 

 最後のチャンスである未勝利戦特有の最悪な雰囲気の中。ナイスネイチャは難しそうな表情を浮かべて、組んだ自分自身の腕を握りしめる。トゥインクル・シリーズの上位レースを直に何度も経験している彼女には、この空気は異質すぎたのだろう。

 

 それでも勝たなければならない。陰鬱な空気を振り切るかのごとく、俺とネイチャで声を張り上げた。

 

 

「ツインターボ、絶対勝ちなさいよ。アタシもここで応援しているからね……!!」

「ターボ、頑張れよ……!」

 

 

 コースに出てきたツインターボは足を止めてこちらを見た。ネイチャがいることに気づいて少し驚いていた……だがすぐに、こわばった表情のままうつむいてしまう。やはりプレッシャーに押し潰されそうになっている。何とかしてやりたかったが、すでにターフに立てるのは出走バのみ。この時間が来てしまった以上どうすることもできない。

 

 

『続きまして第四レース。芝1600メートル、出走するウマ娘は9名。ゲートインの時を待っています』

『どのウマ娘も緊張していますね。険しい空気が実況席にも伝わってきます』

 

 

 実況解説の男性の声がレース場に響く。コース上のスタッフも動き出して、それぞれ参加ウマ娘をゲートに入場させていく。夢を見せるトゥインクルシリーズとは違って解説は簡易的だ。真逆の泥臭さが漂う八月の中山レース場で、ウマ娘たちは人生の岐路に立たされた。

 

 

『5番ツインターボ 、4番人気。ただいまゲートイン』

 

 

 俯いていたツインターボも、スタッフに背中を押されてゲートに入って姿が見えなくなった。ゲートの位置は運悪く大外だ。逃げを打つのなら内枠のほうが良かったけれども、こればかりは抽選なので仕方がない。

 

 全員がゲートインして場が静寂に包まれる。固唾を飲みながらネイチャと二人で決して目を離さないように様子を見守る。やがて唾を飲む音さえうるさく聞こえるほどの沈黙の帳を、機械音が破る。全員が地面を蹴りあげる。堰を切ったようにレース場全体に重低音が響き渡った。

 

 

『ゲートが開きました。各ウマ娘、バラバラのスタートになりました』

 

 

 二人、ウマ娘が出遅れた。どちらもゲートインの前から表情も動きも固かった不調のウマ娘だ。案の定コンディションが大きく影響したのだろう。一方でツインターボは出遅れなかった。

 

 横一列に並んでいて悪くないスタートだが、ここだ。ここで前に出られるかが命運を分ける。出走早々にゴール直前のような緊張を感じながら、拳を握りしめて天へと祈った。

 

 

「頼む、伸びてくれ。逃げろツインターボ……!」

 

 

 最初に伸びなければ大逃げの戦略が破綻する。一度でも抜かれて囲まれてしまったら、今までの未勝利戦と同じくズルズルとスタミナを消費させられて終わってしまう。

 

 

『バ群が形成されてきました。先頭は3番ナンバーリザード、並んで1番ビラパナソレイ。2バ身離れて9番ナルメアカスガ、2番オオミオネスティ、6番コンゴウディル――』

 

 

 伸びない。

 

 最初のコーナーを曲がりはじめた時、実況が語った先頭集団にツインターボの名前はない。先頭を取れないどころか、大きく後方に離されている。一ヶ月間苦しんできた時と同じく切れ味も何もない凡走を見せていた。

 

 

『――続いて7番ニッケイセード、5番ツインターボ、8番エレギオンサダノ。最後尾に4番モンテカストロと続きます』

『先頭集団は随分と速いペースです。掛かっているようにも見えますが、大丈夫でしょうか』

 

 

 ツインターボは最後尾から三番目に落ち着いた。連れ出した湖のコースで見せてくれた素晴らしい『逃げ』は、影も形もない。そして前を塞がれてしまった以上、ここからの復活は不可能。スタート時点で前に出ることができなかったのが致命傷だ。

 

 

「くそッ!!」

 

 

 思わず客席の最前列で拳で柵を思い切り叩いた。俺のせいだ。負け続けた状況を再現して最悪の走りをさせてしまった。しかしいまさら嘆いても全てが手遅れだった。一方で見守っていた他のトレーナー達は、実況解説の声を遮るように声を張り上げた。

 

 

「頼む頑張れ、ぜったい負けるなよ……!」

「いいぞ! そのまま勝てばお前は学園に残れる、絶対ペースを落とすんじゃないぞ!!」

 

 

 おそらく普段通り走れているウマ娘のトレーナー達は必死だった。数人だったが、担当を勝たせるために熱意を尽くしてきたのだろう。彼らと一部のウマ娘からは何としても勝利をもぎ取ろうという必死さが伝わってくる。

 

 ターボがここから逆転できるすべはあるだろうか。思いつかない。すがるようにナイスネイチャを見ると、歯を食いしばりながら悔しさを堪えていた。ともにトレーニングをしてきた彼女も、この状況が最悪であることを理解しているのだ。

 

 

「ターボッ! アンタはアタシと一緒に勝負するって言ったんだから、ここ一度だけ勝ってよ……!」

 

 

 今にも涙を流しそうになりながら、ネイチャは必死にツインターボに声援を送っていた。その声は他の声援にかき消された。ターボは苦しげで、走ることに必死で俺たちの声が届いている気配はない。

 

 このままではどんどん置いて行かれてしまう。そう思ったのだが、レース中盤に差し掛かった頃にウマ娘たちに、ある変化が現れはじめた。前方にいた二人が途中で力尽きたように後方に退がったのだ。

 

 

「っ。もう、無理ぃ……ッ」

「だめぇ、もう力が出ないよぉ」

 

 

 彼女たちは一定の速度で走り続けているツインターボの後ろに沈んでいった。どうして……と思ったが、ラップタイムを見て気づく。先頭集団が掛かっているのかペースがかなり早い。おそらく無理をしすぎてスタミナ切れを起こしたのだ。

 

 そしてターボは下がってきた二人に目もくれなかった。絶望的な状況であることは分かっているだろうに、泣きそうな表情を浮かべながらも決して緩めず食らいついている。順位で言えば五番目まで上がってきた。しかしだからといって逆転できるわけではない。

 

 

(何かないのか。ここからでもターボが勝てる方法は……ッ)

 

 

 一瞬希望が見えた気がしたが、都合よく先頭集団全員の速度が落ちでもしなければやはり勝利はありえない。ナイスネイチャは悔しそうにうつむいてレースから視線を逸らし、ターボの敗北を受け入れはじめていた。だが俺はいまさら、必死に考えた。

 

 恐怖と後悔で折れそうになる心を必死で繋ぎ止める。あと一分もしないうちに決着がつくというのに、まだ、何かできることはないかと。ターボが諦めていないのに、俺が諦めるわけにはいかない。何もできなかったとしても、諦めたくない。

 

 

『残り500メートル、カーブも半分を超えて直線が見えてくる。変わらず先頭は3番ナンバーリザード。そして9番ナルメアカスガッ……! スパートをかけて、今、1番ビラパナソレイを捉えました!』

『最後の直線には難所の坂も待っています。レースの行方は分かりませんよ』

 

 

 実況解説の言う『レースの行方』とは先頭争いをしている二人のことに過ぎない。それでもターボは必死に食らいついている。脚にはトラウマの鎖が絡みついていて全力を出せていない。だとしても汗を飛ばしながら腕を振って尖った歯を噛み締め、耐えている。

 

 

「まだぁ……ハァ、追いつくっ……」

 

 

 諦めればきっと楽になるというのに、敗北を感じてなお全てを賭けて走り続けている。一体どれほど苦しくて辛いのだろう。

 

 俺もトレーナーとして最後の瞬間まで諦めてはない。まだ何かある。手があるはずだと思い込む。残り僅かな時間で脳を焼いて回転させる。狂ったような声援を含めた全ての音が消えて視界が真っ暗になった。

 

 先頭からの距離は、三バ身。

 

 これを覆す可能性は一つだけある。今からでも全力で走ることができれば間に合うかもしれない。当然そんなことができれば苦労はしていないのだが、それしか方法はない。そのための力が眠っていることを知っているのは俺だけだ。だから──

 

 

「ツインターボ!!!」

「っ……!?」

 

 

 気付けば、観客席から身を乗り出していた。隣のナイスネイチャがぎょっと尻尾を逆立てて身構えたがどうでもいい。最後の直線にさしかかる直前。それまで一心不乱に走っていたターボだが、その瞬間だけはまるで魂が繋がったみたいに目が合った。

 

 

「今だッ!! ターボエンジン全開ッ、いけええええッ!!!」

 

 

 まだ走れる。いまからでも間に合うのだと、足掻き叫んだ。

 

 他の観客に決してかき消されないように人生一番の大声で喉を枯れ果てさせる。こんなの無意味かもしれない。俺の姿をうつしていたターボの瞳が揺れる。滝のような汗を流しながら尖った歯を噛み締めた。

 

 

「う、おおおりゃぁぁぁッッ!!!」

 

 

 燻っていた燃料が──業火に転じた。

 

 弱々しかったオッドアイから絶望がなくなる。前方に向かって吼えて、細い脚で地面を強く蹴りあげる。エンジン全開。本気を出すための燃料を解放して走るんだと、確固たる意志だけを宿した。揺れていた体に硬い芯が入った。

 

 ターボを見ていた俺とネイチャは目を疑った。

 

 その末脚は付け焼き刃だった。上位グレードを走っている本物の差しウマ娘に到底及ばない。しかし最後の最後で出したがむしゃらな末脚は、燻るだけだったターボエンジンを蒼く噴射させた。差しウマの適性はなく本気で練習したことなどただの一度もないはずなのに、今までの走りが嘘のような加速力で先頭集団を追いかけた。

 

 

『っ……! ここで外から一人のウマ娘がぐんぐん先頭に迫ってくる!』

『あれはゼッケン5番ツインターボッ!! ツインターボが最後に凄まじい勢いで差そうと先頭に迫っていますっ!』

 

 

 唐突に存在感を示したターボの存在に気づき、レースを見守っていた全員が目を見開いた。実況解説も動揺したような声色で状況を叫んだ。ツインターボのフォームはめちゃめちゃで、この時期の未勝利戦を走るウマ娘にはありえないほど速い。つい数秒前まで全力を出せなかったのが嘘のように一人、二人と前を走るウマ娘を抜き去っていく。

 

 最後の希望にすがるように声援を送り続けた。それしかできない。勝てと、俺は何度でも叫ぶ。

 

「勝てッ、ツインターボオオオォォッ!!!」

「がんばれッ、がんばって、ツインターボ……!!」

 

 

 諦めかけていたナイスネイチャの目が涙で潤んで、柵を握りしめて必死に声を張り上げた。限界が来て、呼吸を乱した他のウマ娘たちが速度を落とす。その瞬間に抜き去られたウマ娘はツインターボの背中を見て目を疑ったように顔をあげた。ターボは決して振り返らず、死ぬ気で前のウマ娘を追い続けた。

 

 

『残り300メートルッ。3番ナンバーリザードと9番ナルメアカスガがハナを争う展開! しかし5番ツインターボが迫る!』

『猛追、猛追です……! あっという間に3人を抜き去って、先頭集団はもう目前ッ!』

 

 

 いつの間にか、ツインターボは三番手の位置まで上がってきた。

 

 あと二人。だが残り200メートルしか残っていない。大逃げで使うはずだった燃料を強引に燃やして、苦手な作戦も鍛えたバ脚で捻じ伏せた。先達を一気に抜き去ったツインターボが後方一バ身まで迫る。

 

 

『残り150ッ! ツインターボと、先頭争いをしていたナルメアカスガと並んでッ、そしてかわしたッ! ツインターボ! 最後の直線で4人を抜き去って、2番手に躍り出る!』

『これは……なんという末脚でしょう。減速するどころか、どんどん加速していますよ』

 

 

 残距離100メートルの地点で、金髪をポニーテールに結んだ先頭のウマ娘・ナンバーリザードが初めてターボを意識してぎょっとした表情で後方を見やった。しかし彼女は動揺して速度を落とさず噛み締めてこらえる。

 

 残り一バ身、残り70。

 半バ身、残り50。

 

 だが相手も負けじと加速する。ターボは必死に加速してきたが、無理な作戦で走り続けていたためか速度が上がりきらない。

 

 

『正真正銘最後の勝負! 逃げ切るかナンバーリザード! それとも差し切るのかツインターボッ!!!』

 

 

 奇跡のように先頭争いに食い込んだ番狂わせウマ娘との勝負。トレーナー達も、このレースに期待しておらずに適当に観戦していたウマ娘ファンも。中山レース場の観客は魅入られたように固唾を飲んで見守っていた。

 

 

(頼む、頼む、頼む……っ)

 

 

 あと数秒で勝負が決する。俺は初めて、神様に祈った。

 

 クビ差、残り20、10。

 

 そして──0。

 

 

『ツインターボとナンバーリザード、もつれるようにゴールイン!!』

 

 

 ほぼ二人同時にゴールに飛び込んだ。最後に見せた二人の気迫に観客席の全員が絶句する。学園に残るための未勝利戦は恐ろしいほどの接戦となった。決着がついた瞬間、へなへなと俺の体から力が抜けた。

 

 

『判定出ました! 一着は……ゼッケン3番。ナンバーリザードッ!!!』

「え……」

 

 

 思わず、声が漏れ出る。

 

 掲示板が頂点に立ったウマ娘の番号を示した。だがツインターボの番号ではない。俺はへたりこむように崩れ落ちた。ナイスネイチャも信じられないという表情で固まっていた。だが現実を受け止めきれずに握りしめた拳で柵を叩いた。

 

 

『ハナ差で二着、5番ツインターボです』

『目を見張るような素晴らしい走りでしたね。ほんの僅かな差での決着となりました』

 

 

 俺は顔を上げられなかったが、気力を振り絞ってかろうじてコースを見る。レースを走りきったツインターボの表情は見えない。ただ、荒く息をつきながら呆然と掲示板を見上げているのは分かった。

 

 

 ──俺たちは、負けた。

 

 

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