ありふれたデスゲームの生き残りが世界最強 作:香織雫推し
「……遅かったか。」
俺は白い光に飲み込まれたのを少しだけ後悔してしまう。気づいていた。何か大変な事に巻き込まれると。
俺は小さくため息をはき、その周囲を見回す。
大きな壁画に加え何かわからないが何かにお祈りしている人が目の前に見える。
ステンドガラスが綺麗に映えている、まるで教会に近い作りをしている。
警戒していると一人、法衣集団の中でも特に豪奢な服を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた変な被り物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。全体を観察しながらそんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らし、警戒心を煽られる声でクラスメイトに話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ。」
その声に頭の中から警鈴がなる。明らかに胡散臭い奴に俺は眉をひそめるのだった。
その後俺たちは大広間で集まりそして飲み物を出される。
上座に近い方に偶然教室にいた、畑山愛子先生と天之河達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。
「……何で俺がこんなとこに。」
それは俺も同じだった。取り巻きというよりも八重樫の推薦で俺は珍しく八重樫の隣に座っていた。
「あなたって意外に結構物事をはっきりするから。光輝にもキッパリいうでしょ?」
「いや、あのツッコミどころしかない発言は普通は突っ込むでしょ?」
「普通言えないわよ。まぁ、香織のストッパーにもなるでしょうし。」
かなりしっかりしている八重樫に頼られるのは正直嬉しいものがあるが、今はそれどころじゃない。
全員に飲み物が行き渡るとこの世界に呼び出された理由について説明されることになった
話を聞く限りトータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族がいて、魔人族と戦争をしている状態なのだという
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、それでも魔物が多く魔人族方面から流れており、人間族は滅びの危機を迎えているというわけらしい
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい。」
恍惚で何やら感動するイシュタルに俺はため息を吐く。
話が多くあるようで、かなり薄い。
内容がなぜそうなったのかわからないし、やたらと遠回しに伝えているので要点が分かりにくい。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
するとその言葉に反応したのは先生だ。
実際にその言葉通りだろう。これはただの誘拐であり、普通なら警察沙汰でもある。
でもこの世界に常識が通用すればの話だが。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です。」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「帰す気がないんだろ?どうこう言おうが戦争の戦力として呼んだんだ。俺たちをさらさら帰すわけないだろ。」
俺がイシュタルが言い訳をする前に発言する。するとクラスだけではなくが俺の方に注目する。
「この世界人類は全滅に近づいてきているんだろ。まぁ、色々とはぐらかせられてるけど……だが一応こいつらからしたら力のある戦力なんだ。逃すわけがないだろ。」
「…先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな。」
睨みながらいうが既に俺の言葉の時点でクラスは既にパニック状態になっている。
多分図星を突かれたからだろう。八重樫もうすらうすら感じていただろうから少しだけアシストをする。
できれば騙されやすいバカが突っ込んで勝手に戦争してくれたらいいだけ。
震えてる奴を殺し合いに出す必要はない。特に戦争って行為に理解がある八重樫は特にだ。
一瞬だけ八重樫と目が合う。そして少しだけ笑う。
……本当によく気付くんだよなぁ。こいつ。
気遣いとかは特にずば抜けている。だからこそ自分の触れて嫌というところは八重樫がいるおかげで楽にいられる。
だからこそ、自分が何十人も殺した殺人鬼でなければ、惚れていただろうな。
未だパニックが収まらない中、バンッと叩いた音が聞こえる。その音にビクッとなり注目してしまう。どうやら天之河は全員の注目が集まったのを確認すると話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい。」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします。」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな。」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
「……くっだらねぇ。」
その言葉に盛り上がるはずの空気が凍る。
それが俺の言葉だと気付いたのか天之河はこっちを見る。
「くだらないって?」
「あぁ。心底くだらないと思うぞ。この世界にそんな価値があるのかって思うし、明らかにあんな薄っぺらい内容でよう戦争なんて受け入れそうと思うな。」
「…薄っぺらい?」
クラスメイトどころか先生まで全員が首をかしげる。気付いてなかったのか?
「そんなことも気づかないで戦争をやるとか言っているのか?俺はパス。命を無駄にはしたくないしな。」
「無駄って。」
「俺たちを駒にしてくる奴をどう信用しろって。誠意も全く見えないし、地球に帰れる方法も神任せ。…そんな奴らのどこを信頼しろと?」
実際報酬という面ではかなり酷いものだ。
それが普通ということが一番イライラする。
「俺は助けられて当たり前って態度が一番気に食わないんだよ。」
「……」
「タダ働きで戦争に行かせて危険にさらわれる。それくらい当たり前だろって思っている。それがあんたらにとっては常識なんだか知らないが、俺たちだって考えがあって意志がある。生憎そんな奴らを信用なんかできるわけがないだろ。あんたらは俺たちを騙そうとしたんだ。助ける価値なんてあるはずないだろ。戦争したければ勝手にやってろ。ただ宣言するけど俺は絶対に参加しない。こんな奴らを助けようなんて思わない。」
その言葉は広間全体に響きわたる。もう聞く気はないのでヘッドホンをつけ、音を塞ぐ。
結局天之河の意志により、クラスの大半は参加を決めたが数人は未だに決められてない人がいる。その中には八重樫と白崎も含まれていた。