いきどまりの鬼   作:あん仔

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幕間 : とあるカルデアでの記録

 まあなんというか、そこできっと私は死んだ。

 布団の上で見送られてなんて、きっと人斬りには贅沢過ぎる最期だろう。

 

 

「サーヴァントセイバー、邑田久助。……はあ、私を知らないって? 一時期の京都じゃ鬼久助ってちょっとばかし名前が売れてたもんなんだけど?」

 

 あ?

 

 真っ青な壁に、足元には謎の召喚陣。

 

 

「いよっしゃ!!! ダーオカ! サカリョー!! 来たよ来たよ来たよ!!!! お久さん!!!!! 来たよ!!!!!!!!!!」

「なんだよ、私のこと知ってるんじゃないか」

 

 

 キンと耳鳴りのするほどの大きく叫んで黒髪の少年が知った名前を呼んだ。

 脳内でカルデアだとか、人理危機だとか流れ込んでくる。

 はっはーん、さては世界の危機ってやつだな?

 

 

 

「こんべこのかあ!!!」

「よお、お前も来たのか、キュースケ。お竜さんもお待ちかねだったぞ」

「……うん、久しぶりじゃの、久助さん」

 

 

 廊下から顔を出した三人組に思わず頰が緩んでしまった。

 世界の危機に幕末の人斬りと才谷屋のアホ息子&大蛇娘が集合してる〜、ウケる〜。

 

 キャッキャッとお竜と手を取り合って、クルクルその場で回ったり龍馬と以蔵の相変わらずのやり取りに笑ったりしていると側で見ていた少年が思い出したように手を叩く。

 

 

「あ、新撰組も呼んだほうがいい?」

「へえ、いるんだ。いや呼ぶなよ。攘夷志士に新撰組は敵だぞ、敵」

「え、でも、お久さんって斎藤さんの最初のお嫁さんだったんでしょ?」

「ハハッ、え?」

 

 

 マスターだという少年の言葉を鼻で笑おうとして、流れ込んできた聖杯の知識が死後の歴史を教えてくれた。

 

 

【鬼の愛した誠の一文字】

 

 

 私の生涯が小説となりドラマに映画化までされていた。

 同郷者しか知らなかったはずの私の性別は龍馬の手紙や他の奴らの日記から周知となって、かつ『お久』と呼ばれる優れた剣の腕を持つ女が新撰組三番隊隊長である斎藤一の妻であったと後年の研究から明らかになったとか云々カンヌン。

 あと高杉も日記に私のこと書いていたらしい。

 一人で外国船を沈めて一騎当千で面白いとか、ふーん?

 良いように書かれて悪い気はしないじゃん?

 

 

 そこで鬼久助=お久じゃね? という言説の誕生。小説となりドラマに映画化。

 さらにさらに篠田やその残した日記が発見されて言説が正しかったと流布されて……。

 

 八十!!!! コラ!!!!

 

 サーヴァントであるはずなのに、混乱から呼吸が乱れて眩暈がしてきた。

 なん、なにそれ。私、ちゃんと隠してた……。

 やめ、やめて?

 ひとの人生を勝手に小説にしないで?

 プライバシーとか……えっ? 死人にそんなものはない?

 

 

「後世の歴史研究者ってこわいなあ!!!!?」

「イヤア、ホントホント」

「……」

 

 

 

 隣に立った黒いコートの男と見つめ合う。

 ヘラリ。

 その口の端が緩み、少し眉を下げた情けない笑いを浮かべる。

 

 

「お久ちゃん、お久ぁ、なんつって」

「カルデアちゆうんは、えらく冷えるのう……おーい、以蔵、酒でも飲まんかあ」

「待って待って、まずは再会を喜んで?」

 

 

「……久しぶり、でいいのか?」

「はい、久しぶりぃ。お久ちゃんの旦那さんですよ〜」

 

 

 

 ヘラヘラ。

 貼り付けたように笑みを浮かべて、斎藤が両手を振って答えた。

 さっきの昔馴染みの反応といい、なんか妙な顔をしてるんだよなあ。

 

 

 

 

 

 とめどなく血の雨が降る。

 旧幕府の軍服を着た死体の山が足元には出来ていた。

 新しくおろしたばかりの小袖は真っ赤に染まってしまった。まあいいか。

 鬼は血塗れで丁度いい。

 

 

 ここは埼玉で、私は鬼久助。

 江戸城流血開城が起きたのはつい先日のことだ。

 

 

「……見事な腕だ、久助」

「ほうじゃろ、わしは剣の天才やきのう」

「ああ。より多く敵を斬るとき、お前ほど頼れるものはおるまい」

 

 

 かけられた声に顔が綻ぶ。褒められて悪い気はしない。特にそれが誰よりも必要とされたかった相手なら。

 

 黒いスーツを纏う武市先生が立っている。

 側に寄れば人でない気配が強まって、この先生は確かに死人であるのだと強く改めて感じさせる。

 

 

「武市先生、周囲に他に敵はおりません」

「索敵ご苦労、田中くん。久助も、さあ本部に帰ろうか」

 

 

 その背後に巨大な体躯が突如として現れて、辺りの血の臭いが濃くなった。

 歩き出したそのあとを、追いかける。

 

 死人でも影法師に過ぎなくても、先生といる。

 先生が目の前にいる。

 それだけのことがなんて嬉しい。

 

 

「やあ武市さん」

 

 

 

 その先に立つ者の姿に途端に歓喜は萎む。浮ついていた意識はどこまでも研ぎ澄まされて。

 

 

「坂本くんか」

 

 

 武市先生が大蛇を連れない坂本龍馬の名前を呼んだ。

 酷く冴え冴えとした空気を放つその男を、先生は龍馬なのだと呼ぶ。

 

 傍らにお竜がいないのに?

 目つきが時折、なんとも冷たいものに変わるのに?

 

 

「今日も大活躍だったようだね、久助さん。まだサーヴァントでもないのに、さすがは久助さんだ」

「おう、そうだろそうだろ。もっと褒めてもいいんだぜ」

「あはは、久助さんは変わらないね」

 

 

 それは紛れもなく龍馬であるけど、何かが違うと本能のようなもう一つの声が叫ぶのだ。

 確証も何もなくコイツが龍馬でないと訴えても無駄だろう。

 

 

「どうやら聖杯は高杉くんが持ってるらしい」

「そうか……では彼が我々を裏切って……」

 

 

 武市先生が悩ましげに眉を顰めて息を吐く。

 その様子を坂本が眺めて、ほんの一瞬だけゾッとするような目で見下ろした。

 それはすぐに掻き消えて、ノホホンとしつつも真剣な顔の龍馬に戻る。

 

 

 やっぱり何かに取り憑かれてる。

 

 

 でもまだだ。まだ、まだ私の剣は届かない。

 龍馬に取り憑く見えない何かを斬るために、不要なものを自分から削ぎ落とす。

 削ぎ落として、削ぎ落として、残ったものはどこまでも研ぎ澄ましていく。

 

 

 先生たちの召喚された聖杯戦争は終結しても、何故だか先生は消えないまま。

 特異点、という場所になったらしい。よく分からない。

 

 

 

「以蔵、お前もサーヴァントってのになってんのか」

「ッ!!! 久助!! どいておまんがおるぜよ!? おまんはまだ、この時代にゃ生きちゅうはずじゃろ……!?」

 

 

 数年後に現れたのは、やたらといい生地を使ったスーツの以蔵だった。

 

 

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