「へー、お久さんって斎藤さんの奥さんなんですね」
「斎藤? そんな人、知らないけど?」
は?
なんでコイツ、斎藤のこと知ってんの?
突然の指摘に咄嗟に誤魔化した。
先生が外からやってきたという魔術師とやらを連れてきて欲しいと頼むので坂本と入れ替わりで龍馬と合流した。
お竜を連れた龍馬は外から来たという魔術師と、謎の蘭丸X、それから少女と大男を連れている。
サーヴァント絡みのことには疎くて、よく分かっていないのが現状であるが、どいつもこいつもサーヴァントだろうとはわかった。
知らない相手に斎藤のことを知られているのはなんだか弱みを握られているようで面白くない。
こっち側の龍馬を見極めてからと思っていたけど、
「よっしゃ、じゃ殺すか!」
斎藤の存在を知られてるなら今すぐに殺すか。
思考を読まれたかのように赤毛の大男が叫んだ。飛んでくる槍の穂先に刀で受け流す、と動きかけた。
なんだか嫌な予感。背筋を見えない冷たい手で一撫でされたようなそんな感覚。
行動を中断して、その場から飛び退いてそれを避けた。
「へえ! これを避けるかよ! やんじゃねえか! 女!!」
「あぁん? なんだその妙な槍は……、サーヴァントが持ってるっていう宝具って奴か、ズルしやがって……」
「殺し合いにズルもクソもねーわ!! 死ねや!!」
至言である。
赤毛の大男が槍を再び私へと構えて、刺突、
「森くん、ステイステイ!!」
「お竜さん! すまん! 久助さんのこと守ってくれ!」
「まったく、何をやってるんだキュースケ。お前は人間なんだからサーヴァントと戦うのはよした方がいいとお竜さんも思うぞ」
「ハァン? 私がサーヴァント如きに負けるかよ」
「え、お久さん、サーヴァントではないの?」
「私が死人に見えるのかぁ? 目が腐ってるな、抉り出して交換してやる」
「まてまて、久助さん、少し話をしない?」
明るい髪色をした、上の方で一房だけ髪を結った少女が私とお竜の会話を聞いて不思議そうに首を傾げる。
やけに強い光を宿した目をしているが、節穴ならば交換させてやるのが親切というものだ。
少女の方へ向かおうとしたところ、その前に龍馬が苦笑いを浮かべながら立ちはだかった。
それにまたカチンときてしまう。
「話すことなんてあるのか? お前たちが先に仕掛けてきたんだろ」
「いやいや、森くんがやってなければ久助さんが立香くんを殺していたろう? 僕らは落ち着いて話をするべきだよ、もしかしたら何かすれ違ってるのかも」
「……、ほう? いいだろう。その分厚い面の皮に免じて話を聞いてやる」
「ありがとう、久助さん」
随分と必死な様子の龍馬に、昔の龍馬の姿が被る。
んー、コイツも偽物と思ったけど、もしかしてこっちが本物か?
いや、あっちもあっちで本物であることは間違いないんだけど……サーヴァントってシステム自体がよくわかってないんだよな…。
「まず、質問だ。なぜ夫である斎藤くんの存在を隠したんだい?」
「お前らが敵か味方か分からんからだろ」
「そうだね、まだ再会して時間も経ってないしね」
「リョーマがキュースケの敵なわけないだろ?」
お竜が傍らにいるので、こっちの龍馬の方がかなり信用度は高まる。
お竜が龍馬を間違えることとかそれこそないだろうし。
「……僕の姿の敵がいる?」
「ハ、それでソイツは? どうして私を敵って断じた?」
「おう、斎藤が自分のこと知らねえっつーお前は敵って断言してたぜ!」
『〜〜〜!!!』
『〜〜〜』
一瞬の間が空く。
額を手のひらで押さえて、一行から目線を外す。
いつでも抜けるように手のひらは刀の柄を握っている。
「お前らのところに斎藤がいるの?」
「あはは……、話せば長くなるんだけどね……」
「旦那さんには、めっちゃお世話になってます! 邪馬台国での新撰組の大活躍も記憶に新しいですし!」
「邪馬台国での新撰組の大活躍??????」
なんだそのトンチキ単語バトル。単語と単語がお互いを殺し合っててよく意味が理解できない。
サーヴァントとか魔術師とかすら分からないのに、もっと分からなくさせられた。
なに、なんなの?
「わ、わからん……何も分からん……、もう帰る……」
「混乱させちゃったみたいだね、よく分からないのも無理はないかな」
「大丈夫です! 私たちもよく分かってないので!」
むざむざと敗走を余儀なくされた。私が知らない間に新しい歴史が見つかったのかな……。
先生に聞いてみよ……。
とりあえずの目的である魔術師との接触は叶ったわけだしな。
フラつきながら、探偵事務所を出る。しばらく歩いて、街灯に照らされる足元に巨大な体躯の影が現れた。
「何をチンタラとしているのだ。久助、先生の言葉を忘れたか」
「おう、忘れるわけないだろう。ただの人間に過ぎない私にサーヴァント三体、それもお竜がいるんじゃ勝ち目もないって話だ。そういう荒事はお前らでやれ……私はちょっとばかし信用させて背中を狙うぜ」
「……人間の身はあまりに不都合が多い、気にするなよ久助」
どこか気遣うような新兵衛の言葉に、瞼を閉じた。
新兵衛の腕が胴に周り、すぐ耳元で高速移動で生じる風の音が聞こえ始める。
人の身は不都合ばかりだ。
それより……旦那がアイツらのところにいるってどういうこと?
★★
サーヴァントとかいうトンデモ死人どもの争いに巻き込まれて、旦那に死なれちゃ困る。
だからアイツらの側にいるなら確認だけしときたいな〜。
「久助。報告ご苦労」
「任せとけって」
「……」
本部に戻り、先生に龍馬と会ったことを報告した。探偵事務所を構え、SAITAMAのあちこちを調べ回っていると。
報告の間、以蔵はしかめっ面だ。納得いかないというような顔で私を睨んでいる。
再会してからずっとこんな感じが続いている。
「……外から訪れた魔術師に、もう一人の龍馬、か……」
先生が難しい顔で呟く。
きっと何かの策を練り始めているんだろう。
「私はもう寝まーす」
「あ、あぁ。そうだな。すまん久助、引き留めてしまったな。生者であるお前には睡眠も重要だ、よく休みなさい」
「はーい」
廊下に出て充てがわれた自室へ向かう。
お竜を連れたもう一人の龍馬。……私としてはあっちの方の龍馬の味方をしたいものだけど、となるとどうにか先生とあっちを引き合わせて手を組ませる方法を見つけねばなあ。
あっちの龍馬と会えば先生も坂本は何かがちがうと気がつくかもしれない。
思考を巡らせながら、廊下を歩く。足を止めた。
「なんだよ、以蔵」
「なんちや、気づいちょったか」
「そらなあ。いつからサーヴァントの先生に新兵衛と行動してると思ってるんだ。お前らの気配の消し方にも慣れるってもんだろ」
「……これだから久助は面倒ちや。わしの気配に気づくとは、相変わらず勘が冴えちょるのう」
「そうだろ〜! やっぱり私って天才!」
フフンと胸を張るも、以蔵は以前のような呆れた反応を見せなかった。
す、と以蔵の目が細められ、手袋をした手が私を指さす。
「どいて、おまんはここにおるが? おまんは斎藤とかいう壬生狼と夫婦になっちゅうち聞いちょるぜよ」
「誰に聞いたんだあ? 夫婦になったのはお前が斬首されてからのはずだけどな」
「聖杯の知識ちゆう奴ぜよ。詳しいことはわしも分からん」
「ふうん……」
じゃあアイツらが斎藤のことを知っていたのも聖杯の知識ってことなのか。
なら斎藤がついてるってこともフカシか?
それで、その聖杯を高杉が持っていて……龍馬は織田信長の首を持っているわけだ。
なんで織田信長の首に謎の生物を生み出す力があるんだろうか。
やはりよく分からない。
「ふうん、で? なに、私がここにいる理由?」
「おん」
「そんなの先生がいるからに決まってるだろ。私は何があろうと先生になら力を貸すし」
「……、おまんは、その先生に剣を捨てろ言われちょったがじゃろ」
「そこまで知ってんのお? 聖杯の知識って侮れんな。それとも、死ぬ前から知ってたのか?」
以蔵は何も答えない。
視線を逸らして、初めと同じように姿を消した。霊体化とかいう奴だろう。
サーヴァントってズルい。
部屋に戻り、寝台の上に体を横たえる。天井を見上げながら、手には刀を握りしめて目を閉じた。
今は体を休める。
目覚めたら軽い食事を摂ってから、また出掛けよう。