いきどまりの鬼   作:あん仔

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憑依

 道すがら探しても刀は見つからなかった。

 

「まあ維新の世なら刀もねえ。時代遅れってことでしょ」

「それもそうなんだけどなあ」

 

 

 高杉ならば、そこまで読んで対策していても不思議ではない。

 刀がないならないで他にも戦いようはあるにしろ、多少面倒になるのも事実である。

 

 

「なら、奇兵隊から武装を剥ぎ取って……うーん、刀ならともかく銃は使いたくないなあ!」

「定石だね〜、戦場で拾った銃は使わない方が賢明賢明」

 

 

 ヘラリと斎藤が笑みを深める。

 

 

「武器もないし、こりゃ大人しくお家に帰るのが最善なんじゃない〜?」

「やだね」

「はあもう……」

 

 

 トボトボとついて来ながら斎藤はため息を吐き出した。

 刀がない……。

 先生の刀が刃毀れしてしまった。鞘から抜いて状態を確認しておく。

 街灯に刃が白く反射する。やはり欠けてる。奇兵隊隊員程度ならともかくとして、サーヴァントを殺すには心許ない。

 

 

「うーん、じゃあ鈍器に使うしかないか」

「いやいや、刀なら斬りなよ。ソイツじゃ難しいと思うけどね」

「斎藤の刀ちょうだい」

「だめ〜」

 

 

 そうするうちに坂本探偵事務所が見えてきた。

 

 

 

「先生。今帰った、ぞ」

 

 

 扉を開けて声をかけると、先生と龍馬、新兵衛に以蔵と、それからカルデア一行の面々がシンと静まり返った。

 直前まで会話の声が聞こえていたこともあり、多少面食らう。

 そっと扉を閉じる。

 

 

「……出直そう」

「待って待って!! お久さん! 無事でよかった!!」

「おう遅いわ。寄り道しちょったな、馬鹿久助」

「よくぞ戻ったな。久助」

「うるさいわ、阿呆の以蔵。約束したからな」

 

 

 サーヴァントのほにゃらら何かの不思議パワーで私の負わせた傷がなくなった先生が微笑む。

 何はともあれ治るのならよかった。決して良くはないけど。

 振り返ると斎藤の姿が見えなくなっていた。霊体化という奴だ。

 サーヴァントっていうのは本当に。

 

 

「……今、これより仕掛ける作戦について練っていたところだ。お前の所感を聞かせてくれ」

「はあん? たった今戻って来た奴に聞くことか? いいけど」

 

 

 各ブロックの炉を停止させると思わせ、戦力を向かわして逆に利用するとか何とか。

 龍馬の案だというので、だろうなあと納得した。

 

 

「魔術やらについては門外漢だけど、技術は足りてるのか」

「ふっふっ、そこは私にお任せあれですよ。この出雲の巫女であり天逆神を生涯にかけて追い続けた出雲阿国に!」

「へえ。お前、高杉側かと思っていたけど」

「ええ、ええ! あの社長には上手く使われましたけど、何を隠そうこの阿国。そもそもの目的はあの坂本様に取り憑いた悪神ですので」

 

 

 ふふん、と胸を張る出雲阿国。

 やっぱりあの坂本には何かが取り憑いていたと明らかになったらしい。

 ちょっとの間別行動をしただけで、こうも話についていけなくなるものかと少し呆れる。

 

 

「そちらの面々、色々と積もる話もありそうですが、私から一つだけ。久助様。貴女は初めから坂本様を怪しんでおられたように見えました。それは何故でしょうか」

「そんなの勘だよ。勘。私は昔から人より並外れて勘も優れてるんだ、なにしろ天才だからな」

「ははあ……天才。確かに先ほどもグレートな立ち回りでございましたが……」

 

 

 

「サーヴァントならばまだしもそんなこと、本当に只人に可能でございましょうか」

 

 

 呟かれた阿国の言葉は聞こえないふりをした。

 作戦会議と称して続く、土佐勤王党に何故かいる新撰組とカルデアの会議に一応聞くだけは聞いておく。

 沖田が何やら言いたげな雰囲気を醸しているけど、それも無視する。今はとにかく坂本改め天逆神と高杉を止めるのが優先だもんな!

 

 

「おう武市よお。ずっと気になっちゃったけんどコイツもついて来させるつもりかえ」

「……久助は止めても付いて来る」

「当たり前だな。当然って奴だ、先生が行くなら私も行くよ。何を今更」

「僕もあんまり賛成は出来ないな……そりゃ久助さんは強いけどね? まだ生きてる人だからね……もしもを考えたら」

 

 

 渋い顔の以蔵の言葉へ眉を下げ困ったように微笑む龍馬が乗っかった。

 先生が振り返り、私を見下ろす。その目をじっと見つめ返した。

 

 先生の目が伏せられる。

 まあ分かるよ。生前ですら私を遠ざけたんだ。先生も本心では、龍馬と以蔵と同じように私をまた置いて行きたいんだろう。

 今度の理由は、まだ生きてるからか?

 

 見えないはずの斎藤もウンウンと頷いている気がして本当にどいつもこいつも──と舌打ちをする。

 

 

「どいつもこいつも私より先に死にくさったくせして偉そうに私の命の使い方を指図するな」

「あぁん!?」

「ハハ……それを言われると言い返せないな」

「きゅ、久助……」

 

 

 逆ギレの以蔵に苦笑いの龍馬。そして先生は困りきったと狼狽している。

 先生と以蔵の死すら龍馬から聞かされて、その龍馬すら三年もしないうちに死んでしまうのだから……、それをまた後から伝聞で聞かされた私がどう思ったか。

 置いていった側のコイツらには分かるまい。

 

 

 

「え、待ってください、お久さん」

「あ? なんだよ」

「坂本さんはいつお亡くなりに?」

「はあ? そんなのお前らの方が詳しいだろ」

「い、いえ、一応確認で……」

「慶応三年の十一月だろ、私が知ったのは年が明けてからだったけどな!」

 

 

 シン、とカルデア一行が口を閉ざした。その様子に先生と新兵衛が不可解そうに首を傾げる。

 いや本当になんで黙ってんだよ。

 そうだ。年が明けて、弟が京で暮らす家を訪ねてきて龍馬の死を知らせてくれた。

 ……あれ、そんなことあったっけ?

 

 

「えっ待ってください。この特異点では坂本さんは暗殺されていないんですよね? どういうことですか、お久さん」

「何を寝ぼけておられる、沖田さん。龍馬は暗殺されたでしょう、あの近江屋で。近くにお竜もいただろうにどう殺したのか、私もとても不思議で……んー? 死んでいなかったような気もする、なんだか記憶がこんがらがってんなあ……?」

「お久さぁん! 口調もこんがらがってますよ!」

 

『やあやあ、浮上した謎に頭を抱える諸君! その謎をこの天才が解決してあげよう!』

「ダヴィンチちゃん!」

 

 

 どこぞから女の子の声が割り込んできた。

 カルデアの魔術だと割り切ってスルーしたが、沖田に問われ近江屋で龍馬は暗殺されたと聞かされた記憶と、別に死んでないという異なる記憶が同時に存在していることに気がついた。

 旧友の死に方とかあんまり思い出したくないもんで、今の今までこの齟齬に気づかなかった。

 

 

『人間でありながらサーヴァントと対等に戦闘し、かつあの場に残って逃げ延びてみせた彼女に疑問に思ったろう? それもそのはず彼女はサーヴァントだ』

「私は死んでないけど」

『そう。君の中に、恐らく他でもない君自身が重複して召喚されてるのさ。擬似サーヴァントのようなものと思ってくれればいい』

「あいも変わらず意味がわからんな」

『私も原理の方はよく分からないんだよなあ、もう少し時間があれば詳しく調べられるんだけどなあ。ともかく君からサーヴァントとしての反応がしているのは間違いない』

 

 

『あんまり反応が微弱だから計測機の感知にも引っ掛からなかったようだね』と鈴のような少女の声が言う。

 あんだけサーヴァントがズルいズルいと言っていた私自身もサーヴァントだった……?

 自分の身体の状況へ意識を巡らして確認するけど、これまでと特に変わりはない。

 そこで気がつく。私がサーヴァントということは……!!

 

 

「ということは私にもつよつよ宝具が……!」

『本人に自覚がないとこっちとしてもそこまでは調べようがないよねえ……残ってる逸話から推測くらいは出来るけど……、船とか持ってる?』

「内陸だぞ。船なんて持ってるわけないだろ、そもそも易々と持ち運べるものでもないな?」

 

 

 少女の言うのは恐らく下関でのあれそれだろうとは察する。

 けどサーヴァントの宝具って逸話がないとダメなの?

 そういえば高杉も奇兵隊だったし、サーヴァントになったからといってポンとつよつよ宝具を配布されるわけでもないのか。

 

 

 むむ、と悩んでいると藤丸が赤い紋様の刻まれた手の甲を掲げた。

 

 

 

「とりあえず契約します?」

「契約するといいことあるのか?」

「令呪の効果が及びます、あと縁が繋がってワンチャンカルデアで再会……」

「ソイツと主様が被るのいやでありますよ! あとソイツは殺した方がいいと思うので反対です!!」

「ハハ、何だこのガキ。殺していいか先生」

「やってみろでありますよ!!」

「……はあ、やめなさい。久助」

 

 

 眼帯少女に噛みつかれ、柄に手を置く。まあ刃毀れしてんだけど。

 

 

 先生の制止に深く息を吐く。

 

 

「ともかく私はついて行く。先生、もうずっと前から決めてるんだ。捨てるなら文で済ますのでなく今ここでお前は要らないと直接、はっきり言ってくれ」

「……久助、それは」

「とはいえ私が素直に頷くかどうかは、先生の言葉の正当性にもよるぜ? 捨てるならどうしてサーヴァントになってから会いに来たのかとか聞きたいこともあるしな」

 

 

 眉を寄せて先生は目を伏せた。

 五年前。喪失を乗り越えようとしていた私の元に先生は私に会いに来た。

 心にも等しい剣を捨てろと言ったくせに、本来の自分を殺して女として生きろと言ったくせに。

 

 そうだ。恨み言だ。

 阿国から聞いた天逆神は人間の負の感情を増幅させるだけで、そこに一欠片の負の感情がなければ無力なはず。

 先生を恨みに斬りかかったのは紛れもなく私自身なのである。

 どれだけ誤魔化し続けても、先生に対する恨みは確かに心の端に存在していた。

 

 

 

「……全て、私の弱さの所為だ。お前は何も悪くない、不要とも思っていない。そしてこれに関して私に正当性などは欠片も存在していないだろうよ」

 

 

 

 苦渋に満ち満ちた表情で苦虫を噛み殺したような低い声で先生が続ける。

 

 

「私は誰かに先生などと呼ばれていい人間では決してなかった」

 

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