「いや、先生が弱いことなんて百も承知だ。今更何を言いやがる」
先生の目が丸く見開かれた。
突然自分は弱いとか言い始めてびっくりしてしまった。
「そもそも私以外は大抵弱い。貧弱だ」
「……」
「先生は弱いし自分勝手だし頭が石で出来てる。言われるまでもなくよわよわだろ」
「久助!! 貴様!! 先生に失礼なことを言うなァ!!!」
言葉をなくす先生に、予想通り鬼の形相で噛み付いてきた新兵衛。
あんまり予想通りすぎて肩をすくめた。
事実だ。
弱さを否定したら、それじゃあ弱さしかなかった弟をも否定することになってしまう。
そして弱くなった私自身も。
「本当に今更だ」
「そうか」
「要らなくないならついて行っていいな?」
「……そこまでついて来ることに固執するならお前にとって、それは余程必要なことなんだな、久助」
「おう、要るんだ」
きちんと終わらせる必要がある。ただそれだけだ。
もちろん先生に最後までついて行くという私の願望もあるけどな。
まだ何か言いたげな龍馬と以蔵へ笑顔を向けて黙殺する。
先生がこういうんだからいいんだよ。
「え、っと……話は纏まった、のかな?」
「これは…、恥ずかしいところを見せてしまった。すまない」
「いやいや、私は全然気にしてないので!」
藤丸に声をかけられ、先生が我に返った。探偵事務所にはカルデア一行に新撰組のサーヴァントがいることを思い出したのだろう。
吐露してしまった弱音を、人に聞かれたことが恥ずかしいのか頰を染めながら二度、咳払いをしている。
別に恥ずかしがることじゃないと思うけどなあ。
そしてある程度の作戦内容を詰め終わり、動き出す。
「そうだ、久助。その刀では戦闘も覚束ないだろう。私の刀を持っていきなさい」
「わあ……いいのかよ」
「私もサーヴァントの身だ。それならば、ある程度はお前が本気で扱っても保つだろう」
先生の腰に差されていた刀を両手で受け取る。
「久助、お前は決して死んではならないぞ」
「当たり前だ。死ぬ気はないよ」
▼ 久助さん は 刀を 手に入れた!
「新撰組行くぞォ!!! 斎藤ォ!! いつまで隠れてやがる!!!」
「……はいはい、今行きますよぉ」
「全く斎藤さんはヘタレですねえ、関係者に挨拶もできないんですか?」
「いや、そういう空気じゃなかったでしょ、アレ」
「なに、斎藤? 斎藤といえば確か久助の……」
「はいはい、私たちも行くぞー! 先生も準備はできたかあ!?」
「準備は出来ているが…今の」
「しゅっぱーつ!」
「お前が号令かけんなや! 殺すぞ!」
「主様、号令をお願いするであります!」
「うん、じゃあ行こっか!」
天逆神と高杉のいる決戦の地へカルデア一行とともに出発した。
援軍として存在を聞かされていた新撰組はまあ、わかる。そもそも地元が近いし。
でもなんで越後の軍神とか邪馬台国の女王とか謎の老人とかがいるんだよって話なわけよ。
カルデアやべー。
向かう途中で何度目かの地鳴り。
体にかかる圧が増す。各ブロックへの同時攻撃は
上手く行っているようだ。
「どうやらなりふり構わず必要量を回収しようというわけか、だかこの勢いでは市民は持たんぞ……。久助、お前は」
「私は平気だ。私の中にいるらしいサーヴァントの恩恵って奴なんだろ、多分な」
「連中、街のもんを皆殺しにする気か!?」
「とにかく急ごう、今は進むしかない」
何かの吸い取られていく感覚。これが多分、魔力って奴なんだろうな。
全身にかかる重圧と、内臓を掴まれ掻き乱されるような激痛があることは黙っておこう。
体内に魔力の在る感覚を体で覚えろ。
魔力、魔力。
吸われていってる生命力見たいな、活力みたいな、何かがソレなのかな。
「お久さんの中のサーヴァントって誰なんだろう……」
藤丸の呟きが風に乗って耳に届く。
サーヴァントになるには英霊として歴史に名を残して座とやらに登録される必要があるそうだ。
私の中にいるというサーヴァントについて、一人だけ思い当たる奴がいた。
カルデアの計測に引っかからないほどに微弱で、私ですら気付かないほどにそこにあることが自然な相手。
そして恐らくは、特異点と化したこの歴史上でなく龍馬が暗殺されてカルデアの設立される歴史上で歴史に残っている。
この私には知ることすら出来ないけれど、とにもかくにも息災そうで何より。
お前もきっと一生懸命に生きたんだな。あんなに弱かったのにやるじゃないか。
──ッ……。
消え入りそうなほど小さな囁き声が、どこからか聞こえた。
「あとは宝具があれば完璧なんだけど」
「さっさと足動かしぃ! 馬鹿!」
「うるせー! お前の方がバーカ!」
「あぁん!?」
キャンキャンと噛み付いてくる以蔵に言い返した。
出発前。
「阿国殿。体に取り憑いた天逆神を移動できなくさせることは可能だろうか」
「それは……魔封じの紋がございますけれど、武市様、もしや……」
「なに、もしもに備えた二の矢というものだ」
「使うときが来ないならばその方がいい」と目を伏せた先生を阿国が痛ましいものを見るような目で見つめる。
バクバクと心臓の鼓動が早鐘を打つ。先生、先生、どうしてそんなことするんだよ、困惑とも怒りとも違う感情が沸き起こる。
「先生」
「っ、久助か、……今のを聞いたか」
「聞いたよ。先生、死ぬ気か」
「サーヴァントはもう死んでいるのだ、久助」
それも知っている、けど……。
先生を始めサーヴァントが死人であるのは理解している。
でも目の前にいる先生をむざむざ死なせるのは、……でもそれを先生が望むのなら。
「私が決着をつけたいのだ。すまん、我々勤王党を、お前の心を弄んだ奴にどうしても報いを受けさせねば気が済まない」
先生の目は真っ直ぐで、死ぬかもしれなくてもついて行くと宣言した私と同じなんだろうと思った。
なら止められない。
「やる、と決めたなら、やるだけだもんな……先生も同じか」
「ああ、阿国殿。頼めるか」
「ええ、ここまでくれば決意を問うのも野暮というものです。かしこまりました」
「先生、なら終わりは私に」
「……では、頼もう」
「任せろ。私は誰よりも強いからな」
阿国ともに離れていく先生の背に声をかけた。
先生の返事に全身が冴えていくのを感じる。
冴え冴えと研ぎ澄まされて。
今の私に斬れないものはきっとない。