「えー! お二人。やっと夫婦になったんですか!」
「ええ、まあ……」
「お久さんと再会されてから、この数年ほど斎藤さんってばめちゃくちゃ面倒だったんですよ!!」
「……長らく世話をかけたようで」
「いいんですよ! やりましたね! 斎藤さん!」
「えへへぇ。ほら副長、山南さん、僕の奥さんですぅ」
「よかったね、おめでとう。斎藤くん」
「フン、だらしねえ顔しやがって鈍るんじゃねえぞ、斎藤ォ!」
「わかってますってえ、副長ぉ」
屯所に連れていかれて挨拶をした。
屯所のどこに顔を出すのにもやれやれ、やっとかという顔をされて、少し納得がいかない。
斎藤は終始ヘラヘラと土方のいうように、だらしない緩みきった表情を浮かべていた。
ポッカリと心に空白を抱えながらも、敵だったはずの新撰組に祝福されて、これはきっと幸せな女の物語になったはずだ。
──1874年。
出来ぬ約束など初めからするべきではない。
人斬りに円満な最期だったあるはずもない。
そんなことは分かりきっていたはずだった。
「……指を切ろうか」
「いらないよ、何それ」
「指を絡めたろう。巷じゃアレは指切りっていう約束の仕草になってるらしい」
「へえ」
「約束を守れなければ指を切る」
「アンタの指とかいらないってば」
「そうか」
隙間から吹き込む東北の風は酷く冷たく、分厚い布団を被されていても体を芯から冷やしてくる。
何もかも遠く過ぎ去って、斎藤は会津藩士として斗南の地にいた。
寒く厳しいそこで暮らすうちに私は体を壊した。ジワジワと病に犯されて、もうじきに死ぬ。
「ここは冷えるなあ」
「布団をもっと分けてもらおうか」
「いいよ、どこも大事だろ」
「……なあ、俺は約束を守ったよな?」
「うん、そうだな」
布団の脇に腰掛けじっと見下ろす斎藤に誤魔化すように微笑んだ。
私も結局残して死ぬのか。
斎藤の目の下にはまた濃い隈が。表情は乏しく、ひどく疲れた顔をしている。
看病疲れか。大体私のせいである。
「ごめん」
「……見送るのは慣れてるよ、謝んないで……頼むからさ」
ぐ、と、その眉間に皺が寄る。
手を持ち上げると、斎藤の顔が近づいて触れやすいよう身を屈めてくれた。
眉間の皺を伸ばす。
冷たく冷えた頰を撫で、また笑いかける。
私と斎藤の間に子供はいない。
夫婦であったのは期間にしてたったの九年。戦争ばかりで一緒に過ごしたのはもっと少ない。
人生の長さに比べれば瞬きにも過ぎないけれど、まさしく激動でもあった九年だ。
鬼は死に、剣は折れて、心に空いた空白にはいつのまにか、たくさんの思い出で埋められて、それでも未練は残るけど。
「……たのしかった」
でも楽しかった。
「次はお前を残していかない、そんな相手を選べよ」
頰に当てた手にソッと添えられた斎藤の手。指先まで冷たく冷えついて、微かに震えていた。
眉は下がり、口はへの字を作って、なんとも情けのない顔をした斎藤が震える唇を開きかけ──。
フツリと、そこで意識は途絶える。