リンスイ「さて、お話の途中でありましたが、森山閣下。我々の所有している地図上は、貴国の位置はフィルアデス大陸に中央部の東側に位置しているものと考えられます。フィルアデス大陸は南部の大半をパーパルディア皇国という列強国が占めておりまして、貴国南部西部の国境線はこのパーパルディア皇国に接しているものと思われます。そして、貴国の位置というのが、我々の地図ではリーム王国の存在する位置にあります。北から北東にかけては、マオ王国が存在しております。貴国の所有する地図と我々の持っている地図とでは、どうも正確さが天と地ほどの差がありますので、リーム王国の領土のどの程度が貴国の領土に該当するのかはわかりませぬが・・・。」
森山「なるほど。とすると、我々が遭遇した国境紛争の相手方は、パーパルディア皇国とマオ王国と考えられるということか、あとは、転移に巻き込まれていないリーム王国の人々か。それぞれ、どのような国なのでしょうか?」
リンスイ「そうですな。話の分かる相手ということであれば、マオ王国でしょうか。我々と同じく第三文明圏外の国家として、大東洋諸国会議という第三文明圏外の国家が参加している国際会議にも出席しておりますので、我々は太い外交チャンネルを持っています。我々の持つチャンネルでよろしければ、魔信を使用してお話を仲介いたしますが。」
森山「ありがたいお話です。ぜひともお願いしたいと思います。」
リンスイ「了解しました。一方のパーパルディア皇国についてですが、こちらは細いつながりしか持っておりません。皇国は列強第四位の大国でありまして、大使の交換はしておりますが、我々のような文明圏外の国はあまり相手にされません。先の大東洋諸国会議にも文明圏外の国の集まりになど顔を出す必要がないということで参加しておりませんし、つながりも細々とした程度、ここ数年は我が国が皇国へ派遣した大使も新年のあいさつ以外は難破船の遭難者の引き渡しのやり取りくらいしか外務局との外交は行っておりません。我が国に派遣される皇国の大使も同様ですが、皇国の大使の中には新年の宴会も参加を断ってくる者もおりました。もちろん、話自体はすることができますが、駐クワ・トイネ公国の皇国の大使と話すには、面会予約を取る必要があります。我が国は、向こうの外務局と話す際は、大使が外交局へ向かう必要がありますが、我が国ですと、先の遭難者のやり取りも私か次官が大使館から呼び出されて、向こうの大使館職員と話をするような形となっており、大使と会う機会というのもなかなかとれません。このような形となっておりますので、あまり期待はされないほうがよいかと思います。」
ナーディル「我がクイラ王国はパーパルディア皇国とは直接の付き合いはありません。ここクワ・トイネ公国の大使である私が、パーパルディア皇国の大使と話をすることで、関係を有している程度なのです。もともと、このロデニウス大陸の反対側に位置する関係から、国民同士の交流もありません。マオ王国については、私からも話を通す手助けができますが、パーパルディア皇国については不可能です。」
森山「なるほど・・・。少々骨が折れる話となりますな・・・。徳川閣下、日本政府としてはマオ王国とパーパルディア皇国については、どのように動かれる方針となるでしょうか。」
徳川「まだ、首相にも報告していない段階なので、なんとも言えないが、マオ王国とは交流を結びたいと私は思っている。パーパルディア皇国に関しては・・そういえば、列強というのはどういう立ち位置にあるのでしょうか。私どもの世界でも、列強というのは大国を指すものとして扱われてきましたが、こちらでも同じでしょうか。」
ナーディル「うむ。この世界の列強も貴国の想像通りであると思われます。我々の定義では、国力が特に大きい五つの国家を指し、数多くの属領や保護国を持っている国を指します。上から神聖ミリシアル帝国、ムー、エモール王国、パーパルディア皇国、レイフォルの順番で存在しています。」
リンスイ「そうですな。一位と二位のミリシアルとムーは、それほど文明圏外国家に対する蔑視感情はないと聞きますが、それ以外は蔑視感情が強いと聞いております。パーパルディア皇国とは、下手に接触しない方がよいのではありませんか?」
森山「ご心配ありがとうございます。しかし、国境紛争を停止させなくてはなりません。前線兵士の苦労を思えば、一刻も早い国交正常化を行わなくてはなりません。」
徳川「そうですな。早いうちに皇国のことを知って、皇国を怒らせないように相手がどのようなことを気にしているのかを知っておくことが必要であると私は考えます。ただ、話を聞く限り派遣する外交官の安全の確保が課題ですね。」
リンスイ「あ、その点については一応ご心配なく。外交官の身の上は基本的に守られます。というのも、列強国がそのような取り決めをしていることで、相手国の外交官の生命を害するというのは、文明国の態度ではないというのが、この世界の常識となっております。まあ、もっとも、文明圏外の国家に対してどこまで有効なのかはわかりませんが、少なくとも我が国の皇国大使が危害を加えられたというのはありません。」
森山「なるほど。そういう概念的なところはこの世界にもあるのですね。安心しました。」
徳川「うむ。リンスイ閣下。我が国はパーパルディア皇国と交渉を持ちたいと思います。閣下からのご紹介のお手紙だけでもいただけますと助かります。」
リンスイ「承知しました。ロウリアのほうはいかがしましょう。」
徳川「はい、我が国は旧世界では、国際連盟という世界の国々が参加する組織の理事国を長年務めてまいりました。理事国として、他国の紛争を調停し、紛争を解決してきた実績があります。残念ながら、紛争の調停が整わず、戦争に至ってしまった例もありますが、国際紛争を解決する手段は、まず外交交渉であると固く信じております。その経験を生かして、貴国とクイラ王国、そしてロウリア王国との関係について、仲立ちをさせていただければと思います。」
ナーディル「我々としては、戦争になる前に仲介をしていただけるというのであれば、それは助かりますが・・・。」
リンスイ「まあ、選択肢が増えたことは喜ばしいことです。」
徳川「我が国は、この地域の安定に尽力させていただきたく思います。それが、我が国の安定につながるとも思っております。」
リンスイ「この地域の安定が貴国の安定にもつながるというのですか?距離としてはだいぶ離れており、海を隔ててもありますが?」
徳川「はい、すでに事前協議でもお話しさせていただいておりますが、国交樹立後、我が国は
貴国から食料を買い付けたいと考えております。莫大な量ともなりますので、これを輸送するための手段の構築については、我が国で面倒を見させていただければと考えております。貴国の情勢が不安定な物ともなれば、計画実施に支障をきたすおそれが大であると考えております。」
リンスイ「なるほど。それは確かに。そういえば、クイラ王国側にも尋ねてみたいものがあると以前田中殿が申しておりましたな。」
ナーディル「黒くて、粘り気がある液体とおっしゃっておられましたな。多分そのようなものが我が国とクワ・トイネ公国の国境にある山脈にあるとは伝えましたが。」
徳川「サンプルをお持ちしました。ご確認いただきたい。」
田中一等書記官、ナーディル大使に近づき小瓶を渡す。
徳川「この小瓶の上のふたをこのように回して、瓶のふたを開けてみてください。臭気があるので、あまり強く嗅がないようお願いします。」
ナーディル「ふむ。この色は確かにあのあたりにある水ですな。そして、この臭い、まず間違いないと思いますぞ。」
ナーディル大使、小瓶を返す。
徳川「これは、石油と申しまして、我々の文明が用いている機械の動力となっております。現物を採取して、調査してみたうえでないと確定的なことは申せませんが、もし、この石油が貴国にあるというのであれば、我々は、クイラ王国と国交樹立の際には、この石油を大量に買い取らせてもらいたいと考えております。」
ナーディル「こんなものでよければ逆にもらってほしいくらいです。臭くて、飲めなくて、使いようもない代物です。貴国が本当に欲している物なのか、早急に調査お願いしたい。調査する人間の入国については、私の方から最大限の便宜を図りたい。何か必要なものはありますか。」
徳川「それでは、調査する人間が入国できるような措置と鑑定するための機械や移動する車両の搬入を行わせていただきたいので、我々が確認しているこの油田から一番近いこの港をお貸しいただきたい。船舶で大量の資材を運びますので、資材の集積拠点も近くに設置させていただければと思います。」
ナーディル「了解した。早急に本国に魔信で連絡し、港湾使用の許可とその油田までの間の交通許可を与えるように取り計らうとしよう。」
森山「徳川閣下、我が国もその調査に同行させていただきたい。我が国は大慶、遼河の油田があるので、石油の試掘精製については、我が国の技術が役に立つと思われます。」
徳川「助かります。我が国内には油田らしい油田はないので、どうしても貴国か中東産油国頼りでしたので、そのあたりの技術に不安がありました。」
リンスイ「それでは、クイラ王国も我が国と同じように日本国や満洲国に使節団を派遣されるといい。」
ナーディル「使節団ですか?」
リンスイ「うむ。我が国は、日本国からも申し出があってのことだが、相手国のことをよく知るため、外務局や内務、農務などの中堅以上の職員を派遣することが決まっております。満州国側からも同様の申し出がありましたので、日本国の次にその足で見てきてもらうこととなっております。人選は間もなく完了します。貴国も同様に使節団を派遣し、転移国家の姿を確認される方がよいと思います。」
ナーディル「そうですな。国と国とが交わりを結ぶ以上、相手のことをよく知らねばなりません。我が国も受け入れていただけるだろうか。」
徳川「もちろんです。貴国使節団を我が国にご招待いたします。」
森山「我が国も同様です。連絡要員については、徳川閣下。無線の利用をお願いできますか。」
徳川「そうでしたな。軍艦を通してしか、現状無線が使えませんからな。軍部と協議して、早急に対応を検討します。」
森山「よろしくお願いします。」
ナーディル「では、本国に話を通させなばなりませんので、本日の会合はこれでよろしいでしょうか。」
徳川「この世界のことについていろいろご教授いただき、感謝申し上げる。我が国の外交活動が受け入れられるようこれからもいろいろと協力していただけると助かります。」
森山「我が国の国境紛争を解決するための情報をいろいろ教えていただき、感謝しております。平和を回復した際には、また改めて御礼を申し上げたく思います。」
カナタ「本日の会合が成功したことをうれしく思います。我々の未来が明るいものとなるように我々は協力していければと切に望みます。」
速記を終了した。
※議事録は、クワ・トイネ公国・クイラ王国側が日本語を認識できず、また翻訳作業も不能のため、日本側及び満洲側出席者の署名のみ。