大日本帝國召喚   作:もなもろ

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東征軍壊滅後半月の経過をマオス翁の回想という形で語らせました。会話文なしです。よーーーーやく、5月に入りました。


中央暦1639年5月
ロウリア王国首都ジン・ハーク ハーク城 中央暦1639年5月1日午後1時


 ― ロウリア王国宰相 フランチェスコ・マオス

 

 どうやら我が国は未曽有の危機にあるらしい。日に日に判明する状況がそれを示している。

 

 開戦以来我が国の魔信が不調な状況が続いていたが、ここ最近は時折繋がる日も出てきた。それがために、マインゲン方面とも連絡が取れるようになってきたが、東征軍の状況は最悪であった。開戦初日の奇襲攻撃は失敗し、東征軍先遣隊は壊滅した。本隊は状況を知るために、幾度となく前線へ偵察部隊を送り出したが、彼らは十分な情報を本隊へ知らせることができずに、行方知れずとなった。一度300名規模の強行偵察隊を派遣したが、その部隊は情報を持ち帰るための3名を残して敵に倒されたとのことであった。

 この3名が持ち帰った情報は、敵は魔導兵器を保有しているという事であった。敵は、大規模魔導兵器により、我等の兵の頭上に爆裂術式による攻撃を仕掛けてきた。5個の火球が出現し、爆発したかと思えば、その地にいた兵がなぎ倒されていた。この攻撃で生き残った強行偵察隊員は、それでも30名以上がいた。彼らはこの情報だけでも持ち帰られねばと思い、マインゲンに向けて馬を駆けて戻っていたが、その途中で突然傍らの戦友が血を流して倒れる姿を確認した。敵の姿は見えない。どこから攻撃をされているのかもわからない。一人、また一人と倒れる中残った3名だけが、追撃を振り切りマインゲンに戻ってくることができたらしい。彼らは異口同音に敵の兵力は戦前の予想とは違うと報告していたらしい。

 偵察隊のほぼ全滅という事実は上層部の極秘とされてはいたが、人の口に戸は立てられぬ。徐々に東征軍本体に情報は広がり続け、士気は低下していった。いつしか、脱走兵も出始めた。そして、それを捕縛するための兵力を派遣したところ、彼らの中からも脱走兵がでる始末であった。

 偵察隊の全滅、つまり敵軍の情報についてろくに得られていない状況では、マインゲンから東へ行軍することもできない。東征軍10万の内先遣隊3万は敵に撃破され、残る7万は士気が低下し、脱走兵が続出する軍となった。このような中でもパンドール将軍は何とか軍勢を維持しようと努めている。頭が下がる思いじゃが、事態を好転させるにたる追加の情報はない。

 

 それどころか、アルタラス、シオス、マオの我が国の大使からもたらされる情報の数々は敵の姿がいかに強大なものかを我々に突き付けるものであった。敵は、ミリシアルが保有しているような遠隔地の映像を総天然色で映し出す魔導通信装置などを保有しており、パーパルディアが保有する銃と呼ばれる武器を持ち、我々の軍艦の10倍を超えるような軍艦を持っているというような正直信じられないと思うような情報が数々寄せられた。

 報告を受けた外務局通信官も、通信官から報告を受けた外務卿も、そして外務卿から報告を受けたわしも戸惑いを隠せなかった。直ちに、信の置ける者にこの情報を伝え、善後策を探るべく会議を開いた。わしの閣僚はもとより、パタジン、ミミネル、スマークといった軍部の要人を集めて開いた会議の結論は、直ちに国王陛下に上奏すべしとのことであった。進軍もままならぬ状況では、攻勢計画の少なくとも一部は変更されなければならぬ。

 わしは、即日上奏に及んだ。

 

 4月24日、王宮休息の間(という名の入浴場)において、腕の組んでわしの上奏を聞いていた陛下は難しい顔をして目をつむっていた。わしのかたわらにはパタジン将軍が控えてくれている。陛下はわしに、東征軍は予想以上の被害を被ったのではないかという疑念は少なからずあったということをお漏らしになられた。東征軍には敵前線を蹂躙できるだけの兵力を与えていながら、一向に戦勝の報告がない状況であったため、開戦前の予想通りにはいかなかったであろうことは容易に想像できたとおっしゃられた。だが、どの程度の被害を被ったのか詳細な報告がない状況というのが理解できずに、日々を悶々と過ごされていた。

 魔信がつながらずに王都と前線司令部の間で情報の交換ができないという状況は、戦前の予想の範疇を超えていた。陛下に東征計画の修正を言上してみた。今ならば、嘉納いただけるやもしれぬと思っていたが、パーパルディア皇国からの借財とその借財の返済としてのクワ・トイネの土地を割譲するという約束がある以上、容易に計画は修正はできぬという仰せであった。

 勿論そのことは念頭にあった。パーパルディア皇国からの借財を返済するためにも我等は今一度計画を練り直し、成功率を高めてから再攻勢を行うべきではないかと再度言上した。しかし、それにも陛下は御嘉納いただけなかった。敵の情報が得られない以上計画を練り直すことはできぬであろうこと、そして、一度発した王命を撤回するのは難しいことが理由であった。前者の理由はパタジン将軍が頷き、後者の理由にはわしが頷いた。

 そして、王命に基づき、ロウリア艦隊は既に出航したことが告げられた。思わずパタジン将軍を見ると彼も驚いていた。陸軍の戦果が不鮮明である以上海軍の作戦開始は遅らせるべきではないかとシグネス海軍卿と将軍府は話し合っていた。もちろんその話し合いの席にはパタジン将軍もいた。陛下は我等の疑問に対して、タレーラン公の進言があったことを明かした。

 

 カルーネス軍港を統治するサンデル伯は、150年ほど前にまだ小さな商業港であったカルーネスの港を拡張し、軍港として整備したコリー・ジョルジュ・サンデル伯が、サンデル伯領を貴族領から将軍領に領地転換したを契機として代々海軍卿を自任してきた。歴代国王陛下の信任もあったが、当代のサンデル伯であるコートライル・サンデル海軍卿は、軍港として機能していたカルーネスに隣接した地に商業港を新たに建築しようとしていた。将軍領であるサンデル領は金銭税負担が軽い代わりに軍役負担を重く設定している。その金銭税負担の軽い地に商業港を開設すればどうなるか。サンデル伯が懐に入れる金銭税手数料収入は莫大なものとなることが予想される。この動きには、王国内の商業港を抱える貴族領の貴族が反発を示した。

 しかもカルーネスはクワ・トイネに最も近い地にある。東征後に旧クワ・トイネ領域との間に貿易関係が整備されたときに最も潤う形になるのはサンデル伯だ。そして戦後を見越してのことであろうか。サンデル伯は、クワ・トイネやクイラの亜人の中でも土木建築技術にたけているドワーフ族を招致し、商業港建設を担わせた。

 誤解のないように言えば、亜人を使役すること自体、各貴族や将軍そして諸侯はだれでもやっていることで、もちろんわしも自領には亜人がいる。奴隷階級としてではあるが、領民は自己の財産でもある。無碍な扱いをすることなどありえようはずもない。ここロウリア王国で亜人の姿が見られないのは、ここジン・ハークくらいのものじゃ。暗黙の諒解というべきもので、陛下の御意思に背いているとはいえども、亜人無くして社会は成り立たぬ。亜人が無くなれば、それまで亜人がやっていたことを人間がやることになる。担い手が少なくなるだろうことは容易に想像ができる。

 そういう状況であるが、サンデル伯は亜人を奴隷階級としてではなく平民として招致した。高い技術を持つドワーフを招致するのじゃ、それ自体は理解できる。しかし、それは、サンデル伯に反発する貴族にとって格好の攻撃材料となった。あろうことか、反発する貴族は国王陛下にサンデル伯が亜人を厚遇していると讒訴した。国王陛下はお怒りになり、サンデル伯の爵位剥奪、カルーネスを含む地域一体の領監権限の剥奪、王城への参内資格剥奪、ジン・ハーク市内に下賜された屋敷地からの退去を通告した。讒訴に及んだ貴族も苛烈な王命に驚き、そこまでは望んでいないとばかりに事態の収拾に乗り出し、王の従弟であり、サンデル伯領に隣接するタレーラン公領の当主ウィンチェスター・テルエ・フォン・タレーラン公爵殿下に調停を依頼した。

 調停の結果、爵位と領監資格の剥奪は免れたが、王城への参内資格剥奪、ジン・ハーク市内に下賜された屋敷地からの退去は免れなかった。王領顧問官会議小会議は、基本的に王宮の一室にて執り行われる。参内が禁止された以上、わしの主催する小会議に出席することは能わぬ。彼の代わりに、軍港ダートマスを保有するアンシュール・シグネス海軍卿を小会議に招いた。シグネス海軍卿もまた代々海軍卿を自任する一族であり、シグネス卿もまた海軍の献策のために時折参内していた。その際には、わしも話をしたこともある。ここ数年は、東征計画があったために、小会議にはサンデル伯を呼んでいたことが多かったが、海軍全体の献策という事であれば、シグネス卿であっても問題はない。そして、その見込みの通りに、シグネス卿は王国海軍の差配を取り仕切った。

 だが、王国海軍の指揮官は国王陛下であって、シグネス卿ではない。シグネス卿の命令に依って王国海軍が動くのではなく、国王陛下の命令に依って動く。国王陛下は、タレーラン公にサンデル伯の汚名返上の機会を与えてほしいと言われた。調停以来、サンデル伯はタレーラン公と寄親寄子の関係となり、タレーラン公は寄子の名誉回復のため動いていた。従弟からの依頼もあり、東征軍の情勢が不鮮明で、国内の動揺が見られる中、民心を安心させるためにも勝利が必要と考えられた国王陛下はこの件を受け入れ、出師命令を発した。

 国王陛下が民心の安定のために勝利を欲したことは理解できる。しかし、勝てる見込みはあったのだろうか。それを聞くことははばかられた。国王陛下の決定を揶揄することにもなりかねん。御前を退出して、シグネス海軍卿を呼び出し、東征艦隊の出師を聞かせたところ、彼も驚いていた。彼はすぐさま参内して、出師許可の取り消しを奏上しようとしたが、これは引き留めた。

 王命は簡単に覆してはならない。そんなことをしていては、王権の棄損にもつながりかねない。一方で軍の勝敗は兵家の常であり、軍の勝敗が直ちに王権を棄損することは無い。行政官の立場からいえば、艦隊の出師を撤回しないということはやむを得ない。シグネス海軍卿の立場からいえば、艦隊敗北の場合は咎もないのに責任を取らされる者となりかねぬ。小会議構成員からの離脱を提案したがそれは拒否された。今は、艦隊が無事に戻ってこれるようにシグネス領の艦隊を出動させて道中の撤退を援護したいと話した。

 

 4月26日夜、寝ているところを秘書官に起こされた。東征艦隊の状況が在外公館から外務局に知らされたからだ。その内容は、従前の予想と変わらず、我が艦隊の敗北であった。艦隊の半数が撃沈破され、残存艦隊の多くも被害を受けての敗走であったとこのこと。すぐさま参内し、東征艦隊の敗北を上奏した。陛下は、そうかと一言おっしゃられ、寝室に下がられた。

 27日、わしとパタジン将軍、シグネス卿は、再度参内し、今後の東征方針の再確認を願った。国王陛下は、王宮休息の間(という名の入浴場)において、残存艦隊の再編成と情報収集を命じた。それなくして、方針は立てられぬと。

 29日から30日にかけて残存艦隊がカルーネスに帰投したことが知らされた。被害の少ない艦船から順に戻ってきているようであり、被害が大きい船は途中で応急修理をしながらの帰投となっており、時間がかかっているとのことであった。サンデル伯は自身の判断による艦隊出撃と敗北に対して責任を取りたいと申し出てきた。しかし、我等はそれを拒否した。この未曽有の事態につき、我等は協力して対処していかねばならぬ。

 いろいろとあったが、サンデル伯は有能な行政官であることは間違いない。商業港を亜人を用いて建設するという発想そのものは、悪くないのじゃ。領政も問題ない。領から上がってくる税収は、将軍領にも関わらず貴族領の同レベルの都市と比較しても大差がない。まだ遥か高みに上ってもらうわけにはいかぬ。

 

 しかし、事態はわしらの思うようにはいかぬ。帰投した兵からあがってくる情報は、にわかには信じられぬ情報ばかりであった。曰く、敵は、百発百中の砲を持つ。曰く、水平線の彼方から一方的に攻撃された。曰く、大規模魔導兵器を何十回と展開した。曰く、ワイバーンが敵に到着することなく全機撃墜された。この報告が確かならば、我等は敵に一矢報いることもできずに、敗れたことになる。赤子の手をひねるという言葉がかわいらしく見えるほどじゃ。

 わしは、報告を聞いた後に、少し部屋で一人これまでのこと、そしてこれからのことを考えていた。そこにまたしても凶報が飛び込んできた。

 マインゲン駐屯中の東征軍が大規模魔導攻撃を受けたと東征軍司令部からの緊急魔信が飛び込んできた。ワイバーン基地、歩兵駐屯地などに大爆発が発生。上空警戒していたワイバーンがさらに上昇し、ギム方面を確認したところ、ギム西方陣地より爆発の火炎が上がったとみるや耳をつんざくような衝撃音が少し時間をおいて到達し、我が陣地が燃え上がる情景が発生しているとのことじゃ。まぎれもなく敵の攻撃は、敵軍の陣地からのものに相違ないとのこと。敵は20km離れた地からマインゲンを攻撃しているとのことじゃった。

 敵の進軍準備は整ったという事であろうか。東征計画よりも防衛計画を策定せねばならぬ。あるいは、マインゲンはもう間に合わぬかもしれぬが、マース川を渡らせるわけにはいかぬ。マース川から先はジン・ハークまで平原が続く。敵の動きも早くなることが予想される。東征軍の撤退の許可を頂かねばならぬ。

 わしは、パタジン将軍とともに参内する準備を始めた。

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