大日本帝國召喚   作:もなもろ

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筆者の好きなドラマのオマージュです。パクリともいう。


大日本帝國東京都 警視庁 2675(平成27・2015)年5月2日午前11時

東京都 警視庁刑事部捜査一課

 ― 捜査一課課員 芹山巡査部長

 

『どうして逮捕状請求が認められないんですか!!』

 

 同僚であり先輩でもある北見巡査部長が受話器を片手に怒鳴っている。

 我々は、ここ数日アルタラス産魔石密輸事件の捜査を行っている。魔石は爆発物でもあるため、爆弾を利用したテロ行為を警戒している。魔石を密輸入した男、村田重行(45)が、我々の取調べで供述した魔石の引き渡し先である都内在住の研究者、山本吉三(55)に対して我々は任意での取り調べを行っていた。山本が村田に魔石の密輸を指示した嫌疑が固まったとみた我々捜査員は、一課長の許可を得て、東京地方裁判所検事局刑事部の検察官に逮捕状の発行請求を行った。

 普段であれば、我々の捜査には地検の検事は口を出さずに、直ちに地方裁判所の予審判事に連絡して、逮捕状の発行を願い出てくれる。しかし、今回は担当検事は、予審判事に連絡することなく、逮捕状の請求を却下する旨の返答を行ってきた。

 刑事訴訟法上、捜査の指揮官は検事となっている。検察は警察を指揮し、検事の判断で被疑者の身柄確保に動いたり、家宅捜索を行ったりという建前になってはいる。しかし、実務上は警察が様々な判断を行い、検事は強制処分を行う際のお墨付きを与えるということになっている。

 我々警察官は、検事を飛び越えて、裁判所の予審判事に逮捕状を請求することはできない。だから、北見巡査部長は検事に翻意を願っているという事なのだが・・・

 

『山本は、魔石密輸の共犯です。彼が指示役で村田は実行犯です。この帝都で魔石を密輸して何をしようとしているのか。それを調べるためにも、犯罪を未然に防ぐためにも、一刻も早く身柄を確保する必要があります。なぜ、逮捕状請求をしていただけないのですか。』

 

 電話口で興奮しながら話す北見先輩だが、検事相手に話す態度じゃない。我々巡査部長は判任官。検事は少なくとも高等官である奏任官。格上の相手だ。見ていてハラハラする。

 そんな先輩の側に我々の上司である内園参事官がやってきた。先輩の肩を叩くと、驚いた先輩から受話器を奪い取り、検事と話し出す。懸案の事項についてはこちらで処理すると話して電話を切った。

 

「参事官。どういうつもりですか!!」

 

 先輩がまたしてもヒートアップしているが、内園参事官に促され、刑事部長室に来いと言われたため、後をついていった。北見先輩と俺と後輩の石見は刑事部長室に連れていかれた。

 

――――――

東京都 警視庁刑事部長室

 ― 捜査一課課員 北見巡査部長

 

「部長。これは一体、どういうことですか。」

 

 刑事部長室入室後、開口一番、俺は中村刑事部長にかみついた。これまで捜査の成果が無駄になってしまう。被疑者は爆発物を所持していて騒擾事件を起こす可能性がある。一刻も早い検挙を望んでいたのは、刑事部長も同じだったはずだ。

 

「北見。この捜査は終結する。地検の汪検事からも聞いただろうが、被疑者に対する強制捜査はなしだ。詳細はいわんが、警察の捜査段階でこの事件は終結。これまでの捜査資料は破棄することを命じる。」

 

「納得できません。テロ犯かもしれないんですよ。それを見逃すなんてできるわけがないじゃないですか。」

 

 刑事部長は何を言っているのだ。俺が詰め寄ると、刑事部長室のドアがノックされた。

 

「今取り込み中だ。後に」

 

 内園参事官の話の最中にドアが開き、あの「警部殿」と「鶴公」が入ってきた。

 

「檜上です。」「同じく鶴川です。」

 

「なんだお前たちは。勝手に入ってくるな。」

 

 中村刑事部長が退室を命じると、

 

「僕が彼らを呼びました。」

 

 今まで気づかなかったが、刑事部長室のソファーに座っていた男が席を立ちこちらを向く。小和田公安警保院総裁官房主事がこの部屋にはいた。「警部殿」の飼い主だ。

 

「檜上のことだからこの事件に首を突っ込んでいるんじゃないかと思ってね。この件は非常に高度な政治的な案件なんだもん。こいつにはきちんと話しておかないと、かき回されたらたまらないから、刑事部長には内緒で連絡を取りました。」

 

「かき回すとは心外な。重大なテロ事件かもしれない案件です。事件を未然に防ぐためにも早期の解決が必要ですよ。」

 

 警部殿が大げさな身振りを行い、小和田閣下に反論する。この人はいつもそうだ。

 

「だ、そうだよ。刑事部長。檜上をコントロールするためにも彼には事情を知ってもらいたい。そしてだ。これまで現場で捜査を頑張ってくれた刑事に報いるためにも事情は話しておきたいと思うんだよ僕は。」

 

「小和田閣下の御判断となれば、私に異存はありません。しかし、本来特命に捜査権はありません。このことは幾重にも申し入れさせていただきたく思います。」

 

 中村刑事部長はぶすっとした表情を浮かべたままであったが、小和田閣下の言を受け入れ、くぎを刺すのも忘れなかった。

 

「わかってるよ。檜上、お前もあんまり刑事部長を困らせないようにね。じゃあ、今回の件を説明しておくけど、結論を言うとね、山本吉三は爆弾を用いた騒擾事件を起こそうとしているわけではないという事。まずは、これがすべてです。」

 

 なぜ、小和田官房主事はそう言い切れるんだ。山本と小和田閣下は知り合いなのか・・・わからねえ・・・。

 山本の風体は年相応の科学オタクともいうような感じだった。部屋の中にはドイツ語の本が乱積みされてあり、昔外国の大学に留学していたとかで、優秀な科学者だってことは分かっていたが、研究内容については、新世界で使われている魔信ということ以外は俺はさっぱりだった。

 檜上警部がこれまでの情報から山本の経歴を纏めて確認した。

 

「確か、山本の部屋にはドイツの工学関係の書籍が多かったですね。旧世界では、様々な分野でドイツがトップレベルの科学力を誇っていました。そして、山本は、京都帝國大学工学部を卒業して、同大学院に進学し、ドイツに留学。ドイツ国の最高学府とも名高いベルリン大学に留学していました。彼の研究は通信技術について。察するに魔石を利用した通信技術、いわゆる魔信を研究していたということになりますかね。」

 

「それは、俺たち捜査一課もつかんでいました。しかし、我が国では魔信に頼らなくても通信手段はいくらでもあります。そこへ、アルタラス産の高純度の魔石を手に入れようとした。その魔石は爆発の危険性が高い。だから俺たちは、山本が爆弾テロを起こしかねないと踏んで捜査をしていたわけです。」

 

 これまでの捜査による情報を総合するとそういう疑いがどうしても出てくる。高純度の魔石を密輸して手に入れようとするのは、他者に知られずに手に入れようとすることであって、そこには何かやましい感情が無ければ行われない。しかし、俺たちの予想は少し外れていた。小和田閣下は新事実を俺たちに突き付けた。

 

「実はね。山本が研究しているのは、魔信の技術の中でも、魔信の妨害装置の研究なんだよ。敵同士が魔信が飛ばして交信するのを妨げる。そうすると、意思決定を遅延させ、かつ正しい情報を得ることが困難になるようになる。なんというか、いやらしい研究だよね。」

 

「ちょっと待ってください、官房主事。そういったことは軍の情報機関や諜報機関で行う研究なのではありませんか。一介の民間人にそういった研究を任せていること、それ自体がおかしいのではありませんか。」

 

「うん。檜上の話はそれ自体ただしいと僕も思うよ。だけどね。これには理由があるんだ。実はね。旧世界、つまりね転移前の世界の話なんだけど、彼はねドイツ国の諜報機関、帝国情報庁のエージェントだったことが判明している。」

 

「なんですって。それじゃあ、ドイツに我が国の情報を流していたスパイだったということですか!!小和田閣下、なんでそんなやつを閣下はかばうんですか!!」

 

 驚愕な事実を聞き、俺は官房主事に食って掛かる。芹山と石見が俺の肩を持ち、落ち着けといってくるが

 

「北見くん。おちついてよ。そのドイツも今は国自体が存在しないんだからさ。そんなことでカリカリしてもしょうがないでしょ。勿論、うちの特高だってバカじゃない。ちゃんとそのあたりの情報は掴んでいたよ。ときどき、ドイツ大使館が借りたレンタカーが彼の自宅に行くんだもん。彼は泳がせる対象だったわけよ。

それにね、我が国だって、ドイツに諜報員を送っていたし、現地の協力者はいたんだよ。お互いがお互いでそういうことをやっていて、なんとかコントロールしていた。

それでね、話は変わるけど新世界転移となって、彼らが国の情報を手に入れようとしたって、その本国は今はない。そういった状況下で、在京の各国大使が徳川外務大臣に協力して、我が国に潜伏している外国人諜報員を再配置、つまり、日本国内からロデニウス大陸やフィルアデス大陸に送っていろいろな情報収集をやってもらう形となった。その際に我が国の協力者も正式に開示されているってわけだけど、重要なのは彼ら諜報員がこの魔信妨害装置をロウリア内で起動して、ロウリア側の動きを封じる役目を負っていたってことなんだよ。ね、今じゃ彼らは私たちの貴重な協力者なんだよ。あまり目くじら立てちゃだめだよ。」

 

 小和田閣下の話の内容は分かった。だがそれは外国人の諜報官の話であって、我が国の国民のことではない。そういった俺を後押しして、警部殿が援護射撃を行った。

 

「北見刑事の言うとおりではありませんか。彼は我が国の機密情報を手にいれて、外国に渡していた、そういう疑惑は消せませんよ。」

 

「まあ、二人ともおちついてよ。ここからが重要なことなんだから。件の村田って男に頼んで、山本がアルタラス産の高純度の魔石を取り扱おうとしたことなんだけどね。より高品質の魔信妨害装置の開発に彼は着手しているわけよ。どうもね、最近、装置の出力っていうのかな、そういうのが落ちているみたいなんだって。妨害の効果が薄れているんじゃないかってことでね、高純度の魔石で試してみたいと思っているらしいんだ。でも、そのアルタラス産の魔石の供給量は少ないし、我々はロウリアと戦争中で、アルタラスは中立国。魔石の取引も難しくなっている。ね、山本にとっては、困ったことでしょ。」

 

 なるほど。奴さんがアルタラス産の魔石を入手していたがっていたのはそういう理由からか。過去はどうであれ、奴さんの研究が我が国の国益につながっているというのであれば、今の俺からいうことはねえな。だが、警部殿は。

 

「たとえ、今現在我が国の国益にかなう動きをしていたとしても、かつて我が国を裏切っていたという過去は消せません。まあ、それはさておき、今彼が行った行為は、密輸の教唆という紛れもない犯罪ですよ。我が国は法治国家です。警察官が罪を見逃すわけにはいきません。」

 

 やはりそういうと思っていた。警部殿は国益を前にしても法の建前を重視する人だ。

 

「お前はそういうと思っていたよ。だからね。刑事部長には処分保留をお願いしておいたの。」

 

「処分保留ですか・・・。なるほど、貴方もいやらしいお人だ。」

 

「どういうことですか、左京さん。」

 

「いいですか。この対ロウリア戦争、いずれは、我が国の勝利で決着します。戦争の勝利は国家的慶事です。こういったときは、恩赦が行われます。」

 

「恩赦ですか・・・。なるほど!!」

 

「ええ、山本の検挙を遅らせ、恩赦の時期を見定めて、在宅での公訴提起。そして、そのまま恩赦による公訴権消滅。これで、山本の罪は帳消しとなります。しかし、こういった搦め手はあまり好ましくありませんねえ。」

 

 警部殿が小和田閣下を横目で見ながら話している。なるほど、搦め手か。確かに山本を一度罪に問う姿勢は見せることができるが、茶番だ。閉まらねえ話だ。

 

「恩赦は天皇大権の一つだよ。よもや、檜上、陛下の大権行使に異議申し立てなどと不敬なことは言わないよねえ。」

 

「まさか。そのようなことは臣下として許されざることですよ。ただ、陛下の輔弼者による恣意的な大権補佐は天子の御威光を軽んじることになるかもしれないとは僕は思いますがねえ。」

 

「檜上のいうことは一般論としてはその通りだよね。僕も同感だよ。」

 

 警部殿と小和田閣下がお互い冷ややかな視線で見つめあっている。なんとまあ居心地の悪い部屋だ。話はこれで終わったんだし、捜査一課に早く戻りてえな。

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