大日本帝国の小学校では、クラス内部の運営は学年で異なることが学習指導要領に規定されている。
第1学年と第2学年は特定の児童にクラスの指導的立場を預からせる級長のような職を設置せずに様々なクラス内事務を日直制で運営をする。小学校全体に渡るような活動は行わない。
第3学年では各クラスにつき男子委員女子委員という職を設け、男女それぞれ5人程度を担任教師が充ててクラス運営に当たらせる。委員職は月番での担当となり、学級運営を分担して実行する。
第4学年では、男子委員女子委員が学期を基準として設置される。委員を担任教師が任命する点は変わらないが、委員は各自1名から2名の予備委員を各自で専決任命できる。第4学年以上からは後述する児童会活動が始まる。
第5学年以上になると級長というクラス内男女を統括する職が設置される。第5学年では、担任教師が級長選出についての権限を持つ。しかし、文部省が平成20年に行った調査によると、近年では学級内選挙による選出結果を追認する事例が8割を占めている。級長は、担任教師の許可のもと各クラス内から学級運営に必要な級長補佐及び学級運営委員を指名する。
第6学年では、担任教師の任命権という留保は依然として残されてはいるものの級長選出は、学級内選挙の結果によるものに完全に置き換わる。そして、級長は、級長補佐及び学級運営委員を専決任命する。
大日本帝國における公立小学校児童会は第4学年以上の児童を中心に運営されている。全般的な学校長と教職員会議の指導の下にという制限はつくが、大正デモクラシーから続く民本主義思想は、国民の文明的政治思想の確立には、早期からの自治独立の気風を涵養することが重要との認識にたち、小学校学級活動を通して児童自身による自主自立精神を育み、学級活動学校を活動を通して指導者たる地位に立つ者の心構えや行動指針を育成することを教育目標に掲げた。
この理念の下、小学校児童会は5学年以上の級長及び級長補佐からなる級長会から選出された児童会長を頂点に児童会長が副会長以下児童会役員を原則として級長及び級長補佐から専決任命する。凡その学校において、児童会役員には以下の職がある。
大蔵委員長(児童会年度予算の取り纏めと計画書作成の責任者。児童会長副会長とともに教職員会議における予算を伴う児童会計画に関する発言権(但し評決権は無い)。)
図書委員長(図書室運営の児童側の責任者。購入図書についての教職員会議における発言権(但し評決権は無い)。)
美化委員長(校内校外美化活動における責任者。美化活動における下級生動員権限を持つ。)
給食委員長(給食の献立に関する児童側要望の取り纏め者。献立に関する教職員会議のおける発言権(但し評決権は無い)。)
体育委員長(運動会の運営における児童側責任者。体育委員及びその委員補佐への指揮権限を持つ。運動会プログラム・体育教材に関する教職員会議における発言権(但し評決権は無い)。)
文化委員長(学芸会の運営における児童側責任者。文化委員及びその委員補佐への指揮権限を持つ。学芸会プログラム・美術教材音楽教材等芸術関連科目教材に関する教職員会議における発言権(但し評決権は無い)。)
風紀委員長(児童風紀に関する責任者。風紀規則についての教職員会議における発言権(但し評決権は無い)。)
書記長(広報・書記・各種行事についての責任者。)
学校の規模によっては、委員会の統合が行われる場合もあるが、おおよそ以上のような児童会体制が敷かれている。そして各委員会に各学級の運営委員が分置される。第四学年の男子委員女子委員及びその予備委員は、児童会の指示により、各委員会に分置される。
なお、これが中等学校以上になると体育委員会や文化委員会に各部活動の年間予算配分権が与えられたり、給食委員会改め購買委員会となって購買の仕入れ品についての決定権が付与されたりするなど生徒会の権限が強化される。
―――――
5月30日土曜日19時頃、この時分は夕食どきだ。福岡市内のある一家でも、家族がほぼそろっての夕食が行われていた。なお、次男の善吉は部活動のナイター設備が再開されたことからまだ部活から帰ってきていない。
「ねえねえ。お母さん。今日ね、うちの学校に転校生が来たんだよ。」
「あらま、この時期に転校生なの。珍しいわね。どこからいらっしゃったの?」
「それはねー・・・」
―――――回想―――――
福岡市立○○小学校第六学年に通う福岡涼子の教室では、朝の学活でクラス担任の鳥飼先生から転校生の紹介が行われていた。6月1日からこの小学校に通うこととなったらしい。だが、その転校生が最近国交が樹立されたフェン王国からの転校生だということには、彼女も含めてクラス中が驚いた。クラスがどよめいていると先生が手を叩いて静かにするようにと注意した。
「はい、みなさん。話を続けますね。転校生のお名前は、レイラ・コッポラスさんです。今回、お父様のお仕事の都合で福岡にやってきました。皆さんもテレビや新聞などでご存じのように、フェン王国とは今月の始めに国交が樹立されました。フェン王国は不思議なことに我が国と文字・言語体系が似ているそうです。それでも、言葉やこれまで生活体系の関係で、特別授業ということになりますが、学活は皆さんと一緒にこのクラスで行います。では、コッポラスさん自己紹介をお願いします。」
「はい。ええと、お初にお目にかかります皆様。お父様の仕事で日本にやってきました。レイラ・コッポラスと申します。一日も早く日本での生活に慣れたいので、仲良くしてください。よろしくお願いします。」
担任教師の隣に立っていた少女は、緊張した顔をしたまま挨拶をし、頭を下げる。3つ数えてから、頭を挙げると自分を興味深く眺めてくる少年少女の瞳に恥ずかしさを感じたのか、顔を赤らめて、うつむいてしまう。そんな彼女の姿を見て、担任教師は手を叩いて注意を自分に向け言葉を続ける。
「はい、みなさん。そんなに見つめていては、コッポラスさんが困っていますよ。さて、今日は、新しいお友達が増えましたので、朝の学活をこのまま延長して相互理解を深めるための時間を設けます。級長と級長補佐は前に出てきてください。」
担任教師の掛け声とともに級長たちが前に歩み出てくる。担任教師は教壇の前を彼らに譲るように脇に下がる。福岡涼子の所属する6年3組の級長は児童会長も兼務する井尻豊、級長補佐は別府華子。別府はコッポラスに椅子に掛けるように促した。
「ええと。それでは、これから新しく僕たちの友達になったレイラ・コッポラスさんが、早く日本の学校になじめるように話し合いを始めたいと思います。意見のある方は手を挙げてください。」
男女を問わぬクラス員からの質問が始まった。フェン王国とはどういう所なのか、好きな食べ物は何か、趣味は何か。日本にはずっといるのか。コッポラスはそれらの質問について答えていった。
「フェン王国は、九州地方の長崎県五島列島の西にある小さな島国です。日本で発行されている地図では、日本列島の四国と同じくらいの大きさでした。フェン王国の王は剣王シハンを代々名乗っており、今の王は69代目の剣王です。
私の国では、ここ日本と同じようにお米を食べます。海の近くで育ったので、魚が好きです。趣味は、剣です。でも、趣味というより、我が国ではすべての国民が小さいころから剣を習い、体を鍛えることが美徳とされています。だから、他に趣味と言えば、登山でしょうか。あと海で泳いでもいました。なんだか、体を鍛えているようなことばかりですが、フェン人はそんな人たちばっかりなんです。
お父様の仕事は、フェン王国の領事という職にあたります。我がフェンと最も近く、そして大都市に当たるこの福岡で台湾、九州、朝鮮にまたがる範囲のフェン人の助けを行うことと聞いています。お父様に本国から別命が降るまではこの福岡に滞在することとなっていますが、任期は数年の単位であるそうです。ですので、私たち家族はお父様に付いてきました。日本のことは、我が国と国交が結ばれたときにいろいろと聞いておりました。日本はとても文明が進んだ国と聞いています。そして、実際にこの街に来て、高い建物や走り回る車などを見て、本当にすごいところなんだと驚いています。
お父様の日本赴任が決まってから、急いで日本のことを勉強しましたが、まだよくわからないことばかりです。今度は日本国のことについて教えてください。
」
「では、我が国のことをコッポラスさんに紹介したいと思います。ええ、じゃあ、薬院君からお願いします。」
「はい。我が日本国の正式な国号は大日本帝国といい、君主は 天皇陛下です。・・・・」
クラス員が数人入れ替わって国の概要、歴史、地理、地方史、地方地理、風習、政治経済について一通りの説明が終わると、コッポラスは、席から立ち上がり、全員に対して礼を言う。
「ありがとうございます皆様。大変勉強になりました。教科書の文字を読むのにちょっと苦労していましたから、皆様からいろいろ教えていただいて為になりました。ありがとうございます。」
「しつもーん。さっき、鳥飼先生もおっしゃっていましたが、コッポラスさんが使っている文字って日本語と似ているんですよね。どんな字ですか。」
質問に対して頷いたコッポラスは、担任教師に向かって黒板を使用してよいかと尋ねる。担任教師は許可を出し、コッポラスは、黒板にチョークを使ってフェンの文字を書いた。すると、クラスの内からざわざわとした声がし出した。
「これが我が国で使われている文字の書き方です。これで「おはようございます」と書いてあります。日本の歴史を知ってびっくりしましたが、日本で150年ほど前まで使われていたような書き方だったんですね。縦書きで、文字と文字とを繋げて書くような書き方をしています。」
クラスがざわざわとしていると、涼子の書いているミミズののたくったような奴とそっくりじゃんという男子の声が聞こえた。すると女子から、ちょっと男子ー、あれは連綿体っていうって何度も言ってるじゃんという口撃が始まった。事態の変化を察知した級長は、素早く手を叩き、場を鎮静化させる。
「福岡さん。コッポラスさんにあなたの書いた連綿の書を見てもらいたいと思うんですがいかがですか?」
級長が、福岡涼子に確認をとる。すると、ハッした涼子は、ええ、いいですけどと了承をした。クラスの後ろの棚に置いてあった額装された涼子の書がクラス前方に運ばれ、コッポラスはそれを見るやいなや、目を見はった。
「この書凄いです。流れるような筆致と所々にある墨のかすれ。細太の変化も凄いです。福岡さん。これは貴方が書いたんですか?」
「ええ、まあ。私が書きましたけど。」
「凄いです。福岡さんフェンに行ったら人気者になれます。あっちこっちからひっぱりだこの書の先生に成れます。」
おおーとクラス一同が沸いた。
「福岡ってほんとすごかっちゃなあ。」
「何いーよーとよ。帝展の特別賞を去年貰ったやないね。涼子ちゃんはちかっぱすごかっちゃけんね。」
「なしてお前が偉そうとや。まあ、ばってんゆうても、帝展がどうとかって言ってんなんかピンとこんかったしなあ。」
「あんたんセンスの鈍かっちゃなかね」
「なんちか、コラ。そげん生意気いいよったったらくらすばい。」
「なんね、男子はすぐそうやって腹かいてから。」
またしても暴走しそうになるクラスの一部を級長がたしなめる。
「はいはい。喧嘩しないように。でも福岡さんは凄いですね。コッポラスさん。福岡さんは書道のコンクール。ええと、競技大会で優秀な成績を収めたんですよ。」
「ちょ、ちょっと井尻君。あんま持ち上げんでよー。」
―――――回想終了―――――
「とまあ、こんなことがあったとよ。」
「へー。フェン王国の人がねえ。そういえば、百道浜に新しく領事館ができるって話やったもんねえ。」
「涼子、その子は故郷を離れて友達とも別れて見知らぬ土地にやってきたんだ。心細いことだろうから、仲良くして上げなさい。」
「うん。わかったよお父さん。」
「えらい。さっすが、私の妹。ご褒美に焼き鳥一本追加して上げるわ。真一がね。」
と言って、真一の皿から焼き鳥を一本、涼子の皿に移す彩香。
「ちょ!俺の焼き鳥。」
「なんね。あんた涼子が可愛くなかとね。かー、こげんよか妹なんに薄情かねえ。」
「・・・自分のをやればいいじゃねえーか・・・」
そういいながら、真一は彩香の皿を見たが、彩香の皿は空だった。