大日本帝國召喚   作:もなもろ

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どろどろの展開の内幕的なところを書きました。


満洲帝國新京特別市 国務院外交部庁舎 2675(興信27・2015)年6月4日(木) 午後4時

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 満洲帝國の外交部は、転移以前下記の体制であった。

外交部大臣(国務院閣僚・帝國議会議員の就任が常例)

  外交部次官(事務方のトップ)

  外交部審議官(次官の補佐・特命事項担当:3人)

  外交部政務次官(大臣の補佐・特命事項担当・議会折衝:帝國議会議員の就任が常例:2人)

    外交部大臣官房(総務:長は官房長)

    総合外交司(地域にまたがる事項を総合統括・調整:長は司長(日本省における局長)以下同じ)

    大東亜司(アジア(インド以西)大洋州担当)

    欧州司(欧州ロシアオスマン帝国担当)

    米州司(南北アメリカ大陸担当)

    中東阿州司(中東(オスマン帝国以外)アフリカ大陸担当)

    国際協力司(国際連盟対応・他国援助)

    国際法司(国際法・条約締結)

    領事司(旅券査証・在外邦人保護・入出国管理)

 

 次官級より下が1官房8司の体制であったが、これを以下のように再編した。

    外交部大臣官房(総務:長は官房長)

    総合外交政策司(地域にまたがる事項を総合統括・調整:長は司長以下同じ)

    大東洋司(文明圏外国家担当)

    文明圏司(文明圏国家担当)

    国際協力司(国際連盟対応・他国援助)

    国際法司(国際法・条約締結)

    領事司(旅券査証・在外邦人保護・入出国管理)

 

 再編後は1官房6司の担当とし、空いた2人の司長を特命全権公使としてクワ・トイネとクイラに赴任させた。

 中央勤務と在外勤務のどちらが上位かと問われれば、一概には言えないが、地球基準であれば、少なくとも特命全権大使として国際連盟理事会常任理事国(P8:日英仏独墺伊露米)赴任するのであれば、年俸の面では次官と同等となるため昇進といえよう。それ以外の大使派遣国であれば、審議官級の俸給となり、これも昇進と言えるかもしれない。ちなみに、満洲帝國は、P8の各国と大使を交換している国である。

 しかし、これが特命全権公使として赴任するのであれば、赴任地によりけりである。外務審議官級の俸給が規定されている公使職、司長級の俸給が規定されている公使職、処長級(日本省庁でいえば、部長クラス。局長と課長の間)の俸給が規定されている公使職の3つの区分がある。

 このうち処長級の俸給を与える公使職は現在では存在していなかった。官等の問題でいえば、大使は親任官であり、これは首相や国務大臣に同等であり、公使は勅任官、高等官一等・二等であり、これは次官、審議官・司長(局長)に同等である。にもかかわらず、処長級という奏任官、高等官三等クラスの俸給というのはあまりにも差別的待遇が過ぎるというのが、理由である。

 かつてはアフリカや中南米の国々の公使がこの処長級俸給公使に任じられ、いわば外交官としての練習台として任じられてきた歴史があるが、それらの国々の経済発展とともに司長級俸給公使に置き換わっていった。

 欧州大戦の終結後に締結された国際連盟憲章は委任統治の規定を置いた。史実における委任統治制度と同様に将来的には委任統治領の独立を意図したものであるが、この規定の存在は、戦勝国が所有していた植民地にも影響を与えた。

一例をあげると、20世紀に入り、オランダ領インドネシアで採用されてきた倫理政策は、住民福祉の向上、住民自治の機運を高め、オランダ国王の王冠の下のインドネシア連邦が建国されるに至る。インドネシア議会の制定した法律についての裁可権限をオランダ国王が留保し、インドネシア連邦最高裁判所で裁かれた民刑事事件に対するオランダ王国最高裁判所への特別上訴権を認める内容を持つインドネシア連邦憲法が施行されたのは、西暦1960年代のことである。

 この時点における満洲帝國から派遣される公使は、処長級俸給公使が任命されてきた。これが、1990年代から2000年代にかけて、インドネシア政府からの提案もあって、司長級俸給公使に置き換わることとなった。赴任の時点では処長級とし、後日司長級に格上げする。そして、それを繰り返し、かつ処長級の期間を短くしていった。このような方法によって、転移直前の満洲国外交官は司長級俸給公使を最低ランクとするに至った。

 だが、新世界転移はこの処長級俸給公使を再度復活させた。何しろクワ・トイネとクイラは経済規模・文明レベルでいえば、かつてのこれらの国々と同等以下なのだ。最も、ただ復活させたわけではない。国務院中央官庁の司長を本人に何の問題もないのに処長級の俸給で遇するわけにはいかない。明らかな格下げ人事となる。そこで、処長級公使年俸に赴任地手当の加算をつけることでこれを回避し、さらに司長級よりも手取り額に若干色を付けることで、これを解決した。

 

―――――

満洲帝國新京特別市 国務院外交部庁舎 外交部審議官室

― 外交部大東洋司長 楊大源

 

 あと一時間ほどで定時となるが、ここ数日この時間は、講和問題を担当するエクムント・カスナー外交部審議官の執務室で伊沢泰道総合外交政策司長、ジョーダン・バンクス国際協力司長、孟文玄国際法司長、そして大東洋司長のわたしの5者で会議が行われていた。我々は、当初の予定では、同盟国会議が一週間ほどで、講和条約原案、降伏要求共同宣言原案、休戦協定原案、大東共栄洋憲章草案を練り上げることになると思っていた。しかし、会議が始まってみると混迷を極めていた。

 初日の会議では、講和条約の総合的な方針と領土割譲問題、国王の進退問題がほとんど決まらなかった。

 昨日の会議でも、案件はほとんど合意を見なかった。賠償問題が先送りになった。現物賠償を抑えて、ロウリアが見向きもしていない有用な他の物資を得ようという満日の主張と国内へ戦利品を獲得したという宣伝もある為現物賠償は重要であるという鍬杭両国。ここでも日本人顧問が、賠償を獲得できなければ中央政府に対する求心力の低下を招くと擁護した。軍備制限では、クワ・トイネがロウリアに対する徹底的な締め付けを主張する一方、クイラは広域の非武装地帯と飛行禁止区域の設定を主張し、クイラ側の主張を軸にすることが決まっただけで、陸軍総員数や海軍保有艦船量は決定できなかった。ここでも、日本人顧問が、クワ・トイネがこれまで受けてきた圧迫を思えば、二度とロウリアが侵攻の意図を示さぬよう徹底的な軍備制限を要求すべきであると煽った。

 

「駐日大使に外務省に対してそれとなく聞いてみるように指示しましたが、外務省の方でもここまでこじれるとは思っていなかったと言っているようです。」

 

 私は、陳平和駐日大使から聞いた内容を会議参加者に説明する。

 内閣官房と外務省の役人が陸軍参謀本部と海軍軍令部に事情聴取に行ったところ、参謀本部側は退役軍人の再就職については、陸軍と懇意にしている企業のほうで再就職することが多いが、その全てについて把握しているわけではないし、再就職後の動向について追跡調査をしているわけではない。そのうえで、件の人物は陸軍とはもはや無関係の人間であるという事らしい。一方で軍令部の側は、退役海軍軍人が再就職をどうするのかについては、各個人の裁量によるものであって、これに政府側がどうこう言う法的権限はないはずであるということであった。

 

「陸海軍で若干言い分が違うが・・・。」

「そうですな。審議官、調べてみましたところ、クワ・トイネ軍務局顧問の大野退役少将は、3年前に少将在任中に株取引に手を出して、それに失敗し、同僚から借金を重ねていたところ、素行宜しからずということで、予備役編入されたそうです。その後は、在郷軍人会の支援もあり、アルバイトで生計を立てていたようですが、転移後にクワ・トイネに渡り、今の地位についています。」

「まて、井沢君。そんな素行の悪い人物がどうしてクワ・トイネの軍務局に顧問として採用されたのだ。」

「さて、それは何とも。腐っても少将まで昇進した人物です。やはり、軍事的な知見というのが評価されたとしか言いようがありませんが。」

「話の腰を折って、すまなかった。それで、羽沢退役大佐のほうはどうなんだ。」

「彼は、5年ほど前、勤務中に負傷を負い、その負傷が重かったということで、予備役を経ることなく退役ということになったそうです。退役時は中佐だったそうですが、一階級昇進しての退役という形になっておりますが、その人事に関わったのが、当時軍令部の第二部長の目黒海軍少将です。羽沢退役大佐の細君が目黒少将の娘だそうです。」

「なるほどな。ということは、羽沢大佐は、海軍と完全に切れていないということか。その目黒少将は今どうしているのだ。」

「目黒少将は、中将に昇進して、現在は日本北方の樺太道にある大泊鎮守府の参謀長職にあります。」

「海軍中央とはいささか、いやかなり距離がある感じだな。」

 

「しかし、完全に中央と無関係とは言い切れない。」

 

 カスナー外交部審議官と伊沢総合外交政策司長の会話を聞いていたバンクス国際協力司長が指摘すると、私を含めた皆が頷いた。

 

「身内をひいきした人事を通したと当時言われたそうで、翌年の定期人事異動の際に中将に昇格したうえで、大泊の参謀長職に異動となった経緯があります。」

「しかし、負傷退役という形をとるときに一個階級があがるという形で退役というのは、別に珍しい話ではないと思うが。」

「孟司長のご指摘の通りです。私もまだ調査中ですのではっきりとはいえませんが、おそらく日本海軍内部の派閥争いが原因かと。」

 

 日本海軍の派閥争いというのは、我が国にも聞こえている。澤大本営副総監を頂点とするヨーロッパ、特に英国への駐在武官経験を有する海軍内主流派である派閥と米国他ヨーロッパに赴任経験のない武官を中心とした現軍令部総長柳沢海軍大将を中心とする派閥だ。彼らの間での現在の最大の焦点と言われているのが、海軍特別陸戦隊問題。米国海兵隊を例にとった上陸専門部隊を持とうとする派閥と、上陸戦は海軍の支援の下陸軍が主体となるべきであるという派閥。米海兵隊を例にとるとなれば予算措置を必要とする。いわば海軍拡大派と現状維持派の争いともいえる。海軍のポスト増設といううま味もあり、海軍内部では支持を広げているが、陸軍や政府からは当然のことながらあまり受けはよろしくない。

 

「派閥争いか。人間は3人集まれば派閥ができるというが、厄介だな。」

 

 バンクス司長が苦虫を嚙み潰したような顔でいえば、私の携帯が鳴った。中座して、携帯に出ると、本日の同盟国会議の速報が送られてきたというので、すぐさまプリントアウトして審議官執務室に届けさせた。私たちは皆速報文書に目を通し始めた。

 

「検討課題は先送りとして、先に、降伏要求文書草案を片付けに入ったか。」

 

 カスナー審議官のつぶやきが耳に入った。本日の会議では、これまでの検討事項について再度の整理が行われた。その結果、国王の進退問題については、ハーク・ロウリア34世の国王の待遇はロウリア国内でのみ通用するという一文が日本側より提案され、その方向で決着した。少なくともこの四ヶ国はハーク・ロウリア34世を国王として遇しないということを突きつけることとなった。それ以外の項目は、未だに意見の一致を見ていない。

 そして、降伏要求に際しては、速やかなロウリア政府の降伏、ロウリア軍隊の武装解除、武装解除に際しての監視団派遣、武器の引き渡しと現地での監視団による管理、保障占領の受け入れ、休戦協定は4か月を期限とし、延長は2か月の一度限りとすることが決まった。保障占領地域の拡大については、満日側が拒否したため、クワ・トイネとクイラの両国だけでは対応不可能だろうということで、クイラが取り下げ、そのあとでクワ・トイネも取り下げた。

 明日は、大東洋共栄憲章について討議し、大東洋共栄圏機構の発足条約の審議となる。そして明後日の土曜日、降伏要求文書と休戦協定の仮案を作り上げ、月曜日には再度検討課題の討議となる。ここで決まらなければ、もはや外相会談での決着しかない。

 

「日本の石射審議官と連絡を取る。外相会談は当初の予定通り、来週水曜日でいく。延長はなしだ。」

 

 我等司長はお互いに目くばせして、頷く。

 

「我々は早く兵を引きたい。そして、パーパルディアとの問題の決着をつけたい。西の国境を正式に安定させることが我が国の最優先事項だ。ロデニウスのことはロデニウスがやるべきだ。我々は手伝いはするが、向こうにも手伝ってもらわなければ、不公平だ。そのためにも大東洋共栄圏機構はこの会議で発足させるよう、皆それぞれではっぱをかけてくれ。」

 

「了解しました。」

 

 さて、それではまず、田代君から詳しい話を聞くこととしようか、私を含めて皆が席を立ち、審議官室を後にした。

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