ロウリア王国政府に対する同盟国四箇国政府の共同宣言
一、我等クイラ王国内閣総理大臣、クワ・トイネ公国首相、大日本帝国内閣総理大臣及満洲帝国国務総理大臣は、我等の至高の権力より命を受け又は自己の権限に因り、且我等数億の国民を代表し、協議の上、ロウリア王国政府に対し今次の戦争を終結するの機会を与ふることに意見一致せり。
二、マインゲン、カルーネスを占領せしめたる我等の連合軍は、日々増強を受け、補給を全くし、次なる作戦計画の発動に支障なし。ロウリア王国政府の無分別の行動継続せらるるときは右軍事力の発動とともにロウリア王国首都並びに本土各都市への壊滅的な被害は避けられざることを忠告す。
三、我等はロウリア王国に対し、王冠が至高の存在足ることを理解し、我等の国のそれと同等にロウリア王冠が存在することを尊重し、同盟国とロウリア王国との名誉ある講和達成せられたるときは条約の諸規定に反せざる限り不干渉たるべきことを約す。
四、我等の求むる条件は左の如し(第三文明圏公用語にては「以下の如し」と記載)。
五、ロウリア王国によるクワ・トイネ公国クイラ王国に対する開戦責任は明瞭なり。我等は、ロウリア王国政府に対して今次戦争に対する損害の賠償を要求せむとするに際しては、我等の要求は公正に算出され、根拠のある算定額を確定することを約す。
六、ロデニウス大陸に於ける各国の領有権は、各国固有の領土にて決せらるべきことをロウリア王国は同意すべし。
七、ロウリア王国をしてロデニウス大陸統一と云ふ傲慢なる政治的失策に陥らせたる思想は除去せらるべし。之を助長したる亜人排撃の思想はロウリア王国政府の国策から断固として駆除せらるべし。
八、ロウリア王国を無分別な戦争に駆り立てたる膨大な軍備は制限せらるべし。但し我等はロウリア王国が自存自衛の為に必要とする軍備を抑制するものにあらず。
九、右の如き(第三文明圏公用語にては「上記の如き」と記載)ロウリア王国の新体制が建設せられ、且ロウリア王国政府により新体制継続の保証得られたることの確信あるに至る迄は、同盟国の指定するロウリア王国領域内の地点は右目的(第三文明圏公用語にては「上記目的」と記載)の達成を確保する為占領せらるべし。
十、前記諸目的が達成せられ、且ロデニウス大陸各国の平和と安定に責任を自覚するロウリア王国政府の体制が盤石なるものと確信せられたるに於ては、同盟国の占領軍は直ちにロウリア王国より撤収せらるべし。
十一、我等は、ロウリア王国政府が直ちにロウリア国王の統率に服する陸海空軍全部隊の交戦停止を宣言し、ロウリア王国全軍隊の代表者を含むロウリア王国政府の全権が、同盟国聯合軍との間に、同盟国聯合軍の監視の下にロウリア王国軍隊が自主的な武装解除を行ふことを約す条項を含む休戦協定に署名し、且右行動(第三文明圏公用語にては「上記行動」と記載)に於くる同政府の適当且充分なる保障を提供せむことを同政府に要求す。右以外(第三文明圏公用語にては「上記以外」と記載)のロウリア王国政府の選択は迅速且完全なる壊滅あるのみとす。
神武天皇即位紀元二千六百七十五年即ち中央歴一千六百三十九年六月十一日、クワ・トイネ公国スピアウオータに於て、
クイラ王国内閣総理大臣 アスアド・フラート・アル=バータジー
クワ・トイネ公国首相 エミサスカ・カナタ
大日本帝国内閣総理大臣 山上誠一
満洲帝国国務総理大臣 李陽詢
の四名は同盟国其々の国の政府を代表し、ロウリア王国政府に対して共同して通告することを宣言す。
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アルタラス王国王都ル・ブリアス 王立専用ビーチ
― アルタラス王国第一王女 ルミエス・ラ・ファイエット
ここ数日の秘密会合では、クワ・トイネ公国の地方都市で開かれている日満鍬杭の外交交渉の様子がパソコンの画面に映し出されています。ベルシュ大使は、パソコンの画面を食い入るように見つめております。一方で、ベルシュ大使の秘書官は、マニャール公使の秘書官から、満洲の言葉で書かれた講和問題や降伏要求に関する外交文書や新聞記事を読み上げてもらい、それを第三文明圏共通語に翻訳する作業に追われています。
満洲国の本国からマニャール公使には様々な情報が届きます。情報源として、一番信頼性が高いのは外交文書なのでしょうが、それ以外にも新聞や雑誌の記事が届きます。マニャール公使が言うには、満洲国の外交部から届く情報は、満洲国外交部の主観が入っている可能性がある。外交交渉は日鍬杭の三か国と行っているため、満洲国の報道機関は主に日本国の報道機関と連携して調査を行っており、報道機関の情報から日本国の外交部が考えていることがわかるかもしれないという事でした。そういうことで、他の情報源も一応必要なのだそうです。
本日は、クワ・トイネのマルメディア宮殿で同盟国の政府代表が揃って、ロウリア王国に対して、降伏要求を行う日となっております。今のところ、パソコンの画面は、宮殿の外を映し出しており、各国の政府関係者、報道陣などでごった返している状況が映し出されています。
画面が宮殿内部の状況に切り替わりました。4人の男性が並んでソファーに座っている姿が映し出されています。左から満洲国の李首相、日本国の山上首相、クワ・トイネのカナタ首相、クイラのアル=バータジー首相です。お互いに顔を合わせており、にこやかな表情です。ベルシュ大使が身を乗り出すようにして画面に食いついています。発表はまだか、発表はまだかと小声でつぶやいているのが聞こえます。マニャール公使が私を見て、話しかけてきました。
「この同盟国会議で話される内容については、あとで解説させていただきますが、王女殿下がどう読み解くことができたかについて、試させていただきます。聞きながらメモを取り、しっかり考えていただきますようお願いいたします。」
ハッとしました。外交官を志すわたくしにマニャール公使は課題を与えようとされています。これから発される内容について、しっかりと考えなくてはいけません。
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― アルタラス王国駐箚ロウリア王国大使 ローデリヒ・ベルシュ
これから我が国の運命を左右する敵国の共同宣言の発表が行われる。これまでのこの秘密会合でいろいろと情勢は聞いていたが、それでも信じられない思いばかりが残り続けている。何と言っても、これまでに聞いている情報は敗戦国に要求される講和条件ではない。分が悪い引き分けとでもいうべきか。いや、軍備制限については、おそらく敗戦国のものに相違ないだろうが、我が国はこれまで領土拡大に際しては、西方地域や南方地域に対して軍役を科してきた。つまり、地方領主に軍事力を残しても、それは我が国が使用するために残してきたという側面があり、一概に同じ条件というべきものではない。我が国は我が国として残り、其の軍事力をクワ・トイネやクイラに軍役として差し出すような形ではないのだ。
このような好条件での講和など本当にできるのか。そう不安に思うのも、無理はないだろうて。
『お集まりの報道関係者の各位に申し上げる。私は、クワ・トイネ公国の外交担当閣僚を務めております、ビーデン・リンスイ外務卿と申す。本日の司会を務めされていただきます。』
始まった。なるほど、クワ・トイネで行われる会議であったから、クワ・トイネの外務卿が司会役か。全く本当に満洲国と日本国は不思議なものよ。力関係でいえば、自分たちで仕切るのが当然であろうに。
『これから、同盟国首脳会議で決定された事項について、同盟国首脳から語っていただきます。まず、クワ・トイネ公国首相のカナタより、ロウリア王国に対する、失礼しました、ロウリア王国政府に対する降伏要求通告を四か国宣言文のまま朗読いただきます。続けて、クイラ王国アル=バータジー首相閣下より、ロウリアとの講和交渉を行うに際して、我等同盟国の間で決せられた昇給事項の、その要点についてお話しさせていただきます。次に戦争終結後のロデニウス大陸の安全保障に関しての新たな枠組みについてのお話を日本国山上首相閣下にお話しいただきます。最後に報道各位に質疑応答の時間を設けますので、満洲国の李首相閣下に回答をお願いしたいと存じます。では、カナタ首相からよろしくお願いします。』
『お集まりの報道関係者の各位には、はるばるクワ・トイネまでようこそお越しくださいました。では、これより、我等同盟国の協議で一致した共同宣言を朗読いたします。』
先を聞くにつれて、わしはどんどん興奮した。誠にこのような講和要求で来るとは思わなんだ。これで、ロウリアは滅びぬ。確信が持てた。
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― アルタラス王国駐箚満洲帝国特命全権公使 ローズモンド・マニャール
小一時間に及ぶ共同会見が終わった。ベルシュの親父は椅子の背に持たれかかってぐったりしているわね。
「どうかしら。多少の差異はあるでしょうが、大体はこの秘密会議で協議した事項とそう離れていないわ。この好条件の内容で本国を纏められないなんていう訳ないわよね。」
親父を睨みつけながら、話しかける。タオルで顔を拭いた親父は、ああと話し出した。
「無論、一方的な敗戦にも関わらず、この内容だ。本国も嫌とはいえぬまい。いや、マオス宰相と秘密裏に話した所によれば、東方征伐軍と征伐海軍が一方的にやられ、カルーネスも占領されておるのだ。本国は動揺しておる。きっと、宣言を受諾するであろうよ。」
「そう、其れなら安心ね。ところで、王女殿下。」
わたしはベルシュの親父からルミエス殿下に顔を向けて話し出す。
「はっ、はい。何でしょうか。」
あら、びっくりしちゃってカワイイ子。さて、今日のレッスンを始めるわよ。
「リンスイ卿のあの冒頭での発言についてです、あれは実際には、単に噛んだだけ思いますが、見方によっては、この降伏要求の共同宣言の性格を説明づける大きな違いの一つなのです。多分、この放送をロウリア政府の首脳が見ているとしたら、意味のあるメッセージになりました。まあ、残念ですが、そんなことは無いんですけれどもね。これについて、殿下は説明できますか。」
ええと、ええとと俯き加減にペンを顎にあてて考え込んでいるわねえ。実に真剣な表情ね。フフ、いいわあ、わたしもこの子のころには建国大学で猛勉強してたっけ。懐かしいわあ。学生時代の懐かしい思い出に浸っていると、首を傾げたベルシュ大使が話し出した。
「お主はちとスパルタ過ぎじゃのう。まだこの辺りの機微を理解するのは、王女殿下には難しいのではないか。」
なにさこの親父は。わたしの可愛いルミエスをバカにしようってんのかしら。ホントに失礼な親父ね。