― ロウリア王国宰相 フランチェスコ・マオス
6月12日に我が国の駐アルタラス大使と駐シオス大使がそれぞれ日満両国から我が国政府への降伏要求文書を受け取ってから既に二日。昨日、今日と連日にわたり御前会議を奏請し、その席には普段は顧問官会議に招集しない王領顧問官に王城に参内するように召喚状を発した。何と言っても、これは我が国の存続を決める一大事。可能な限り多くの者の賛同を取り付け、諸侯の共同の下に我が国を降伏に導かねばなるまい。無論、そうは言っても、顧問官会議を降伏で取りまとめるためには、この期に及んで好戦的な言辞を主張する領監を呼ぶわけにはいかぬ。この一月の間、諸侯の動静を注視し、降伏に賛同しそうな諸侯と少なくとも積極的な反対意見を述べぬであろう諸侯をリストアップし、そういう連中のみ集めた。
しかし、現実はそううまくはいかぬ。御前会議は、国王陛下の御臨席を賜って行われるものである。この差配は、顧問会議議長であるわしが行うものではあるが、国王陛下が参列を認めたものを排除できるわけではない。そういうわけで、ややこしいことに王太子殿下が参列した。
王太子殿下はこの戦争の現実をしらぬ。御年19歳の国王陛下の後継者であられ、テールマエ騎士団という近衛部隊の名誉副団長職にある。だが、この部隊は前線には投入されぬ。儀仗部隊でしかない騎士団のぬるま湯につかり、周囲もロウリア至上主義者、領土拡大主義者などの過激派が多く、我が国を取り巻く情勢を正しく理解していない。故に斯様な発言が出る。
「ロウリアはロデニウス大陸を統一する。この大地は人族が支配し、人族のみが生活する楽園なのだ。余は、この真理は、全ロウリア人が信奉する思想であることを信じている。この楽園を作るために東方征伐軍は出征していった。なるほど、確かに彼らは凱旋してきておらぬ。だが、クワ・トイネとクイラの亜人どもも国の存亡がかかっているのだ。頑強に抵抗しているのには、違いないであろう。故に凱旋が遅れているのは確かにその通りなのだろう。だが、余は我が陸軍の精鋭が凱旋して、彼らが戦勝の栄誉に浴するその日が来ると固く信じてやまない。にも拘わらずなんだこの集まりは。マオス。お主は、我が陸軍の精鋭を、名将パンドール将軍の指揮能力を疑うというのか。恥知らずにもほどがある。東方征伐軍が敗れたなど誰が信じるというのだ。敵の謀略に乗せられているとはなぜ考えぬ。陛下。このうつけ者どもを罷免して、真のロウリア人を、偉大なるロウリア人こそを陛下の側近に取り立てなさいませ。」
王太子殿下に追従する者たちの声が聞こえる。陛下はなぜ王太子殿下の臨席を許可したのであろうか。陛下は、我等の報告する国軍の現状について、おおよその御了解を頂いていたというのに・・・。
「マオス。お主の罪は重い。虚偽の上奏をし、国家の行く末を間違った方向に推し進めようとしておる。もはや売国奴というべき所業だ。なぜだ。陛下の忠臣であったはずのお主がどうしてこのような愚かな行為に手を染めているのだ。お主の家は長く我が王家に仕えてきたではないか。お主の所業はお主の父祖の顔に泥をぬるのと同じ行為なのだぞ。テールマエ家累代の恩を忘れたのか。」
「いえ、私は父祖と変わらずテールマエ家の忠実な臣として、今回敵国より発せられた我が政府に対しての降伏勧告を受諾すべきであると奏上いたします。」
わしは、王太子殿下に対して異心無き事を示し、衷心からこの降伏勧告を再度言上した。しかし、王太子殿下は激昂され、まだ世迷言を吐くのかとわしを詰った。その間を取り持っていただいたのは、王族の一人たるタレーラン公爵殿下であった。
「お静まり下され、王太子殿下。マオス宰相のお言葉は間違いとは言い切れませぬ。」
「従弟叔父上、いえタレーラン公爵殿下、なぜこの痴れ者をかばいだてなさるのですか。」
「我が領は、占領されたカルーネスの隣地にございます。それゆえ、カルーネスの地にクワ・トイネやクイラの旗が翻っていたことを実際に家中の者が確認いたして居ります。カルーネスは我が国随一の軍港です。防備も強固でありました。にもかかわらず、わずか半日でそのような状況になりました。これは、敵の軍事力が強大であることを示しております。東征征伐軍が敗れたということは充分にありうることです。」
その通りじゃ。カルーネス陥落、このことは今思い出しても寒気が止まらぬ動きであった。
5月22日、午前9時、突如として、カルーネス軍港に敵が襲来した。そして、その敵は、我等の所有する武器の射程外から一方的に攻撃をしかけ、たちまちのうちに軍船数隻が破壊された。我々が、鉄竜と呼んでいる敵の兵器が10騎ほどカルーネス上空に現れ、大音量でカルーネスの守備軍に降伏要求を連呼した。軍船は、帆船は帆を閉じ、櫂船は櫂を上げ、そして、錨を海中に下ろし、白い旗を掲げるようにとカルーネス上空で何度も連呼した。
カルーネスのサンデル伯領別館、通称「海軍本部」に対しても敵は明け渡し要求を突きつけてきた。海軍本部は正面玄関から港まで一直線に伸びる道路があった。港湾の様子がわかるようにとあえて何も建物を作らせなかったことが、この建物が特別なものであることを示していたのであろう。
敵の攻撃が始まって以来、海軍本部から王都へ魔信がひっきりなしに届いていた。至急救援を乞うという内容である。王国のワイバーン隊は、ギム攻勢敗北やマインゲン陥落の際に喪失した350騎、4月26日に東征艦隊が大敗北を喫した海戦の際に250騎以上が撃墜され、開戦前に有していた数の5分の1程度にまで減少した。王都を守護するワイバーン隊は110騎ほど。地方の王領からや諸侯に軍役を課してかき集めた混成部隊じゃ。もはやこれ以上減らすことはできぬ。だが、パタジン将軍やミミネル将軍などの武官は、「救援要請を無視することはできない。この救援の魔信は我々以外も傍受している。ここで我等が救援を出さねば、王国軍全軍の士気が崩壊する。」と言い、反対するわしら政府側を説得し、100騎ほどを救援に向かわせた。
カルーネスでは、わしらが救援要請について議論しているさなかに敵の海軍部隊が上陸を開始した。海軍本部からの最後の魔信によれば、高速力の船10数隻が接岸し、内部から我等が鉄竜と呼んでいるこれまた高速で動く馬が引かない馬車が海軍本部を強襲し、瞬く間に内部を制圧。4月26日の海戦で捕虜となったシャークン提督の跡を継いだホエイル提督も捕虜となり、クワ・トイネ公国海軍海兵隊第一部隊長を名乗るトーマス・ブルーアイ海軍大佐より、カルーネス海軍本部制圧の魔信が王都に向けて発せられ、サンデル城の防壁の一部を破壊したとの通告が併せて行われた。そして、彼からサンデル伯の助命と引き換えにクワ・トイネ海軍海兵隊によるカルーネスを含むサンデル伯領の間接統治をサンデル伯に受諾するように説得を頼むという話が寄せられた。わしは、サンデル伯領の間接統治ということは、サンデル伯から統治権限を剥奪しないのかと問いかけたが、その通りであるとの回答が来た。統治の根本方針や、伯の施策の具体的行動に関する拒否権は海兵隊司令部が留保するが、原則としてサンデル伯の統治権限を侵奪するつもりはないとのことであった。具体的な占領方針については、サンデル伯と交わすが、サンデル伯が王都と通信を行うことについては制限を加えるつもりはないという事であった。わけがわからぬ。
ともかく、サンデル伯に連絡を取った。彼によれば、確かにサンデル城の正門付近の城壁が破壊され、無防備な状況を晒しているとのことであった。防衛機能が根こそぎ奪われており、戦闘の継続が困難であったところに降伏勧告が来た。しかし、その降伏勧告はまるで意味が分からぬものであり、困惑しているところであったという。わしはサンデル伯に降伏するよう説得した。戦闘の継続が困難であるのであれば、無駄死にが増えるだけであろう。それよりも、クワ・トイネの不可解な降伏要求について相手の意図を探り出すようにと依頼した。
こうしてカルーネスは半日もたたずに陥落した。救援に向かわせたワイバーンは、撤退命令が間に合わず、半数ほどが撃墜されたそうじゃが、56騎が引き返してくることができた。
それ以来、サンデル伯とは3日に一度通信を行い、情勢の把握に努めておる。占領軍の軍紀はすこぶる良好とのこと。略奪や婦女暴行の事件の発生はなく、サンデル伯はカルーネス軍港の一部の地域の施政権を停止された以外は領主としての権限を剥奪されていない。面妖なことじゃ。
「タレーラン公爵殿下はサンデル伯の寄親でいらっしゃいましたな。そのサンデル伯は我が祖国を裏切り、クワ・トイネの亜人共と手を組んで、クワ・トイネの亜人を引き入れた。我がロウリアの神聖な国土を汚した謀反人ではありませぬか。殿下は寄子の裏切りという責めから卑怯にも逃れようと、亜人共がカルーネスを襲撃し、これを陥落させたなどと虚言を弄しておられる。陸上からの攻撃ではなく、海上からの攻撃でカルーネスが陥落したなど夢物語もいいところだ。いったいどこの世界に海軍が、戦闘艦船が存在し、防備を固めた地域に兵を送り込んで制圧したなどという話を信じるというのだ。サンデル伯の手引きがあったと考えるのが妥当であろう。謀反人の寄親である以上、タレーラン殿下にもその責めは負っていただかねば示しがつきませぬぞ。」
「王太子殿下。サンデル伯は、王国を裏切ってなどおりませぬ。敵の攻撃があまりにも強大であり、やむなく敗れたのです。サンデル伯家は代々のテールマエ王家に仕えた忠臣です。当代の伯もその志を失ってはおりません。」
「これは驚きだ。当代のサンデル伯は、陛下の逆鱗に触れ、王都を追放されたではないか。歴代の忠臣がなぜそのようなことになったのか、殿下はお忘れか。」
「そのことについては、伯も罪を償いたいと東征艦隊を出師させた。伯の忠誠心は疑いようもないことですぞ。」
「だが、東征艦隊は負けて帰ってきたそうではないか。偉大なるロウリア海軍が敗れる。これはすなわち伯の忠誠心が足りぬから起きたことだ。今もなお果敢にクワ・トイネに侵攻しているパンドール将軍に比べれば大きな違いだ。なぜ、殿下は、その事実を直視せぬのだ。」
パンドール将軍は既に敗れて敵の捕虜となっておる。クワ・トイネ側から捕虜名簿がマインゲンを通して送られてきておる。
それにしても、陛下はなぜ一言も発しないのだ。このままでは、敵の我慢にも限界がある。侵攻が再開されれば、このような好条件での講和など無理だというのに・・・。
再びアンケート取ります。
空軍の降伏要求紙ビラ作戦の実施。ちなみにあってもなくてもロウリアの降伏は決定事項です。
作戦実施のときは、航続距離が優れた戦略爆撃機をつかっての実施になります。ジン・ハークにいるロウリア人だけではなくて、パ皇の人間とかもその空の要塞を視認します(但し本国が信じるとは・・・)。そして、おとなしくなります。
実施しないときは、ちょっとだけ降伏が遅れます。
降伏勧告紙ビラ投下作戦の実施について
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作戦不実施
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