フェン王国内の地図ですが、コミック版のものよりもゴトク平野はニシノミヤコよりです。
フェン王国首都アマノキ 日本公使館
「軍祭・・・ですか?」
フェン王国首都アマノキに最近開設された日本公使館は、フェン王国の政府施設を提供されたものである。外観は、江戸時代の大名屋敷に近いもので、長屋門を構えている。最近になって、御守殿門(東大赤門の外観)に近い形の正門を建設中である。
駐フェン王国公使の島田大吾は、訪ねてきた御側衆筆頭マグレブに聞き返した。
「左様です。5年に一度の頻度で我が国が催しております武技を競う大会でありまして、各国から武官を呼び、自国の装備などを披露していただくものでございます。」
「ええと、それは、武道の大会というようなものですか?」
島田は、外務省職員には珍しく財団法人大日本武徳会の下部団体である大日本剣道会の会員でもある。錬士の称号を得ており、剣道七段の腕前である。剣道の大会が開かれるという事であれば、自分も参加しようと思っていた。
「貴国でいう所の剣道や柔道の大会ということですな。我が国の軍祭はもちろん武道大会を行うこともありますが、それだけではございませぬ。各国の武官が自国の武器を紹介して、その性能を教えあい、軍事力を高めあうことを目的ともしております。」
「ええと、武器の展示などを行うという事でしょうか。失礼ではありますが、我が国の保有する武器は、皆様方の参考にはならないと存じますが・・・。」
島田は、失礼にならないように日本が軍祭に参加することでフェンが得られるメリットはないことを説明する。日本が保有する武器を運用するためには、武器輸出しかない。そして、現状日本の武器輸出は、クワ・トイネとクイラに限定されており、輸出の枠は無いため、フェンやその他軍祭参加国に求められても販売は厳しい。
それに日本軍の保有する武器の価格は、フェンなどの国々にとっては高額である。日本にとって、クワ・トイネとクイラは、同盟関係を結んでおり、且自国の生存戦略上必要な国でもあることからお友達価格での販売となっている。もちろん、実際に武器を製造するのは企業には、政府からの協力援助金と畏れ多いことに御内帑金から一部補填もされている。このような関係のない国に対しては各企業は政府調達価格での販売のみを考えており、簡単に手が出せる金額ではないし、弾薬の補給を考えれば、現実的ではない。
しかし、マグレブの意図するところは違っていたようだ。
「無論、国交樹立以後貴国駐在の我が国の公使が調べたところ簡単に手が出せるものではないと私たちとしても理解しております。しかし、それでも貴国の兵器を一目見たいと思う者は多数おります。そして、それは軍祭に参加している各国も同じであります。現に我が国には、今年の軍祭には日本国は参加するのかという問い合わせが来ております。各国噂の日本国の武力のほどを見てみたいと思っておるようです。そして、それは貴国にとっても武力を誇示する良い機会となりましょう。貴国にとっても損はないものと思います。今後、様々な国と交渉するうえでその力の背景は貴国に利するものになると思いますが。」
マグレブの意味するところは、武力により他国を威嚇することを差して示しており、それは日本国の国是と相いれないところがあった。
「マグレブ殿。我が大日本帝国は君主である天皇陛下の思し召しにより、外交関係にある他国を軍事力を背景に威嚇したり、他国を脅して、自国に有利な交渉を行うようなことは不名誉な行為であるとされております。そのような目的で開かれる軍祭に我が国が参加するようなことはないと思います。拙作のお誘いですが、本国に対して私から取次を行うことは」
「あいや、待たれよ。誠にもって申し訳ござらぬ。」
マグレブは島田の発言を慌てて遮って、謝罪の言葉を口にし、頭を下げた。
「駐日公使から貴国の国情について聞いておりましたが、今一つ理解できぬというか、誠なのかという疑念があり申して、試すような話になってしまいました。誠に以て申し訳ござらぬ。」
島田は、はぁと気のない返事を一つした。マグレブは続けて話しかける。
「我々の理解としては、貴国のような強国はその軍事力を背景にして、弱小国家を従えるような行動に出ると予感しておったのです。現に隣の大陸国家パーパルディア皇国は軍事力背景に70以上の国を従える大帝国を作り上げました。パーパルディア皇国に派遣経験のある駐在武官を今回貴国に派遣しましたところ、彼は、大日本帝国はパーパルディア皇国以上の技術力や経済力を有する文明国であるが、その中身はパーパルディア皇国とは全然違い、国民は温厚であり、他者を見下さず、他国を支配するような威圧的な外交を行う虞はないと報告しておるのです。私どもとしては、我々の常識の範囲外のことで、誠に以て信じがたく、今回このような話をして、島田殿を試したという形でして・・・」
「はぁ・・・。しかし、その、私どもとしては、その・・兵器の性能を見せびらかしたいというような感覚はないわけでして・・・」
事態は島田の考えとは違っていたが、優れた兵器を見せたら欲しくなるものであり、購入希望の打診をされても困るので、軍祭参加を辞退しようと話し出した。
「いえいえ、我々としては貴国の兵器を見てみたいと、そういう気持ちが強いわけでしてね。例えばです。島田殿も幼少のころ、刀や鎧がかっこいいと思った経験はございませぬか。」
島田は過去の記憶を思い出してみた。そういえば、小学生のころ軍艦や戦車のプラモデルを作ったことがあり、その時は戦艦大和や七式中戦車の完成したプラモを見て、かっこいいと思った経験がある。
「まあ、それは。確かに小さい頃は軍艦の模型などをかっこいいと思ったことはありますが・・・。」
「そうです。そういう感覚なのですよ我々は。貴国の兵器がどんなものか見てみたいという好奇心のようなものなのです。おそらく御懸念されている貴国に対する兵器の購入打診ですが、それは我が国から参加国に事前に注意を行います。日本国の兵器は高価であり、購入を打診されても日本国としては困るだろうから、そういうことはしないようにと。」
マグレブの熱意に島田もこれ以上の参加辞退は失礼であると考えた。
「わかりました。とりあえず、本国に取次は行います。ただ、参加を決めるのは本国ですから、それ以上のことはお約束できかねますが。」
「おお、かたじけない。感謝いたす。我々も駐日公使に連絡を取り、軍祭に関して、貴国の政府と軍部に話を行うように指示を送ります。しかしあれですな、貴国から供与していただいた長距離無線とは便利ですな。往復の書簡を貴国とかわすとなれば、半月以上はかかるところを一瞬ですからな。ハハハ。」
マグレブが闊達に笑いながら謝意を示せば、島田も朗らかに笑いながら、手を差し出す。とりあえずは、交渉が和やかに終了したので握手を求め、マグレブもそれを理解し、島田の手を握り返した。そして、マグレブは島田の手に剣ダコができているのに気づく。
「時に島田殿。貴殿も剣を持つようですな。」
島田は苦笑して、まあ、剣道を少々と返した。マグレブはにやりと笑い、島田を軍祭での剣道大会に参加するように誘った。島田は、業務に支障がない限りは前向きに検討させていただきますと返答した。
マグレブは日本公使館を出た。すると、マグレブの付き人が彼に話しかけた。
「交渉がとりあえず首尾よく終わりましてよろしゅうございました。しかし、日本国は大丈夫なのですか、あのように弱腰な外交感覚で。きっと舐められてしまいますぞ。」
「・・・まあ、よそ様の国にはよそ様の事情があるのだ。我々がどうこう言う問題ではないし、それに我々にとっては友好的な国がよいのも事実だろう。」
「それはそうですが。」
マグレブは日本公使館に振り返り、重厚なたたずまいを見せる長屋門を見る。長屋門の二階から日章旗が旗指物を掲げる形で掲げられていた。その日章旗をマグレブは心配そうな目で見ていた。
―――――
フェン王国南部ゴトク平野
フェン王国第二の都市として栄えているニシノミヤコは国土の西側にあり、首都アマノキは国土の東側にある。この間を繋ぐ街道上には1km間隔で樹木が植えられている区間があり、ある程度整備されている。だが、このゴトク平野はそういった整備がされていない土地で広大な原野が広がっていた。
ゴトク平野に進入する手前には、それぞれ宿場町が置かれている。アマノキ側にはシロヒゲという人口7000人ほどの町があり、ニシノミヤコ側にはコミナトという小さな漁港が併設されている5000人ほどの町がある。コミナトは小さい港町ながら、10トンから20トンぐらいの船ならば、1,2隻くらい停泊できる余裕がある。
このコミナトへ日本人の集団がやってきた。彼らは東宝株式会社の映画企画部の社員たち。スーツの集団の中にあって私服でサングラスをかけた老人がいる。彼の名は、白沢勝英。日本映画界の至宝として名高い彼の作品は日本国内のみならず世界的な評価を得ていた。彼が好んだテーマは時代劇。それも合戦物。平成24年に公開された『桶狭間』は、同年の日本アカデミー賞受賞策となり、カンヌ国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭、ベルリン国際映画祭のすべてで何らかの受賞を果たした。
白沢は、70半ばに至り、自分の映画人生の全てを掛けた大作を、ここフェンの地で撮影しようと考えていた。
「素晴らしい原風景だ。」
白沢はゴトク平野を見て感嘆の声をあげる。
「監督、やはりこの地で撮影を?」
「うむ。いいね、この大荒野は。電信柱などなにもない、自然の大平原だ。ここならば、変なものが映りこむことを心配する必要がない。矢山君。どうかな、東宝は僕の作品をここで撮らせてくれるかな?」
東宝映画部門の矢山映画企画部長は、満面の笑みを浮かべ、肯定の言葉を述べた。
「もちろんでございます。白沢監督の傑作をまた生み出せるとなっては、わが社としては全面協力するより他にありませんよ。」
「ふふ、いやあ、年甲斐もなく興奮しているよ。僕は。どんどん映画の構想が頭の中に湧き上がってきたよ、おや、ちょっとお嬢さん。」
はい?とふり帰る現地の案内役の町娘。
「私に何か御用でしょうか?」
「ああいやね。君のその頭の簪なんだけど、ちょっと見せてくれないかい?」
白沢監督が気になったのは、町娘の頭にさしてある簪がとてもきれいな細工がしてあったからだ。町娘は簪を頭から抜き、白沢監督に差し出した。
「ううむ。これは、なんという精巧な細工なんだ。そして、美しい模様だねえ。お嬢さん、これは?」
「ああ、これは最近になってコミナトの東に広がる大森林にやってきた人が作り始めた品なんです。何処の誰かは知らないんですが、物凄く器用な方のようで、大森林地帯で切り出した木を使って、こんなかんざしを作っていらっしゃるんですよ。」
「ううむ。いいねこれは。この小道具はぜひ使いたいね。うむ。ますます気に入ったようん。」
そういって、簪を町娘に返した白沢監督は満面の笑みを浮かべたまま、矢山部長に声を掛ける。
「楽しくなってきたよ部長。是非ともその誰かさんと交渉して、小道具を作ってもらうじゃないか。このフェンの地で作られた小道具で映画を作る。」
「了解しました。その細工師の方にアポをとってみましょう。監督、それで今回の作品のテーマはお決まりですか。」
「ふふふ、そうだね。この大平原を騎馬隊が駆け抜けていくシーンが頭に浮かんだよ。それにもってこいのテーマとなれば、「川中島」か「長篠」。これだね。」