大日本帝國召喚   作:もなもろ

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ロウリアの事情を今少し説明してみました。そろそろ、講和会議本番です。


中央暦1639年7月
アルタラス王国王都ル・ブリアス ロウリア大使館 中央暦1639年7月1日(水)


 ロウリア王国政府は6月28日に休戦協定を締結後、直ちに日満鍬杭四か国に講和を請求した。

 6月29日、駐アルタラス王国ロウリア大使ローデリヒ・ベルシュは、アルタラス王国首都ル・ブリアスの外務局を訪問し、アルタラス王国外務卿シモン・ド・ユグモンテと面会した。ロウリア大使は、この席上、口頭にて、アルタラス王国に日満鍬杭四か国との講和仲介の要請を行った。これに対して、アルタラス外務卿は直ちに日本公使館と満洲公使館、クワ・トイネ大使館へ使者を走らせ、講和請求受諾の諾否を尋ねさせた。クイラに対しては、クワ・トイネ大使からクワ・トイネ本国に照会をさせ、同日中に四か国全てが講和受諾の返答を行った。この際、アルタラス外務局は、クワ・トイネ公国大使を通じて、クイラ王国外交官のアルタラス入国を認める旨の通牒を発し、日満鍬杭四か国及びロウリア王国に対して一週間以内にアルタラス王都に全権を派遣するように外交通知を発した。

 

「ユグモンテ卿から講和会議の日程通知が届いたそうだな。」

 

 秘書官に話しかけるベルシュ大使は、大使執務室の予想される講和条件とのその回答の最終確認を行っていた。勿論、おおよその講和要求については既に日満両国と調整済みである。大使は、執務机の椅子から立ち上がり、秘書官をソファーに促して、自己も対面に座った。

 

「はい。講和会議は、アルタラス外務局迎賓館にて行われることとなりました。日時は、7月6日月曜日を第一回の交渉となっております。この席上で日満鍬杭四か国からの共同講和要求が通知されます。第一回交渉では、要求条項の説明と文言についての確定、割譲される予定地域の正確な範囲の確認に焦点が置かれまして、この内容を我々が持ち帰ります。そして、13日から本格的な交渉ということになります。予想される、講和要求の内、領土割譲、軍備制限、賠償、国法改正、保障占領の5区分に分けて、それぞれについて詳しく討議される予定となります。この内、領土割譲については、マインゲン割譲については本国も完全に同意しており、もめることはありません。」

「うむ。ということは、軍備制限、賠償、国法改正、保障占領については交渉が必要ということだな。」

「その通りです。まず、軍備制限についてですが、既にギム方面の戦闘とマインゲンでの戦闘で国軍の多数が喪失しております。また海上戦力も大幅に失っております。ですが、それぞれ未だにクワ・トイネ公国とクイラ王国の陸上兵力を凌駕しているらしいです。」

 

 ベルシュ大使の目がカッと開く。驚きの表情を浮かべて、パンドール将軍の東方征伐軍は10万が動員され、それが瓦解したはずであり、10万減ってもまだ我が国の方が陸上兵力が多いとはどういうことだと問い分けた。

 

「死傷者数は概算ですが東征軍の3万から4万程度とのことです。数の幅が広いのは、負傷した捕虜がどの程度いるのかがまだ通知されていないこととが原因です。ギムの戦闘で15000名ほどが、マインゲンの戦闘で10000人ほどが死傷しただろうというのがわかっています。それ以外は捕虜となったことが判明しているのと、逃亡した兵が多数いることがわかっていますが、正確な数までは分かっておりません。また、カールネスでの戦闘でも3000人ほどの死傷者が出たことがわかっております。」

「ここまで多数が打ち倒されても、我が国の方がまだ兵力が多いのか・・・」

「東部諸侯は軒並み大きな被害が出ています。そして、国軍も。西部と南部の諸侯は無傷なのです。敵側は西部と南部の諸侯も我が国の軍としてとらえており、それがために数字上は多くなります。」

 

 秘書官とベルシュ大使はお互いの顔を見つめあいながら溜息を吐いた。

 

「なるほど・・・。不味いな。南部諸侯は服属してまだ数年だ。中央の兵力が落ちているときに軍備制限を掛けられたら、中央と地方の力関係が逆転するぞ。」

「大使のおっしゃる通りかと。諸侯の兵力が中央に向くとなるとよろしくありません。故に、軍備制限は成るべく緩やかなものとなるように交渉が必要でしょう。」

「だが、交渉は相手があることだ。そして、我々は敗戦国。強気の交渉は望めまい。我々の主張に理と相手に利があることが必要だ。」

「おっしゃる通りです。少なくとも利はあります。既に事前調整で、マニャール公使から講和条約発効後、我々の捕虜が全て返還されることが予定されています。つまり、数万の人間が戻ってくることになります。彼らを軍から放り出しては、無頼の徒ともなりかねません。故に、彼らに職を与えるということで国軍や諸侯軍に復帰させる。というのが、我々の理。そして、無頼の徒が跋扈するようになれば、治安の悪化が見込まれる。それは、政情不安を呼び起こし、鍬杭両国にとっては、国境の線の不安定につながりかねない。貿易にも影響が出る。それが彼らの利。これはいかがでしょうか。」

 

 ベルシュ大使は腕を組み、眉間にしわを寄せてうなり声をあげる。

 

「悪くはないが、今一つ・・・だな。クワ・トイネとクイラは現時点で、今も尚ロウリアの国軍よりも少人数との話だとお前は言った。彼らが我々を脅威とみなしている以上、軍備を制限せよといってくるのは、彼ら自身の安全のために必要なことだ。クワ・トイネとクイラが軍の規模を拡充せねば、我等に対抗できぬ以上、それがかなうまでの間軍備縮小を要求してくるのは当然ではないか。何か彼らを安心させる材料が必要だ。」

「ならば、侵攻兵器の保有禁止とアールヌルポ城塞及びカルーネスの長期の保障占領の申し出はいかがでしょうか。」

「うーむ。侵攻兵器の保有禁止は当然と言えるだろう。だが、保障占領の長期化となるとな。」

「やはり、国土の長期占領は難しいですか?」

「わからん。この問題がかなうのかは日満側にあるのだ。」

「と、言いますと?」

「うむ。日満側は、講和条約発効後は、早期に兵を引きたいと考えているようだ。マニャール公使が言っておった。軍が出征していると、それだけで予算措置が必要であり、中央政府としては、速やかに兵を引きたいと考えているはずだろう、とのことだ。それに、軍による長期占領は我等の反感を買うだろうから避けたいとも考えているようだ。それは、講和を機に友好ムードを醸成していく上では、好ましいことではないということだ。」

 

 今度は秘書官の側がうなり出した。

 

「なんというか。彼らは本当に我々とクワ・トイネとクイラが友好関係を結べると考えているのでしょうか。私などは海外赴任が長いのであれですが、本国の、特に王都の人間は、排外主義思想に長く浸かった人間が多いです。簡単に友好関係が結べるとは思えないのですが。」

 

 彼らは外交官であることから外の空気というものを良く知り、亜人排斥の思想というのをポジショントークと同じくらいに考えていた。

 

「ま、それは我々が心配しても仕方あるまい。マオス宰相に任せるしかあるまい。彼の御仁も長く陛下に仕えてはいるが、亜人排斥の思想とは一線を引いておられる。彼に踏ん張ってもらうより他にあるまい。」

 

 秘書官は、あいまいな表情で首肯し、パーパルディアからの借款について質問をした。

 

「そう、それよ。海軍の船を造るための材料をパーパルディアから輸入していたというではないか。それを返済する必要がある。それが為にも保障占領をある程度長期化してもらわねばならん。」

「はて、この問題がどう結びついてくるのですか?」

「うむ。我が国の最大の貿易港でもあるカルーネスに外国の軍隊が駐屯している。わしは軍事については素人だが、我が軍をいとも簡単に破った連中の軍隊がカルーネスに駐屯している、そしてパーパルディアがその姿を見ればどうなる。彼らとしても、手を出すのに躊躇する程度の軍備があるのではないかと思わせることができるのではないか。日満が駐屯している以上日満が占領している我々と事を構えるのに躊躇するという淡い期待が生まれてくるのではないかと考えているのだがどうだろうか。」

「なるほど。確かに淡い期待という具合のことは可能と思いますが。」

「主が変わるだけだが、少なくとも人の好さという点では、日満はパーパルディアよりもはるかに勝る。それに、占領が長期化すればその地はある程度日満が整備することになるだろう。そこから彼らの持つ優れたものが国内に流れれば、占領も美味しいものになるだろう。この際、占領を受け入れるべきだ。日満が引いては、パーパルディアからの要求が厳しいものになりかねず、それでは、日満鍬杭に対して賠償を約束しても返済ができなくなるかもしれない。そういう方向で、日満軍を受け入れる方向で進めていくべきだ。それに、占領軍がいれば、南部や西部の諸侯も滅多なことはできまい。そういう意味でも、彼らを返すことはできぬ。」

「なるほど。しかしそれでは、彼らがまるで番犬ではありませんか。どうもおかしな話ですが。」

 

 ロウリアの外交官は二人して笑いあった。

 敗戦国であるロウリアの未来は戦勝国の手に在る。それは、文字通り、戦勝国が敗戦国の生殺与奪の権を握るという通常の意味ではなく、戦勝国から独立した方が敗戦国が危険な状態に陥りかねないという不可思議な状況である。ロウリアの未来を決める講和会議は間近に迫っている。

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