大日本帝國召喚   作:もなもろ

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アルタラス首脳部から見た日満両国です。始めにかかったバイアスはなかなか修正できないようです。


アルタラス王国王都ル・ブリアス アテノール城 中央暦1639年7月6日(月)夜

アルタラス王国王都ル・ブリアス アテノール城

― アルタラス王国外務卿シモン・ド・ユグモンテ

 

 本日より我が国の仲介で始まった、ロウリア王国と日本、満洲、クワ・トイネそしてクイラの四か国との間の講和会議は、私と事前折衝した日本国外相との打ち合わせの通りに終わった。先月の29日に講和会議の開催の召喚状を送付したところ、日本国、満洲国、クワ・トイネ国、そしてクイラ国の四か国は3日の夕刻には、アルタラス入りを果たした。

 正直早いと思った。何しろロウリアの全権団が到着したのが、昨日の昼だ。事前に聞いていた所によれば、ロウリアよりも遠い地からの訪問だ。ロウリアが一週間かけて到着する地がこのアルタラスだ。おそらく、その倍、いや3倍くらいの時間が必要ではないかと思っていた。だが、事前の問い合わせでは、日満全権団は、ロウリア全権団のアルタラス到着時間に合わせるという事であった。既に近くまで来ているのかと、不思議に思っていたが、到着時の船を見て合点がいった。

 なるほど。彼らがムー国と同様の機械文明の国であるという駐日駐満公使館からの報告は事実であったという事か。ムー国が第三文明圏に向けて運航する船をチャーターしてきたとも思ったが、どうもそうではないらしい。ムー国は日本や満洲などに機械動力船を貸していないということをムー国大使館経由で確認しているのだから。

 ムー国の船と日本国の船とは同じ機械文明の船である。その証拠が煙突から登る煙だ。ムー国の船は、船の煙突から黒い煙を吐きながら動く。これが機械文明の国の動力船の特徴だ。同じく日本側の船にも煙突はあり、ムー国のような黒い煙を上げていることが確認されている。

 駐日公使や駐満公使からの報告にあったことではあるが、彼らは確かに機械文明の国であるということがはっきりと分かった。報告を信じなかったわけではないが、軽視したのは誤りであった。彼らはムー国のような機械文明国であり、ムー国と同等の文明国であるという認識が必要である。

 

「ユグモンテ。卿の目から見た、日満両国だがどう映った?」

「まだ、一、二度しか接触しておりませんので、確たるところまでは申せませぬ。そのうえで、私見として申し上げますと、異質としか申し上げられません。」

 

 本日の講和会議に仲介役として参加したが、会議の所感を述べるようにとターラ陛下からお召を受け、宮廷に参内した。陛下は、「ふむ。異質か。」というと、数刻なにか考えておられたようであるが、続けよと先を促された。

 

「本日の会議ですが、講和要求についての四か国からの要求条項についての説明の字義の確定に終わりました。内容については、別紙をご参照ください。そして、その内容ですが、領土の割譲が含まれております。しかし、これはクワ・トイネ公国の失地の回復をしたにすぎず、日本、満洲、クイラは領土の割譲を求めていません。駐ロウリアの我が大使館職員が調査したところによれば、ロウリアが戦争に敗北したことは間違いなく、それも戦闘の各所でロウリアが大きな痛手を負ったものであるということです。にもかかわらず、四か国が要求した領土は、マインゲンの一か所のみ。四か国の連合軍が占領しているカルーネスは割譲の対象とはなっていません。これはおかしな話です。」

「うむ。確かにその通りだな。カルーネスは、ロウリア王国随一の貿易港だ。あの地を手に入れれば、うま味が大きい。整備された港というのは、船舶の停泊に便利であり、船舶の整備と補給、乗組員の休養など貿易の成功に不可欠だ。どういうことだ。日本国や満洲国は貿易の拡大に前向きではないという事か?」

「わかりません。少なくとも日本国・満洲国ともに我が国との貿易は魔石の購入にとどまっておりまして、これは極めて少量の取引にとどまっております。王国貿易管理局のデータによりますと、日本国満洲国ともに月平均で日本が5kg程度、満洲国が10kg程度の魔石の取引がありまして、魔石の質は2等級のもののみの取引となっております。」

 

 2等級の魔石は、文明圏外国家に売ることのできる最上級の魔石だ。1等級の魔石はミリシアルやパーパルディアなどの列強国を含む文明圏国家にしか売っていない。魔石は等級が上がるごとに取り扱いが難しくなり、取り扱いを誤ると爆発する虞がある。

 

「高品質の魔石の取引のみか。しかもかなりの少量の取引だな。ということは民生品の取引ではないな。ユグモンテ、そちは今日本と満洲は科学文明国であるといったな。ムー国がそうだが、科学文明国は魔法技術は持たないはずだが、日本国満洲国は魔法技術も持っておるのか。高品質の魔石のみを買い求めるということは、国内では低品質の魔石を手に入れることができるが、高品質のものは手に入れることができない。故に我が国から購入しているということになるのではないか。」

「さて、駐日公使や駐満公使からは日満ともに魔法技術は存在しないと報告を受けています。しかしながら、日満両国はその少数の高品質魔石でさえ、当初は輸入は必要ないと言っていたことを忘れてはなりませぬ。」

 

 私の奉答に対して陛下は渋い顔をし、そうだったなと一言漏らした。4月12日のロウリアがクワ・トイネとクイラに侵攻を開始した日のことだ。日満両国は、我が国に対して中立国の義務として我が国が魔石の売買をロウリア、日本、満洲、クワ・トイネに対して行わないように要求してきた。冗談ではないと私は激しく異議を申し述べた。ロウリアは我が国の魔石貿易の上得意の存在だ。そことの貿易が制限されては我が国の貿易収支に影響が出る。

 近年我が国の文明圏外での影響は大きくなっていっている。パーパルディア皇国が型落ちしたものとはいえ、魔道具を他国に売っていることで、文明圏外各国では魔石の需要が増加している。彼らは。パーパルディア皇国からも魔石を購入しているが、我が国には豊富な魔石埋蔵量を誇る鉱山がいくつかあるため彼らは我が国からも購入する。少しずつではあるが、我が国の文明圏外のなかでの影響力は大きくなりつつある、だが、トーパ王国などの遠方にある国家とは、距離がはなれているがために貿易量はまだまだ少ない。つまり、対ロウリア魔石貿易量は、文明圏外全体で大きなウエイトを占めており、彼の国との貿易を制限されることは、我が国にとって大きな痛手でしかない。

 中立の問題は結局は満洲国の公使が折れて、彼女に日本国公使が説得されて、中立国の貿易制限の要求は取り下げられたが、代わりに我が国の対ロウリア貿易船が臨検され、拿捕される事態が始まった。拿捕された貿易船は、我が国に追い返されることとなり、積み荷が届かなくなったことで対ロウリア貿易は減少し、ついには発注も行われなくなった。

 魔石の在庫が増えつつあったため、貿易局は定価を落として販売せざるを得なくなった。その動きに食いついたのが、クワ・トイネとクイラであった。クワ・トイネは、クイラ王国と我が国が国交がないために仲介貿易を引き受けていた。クワ・トイネはクイラの分も含めた形で、前年同月比で5割増しの量の取引を申し出てきた。買い入れ金額の半額分を前納し、魔石がマイハークに到着後に残金を支払うという形の取引であったため、貿易局の連中は在庫がはけたと大助かりであった。いや、まてひょっとしたら。

 

「陛下、クワ・トイネが前年の買取量より多い量の魔石を買い付けております。これは、ひょっとすると、クワ・トイネは、我が国が売った魔石を日本国や満洲国に売却しているのではありますまいか。」

「なに!?むう・・・しかし、それでは、直接取引するよりも割高になるのではないか。クイラは、我々とツテを持っていなかった。故にクワ・トイネを通じて取引を行っていたが、日本国と満洲国は我が国と国交がある。直接取引をした方が安上がりではないのか?」

「おっしゃる通りです。しかし、そのように考えれば、5割増しの取引量という理由が説明できます。加えて言えば、クワ・トイネとクイラは日本国や満洲国の従属国的な位置づけであります。彼らから購入するという方法もあるでしょうが、献上という形をとることもあるのではないかと思います。この度の戦争、事前の予測ではロウリアの圧勝というのが事前の予測でした。これを覆したのは、日本国と満洲国です。勝利の御礼として魔石を献上したということならば、日本国が我等から直接購入しなかったという理由になります。」

「うーむ。」

 

 陛下が今一度目を閉じて考え込まれている。実際のところはわからない。科学文明国が自身で使用するために魔石を購入する理由はない。それは、ムー国の例を見ればわかる。彼らも我が国から魔石を購入したことはほとんどない。ムー国内のミリシアル人やパーパルディア人など魔法文明国出身の者に向けた魔石を少量取引しているに過ぎない。魔石は取り扱いが難しいため、個人的に持ち運ぶことがよろしくないとされているがために国家が管理しているに過ぎない。ムー国。そうか、ムー国か。

 

「陛下、今思いついたことであり、精査してはおりませんが、お話してもよろしいでしょうか。」

「うむ。許す。何を考えた?」

「はい、日本国と満洲国はクワ・トイネとクイラの地の一部を割譲させております。」

「うむ。その話は既に聞いておる。ひどい話ではないか。国交の樹立とともに国土の一部を割譲させる。相当威圧的な砲艦外交を行ったのであろうことは想像に難くない。同地ではもはや公国や王国の法が効かぬ地となっているらしいではないか。」

「陛下、その話ですが、駐日公使や駐満公使の調べによりますと、割譲ではなく、租借とのことであります。10年の間、日本国及び満洲国が同地の施政権を持つという事でありまして、10年を経ったらそれぞれの国に返還するということです。」

 

 陛下が私の話を遮り、手を前に出して振る。

 

「言葉遊びはどうでもよい。10年たてば、更に10年延長という形で期限が伸び、それが続くだけであろう。そうではないか?」

「御意にございましょう。駐クワ・トイネ大使からの報告によれば、マイハークの西部に作られている新しい港は急速に発展しておるとのこと。租借した地を発展させて、クワ・トイネに戻すなど日本国満洲国にとっては何の益もないことです。これは陛下のおっしゃる通り、いずれ版図に組み込むことを意図した行動に他なりません。」

「だからこそ、厄介よ。今直ぐに利益を獲得することをしない。最初は小さなことから始めて次第に大きくしていく。クワ・トイネやクイラが気付いた時には占領が既成事実化され、もはや国土を取り返すことはできぬ。庇を貸して母屋を取られるとはまさにこのことよ。」

「左様ですな。物事を長期的に見ることができるということ、短期的な利益を度外視して考えられるということは、日本国や満洲国は相当に国内が安定しているのでしょうな。国内からの不満が出ないか、それを抑えることができるだけ王権が安定しているという事なのでしょう。」

「それで。話は脱線したが、お主は何を考えた。」

「はい。機械文明の国と言えば、ムー国です。日本国や満洲国はムー国の支援を受けているのではないかと思った次第です。」

「何!?いや・・・まさか。そんなことがあるのか?」

 

 陛下が驚愕の表情を浮かべて、目を見開いた。そして、首をかしげて一言二言呟いた。

 

「わかりません。日本国満洲国とムー国は国交がなく、クイラ国内で国交樹立に向けて折衝しているという話もあります。駐日公使からも駐満公使からも首都東京や新京にムー国の在外公館があることは報告されていません。私の思い違いということもありましょう。しかし、そうでなければ、ロウリアを簡単に打ち破る科学文明国が急に表れたということに説明がつきませぬ。日本国や満洲国からは突然国土毎この地にやってきたという話を聞いたことがありますが、あまりにも荒唐無稽な話です。」

「うむ。その話はわしも聞いたことがあるが、実に奇妙な話よ。ようもクワ・トイネもクイラもそのような話を信じたものよ。」

「陛下。彼らはロウリアの亜人排斥主義の脅威にさらされていました。ロウリアの軍門に降ることとなれば自分達もロウリア国内の亜人と同じように排斥され、奴隷の扱いを受けることとなる。それからすれば、日本国と満洲国は亜人を排斥しないという一点だけで頼みにすることができた。クワ・トイネとクイラも彼らの言う転移国家であるということを信じたわけではありますまい。」

「ふむ。なるほどな。すると、国土の一部割譲は安い買い物だったとはいえるか。」

「はい、おまけにクワ・トイネは失地の回復ができました。多少の譲歩はあったが、クワ・トイネにとっては大きな利益であったとも思います。」

「ふむ。しかし、油断はできぬな。」

「仰せの通りです。法の正当性を建前にして、他国に犠牲を強いるように要求してくる国です。油断はできませぬ。」

「うむ。とりあえず、卿の懸念するところは理解した。まずは、別紙の内容をよく確認するとしよう。下がって良い。」

 

 許しを得て、御前を退出した。ロウリアがこけて、我が国が文明圏外で頭一つ抜き出たと思ったが、事態は楽観視できぬようだ。まずは、この講和会議を通して日本国と満洲国をつぶさに観察せねばなるまい。

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