大日本帝國召喚   作:もなもろ

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ウィニングポストが面白かったので執筆遅延となりました。
クワ・トイネ統合へのカギを書いてみました。


クワ・トイネ公国モリトヤマ公爵領 中央暦1639年7月23日(木)

クワ・トイネ公国モリトヤマ公爵領

 ― 大日本帝國宮内省侍従職 侍従飛鳥井雅春

 

「だいぶ遠くまで来ましたが・・・。」

 

 宮内省事務官が聊か心細いような表情を浮かべた。我等は、クワ・トイネ公国の公爵の招きによって、クワ・トイネ公国の東部に位置するリーン・ノウの森へとやってきた。この地域はクワ・トイネ公国の中でも特に神域とでもいうべき場所であるらしい。基本的には、カナタ首相と雖も立ち入ることが自由にはできないらしい。

 我が国が設計と資材の作成を担当し、クワ・トイネ国内でそれを組み立てて制作された馬車が舗装されていない道を進む。この馬車は、我が国とクワ・トイネ公国が国交を樹立した際に(宮内省)主馬寮が使用している馬車をデチューンしたものと聞いている。少し前の報道で、満洲国のモンゴル族がクイラ王国に馬車を技術込みで輸出したと聞いたが、あれとは方向性が異なる。満洲国の輸出した馬車は、クイラ王国の現在の技術でも大体のところは再現可能な馬車だ。何しろ、モンゴル族が観光資源として、昔ながらの制作方法を用いて製造している馬車だ。材料を得るために、現代機械で切り出した材木などを使ってはいようが、そこは人力ののこぎりでも製造は可能であろう。だが、我等が国交樹立の際に御礼として渡したものは、ゴムの車輪や金属のサスペンションなどを使用するもので、設計図から組み立てはできたとしても、その材料は我が国から買い付ける必要がある。聊か敷居が高いだろう。

 今回は、我が国が渡したゴムの車輪がついた馬車でモリトヤマ公爵領へ向かっている。リーン・ノウの森は神域なれば、自動車を走らせることはできぬようだ。

 

「さて、どうしたことになるかのう。」

 

 馬車は比較的軽快に進んでいく。話のタネにとクワ・トイネで普通に走っている馬車に乗らせてもらったが、乗り心地はすこぶる悪かった。道が未舗装であることもあるのだろうが、左右に、そして上下に揺れるわ、小刻みに振動するわでとてもではないが長距離を移動するのには不向きであった。すぐに酔いそうだった。旅程の遅延も覚悟した。近くまでは車でと思っていたが、我等が贈った馬車を用意してもらった。走行が安定しているだけあって、スピードも出ており、旅程は当初の予定通りに進んだ。

 モリトヤマ公爵領の領都には特に名前はない。クワ・トイネ公国自体がそのような国家体制をとっているといってもよいだろう。なにせ、首都の名前がクワ・トイネなのだ。いや、まて。確か、公都としてのクワ・トイネは、イネトミズ侯爵領の領都であったな。ヤリトミズ公爵領都もスピアウオータと名乗っていたな。ということは、領都に特別に名前を付けないというのは、モリトヤマ公爵の考えが反映されたのか?うーむ。なかなかに興味深いことだ。

 他愛もないことをつらつらと考えながらも、馬車はモリトヤマ公爵領都にある館に入っていった。

 

 

 ―――――

 モリトヤマ公爵の館は大きなものではなかった。さらにいえば、華美な装飾が施されてもいるような様子もなかった。静寂な空間。謁見室の調度品は、金銀をふんだんにあつかったようなものはなく、代わりに精巧に彫られたような木工細工が多かった。

 謁見室も我等の想像とは違った。部屋の端に玉座のようなものがあるが、階段一つ分高いだけだ。そして、我等が座っているのは畳の上。靴を脱いでくつろげるというのは、我等にとってはありがたいが、クワ・トイネで斯様な習俗があるとは聞いていなかった。

 正直驚いた。まるで侘び寂びを現したような空間ではないか。モリトヤマ公爵家は我等のことを良く知っているとでもいうのか。

 

 謁見室に老齢のエルフと若いエルフ数名が入ってきた。老齢のエルフが離れたところに座り、若いエルフのうちの一名が私の前に座る。

 

「遠路はるばるようこそお越しいただきました。私は、当代のモリトヤマ公爵であります、トキミズホヒト・アシハラと申します。そして、あちらの離れたところに座っておりますのが、先代のモリトヤマ公爵のトキミズホヒト・チアキでございます。」

「公爵殿下の御尊顔を拝する機会を頂きまして光栄に存じます。宮内省の侍従を拝命しております飛鳥井雅春と申します。後ろにおりますのは、随行の宮内省事務官の前田と葉室でございます。」

 

 私の挨拶と同時に随行員の前田と葉室も頭を下げた。

 

「よろしくお願いいたします。本日おいでいただきましたのは、モリトヤマ公爵家より、日本皇室に断ってのお願いがあってのことです。」

「・・・お願いですか。」

 

 やれやれ、挨拶もそこそこに本題とは。それも侍従の私に面と向かって御上に「お願い」とはな。

 

「はい、今、我が国で問題となっている政治課題ですが、ご承知いただけておりますでしょうか。特に隣国のクイラ王国と比較してということなのですが。」

「・・・さて・・・。」

 

 迂闊なことはいえぬ。

 外務省を通じて、クワ・トイネ公爵から皇室関係者のクワ・トイネへの派遣要請が宮内省に入った時、当然のことではあるが、宮内省と外務省との間で、どういうことが考えられるかの共同会議が開かれた。クワ・トイネの国内政治動向についても、その席で外務省側からブリーフィングが行われた。

 クワ・トイネとクイラとの間に貿易摩擦が生じつつある。外務省側からの情報によれば、両国はこれまでクワ・トイネがクイラに農作物を輸出する代わりに、クイラが傭兵などで人を派遣していた。クワ・トイネ国内の金属加工品の多くもクイラからの輸出が多いと言われていた。食料という命の綱をクイラはクワ・トイネに依存していた。

 我が国がこの世界にやってきてからこの関係に変化が生じつつある。クイラは我が国と鉱物資源の取引を始めるようになり、食料品の輸入を我が国からも行いつつある。それも、缶詰などの長期保存の可能なものが多い。これまでは、クワ・トイネからの農作物の取引だけであったが、命の綱の輸入対象が分散した。

 クワ・トイネ国内に出稼ぎに出ていたクイラ人の多くが本国に戻っている。これまで、クワ・トイネ国内の各都市で治安維持を請け負ってきた、クイラ人傭兵の多くが去ったことから、代わりにクワ・トイネ人が治安維持の任に着くようになり、それは労働者層の変化をもたらしつつある。これまで商工業や農業に従事していた者が、衛兵として徴募されたことから、建設作業や農業収穫量などに影響が出つつある。人力で行っていた作業が多いだけに、人手不足というのが深刻になりつつある。

 クイラが農作物の輸入量を減少させたが、かといって、クワ・トイネの側も貿易品の量を下げるということは難しい。何しろ、クイラからは今後のクワ・トイネ経済の中核となる、鉱物資源が輸出され始めたからである。クワ・トイネも電化が進みつつある。それを動かすのが、石油などの鉱物資源だ。需要は右肩上がりに急速に増えつつある。だが、クワ・トイネからクイラに売却するものがない。それを打開するために、缶詰工場がクワ・トイネのマイハークに建てられた。今後のクイラとの貿易生産品はここを起点にして製造されることとなるだろう。

 

「警戒されているご様子ですが、これは無理からぬことと存じます。我が国国内は今不安定な状況にあります。これを打開するためには、国の基礎をしっかり固める必要があると思っております。我が国は国内諸侯の協力関係を基礎として国の形を維持しておりました。ご存じでしょうか?」

「確か、森林盟約宣言でしたか。かつて存在した国の諸侯が同盟関係を結んだ。それが国の形を作ったものだと聞いておりますが。」

「はい、左様です。クワ・トイネ公国はミズ・トイネ王国の家臣団がまとまって作った国です。これが為、王が居らず、強力なリーダーシップをとることができぬという状況にあります。」

 

 ふむ。聞いていた話と同じではあるな。しかし、国内諸侯はモリトヤマ公爵に一目置いているという話もあったはずだ。それについて聞いてみると、彼らの話はあくまで消極的な賛成であって、モリトヤマ家が分家というのも何千年前の話であって、現在は諸侯の首位に過ぎぬ、森林盟約宣言だけで国を維持するのには限界が来ているというのが、現モリトヤマ公爵の判断のようだ。

 

「なるほど。私共が呼ばれたのは、我が国、いや天皇陛下に後ろ盾になってもらいたいということをお願いされるためのですな。クワ・トイネ公国というよりもモリトヤマ公爵の。」

「左様で御座います。現状は、私はあくまでも国内諸侯の同輩中の首席でしかありません。私が彼らの一つ上の存在であると宣言するためには、他国の君主からのお墨付きが必要であると思います。この近隣諸国の例で申しますと、パーパルディア皇国では、属国の王に戴冠するのは、皇国皇帝が行うこととなっております。首都エストシラントのパラディス城に王が赴き、皇帝が王へ戴冠させることで、国王として認められます。このような役目を天皇陛下にお願いできましたらと思うのですが。」

「ふむ、御上は貴国を属国として認識してはおりませんし、それは我が国としても同じです。我等は、属国というものを欲してはおらぬのですが。」

「わかっております。」

 

 公爵は手を挙げて私を制してそういうと、話を続けた。

 

「短い期間ではありますが、貴国との交流を通じて、貴国の考え方というのも理解しておるつもりではあります。貴国は我々の世界の人間とはやはり考え方の基礎が違います。国際社会における対等な関係というものを重視されておられる。それは、先に発表された大東洋共栄憲章からも明らかであると思います。対等な関係という事であれば、王族同士の婚姻同盟というのも考えられますが、貴国の皇室の歴史上、婚姻同盟というものはなく、また外国の王皇族との婚姻というのもあまり例がみられないご様子。また、我等とは習俗が違いますので、このような策もご不快ととられかねかねません。この方式も難しい。」

「左様ですな。」

 

 我が国では、皇族の国際結婚の例はほぼ皆無だ。ロシア革命の際に亡命してきたニコライ二世陛下の四女アナスタシア大公女殿下と華頂宮博忠王殿下の例ぐらいしかない。革命の逃避行により大公女はすっかり憔悴しておられたそうで、それを華頂宮殿下がお慰めしたのが婚姻のきっかけだ。あの時も、やはり習俗の違いというのは、大変だったようだ。

 

「ただ、話は戻りますが、今後貴国がこの世界で生きていくうえでも、多少なりともこの世界の国際関係に合わせた関係というものは作っておくべきであると思うのです。属国というのは、貴国の考え方では、あまりよいものではないでしょうが、いかがでしょう。形だけでもそのような関係に見られることを前提とした関係構築というのは?」

「いや、しかし、我が国は、文明国の法というものを重視しております。属国というが如き表現はやはり難しいですな。」

「貴国が受け入れられないラインというものはあると思います。ですので、国と国との関係ではなく、君主と君主の関係で、ということを提案させていただいております。国家間はこれまで通り平等な関係とし、君主間では名目的ではありますが服属という形にさせていただく。服属という形を以て、私はクワ・トイネ公国国内で新たな地位を得る。こういう事では如何でしょうか。」

 

 うーむ。これは参った。クワ・トイネ公国は、我が国がこの世界で初めて交際した友好国である。この国から輸出される農作物は我が国の食を支えつつある。混乱はうれしくないことだが、このままでは、君主が居らぬために混乱が静まりそうもない。その手助けを我々が行うということは充分に考えられるが、方法がなあ。

 

「もちろん。服属という形を取らせていただくので、多少なりとも献上品というのを用意しております。」

「あ、いや。」

 

 御上はそのような物は所望されないであろう。そういう形での関係というのはお嫌いである。

 

「まあ、こちらをご覧いただきたいと思います。我が公爵家の伝承では、一国に値すると言われておるものでございます。クワ・トイネ公国一国にふさわしいものであると思いますよ。」

 

 モリトヤマ公爵が人に命じて、家宝とでもいうべき品々を持ってこさせた。やれやれ、一国に値するという宝物など御上は絶対に受け取らないぞ。

 しばらくすると、付き人が三名部屋に入ってきた。それぞれに木の箱を抱えている。はて、あのような箱が一国に値する?公爵の側に箱が置かれた。そして、一つ目の箱がテーブルの上に置かれ、紙に包まれたものが差し出された。

 

「この箱に附随していたものです。中を改めていただければと思います。」

「はあ、では、拝見いたします。」

 

 ふむ。これは・・・。羊皮紙ではない・・・。和紙・・・、和紙だと!!中を、中を改めねば!!おそらくは、奉書紙。なぜ、このようなものがここにある。

 

御由緒書

天正二年三月、大殿、塙九郎左衛門尉及筒井陽舜房両名を東大寺に遣はすに大殿、東大寺勅封倉所蔵の黄熟香拝見を望み給ふ東大寺別当曰く御勅許あらばと拒む故無しと返答するに勅使東大寺に派遣さる大殿、多門山城にて截香の栄誉を受く、小生大殿より格別のご高配を賜り香一角を賜ふ誠に名誉にして村井家累代の家宝として蔵せむとす此の儀子々孫々伝へ続けること家訓として留めおくべくもの也

天正二年四月

村井民部少輔貞勝(花押)

 

「な、なんと!!」

 

 私の驚きが部屋に響いた。後ろに控える前田と葉室両名も何事かと身を乗り出す。飛鳥井殿と私を呼ぶ声が聞こえた。

 

「こ、公爵。なぜ、このようなものがここに!!」

「こちらの箱には時間の流れを停止する時空停止の魔法が掛けてあります。中を改めるのであれば、一度魔法を解除しますが、いかがでしょうか。」

「ぜ、是非にも。」

「承知しました。多少時間がかかります。他の二つの箱を先に改められますか?」

「お、お頼み申す。」

 

 公爵が二つの箱を持ち、ふたを開けた。中から出てきたのは、茶碗だ。

 

「バカな!!」

「あ、あれは!!」

 

 後ろに控えていた前田事務官と葉室事務官が声を挙げた。

 

「よ、曜変天目・・・」

 

 流石に物の真贋までは分からない。だが、この模様は一度見たことがあるそれにそっくりだ。なぜ、このようなものがここにある。

 公爵が続けて、箱を開け、中の物を取り出す。今度は小さな陶器瓶だ。はて、修繕した跡がある。なんだこれは。

 

「公爵こちらの品々は、どうされたのか。」

「いずれもモリトヤマ公爵家に伝わる品です。ミズ・トイネ王家所有の品という伝承もありますが、定かではありません。ただ、クワ・トイネに厳しい事態が発生したときは、これらの品々の価値がわかる者にこれらを献上して、クワ・トイネを守護してもらうようにとの言い伝えがあります。我々が調べたところ、日本国はこの品々の価値がわかる者であると確信ができましたので、お持ちしました。こちらの椀は皆さまもご存じのようでしたし、特に説明書きも附随していなかったのですが、こちらの小瓶には、このような説明書きのようなものがついていました。」

「拝見します・・・・。『楢柴』こ、これは楢柴肩衝だというのか!!」

 

「な、なんと!!」

「なぜこれがここに!!」

 

 事務官たちの狂乱も無理もあるまい。東大寺の黄熟香といえば、天下第一の名香というべき蘭奢待。天下人が勅許を得て、切り取ることを許された品である。曜変天目茶碗は我が国には世界に3点しか存在していないとされた大名物でそのすべてが我が国にあり国宝に指定されている。4点目もあると言われていたが、本能寺の変にて焼失されたとされていた。楢柴肩衝は、初花・新田肩衝と並んで天下三肩衝と呼ばれた茶器だ。江戸期の明暦の大火で破損し、修繕が行われた後に行方不明となった。

 公爵のいう通り、いずれも、一国に値すると言われた品々であることは間違いない。

 

「いかがでしょうか。こちらを皇室に献上いたしますので、私の服属を受け入れていただくというのは。」

 

 なんということだ。これは、このようなことがあるとは。正直、私の手には余る。それに物の真贋もわからぬ。どうすれば、どうすればよいというのだ!!

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