大日本帝國召喚   作:もなもろ

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遅くなりましたが、講和会議再開です。ロウリアの軍備をめぐる問題です。


アルタラス王国王都ル・ブリアス アルタラス外務局迎賓館 中央暦1639年7月27日(月)

アルタラス王国王都ル・ブリアス アルタラス外務局迎賓館

 ― クイラ王国外務大臣 アイーラ・メッサル

 

「第二回のロウリア政府の弁明を受けまして、同盟国で協議した結果、ロウリア王国の陸上兵力15万人を上限とする軍備削減要求につきましては、20万人を上限とすると言うところに修正して要求したいと思います。」

 

 クワ・トイネのリンスイ卿の発言にロウリアとアルタラスの面々から驚きの声が挙がった。無理もあるまい。講和会議の場に於て、戦勝国の要求が敗戦国の主張によって一部覆されたのであるからな。

 

「無論、これには条件を付させていただく。第一に、ロウリアのいわゆる東部諸侯には、軍縮を実施していただく。これは、我々クワ・トイネ公国に近い位置に領する諸侯である以上は当然の要求であると考えていただきたい。」

 

 すっとロウリア王国側から手が挙がる。確か、彼はパタジン将軍であったな。やはり軍事の専門家が相手をすることになったか。

 

「具体的には、どのくらいの規模でありましょうか。」

「そうですな。ロウリア王国では、各諸侯への軍役はどのように定めてありますかな。」

「我が国では、現在、辺境伯が1万、伯爵が5千、子爵に3千、男爵に2千の規模の将兵を最低限維持するように国法にて定めています。無論、これは常時維持するという事ではなく、領主から命令を出して、短期間の合戦に於て最大動員できる人数をという事なのですが。」

 

 ううむ。その返答では意味をなさぬ。

 

「今、私が申し上げているのは、常備兵力の削減です。ロウリア東部諸侯がだいたいどれくらいの常備兵力を持っているのか、それをお尋ねしているのですが。」

「常備兵力と言いますとなかなか難しいです。各諸侯で違いがあるかと思います。居城や領都の守りを常時行っている部隊は確かに存在します。これには、衛兵も含みますが、ご承知の通り、ここから戦時には馬廻や近衛の部隊が編成されますので、これが常備兵力と言えると思います。」

 

 そうよな。やはりという思いが強い。本来諸侯は大勢の常備兵など持たぬ。常備兵などただの金食い虫なのだからな。日満両国の影響もあり、我等は常備軍を編成し始めているが、それも、国のレベルでの話だ。国内の諸侯が保有しているわけではない。

 

「諸侯の有する常備兵力と言えば、騎兵ですが、騎兵は歩兵よりも錬成に時間がかかります。故に騎兵については、ある程度の数を維持していますが、それでも平時には騎兵は領内の警備のため散っておることが多く、彼ら無くして領内の治安は維持するのが難しいです。そのあたりを考慮いただければと思います。」

「我等も騎兵の戦時でないときの運用については同じようなことをしておりますので、そこに手を付けようとは考えておりません。常備兵力がどの程度かそれぞれの諸侯によって、居城の大きさによって違いがあるでしょうから、詳細が不明という事であれば、已むを得ません。ここは、王国政府に於て統一的な指針を諸侯に布告していただきたい。」

 

 パタジン将軍が一層緊張した顔をした。

 

「実は、我がクワ・トイネも政府中央から同様の布告を諸侯に行っております。この我が国の布告を参考にしたものです。まず、成人男性を50人に1人の割合で1年の兵役を課することを認めます。1年ごとに別の人間を兵士として召集することで、兵役経験者を一定以上ストックすることができると思います。兵役の期間内は領都にて軍事訓練を施すことで、練度を維持できると思います。1年の兵役修了後は元の町や村に戻って通常の生活を行っていただく。その中で臨時危急の事案が生じたときは領都への召集命令を出すことを認める。このような条件を参考に軍役負担の布告を出していただきたい。」

「となりますと、5万人くらいの領民がいるとすれば、男女が半々として、男が2万5千人。そのうち成人男性となれば、7割ぐらいの1万7千人くらいですから、350人程度の兵士しか持てないということになります。交代要員や訓練未修兵と既修兵が混在することになれば、軍事行動にも支障があります。実際に常時維持できる兵は、200人程度という形にしかならないのではありませんか。これでは、領内に盗賊が出現したときに領主が討伐に差し向ける兵がいないのではないかと思うのですが、今少し兵役に宛てる割合を増やすことはできませんか。」

 

 パタジン将軍の求めは最もであると言えよう。兵士とて一日中まるごと使えるわけではない。交代で睡眠をとる必要もあるし、あるいは休養も必要だ。交代要員を考えれば、今少し数は欲しいかもしれぬ。

 

「しかし、我々としては、第一にロウリア王国軍の軍縮を要求する立場にある。特に東部諸侯の軍縮は求めざるを得ない。これは、我が国の安全保障上も不可欠の要求であると理解されたい。」

 

 リンスイ卿がパタジン将軍を睨みつけながら、言い放つ。パタジン将軍が私を見た。

 

「メッサル外相。今回我々はロデニウス大陸の恒久的平和を達成するためにこの場に集まったはずではありますまいか。この軍備の規定では、諸侯が街道の警備を行うことに支障が出ます。今少し配慮を頂けるよう、リンスイ卿の説得をお願いできませぬか。」

 

 リンスイ卿ではらちが明かぬとみて、わしに話を振ったか。この男、軍人ではあっても外交官ではない。この状況で、なぜわしがクワ・トイネではなく、ロウリアの肩を持たねばならぬのだ。

 

「さて、パタジン将軍の御意見は私には何とも。私から提案できることは、諸侯の兵を治安維持に特化して利用されてはいかがかな。」

「治安維持に特化ですと。」

 

 ロウリア側だけではなく、アルタラス側も騒ぎ出したか。ふむ。

 

「貴公も言われた通り、これからロデニウス大陸の三国は恒久平和を目指していきたいと思っております。ならば、諸侯の兵は外征の役割を担わせるのではなく、領内警備に特化して兵装もそれに準じたものにされてはいかがか。そうなれば、例えば、諸侯には重装歩兵や攻城兵器を操る工作兵の類は必要ないでしょう。強力な攻撃魔法を有する魔導士も必要ないでしょう。領都の衛兵は外征への転用をしないという形になれば、軍縮の対象外としてもよいでしょうが、その代わり彼らの装備については検討してもらわねばなりません。」

「そうですな。クワ・トイネとしても、東部諸侯が領都に兵を集めない。諸侯の領都の兵舎をいくらか撤去して、領都の受け入れ態勢を縮小させるという事であれば。領内各地に分散して、領内警備にあたるという事であれば、今少し検討をしてもよいと思いますぞ。」

 

 会議室がざわざわとしている。皆が小声で話し始めている。

 

「それは、王家と諸侯の封建関係をがらっと転換させるお話です。そのようなお話は我々は考えたことすらありません。講和会議の開催期間中という短い期間で国内を纏めるだけの余裕はとても・・・。」

 

 それはそうだろうな。我がクイラは、王家の力が強かったので、国内の諸侯から兵権を取り上げる話を呑ませることができた。そして、諸侯も軍役負担がなくなったということは実は好意的に受け取られた。だが、普通の国ではなかなか難しい。クワ・トイネはまだ国内の諸侯から兵権を取り上げることができていない。その意味では、リンスイ卿も面の皮が厚いというべきか。

 

「どうでしょうか。講和会議期間中にすべてが終わる必要はないと思います。方向性を定めたうえで、諸侯から王家へ兵権奉還の手続きに着手したという事実だけでも見ることができれば、我々は軍縮既定を多少緩めることを検討させていただきたいが。」

 

 ロウリア側は全権団の中で討議を行っている。全権団から手が挙がった。あれは確かベルシュ大使であったか。

 

「ロウリア側としては、前向きな検討をさせていただきたいし、これは本国に照会が必要な話でもあります。いったん持ち帰らせていただきたく思います。ですが、このお話は間違いなく国内の混乱が予想されるため、治安維持に手を貸していただきたいと思うのです。街道警備の名目で保障占領の区域を拡大してはいただけませぬか。クワ・トイネと王都を結ぶ街道のいくつかの拠点に貴国等四か国の兵を駐留させてはいただけないでしょうか。」

 

 アルタラス側がどよめいている。無理もあるまい。ロウリアは自国を占領してほしいと言ってきているのだ。さて、これはどうしたものか。新編した我が国の機械化部隊を派遣できれば、国威の発揚に利用できるが、派遣の為には金が掛かるな。ロウリア側に支払わせるとしても、これ以上ロウリアの負担を増やしては戦後経済に影響があるな。ふむ、悩ましい。

 

「講和条約が締結された後は、速やかに兵を退くことが望ましい。それは分かっておりますが、治安の悪化は避けようがないと私どもは見ています。国交正常化と貿易の安全を鑑みまして、四か国の助力をお頼み申し上げる。」

 

 ベルシュ大使が頭を下げると、ロウリア全権の各位も頭を下げた。ふむ。これは面倒だな。ロウリアの崩壊は好ましくないが、我々も負担を払いたくない。さて、どうしたものか。

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