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アルベール・ハイトベルグ・ツー・カスト大使閣下
ウィリアム・コスタ・シュタルデン副使閣下
報告内容 昨8月15日にアテノール城にて行われた式典について
報告者 大使館二等書記官 オフリート・グラハム
昨日の式典には、ミリシアル、ムーから外交使節が訪れておりましたが、レイフォルは参加しておりませんでした。また、意外なことではありますが、エモールからも使節が出席しておりました。ミリシアルにしても、ムーにしても、外交使節の腰が軽く、新年会を始めとした様々なアルタラスの国家的行事に出席しておすので、この点は特筆すべきことではないでしょう。
文明外国家からは多数の国の外交使節が参加しておりました。これについても、文明外国家は元々大東洋諸国会議など群れる習性がありますので、特筆することは無いと考えます。
肝心の講和条約でありますが、いささか不思議なことにロウリアへの責任が頗る軽いものとなっております。理由に関しては調査中でありますが、ロウリアは敗北したとあっても、充分に戦力を残した状態で臥薪嘗胆を図る目的で講和に及んだのではないかという推測も成り立ちます。先だっての捕虜の宣誓解放も十分な戦力を背景にして恫喝に及んだとも考えられます。
しかしながら、内容に関しては、理解が不十分な点も多く、現在調査中です。追って報告いたします。
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[親展]
クラウス・フォン・カイオス閣下
[親展]
報告内容 昨8月15日にアルタラス王国アテノール城にて行われた講和条約調印式典について
報告者 在アルタラス王国パーパルディア大使館二等書記官 オフリート・グラハム
昨日開かれた式典について重大な問題が生じていると思慮する為、局長閣下に対して独自に報告いたします。
ロウリア対同盟国(クワ・トイネ、クイラ、日本、満洲)の講和条約の調印式には、五大列強のうち、レイフォル以外の上位列強が出席しておりました。アルタラス外務局より招待状が届いてからミリシアルやムーの大使館に対して当大使館より式典への出席の意向を問い合わせましたが、回答の必要性を認めないと言われ、上位列強の動向を知ることができませんでした。カスト大使閣下とシュタルデン副使閣下はアルタラスは格下の為出席する必要を認めないとの姿勢を崩さなかったため、大使館より書記官の私が身分を隠したうえで出席しました。
式典には、ミリシアルは副使が、ムーは大使が出席し、更にはエモールもパーパルディア駐箚副使が出席しました。他にも近隣の文明圏外諸国は軒並み大使が出席しており、パンドーラやマールの第三文明圏の所属国までもが出席していました。このような大規模な式典にも関わらず、我が国は参加を逃しましたことで、存在感が希薄なものとなりましたことは、我が国の外交上不本意なものとなりうると思慮いたします。
五大列強の上位三カ国が出席する式典に我が国の代表がいないという失態については、大使閣下を説得できなかった我等大使館実務官僚の責であり、幾重にもお詫びいたします。しかしながら、私からの報告は更に重要なものを含みます。
講和条約の内容につきましては、同封の条約文書正文の写しをご覧いただきたい。しかし、この内容については、実に不可解です。先だっての第三外務局局内通達文書には、ロウリア王国軍の被害は大なるものであり、ロウリア国の中でも貿易上・軍事上の要衝であるカルーネスを占領されたことが記されておりました。軍事上の要衝を落とされたとなれば、軍の被害は大なることは理解できますが、それにもかかわらず、同盟国からの講和条件は極めて緩やかなのであります。
賠償は後日払いとなり、直接の損害に限ると読めるところがあります。懲罰的な賠償を求めないというのは、攻められたクワ・トイネ側からすると奇妙な論理的帰結であります。軍縮も戦争に向けての大動員を掛ける前のロウリア軍よりも若干落ちる程度です。それより何より、ロウリア国王の廃位に言及していません。
おそれながら先の6月30日付の第三外務局局内通達文書の内容は真実なのでありましょうか。情報の精査を進言いたします。
本報告において最も重要となる点が以下であります。アルタラス王国は文明圏外に位置するものの第三文明圏に隣接しておることは承知の事実であり、また皇威の拡大の第一の対象先であることは、先の第三外務局機密指示第3903号に規定せらるる所であります。しかるに、式典に於て、アルタラス王族ルミエス王女はアルタラス王国の政治的独立について言及し、加えて、皇国の勢威に服さざることに挑戦するが如き内容を言及するに及びました。アルタラス王族のルミエス王女に関しては、皇国にとって不都合な危険な思想を保有するものとして、重要な調査対象であると考えます。本国においても調査研究の要ありと判断いたします。
このことは、カスト大使閣下、シュタルデン副使閣下の反応が如何なるものになるか想定が困難であったために報告するに及んでおりません。今後の局長閣下の指示を請うものであります。
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宛:リアージュ外務省統括官
発:アルタラス王国駐箚特命全権大使
覚書:日本国・満洲国・クイラ国、講和条約調印式、アルタラス王国の冒険主義について
文明圏外の戦争ということもあったため、情報収集の遅れがあることはまず謝罪いたします。
巷間噂になっております、日本国と満洲国の動向については、アルタラス外務局を始めとした文明圏外各国の大使館に聴取した内容以上のものは、確度不十分ということもあり、獲得できずにおります。
我等は機械文明に疎いため、アルタラス国内にてムー国が保持しているルバイル国際空港に時折降りてきていた日本国及び満洲国の航空機をムー国の航空機と誤認しておりました。ムー国大使館の関係者にいつ天の浮舟に類似したエンジンを開発したのか、正式な発表はないようだが、まだ実験機でしかないのに他国に輸出して、テストをさせたのかと聞いてみたのですが、ムー国の担当者は目を丸くしていました。それで、ルバイル国際空港公社に問い合わせをさせたのですが、公社側もあれはムー本国のテスト機なのではと大使館側に問い返す次第であったようです。公社は、アルタラス外務局からの依頼で日本国及び満洲国の航空機の乗り入れ許可を与えたに過ぎないということで詳細は知らなかったようです。その機体から魔導反応を感知することはなかったとされていますが、実物を調査しているわけではないので、詳細は不明です。日本国及び満洲国はムー国のような科学文明国であると言われておりますが、魔帝の遺産を保有している可能性も否定できません。早急な調査が必要です。
返す返すも、今回のロデニウス大陸における戦争に際して、日本国及び満洲国がロウリア王国側との間に了解した「局外中立」に関する覚書について、我々大使館が厳正に履行したことを失敗であったと痛感しております。アルタラス外務局からの説明の通りに、日本国及び満洲国と意図的に接触を避けていたことを残念に思う次第であります。何らかの形で、非政治的なパーティーなどの催しを計画して、情報収集をすべきであったと反省しております。
日本国及び満洲国の大使館は今次戦争に対して、戦勝記念のパーティーを開く予定はない様子であります。但し、この講和会議開催中に、ロデニウス大陸のクイラ王国がアルタラス王国との間に直接の国交樹立を果たしました。クイラ王国は国交樹立記念のパーティーを開くことと思いますので、ここに出席し、情報収集を行いたいと思います。また、今後は日本国及び満洲国との間に局外中立の規定はなきものと思いますので、積極的な外交を行いたいと思います。
外務省は情報局との間で情報を共有し、ロデニウス大陸における情報収集活動を強化すべしと提言いたします。先ほども話に出たクイラ王国ですが、文明圏外国家にしては、高度な政治システムを構築しています。通常、文明圏外各国は、豪族による家職としてて外交を担う貴族がいて、彼らが外交実務を独占的に行い、君主も安易な容喙ができぬシステムを保有しております。しかし、彼らは、君主の独裁権を確立し、君主に対して責任ある大臣による外交を実施しているという話が入っております。これに関する裏は取れておりませんが、文明圏外国家にこのような国家が存在しているというのを知らなかったというのは危険です。今後文明圏外国家という枠組みをどう扱うかということにもかかっています。一考を願います。
講和条約調印式には、文明圏外国家からも多数の参加がありました。文明圏外国家におけるアルタラス王国の政治的優位は疑いない段階にあると思慮します。これを隣国のパーパルディア皇国がどう判断するのか我々は予断を許さない状況にあると思います。アルタラスの存在価値は高品質の魔石を算出するところにあります。アルタラス島の安定は重要課題であります。
アルタラス王国政府がこの事実をどのように受け止めているのか、別紙のとおり、アルタラス王族の発言は、王国政府による対パーパルディア皇国を見据えた観測気球としての側面を持つのか、それとも我がミリシアルがこの問題でどの程度介入するのかの試金石として側面を持つのか。
アルタラス政府の意向がどこにあるのかはおいておくにしても、我が国としては、アルタラス政府による冒険主義的な試みは慎むべきであると我々現場は判断します。このままでは、このアルタラスの地にて、日本国及び満洲国との国交樹立交渉を行うことは困難です。これ以上のアルタラスの政治的地位を向上させるようなことは我が国としては避けるべきです。外務省としての統一的な見解をお示しください。
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宛:チャーチワーデン外務大臣
発:アルタラス王国駐箚特命全権大使
報告内容:日本国・満洲国との国交樹立、講和条約調印式、アルタラス王国の価値について
クイラ王国の大使館に於いて徐々に進んでいた、大日本帝國と満洲帝國との国交樹立に関する問題ですが、対ロウリア王国との戦争が終結したこの際、一気に国交樹立に向けて交渉を進めていくべきと強く進言します。
講和会議の為何度かルバイル国際空港を利用していた日本国及び満洲国の航空機ですが、我が国の主流長距離旅客機である「ラ・カオス」のようなレシプロ機ではなく、ミリシアルが保有しているようなジェット機であると判明しています。それも、素人目ではありますが、ミリシアルのジェット機よりも精錬された機体であると推察されます。一度ミリシアルの大使館関係者から探りを入れられました。ミリシアルも日本国・満洲国がジェット機を保有しているということを既に知っております。
クイラ大使とも協議の上、クイラ王国内に於て早急な国交樹立交渉を再開することを進言いたします。クイラ王国で行う意図ですが、これは後述いたします。
講和条約の調印式には文明圏外国家から多数の参加がありました。同盟国の力関係を見る限り、主導しているのは日本国と満洲国であると推察します。それを前提に講和条約の内容を鑑みるに日本国・満洲国は寛容な政治姿勢を持っていると判断します。詳細は、別添えの講和条約本文の印刷物にて確認の上、本省にて分析願います。
我が国のパーパルディア大使からの忠告もありますが、今後アルタラス島を巡る情勢は悪化の一途を辿る恐れが大であります。彼の考察によれば、調印式におけるアルタラスの王女による発言は、パーパルディアに対する政治的挑発ととらえられてもおかしくはないとのことです。そして、パーパルディア皇国がこの発言を座視するとは、考えにくいとのことでありました。発言の内容については、別添えの文書を確認ください。
このような状況に於て、日本国及び満洲国との我が国の国交を、アルタラスで樹立するというのは、アルタラスの政治的権威を高める虞があり、我々としては安易にそれに乗ることはできないと思われます。我が国は民主主義国家であり、王女の発言は歓迎するところ大であることは本省及び本国国民も賛成するところと理解し得るところでありましょうが、我が国は同時に永世中立国として国際社会に宣言をしております。列強第四位を刺激するというのは、国際政治上避けるべきではないかと愚考する次第です。本省の訓示を願います。
このような見地からクイラ王国に於いて日本国及び満洲国との国交樹立交渉を行うべきことを進言いたします。また、クイラ大使の発言によれば、クイラ王国内の政治システムは、日本国及び満洲国との国交樹立後劇的に進化を遂げているという認識であります。同時に国内インフラも急速な発展を遂げており、これらは全て日本国及び満洲国の投資によって行われているものとのことであります。先にみたように寛容である日本国及び満洲国からすれば、我が国と国交を樹立後、我が国にも投資が行われる可能性が大であります。日本国及び満洲国は、魔法が存在しないということは、クイラ大使が確認済みであり、我が国の発展を鑑みれば、早急な国交樹立が必要であります。
なお、政治的には伏せるべき話題ではありますが、パーパルディア皇国とアルタラス王国との関係が修復不可能のものとなった場合は、我が国はルバイル国際空港及び空港周辺運営施設の安全及びムー国での運営権の保持のみをパーパルディア皇国と交渉することでアルタラス島に居住するムー国民の安全を保持しようと当大使館では考えております。本国政府及び本省の訓示を願います。
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[厳重極秘]
発:ミリシアル魔石品質基準協会アルタラス支部長
宛:協会本部
[厳重極秘]
アルタラス産魔石の在庫管理は、今後厳重に行うべく本部に報告する。
高品質魔石の価格急騰は協会の運営に支障大なり。
現物市場及び先物市場の動向も含めて注視願いたい。
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宛:アマドル・エスパルテロ外務卿
発:アルタラス王国駐箚特命全権大使
報告内容:講和条約調印式、アルタラス王国との関係について
講和条約調印式により文明圏外に於けるアルタラス王国の政治的威信は高まった。本国では、対ロウリア開戦時、日本国及び満洲国による開戦宣言の文書上で、利益代表国をアルタラスかシオスにしたと聞き、その後の経過でアルタラスが講和窓口となったことを残念がる意向があったと聞く。
確かに、アルタラスには、講和条約の作成のために日満両国から科学製品が集められ、いくつかの品は交渉仲介の御礼に譲渡されると決まったという話をアルタラス外務局の知り合いから聞いた。このように多くの国の仲介をしたということは、しかも、それがロウリアということであれば、文明圏外各国からも注目を集め、国家間の交易には良い方向に傾いたであろう。それだけを聞くとよいことだらけのように聞こえるが、これは毒饅頭であった。
アルタラスは己の権勢に驕ったとしか思えない発言を行った。童女の無邪気な発言ということで笑い話となれば、私の早合点で済む。しかし、それが証明される場がくることはおそらくないであろう。
今後、本国はアルタラス政府との関係について慎重になすべきであると思う。日本国と満洲国も構成員になっている大東洋共栄圏であるが、これがどの程度第三文明圏周辺で勢威を持つか。日本国・満洲国がクワ・トイネとクイラに肩入れしたのは、自国の利益のためであった。現に、クワ・トイネとクイラには開発のための投資が大規模に行っているが、我々にはそのおこぼれは回ってきてはいない。同じような事態に我が国が襲われたとして、日本国・満洲国が肩入れをしてくれるのか。そして、それはアルタラスも同様であると考える。
日本国・満洲国の歓心を積極的に買うことを止める必要はないだろう。だが、クワ・トイネやクイラの後塵を拝するような形に今のままではなるだけで、共栄圏にうま味があるとは思えない。積極的に文明圏外国家群の現状をかき回すような真似をすべきではない。アルタラスのたくらみに乗って、パーパルディア皇国との関係が悪化することは避けるべきである。
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