大日本帝国東京都某所
― 警視庁刑事部捜査一課課員 芹山巡査部長
夏。新世界と言っても、殺人的な暑さは変わらない。うだるような気分は熱さのせいか、これからの仕事のせいか。警視庁刑事部捜査一課北見班の我々は捜査対象の自宅兼事務所に向かっていた。ただ、いつもと違うのはこの面子の中に東京地方裁判所検事局の汪検事がいるということだろう。
「北見くん。機嫌を直してとは言わないけどさ、もうちょっと、こう、ね?」
汪検事が北見先輩に声を掛ける。先輩も、というかまあ我々全員含めてだが、今回の仕事にはあまり乗り気ではないというか、やる気がないというか、不本意というか、そういう仕事だから士気は低い。
「検事。私の顔はいつもこんなもんです。」
「そうそう。北見さんは仏頂面ですから、検事も気に掛けないであげてください。」
「おい、北見。あまり検事さんに心配かけんなよ。」
「うるせえ、鶴公。」
案の定というか、いつも通りというか、特命の二人も付いてきている。しかも、普段とは違い、警保院の小和田官房主事の許可を受けてである。鶴川先輩が近くにいるのも北見先輩の機嫌が悪い一因なんだろうな。
「あ~。胃が痛い。全くなんだってわたしがこの事件の担当検事なんだろうね。不幸だ・・・。」
汪検事がしょぼくれた声で嘆く。まあ気持ちは分かる。俺たちも、本件に関しては刑事部長と参事官から口を酸っぱくして、決して無礼な言動を取らないようにと言われている。北見先輩に至っては、その仏頂面を何とかしろと、理不尽にも怒られた。
「おやおや、皆さん。山本の仕事場に興味はないのですか。僕は魔法の研究者ということでかなり気になっているんですがねえ。」
物見遊山に行くわけじゃない、そう言いたかったが、そのセリフは汪検事が先に言った。
「檜上警部は気楽でいいですねえ。」
「まあ、そもそも警察官は上司の指示に従う義務がありますからねえ。それに公訴権が恩赦によって消滅するのも法の規定に沿ったものです。限りなくグレーなやり方ですが、違法ではありません。」
「珍しいですな、警部殿が犯罪者に理解を示すというのは。」
そう。確かに珍しい。鶴川先輩も目を丸くしている。
「まあ。今回のケースは極めてレアです。そもそもの原因は戦争によって魔石の取引ができなくなったということ。今後はそういうこともないでしょうから、再犯の虞もない。それに今回の犯罪は殺人や強盗といったような誰かの権利を侵害したというようなものでもない。密輸と言っても、違法薬物や武器というわけでもない。ま、思うところがないと言えばうそになりますがね。」
なるほど。警部殿も思うところがないというわけではないのだな。
―――――
― 警視庁刑事部特命係 鶴川巡査部長
カンカン照りの中を歩いた俺たちはようやく容疑者宅にやってきた。誰がインターホンを押すのかとお互いに顔を見合わせていたが、北見の野郎が押すことになった。まあ順当と言える。この中で一番の上位者は王検事だが、本来は容疑者宅へ捜査にやってきたりはしない。俺たちはどちらかと言えば、部外者。となると、正規の捜査員で上位者は北見だ。インターホンを押すと、人が出てきた。外国人のようだ。
「どちら様でしょうか。」
「あー、警視庁捜査一課の者だ。山本吉三さんにお会いしたいのだが。」
「先生にですか?何の御用でしょうか?」
あれ?話が通っていない?確か昨日話はついているって小和田官房主事は言っていたんだけどな。
「えーっと。我々は警察なんだが、話を聞いていないのか?」
「え、警察。警察って衛兵のことだよな。どういうことだ?」
ん?衛兵?なんか耳慣れない言葉が出たんだが。あっ、左京さんのスイッチが入ったぞ。
「失礼。インターホンを押したら貴方が応対に見えられましたが、貴方はどちら様でしょうか?」
「え?私ですか?私はヴァンハールという者ですが。」
「ヴァンハールさんとおっしゃる。どちらの御出身でしょうか?」
「え、あ、クワ・トイネのほうから来ました。」
「ほう!クワ・トイネの「ほう」とおっしゃいますと?」
「え?あ、何か?」
ん?今のやり取りの何が気になったんだ?
「あー、いえいえ。細かいことが気になるのが僕の悪い癖。」
「警部殿、それくらいで。それで、ヴァンハールさん。山本さんとお話ししたいんだけどね。玄関まで呼んでもらえるかな。」
「先生は今研究室で研究中ですよ。」
あれ、全く話が通っていないぞ。
「なんだと!汪検事。これはいったいどういうことなんです!山本には検事局からお話が行っているはずですよね。」
「あぁ、参ったなこりゃ。どういうことだよ。」
こいつはどういうことだ。北見は汪検事に食いかかるように話始めたし、それを芹山と石見が押しなだめている。俺らのことを無視するってことか、山本の野郎は。
「ああ、すまないね。ヴァンハール君に今日のこと伝え忘れてたよ。」
玄関の奥の方から声がして、白衣を纏った男が歩いてきた。
「お久しぶりですね、刑事さん方。ヴァンハール君。この方たちは警察の方ですよ。」
「先生。この方たちは何者なんです。警察って衛兵のことですよね。衛兵の方が先生になんの用なんですか?」
ヴァンハールという男は山本の秘書か何かか?でも、クワ・トイネの人間って言ってたよな。そんな人を秘書に雇うのか?ん-、よくわからん。
「いやね。この間ちょっと無茶をしてね。研究の為にどうしてもアルタラスの魔石が欲しくてね~、ちょーっとばかりお巡りさんの御厄介になりそうなんだよね。」
「そんな。衛兵に連れていかれるだなんて、研究はどうなるんですか。」
「大丈夫、大丈夫。私は結構顔が広くてね、もう話はついているんだ。けどね、警察にも面子があるからさ、まあ形だけでも何日間か家を空けないといけないんだよね。」
なんだこいつ。全然反省していないじゃないか。あ、北見の野郎の目が座ってきたぞ。
「話がついているんならなぜ衛兵がわざわざここに来ているんです?皆さん、先生は研究でお忙しいのです。御帰りいただけませんか。」
「こっちもね。そーいうわけにはいかないんだよ。クワ・トイネ人のお兄さん。」
北見の野郎に同感だ。こいつはできれば、署に連れて行って搾り上げたいところだ。
「ちょっとちょっと。刑事さん。乱暴な口の利き方はよしてくれるかな。ヴァンハールさんは大事な助手なんだからね。」
「ほう、助手ですか!?」
また・・・。左京さんは妙なところでスイッチが入るんだからなあ。
「んー。おやおや、貴方はこちらの刑事さんとは違って、知的な刑事さんじゃないですか。お久しぶりですね。こないだ来たときはドイツ語の工学論文をスラスラ読まれていたんで、驚きましたよ。やあ、貴方がいてくれて助かりました。」
おいおい、北見の怒りの目が左京さんに向いたぞ。汪検事は・・・みぞおちを抑えている、か。芹山は・・・苦笑してるな。石見さんは、おろおろしてるな。
「先ほど、助手とおっしゃいましたね。彼は、聞くところによるとクワ・トイネの御出身というじゃないですか。失礼ながら、科学技術では最高峰のドイツのベルリン大学に御留学されていた山本さんの研究のお役に立てるとはどうも考え難いのですがね。」
「ハハハ。いや、彼にはですね。魔法の分野で協力してもらっているんですよ。彼ね、魔法が使えるんですよ。ヴァンハール君。トーチの魔法見せてもらっていいかね。」
「はあ、まあいいですが。」
ヴァンハールさんはちょっと我々から離れると、片手の手のひらを上に向けて、「トーチ」という掛け声をかけた。すると、手のひらの上に小さな炎が現れた。
「おお!これは、まさしく、魔法というやつですね。スゴいです。初めて見ました。」
「でしょう。私もね、2週間くらい前だったかな、彼が雇ってくれと言ってやってきたときにね、初めて見せてもらって驚いてさ、即採用したのよ。このトーチの魔法の研究から魔法そのものについてもいろいろと研究したいと思っているのさね。」
左京さんだけじゃない。俺らも、もちろん北見の野郎もびっくらこいてた。何もないところに火が現れたんだ。こいつは興奮するわ。
「そうです。先生には、魔法の研究のための時間が必要なんです。だから、衛兵の方の面子の為だけで研究をストップさせられるというのは。」
あ、話が戻った。
「まあ、と言ってもね。2,3日で帰れることになってるからさ。ヴァンハール君は、これまでの研究データをまとめるでもしていてよ。鍵は預けとくからさ。なんだったら、休暇扱いでもいいよ。」
山本はそう言って、白衣のポケットにいれていた封筒を彼に渡した。
「君の携帯にも電子マネーをチャージしているし、現金もいくらか渡しとくからさ。雇ってこの方休みなかったからね。ちょっとした休日を楽しんで頂戴よ。」
「休日ですか・・・。わかりました。先生はどちらの衛兵屯所に行かれるのですか。せめて所在だけでも把握しておかないと、緊急の連絡がつきません。」
「衛兵の屯所?ああ、警察署のことか。違う違う。南麻布のホテルに宿泊することになってるのよ。あとで、位置情報を携帯に送っとくからそれ見てよ。」
ヴァンハールさんは、はーっと溜息をついた。
「わかりました、それじゃあ、私はこれまでの研究データのまとめをしたら、先生の書斎にある本でも読ませてもらっています。」
「ああ、また、海底二万哩かい。君も好きだねえ。じゃあちょっとだけ家を留守にするから留守番宜しく。」
山本はそう言って、サンダルから靴に履き替えだした。本当は、容疑者の任意同行なんだが、これは確かにやり切れんわ。
そうだね。KENZENだね。 24 / 52%
ウソダドンドコドーン。 5 / 11%
何故ここで止めた??? 17 / 37%
設問は、その場のノリと勢いとおちゃらけて書いたので、正直わけわかめなんですが、もうちょっとだけムフフな話書いてもよさげな感じ?かな。