パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局
パーパルディア皇国の外務局は3つに分かれている。この区分は、大日本帝国外務省が(未だに)地球世界の地域を基準として局を分けていたり、満洲帝国国務院外交部が新世界の地域を基準として司を分けているような、地域を基準として分けているわけではない。国力の違いを基準として分けている。従って、第一外務局に第一文明圏課と第二文明圏課が分かれているように、第二外務局にも第一文明圏課と第二文明圏課が分かれて設置されている。第三外務局だけは、文明圏課とひとくくりにして分課されているが、これは対象が少ないからである。ただ、第三外務局は他の二つの外務局とは違って、部が置かれている。東部、南部、西部の三部長の下に地域を基準にして分課が行われている。
この外務局の中で最もエリートと呼ばれれる者が配属されるのが、第一外務局である。局内は総務課、第一文明圏課、第二文明圏課の三課で分課されており、第一外務局員は基本的に列強への駐在経験を持つ。それ故に彼らは、大日本帝国及び満洲帝国という存在について敏感になっている。
彼らは現実主義者である。当初こそ、島ごと転移してきた、リーム王国の位置に大地ごと転移してきたといった話は一笑に付した。そんな話などあるはずがない。誰だってそう考える。だが、国家戦略局から廻ってきたレポートを読んだ彼らは皆一様に頭を抱えた。
彼らは第一文明圏の列強神聖ミリシアル帝国とエモール王国、第二文明圏の列強ムー国とレイフォルへの駐在経験を持つ。列強と雖もその国力には格差がある。故に、2~3年の区切りで列強それぞれの国を廻ることができるよう人事上の考慮が為されている。
それゆえに理解したのだ。
日満両国の国力。ムー国や神聖ミリシアル帝国で放送されているカラーTV放送。天をも突き破らんとする高層建築物。街を走り回る自動車。流線型の鉄道車両。超大型タンカー。手のひらサイズの小型電話。夜でも明るい街の灯り。
始めは彼らもムー国や神聖ミリシアル帝国が制作した映画のセットだと考えた。だが、同時に第三外務局から持ち込まれた日満両国の新聞が彼らの頭に冷や水を被せた。日本の新聞はこうして毎日のようにカラー印刷がおこなわれているという説明と共にだ。ありえない話だ。ムー国も神聖ミリシアル帝国もカラー印刷そのものは可能だ。だが、毎日はありえない。コストや手間を考えた際に、カラー印刷は特別な日、新年や皇帝・国王の誕生日などの特集など限られた日にしか行われていない。出まかせだという者もいたが、過去ひと月分の新聞、それも各紙の連日の日付の新聞が持ち込まれたとあっては、その声も小さくなった。
日満の雑誌・書籍も違った。紙質が上等なのだ。パーパルディア皇国は近年羊皮紙を使うことから脱却した。紙を自国生産している。その紙質は物の違いもあるが、おおよそムー国のそれよりも劣る。だが、日満両国のそれはムー国よりも丈夫で、滑らかな手触りだった。そこに記載されている内容は、文字は分からなかったが、写真は鮮明だった。
第一外務局員はムー国やミリシアルの飛行機械について当然に知っている。その中には、自己の興味の対象でもあったのだろう、飛行機械について造詣の深い者がいた。彼は言った。日満両国の飛行機械は、ムー国やミリシアルのそれよりも精錬されているのではないか?と。流石にそれはという者もいた。しかし、彼が飛行機械に関して興味を持っているということを知る者は、いやまさか、そうなのかという気持ちになった。
それでも彼らは分かっている。この問題迂闊には動けぬと。
―――――
パーパルディア皇国外務局には職員の不正を糺す組織が存在している。外務局監察室である。監察室長には皇帝ルディアス自らが就任し、監察室そのものの権威を高めている。監察室には監察官が数人存在している。これらは皇族か高位貴族に限られる。元高位貴族、現在は来年の御成婚を前にしているレミリア・ブラウンシュバイク・フォン・レミール侯爵夫人もまたこの監察官である。
監察官の仕事は、職員から挙がった稟議書の確認の他、職員が作成した報告書をランダムに抽出し、内容におかしな点がないかを確認するものもある。問題があれば、当事者を監察室に呼び出して口頭試問が行われたり、資料の提出が命じられたりする。ランダム抽出は、監察官の気まぐれでおこなわれるため、抜き打ちチェックに等しい。誰の書類を確認したかはきっちりと把握され、総務課人事係が書類にまとめる。これは人事考課の対象となる。
レミールは、この書類のランダムチェックに際しては、局内をぶらりと見廻って、ふと目に着いた書類に対して行うことにしていた。レミールがいようといまいと仕事はしなければならない。それゆえに嫌でも書類や資料を机の上に置かなければならない。局員各位が今何をしているのか、それをどのように処理しようとしているのか。それを知るとことにレミールの意図はあった。
レミールは高位貴族の出身であり、現役の皇族である。儀礼上は、どうしても態度を改める必要がある。だがレミールは、ここ外務局内に於ては、そのようなことを嫌った。外務局員は、皇帝陛下の目であり、耳であり、口であり、手である。貴様らが傅く相手は陛下であって私ではない。そこを間違えるなと一々挨拶の為手を止めてどうする。席を立ちあがって何の意味がある。それよりも、陛下の統治の参考となるべき書類、陛下の思考の材料となるべき情報を速やかに上に挙げることができるように努力せよと。爾来、レミールがそばを黙って通ろうとしても局員は会釈程度で挨拶を済ませるようになった。
今日もレミールは第一外務局内をぶらりと見廻っていた。ここ数日局内の雰囲気が暗いように感じる。はて、どうしたものかと思いながら歩いていると、ムー国に出張した職員の机に書類の束が置かれているのを発見した。
はて?『日本国と満洲国についての調査報告』・・・。オーサーは国家戦略局か・・・。
レミールは紙の束を手に取り、表紙をめくる。職員の誰かが、「あ!それは。」という声が挙がったが、レミールは気にせずに書類を眺めていった。半分ほど読み終わったところで、レミールは顔を上げた。職員はレミールの顔をじっと眺めていた。
「オイゲンベルグ次長とマリンドラッヘ局長を呼べ!私の部屋にだ!」
レミールは踵を返して、第一外務局庁舎にある監察室へと戻っていった。
―――――
監察官は廊下のドアから中に入ると、まず秘書官の執務スペースと作業スペースと応接スペースに分かれた共用スペースがある。この奥に各監察官の個室がある。監察の業務は基本的にこの共用スペースで行われる。基本的に監察はオープンの場で行わなればならないとされているからである。個室という密室の中では不正の温床となり得る為監察の業務に適さないというのがその理由である。つまり、個室の中で話すというのは機密性が高いという証拠でもある。
第一外務局長エルト・フォン・マリンドラッヘ、第一外務局次長ハンス・ツー・オイゲンベルグは、二人してこの奥の部屋、レミールの個人執務室へとやってきた。
「来たか、二人とも。まずは、そこに座れ。」
レミールの個人執務室には、執務机の外に応接セットが置かれている。レミールは、執務机には座らずに、応接用のソファーに座っていた。バサッと二人の前に先ほどの書類が投げ出される。二人は既に呼ばれるに至った理由について、命令を受けた第一外務局員から聞いている。
「この書類はどういうことだ。何故私に報告がない。」
「ご報告が遅くなり、申し訳ありませんでした。何分にも内容が荒唐無稽なものでございますので、レミール殿下への報告にはやはりある程度の裏を取る必要がありました。」
「ハンス。其方、今裏を取ると言ったがどうやって裏を取るというのだ。このような荒唐無稽の内容、どこをどうしたら存在が証明されたと言えるのだ。」
オイゲンベルグは、うっと息を詰まらせながらうなだれた。
「ふー。エルト、この書類は、皇帝陛下にお見せしたのか。」
「いえ、何分にも内容が内容でございましたので、ある程度の精査を行ってからでなければと思いまして・・・」
「ふー、お前もか、エルト。らしくないぞ。」
マリンドラッヘとオイゲンベルグは恐縮した。
「得心がいかぬか。よいか、この書類の内容、そう例え話半分としてもだ、このような国家が我が国のすぐそば、いや国境を接しているという情報もあったか、まあ、そういう国がすぐそばにいるのだ。まあたとえ、話半分の国力としてもだ、そのような国がすぐそばに在って、我が国の対外政策に影響を及ぼすとは其方たちは思わないのか?」
オイゲンベルグは再びうなだれて言葉をなくした。
「言うまでもないことだが、我が国の外交政策は皇帝陛下の専断によっておこなわれる。外務局が外務局として情報を分析し、外交政策を提言することはよい。だが、外交政策の決定権は陛下にあるのだ。陛下が物事を決断をするための必要な情報を外務局は準備するのであって、外務局には外交政策の決定権はない。そこを誤ってはいかん。情報をあげなければ、陛下は決断を下すことができない。まだ真偽不明の情報ではございますが、と言って情報をあげる。エルト、ハンス、お前たちはそうあるべきではなかったか?」
「御説ごもっともかと思います、しかし、そうであったとしても、この件が宮廷に洩れますと、いささか厄介なことになりはしませぬか。」
「チッ。そこか。エルトが気にしたのは。いや、すまぬ。私の浅慮であった。」
パーパルディア宮廷。宮内府を中心とした皇族、高位貴族を中心とした政治勢力。ルディアスは旧来の政治勢力たる門閥貴族をここに囲い込もうとしたが、門閥貴族もそれをスルリとすり抜けるかのように逃げようとしている。決して明確に敵対しようとしているわけではない。首輪を掛けられないようにとかわしているに過ぎない。そのような駆け引きをしているさなかに、斯くの如き国力を持つ国が現れたと知ったらどうなるか、
「確かに表ざたにはできぬな・・・。皇国は恐怖政治で地方を統治している。我が国の近くにこのような国があって、我々が弱腰に出たことを知られては、その支配が緩む。舐められては終わりだ。だが、これは。不味いな。」
情報が宮廷に洩れれば、口さがない宮廷雀が話を吹聴するだろう。そうなっては、地方にも話が届くことになる。
「エルト、ハンス、情報の精査はどのように行っているのだ?」
「国家戦略局のイノス企画官と第三外務局のカイオス局長から、日本国満洲国の産物の現物をいくつか手に入れております。」
マリンドラッヘはそういうと鞄の中に入れていた書籍、新聞、雑誌などを机の上に並べた。
「こっ、これは!!」
レミールは、旗袍姿の女性が表紙を飾った満洲国の雑誌を手に取った。色鮮やかに着色された写真はレミールの目を瞬かせた。
「これは・・・絵画ではないな。私は生まれが生まれなので、幼少期から絵画や写真をいろいろ見てきた。この写真はそのいずれとも異なる。全く高度な技法が用いられている。見よ!!触っても触っても、手にインクが付かない。これは、、、これは・・・」
レミールはしばしの間、呆然とした。頭はこの事実を理解している。だが、どこかでこの事実を否定しがっている自分がいたのだ。こんなことあるはずがないと。
「ふー・・・。エルト、ハンス。この件、一刻も早く皇帝陛下の耳に入れなければならぬことに変わりはない。だが、これらの国に対する対抗手段を手に入れてからでなければ危険だ。この国々を相手するのに、徒手空拳では、我が国が舐められる結果に終わるだけだ。分析を良く進めなければならぬ。当分の間は・・・そうだな・・・外交政策の決定に関しては、外務局に対してよくよく御下問の上決定されますようお願い申し上げる。こう陛下には言上しておく。故に卿等、関係各部署と協議の上、分析を進めよ。」
「了解しました。」
「あとはそうだな。ハンス、其方は席を外せ。」
オイゲンベルグは、では執務に戻りますと告げて部屋を退席した。
「エルト。お主の口から陛下に直にこのことを伝えてくれるか。決して、外に洩れぬようにだ。」
「外に洩れぬようにと言われましても・・・」
マリンドラッヘが困惑したような顔でいうと、レミールは少し顔を背けて、早口で言った。
「皆迄言わすでない。其方と陛下とのこと、私も多少のことは知っている。」
マリンドラッヘは驚いたような顔をして言った。
「殿下にはご存じであらせられましたか・・・。しかし、その、よろしいのでしょうか。殿下は既に御婚約されておりますのに。」
「皇帝の妻は一人ではない。それにルディアス陛下は聡明な方だ。優秀な種は一つでも多く実らせるべきだ。だが、エルト、今はその時ではない。今其方に身籠られては、第一外務局の業務は停滞してしまう。その、だから、申し訳ないとはおもうが・・・。」
「ええ、皆迄おっしゃらなくとも大丈夫です。」
「ふっ、流石はエルト。一本取られたか。」
二人は静かに笑った。
流石はエルト。さすエル。
1 海軍中佐シャクール・バウワーブ 17
2 陸軍魔法大佐ウスマン・ガンボード 9
3 陸軍魔法大佐バハル・バイダス 4
4 大魔導師サーリム・ハルビー 20
5 魔導師カリム・アンマール 4
6 其の他(感想欄へどうぞ) 競争中止
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6 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
4番差し切ってゴール。1番がもう一度さし返そうと追い上げましたが、4番の粘って引き離しての勝利でした。