さて、自分的には際どいという程度の表現と思っています。R指定まではいかないかなあと。
在外公館定期報告
アルタラス王国国内の権力闘争に関する報告書
駐アルタラス公使 大垣秀徳
アルタラスの権力闘争は複雑である。まず、政策的な対立。これは言うに及ばず、外交政策の対立である。それも我が国がこの世界に転移してきたことに端を発する。ルミエス王女はどこで学んだのか、我等の国の先進的な政治思想に触れて、この地域にしては極めて先進的な、革新的な思想を形成するに至った。これを良しとしないのが、外交政策の責任者たるユグモンテ外務卿を首領格とする一派である。現実的な外交認識を思考基盤としている、職業外交官の集団である。
この外交政策の対立は副次的に国内の産業についての対立を浮き彫りにした。アルタラスは魔石の輸出で財を成している。この魔石だが、品質はこの世界でもトップクラスのものだということで、ミリシアルを始めとする上位列強国もミリシアルから輸入している。だが、それゆえに高価な品だ。魔石を使用した魔道具もまたしかり。高品質なものほど値が張る。上位貴族や幹部官僚層はこの恩恵にあずかることが可能だが、下位貴族や下級官僚層には手が回らない。そういう訳で、下級層が我等の国の科学技術に目を付けた。我等の技術では高価な魔道具レベルのものが下級層の者にも手が入りやすい。必然的に下級層とルミエスの派閥が手を握る構図が出来上がっていたが、これも今は雲散霧消しつつある。
しかしながら、これらの問題よりももっと根深いのが王位継承を巡る問題であった。この問題は我等の国々が転移して来る前から存在しており、今もくすぶっている。国王ターラ14世の王妃は今は故人となっている。王と王妃の間に生まれたのがルミエス王女なのだが、この王妃は第三文明圏にあるマール王国の王室の身分であった。それも現国王の妹という血筋であった。ルミエス王女が生まれた頃は、未だパーパルディア皇国は存在しておらず、この周辺地域が第三文明圏とは呼ばれていなかった頃のことであった。両王国はどこの国にも気兼ねせずに、王家同士の誼を通じたに過ぎない。あるいは、マール王国からしてみれば、アルタラスの魔石に目をつけてある程度の融通をと考えていただけに、アルタラス優位の婚姻同盟であった。だが、政略結婚ではありながら王と王妃の仲は睦まじいものであり、王はルミエス王女をことのほか可愛がっておられた。
しかし、大陸では徐々にパーパルディア皇国がその版図を広げ、周辺各国を併呑し始めた。そんな時にパーパルディア皇国に滅ぼされた王国があった。パーパルディア皇国も年がら年中戦争をしていたわけではない。時には兵を休ませる必要も出てくる。そのような中で行われた戦後処理の一つが、現パーパルディア皇国ローゼンベルグ伯爵領、当時のローゼンベルグ王国の王家追放であった。パーパルディア皇国の版図拡大に抗していた王国であったが、優勢なパーパルディア皇国軍の前に敗退し、王家は降伏を余儀なくされた。その際の講和条件が、国王の退位。その上で王位継承は認めず、王族の大部分を国外追放処分とするものであったが、現国王の末子をローゼンベルグ伯爵に叙することを認めるというものであった。家臣団はパーパルディア本国より派遣するという傀儡領主。それでも王家の血統は残してやるという寛大な処分であり、伯爵領から追放王族に毎年多少の金を送金することが許された。この際に妙齢の王族がいたが、「伯爵家の令嬢」格としての婚姻ならば、輿入れを許すとの沙汰が行われた。
この沙汰によって、ターラ14世に嫁いできたのが、国王第一夫人のメラニエル男爵夫人である。アルタラス王国にとってしてみれば、パーパルディア皇国の紐付き貴族であり、パーパルディア皇国に因縁の在る貴族。扱いが難しいだけではなく、家格も男爵程度という格でしか遇せない女性。国王の第一夫人としての格ではない。王妃が輿入れに際して、アルタラス国内の王家の荘園ルドラを領することとし、ルドラ侯爵夫人と遇されていたのに比較すれば、屈辱たる措置であった。
アルタラス貴族の側からもどう接してよいかわからず、第一夫人は孤立していたが、皇国はあれよあれよという間にフィルアデス大陸の覇者となり、列強最強の神聖ミリシアル帝国から第三文明圏と看做される文明圏の筆頭格となった。この間、皇国から第一夫人の子はまだかというような声がそれとなくアルタラスに伝えられ、第一夫人は男子であるホーラントを産んだ。通常、王位継承順位は女子よりも男子が優先される。妾の子ならばともかく、正式な第一夫人の産んだ子とあっては、王族の産んだ女子よりも下級貴族の産んだ男子が優先される。それでも、ターラ14世は幼少の間は無事に育つかは分からないということで、立太子の勅裁を先送りにしていたが、パーパルディア皇国からは立太子はまだかと問い合わせが続いた。そのような情勢下で王妃ルドラ侯爵夫人が急死した。不審死という話もあったようたが、証拠となるものは見つけることはできなかったようで、ターラ14世は若干4歳のホーラントを王太子とすることを内外に宣言した。
この立太子以降、第一夫人の勢力は徐々にあるが増してきた。しかし、上位貴族は、パーパルディア皇国の紐付きであると言うところを警戒視しており、国内の勢力動向としては体制をひっくり返すようなものではなかった。何しろ王太子の年はまだ若く、政治的な指導力を発揮することができるような状況ではない。更にルミエス王女が外務局で儀礼担当外交官として職務に就いたことも上位貴族にとっては追い風となっており、立太子後と雖も、少なくともルミエス王女が国内でそれなりの地位を有し続けることを望んでいた。将来の国王派と王女派で均衡がとれるのであれば、パーパルディア皇国の完全な紐付きとまではならぬという思惑があった。
つまり、当初はルミエス王女とユグモンテ外務卿とは少なくとも対立関係にはなく、どちらかと言えば同じ派閥にいたのである。ところが、その関係は、現在破綻している。ユグモンテ外務卿は第一夫人との間で関係改善に動いているという噂もある。その上でミリシアルの大使に対しホーラント王太子の正室をミリシアルの上位貴族からいただけないかという交渉を行っているという話も出てきている。
アルタラスの情勢は我が国にとっては向かい風にあるというより他にない。本省においてもアルタラス情勢について本職が取りうべき策有れば、御指示願いたし。
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アルタラス王国王都ル・ブリアス郊外 大日本帝国公使館
― アルタラス王國駐箚大日本帝國特命全権公使大垣秀徳
ロウリアの大使が朝から訪ねてきた。昨日のうちに明日の朝一でのアポイントを取ってきた。我々は最早交戦状態にはないが、国交は樹立していない。その国交樹立も前提条件が達成されていない状況では交渉の進めようがない。
政府・外務省は引き続きアルタラス王国での国交樹立の会合を重ねたいと考えているようだが、果たしてその理由は奈辺にあるのか。我が国民に人気があるルミエス王女は失脚した。本国は当初、ルミエス王女を仲介人として指名し、彼女の国内での権威を高めようと考えていた節があるが、今この状態でそのような申し入れをするのは危険だ。アルタラス国内の権力闘争に首を突っ込む形となり、内政干渉となる。アルタラスは、この世界に於て文明圏外国家と言われている国にしては、先進国がその動向を注視している。下手な行動はその国々の不審を産むことになる。危険だ。
「・・・・本国はかような状況でありまして、何とか日本国と満洲国より、御援助を頂くわけにはまいりませんでしょうか。王都の民が飢え死にしては、今後の復興や賠償金の捻出などにも影響が生じます。復興無くして賠償金は捻出できませぬ。お力添えを願うばかりで申し訳ないのですが、今一度ご支援をお願いできませんでしょうか。」
ロウリアのアルタラス大使が説明と頭を下げにやってきている。そう言われても困るのだがな。
「ベルシュ大使、大使も講和会議に参加された全権委員のおひとりです。我等が動けるのは、国交が樹立されてからというのは分かり切っておられるでしょう。我々は、クワ・トイネやクイラの方々にも義理を果たさねばなりません。」
「御説ごもっとも。しかし、その義理を果たすためにも我々ロウリアは存在している必要があると思います。このままでは、ロウリアは四分五裂しかねぬところまで来ているのです。そうなっては、ロデニウス大陸の西半分の治安は悪化の一途を辿ります。その流れは、クワ・トイネやクイラにも波及しましょう。それは、クワクイ両国にとっても歓迎できぬことでしょう。ここは、クワクイ両国を援助するという意味も込めまして何卒。」
援助を要請する側にも関わらず、ギラギラとした眼をして、こちらの顔をうかがってくる。やりづらいことこの上ない。塩をまいて追い出したいところだ。だが、本国の意向はロウリアの保全にある。ロウリアの崩壊は望んでいない。
隣に座る満洲国公使館のドナルド・ラスティン参事官は終始無言だ。この会談、日満両国の両公使とともに行うことをベルシュ大使は依頼してきた。隣の満洲公使館に人をやって同席を依頼してきたが、本日は別件があって公使が外出するので、参事官を代わりに派遣するとのことであった。責任者である特命全権公使と公使館の次席責任者である参事官。当然私が応対を主で行うことになるが、貴方も一応国を代表しているのだから何か喋れよという気持ちになる。
「ベルシュ大使。貴使の意向はとりあえず受け賜りました。ただ、ご要望にお応えできるかはこの場ではお約束できかねません。今日のところはお引き取り下さい。」
「では、大垣公使。我々の意向を本国に伝えていただく、そのお約束だけでもいただけませぬか。」
挑んでくるような目つきだ。なんだか気に入らないな・・・。
「それも含めてお約束は一切できません。我々には国交がないのです。この件に関しては、私は国を代表する特命全権公使としてお答えしかねます。」
癪に障ったので、きっぱり断ってやった。するとベルシュ大使は、「分かりました。本日のところはこれで失礼します。」と顔を下げて、部屋を後にした。ラスティン参事官は、「では私も失礼します。マニャール公使には戻り次第報告いたします。」と言って、同じく席を立っていった。結局何も応対しなかったな・・・。なんだか、納得いかないな。
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アルタラス王国王都ル・ブリアス アテノール城 離れ
― 第一王女附筆頭侍従武官 リルセイド・ド・ザーム
「申し訳ありません・・・。殿下はお会いしたくないとのことで・・・。」
私が頭を下げて謝罪すると、マニャール公使は「そう・・。」と声を漏らして、ルミエス殿下の部屋に続くドアを眺めたようだった。私はマニャール公使にある依頼を出した。そして、その用意が整ったので、王宮に面会依頼を出してもらい、この離れに来てもらった。
「まあ仕方ないわね・・・。リルセイド卿から頼まれていた王女殿下の護衛の件ですが、ようやく準備が整いました。こちらがその護衛ですね。みなさん、それぞれ自己紹介をお願いします。」
「満洲国民政部警察局所属で要人護衛の任務についています、李春麗と申します。よろしく。」
「私は、詳しい所属は言えませんが、満洲国陸軍に所属しています。キャミー・ブラックです。襲撃犯の撃退が主任務になると思います。よろしくお願いします。」
「不知火舞香です。ブラックさんと同じく襲撃犯の制圧が主任務になるかと。職業上背後関係を掴むためにもできるだけ殺傷せずに捕縛することを心がけています。」
私はルミエス様の警護を強化する為、マニャール公使に護衛に長けた者をお借り出来ないかと相談した。今のルミエス様のお立場は危うい。国王陛下は、ルミエス様を最大限守ろうとして頂いている。だが国内の貴族に対する手前、この離れに事実上の軟禁状態。宙ぶらりんな状態だ。国内の上級貴族や第一夫人派は、殿下の存在そのものを危険視している。だがパーパルディア皇国が牙をむいたとき、我が国の次の世代の王が紐付きとなることを憂慮もしている。対パーパルディアという観点からすれば、殿下の身の安全は保障されているとも言えなくないが・・・。
「彼女たちを選んだ基準は二つ。一つは女性という点。殿下は未婚の女性です。男性が周囲にいることは好ましくないでしょう。もう一つは彼女たちは近接格闘に優れているという点。あくまでも殿下の護衛です。強力な武器を使用して、というわけにはいきませんから。当面は、リルセイド卿の参謀、相談役として側に置いてください。護衛プランなどを検討して、殿下の護衛騎士全体の能力向上に努める方向で行きましょう。当面は、本国との調整や交代要員の検討もあるので、常時2名は護衛勤務を行い、後の一人は公使公邸で休息と本国とのやり取りにあたるということで。」
「ご協力ありがとうございます。何分数多く雇い入れるというわけにもいかないので、貴国の護衛のやり方を勉強させていただきます。」
「ええ。そうして頂戴な。」
マニャール公使は、もう一度ドアを眺めてため息をついた。いつかまた殿下と公使が笑顔で再開するときが来れば・・・。
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アルタラス王国王都ル・ブリアス 平民商業地区・連込宿
王都ル・ブリアスは、アテノール城の他にも貴族の役宅が立ち並ぶ貴族街、ミリシアルを真似て作られた中央官庁街、たいていの外国の大使館と大使公邸があつまり、その周囲に外国人居住区が存在する外国人街の他、アルタラスの平民が商家や工房を構える行う商工業地区や平民居住区が存在している。新参の国家である日満両国は、電気設備を必要としたため、他の国の例にもれず、郊外に公使館と公使公邸を構えていた。郊外に設置したおかげで、公使公邸にはエアコンなどの電化が完了済み。公使館の近隣に建てられた公使館職員宿舎も未だ十分な電力環境ではないことから一日の電力使用上限はあるものの不自由のない生活ができるようになっている。
そんな快適な空間を外れた場所にあるアルタラスの平民が利用する場末の連れ込み宿。9月とは言え夜はまだ暑い。必然的に連れ込み宿の窓は開け放たれる。そのため熱気に負けじと男女が情を交わしている証拠の艶のある声や淫靡な音が部屋の外にも洩れている。そんな音声があちらこちらから聞こえる宿の一室にその熱気を閉じ込めた部屋がある。窓を閉めて行為に及んでいるのは、彼らが逢瀬を隠すべき立場にいる、本来ならばこの地域にいるべき階級の者ではないからという至極当然の理由だけではない。汗だくになりながら、女と男、いや雌と雄が獣のような、濃厚な情事を好んでいるからである。
「大垣公使はいつも通りの堅物であった。いや、これは失言だな。極めて筋を通す御仁であった。それ故に我が国の窮状には目をつぶっている。だが、これを放置するのは悪手だ。違うか。」
「それで、私にどうせよと。」
粗末な布団の上に寝ころんだ男の上に跨り、引き締まった肉置きを男の太腿に叩きつけながら女は問うた。
「さて、そこよ。このままでは、王都に餓死者も出てこよう。王都には軍縮委員会や賠償委員会などが設置される予定だ。このような混乱のなかで王都や我が国土内でまともな活動ができると思うか。」
「そうね。少なくとも私はそんなところにはイキたくないわね。」
仰け反って前後に腰をグラインドさせながら女は答えた。講和条約の規定により、ロウリア王都には関係各国や中立国アルタラスからも国際委員が集うこととなっているが、ロウリア王都は現状彼らを受け入れるだけの体制が整っていない。
「さもありなん。おまけに大陸西海岸では、海賊が出没し始めた。このままでは航路に被害も出よう。其方らの国の船ならばともかく、クワ・トイネやクイラ、アルタラスといった通常の帆船などを使用している国ならば貿易に被害が出よう。それは、そなたらの好むところではないとおもうがどうかな。」
男は腰を上下に動かし始めた。女の体から汗や汁が飛び散り、辺り一面に濃厚なにおいが充満していく。
「さて、それでも難しいわね。大垣公使の意見は正論よ。そもそも、ロウリアのことはロウリアが責任を持つべきこと。ロウリアはれっきとした独立国。自分の足で立ってもらわねばならないわね。」
「勿論平時ならばそうであろう。だが今は非常時。非常のとき非常の策を用いるべき。この状況を放置すれば、クワ・トイネやクイラ、そして大東洋各国にも悪影響を及ぼす。正論を唱えるだけが外交官の任務ではないことぐらいお主も理解しているのではないか。それに、この話は我が国だけが得をするためだけに申し出ているのではない。其方らの国に損害が発生しないがための話でもある。」
「・・・そうね。」
再び女は肉置きを男の太腿に叩きつけ始めた。しかし、今度は先ほどとは違い、むさぼるがごとき激しいものではなく、速さに緩急をつけたり、締めたり緩めたりもせずに、ただ規則的に動いているにすぎない。何かを思案し始め、そちらに意識が言っているが、身体だけは惰性で動いているに過ぎないようだった。男の側も思案し始めた女を邪魔することなく、じっと待っていた。
そうすること数分、女の動きが止まり、男の太腿に肉置きを押し付けて締め付けた。女は前に屈み、男の耳元に顔を近づけた。
「話は変わるけど、この逢瀬も実は今日で終わりなの。」
「ふむ・・・。ああ、あれが始動し始めたということか。」
「ええ、私の護衛を担っていてくれた子たちがルミエス王女の護衛に就くことになったわ。だからこうして人目を忍んで、『情報交換』をすることはできなくなった。」
「そうか。名残惜しいというべきか、これ以上搾り取られずに済んでよかったというべきか。評価に迷うところだ。」
「よく言うわね。まだ戦闘態勢を維持しているようなのに。」
女と男は汗まみれの身体で密着した状態のまま苦笑しあった。
「それでね最後にいいことを思いついたわ。これからゲームといきましょう。私の攻めに貴方のものが耐えきることができたなら、私の考えた策を使ってあげるわ。成功までは保証できないけど、この私が直々に動いてあげるわ。もともと大東洋地域の安定は我が国にとっても重要課題の一つ。そもそも悪い話ではないけど、本来は筋を通すべきところ。そこを曲げて、ね。さあ、私の挑戦を貴方のものは受け切れるかしら。」
「やれやれ、分の悪い賭けになりそうだな。だが、国の安寧が掛かっているとなれば、わしも身を差し出すとせねばな。」
「ふっ、決まりね。」
それまで男の耳元に顔を近づけ、屈んでいた女は、すっと体を持ち上げて背を伸ばし、急激に動き始めた。