大日本帝國召喚   作:もなもろ

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愈々パーパルディア進駐です。外交感覚のすれ違いでしょうか、それともパルソ君のミス?


フェン王国首都アマノキフクハラ城 / ショーンレミール近海 中央歴1639年9月21日(月)

フェン王国首都アマノキ フクハラ城

 

 フェン王国首都アマノキに建てられたフェン国王の居城フクハラ城からは、海が一望できる。眼前の海はワダミナト湾と言い、フェン王国海軍の母港でもある。この海では軍祭の準備が進んでいた。

 今回の軍祭の目玉として、日本国の民間団体が企画を持ち込み実施されることとなった競艇は、この湾内で行われる。今、湾内の一角ではレースに向けて調整を行う数艇のボートが海を疾走していた。

 

「いやはや凄い。すごい速さですな。」

「うむ。海面を滑るように駆け抜けている。これで軍用ではないというのだからな。日本国の国力と言うのはすさまじいものよ。」

 

 フクハラ城の展望室では、フェン国王であるシハンと御側衆筆頭のマグレブが日本製の双眼鏡を眺めながら会話をしていた。

 

「速さを維持したままコーナーに向かい、急転回をして方向を変えてまた速度を上げて走っていく。そばには他の者の舟艇もあります。ぶつかるのを恐れずに突っ込んでいく、いやはや戦士ならばひとかどの者ですぞ。あれで、軍人ではないというのですから、日本国の民と言うのは勇敢なのですな。」

「うむ。人的資源の層が厚い。あれで民間人と言うのだから、軍人となるともっと勇敢な漢達が揃っておるのじゃろう。」

 

 聊かズレた感想を話しながらも、双眼鏡を構えたまま二人は海面を疾走していくボートを眺める。

 

「それにしても惜しいことです。彼らの国の中央政府に今少し対外進出の意欲があれば、パーパルディアの艦隊を追い払えたものでしょうに。」

「マグレブ。それ以上は言うまいぞ。今はこのまま彼らを我が国に引き入れ続けることが肝要。きゃつら、現時点では、平和的な進駐ということを約束はしている。だが、パーパルディアはパーパルディアじゃ。今にきっとぼろを出す。幸いにしてかの国の国民は我等の国を好いてくれておる様じゃ。このまま。このまま旅行者数が維持できれば、いつかパーパルディア人と日本人との間でいさかいが起きる。その時が勝負じゃ。」

 

 双眼鏡を目から外し、直に海を眺めながらシハンはマグレブに語りかけた。

 

「陛下。某もこれまで日本国満洲国の外交官と会談する機会がございましたが、彼らは公使以下公使尉官職員全てパーパルディアの大使館の連中とは比べ物にならぬぐらい紳士的で我々と対等な関係を意識して、我々と交際しているように見受けられます。しかし、我が国と日本国満洲国はまだ国交を開いてまだ日が浅うございます。それゆえ彼らの態度が豹変するという可能性も捨てきれずにいます。陛下は、どういった点で日本国満洲国を信じるという決断を為されたのでありましょうか。」

 

 マグレブもまた双眼鏡を離して、シハンに語りかけた。シハンはカッカッカと高笑いをしながらマグレブの質問に答えた。

 

「まあ、まずもってわしの勘働きによるものよ。勿論日本人と満洲人が我が国民との間で諍いを犯したこともあるにはある。時折、ニシノミヤコやアマノキで酒に酔って暴れた者がいるとは聞いている。だが、酔いがさめれば、ちゃんと謝罪をし、賠償もしたというではないか。他にも甘言を用いて、我が国の若い女子を勧誘して、春を売らせるために連れて行った日本人が日本国内で捕まったという話もあったな。日本人や満洲人の全てが善人というわけでもなかろう。だがの、わずか一握りもいるかどうかわからぬまともなパーパルディア人と大多数がまともな日本人と満洲人。さて、どちらを信用できるかの。」

 

 笑いながら話し終えたシハンはもう一度双眼鏡を持ち上げて、湾内に目を向けた。

 

「お主はそれでよい。警戒を行う人間もまた必要じゃろう。さてさて、今後どうなるかはわからぬ。じゃがの、駐日公使からの報告書を読む限りじゃと、満洲国はさておき、日本国は我が国の味方となる。」

 

 マグレブは驚き、目に力を入れてシハンを見る。

 

「陛下、その根拠については?」

「そうさの。まあまだ明かすときではなかろう。」

 

 シハンはニッと笑い、マグレブを見た。マグレブは苦笑して頭を下げた。

 

「それで、パーパルディアの艦隊はそろそろ我が国に入るはずじゃが、予定はどうなっておるのかな。」

「はっ。ショーンレミールの街の行政官からの通告では、明日にもパーパルディアが築いた港湾埠頭に東洋艦隊旗艦が接岸するとのことです。その他、陸軍の兵士を乗せた輸送艦も上陸し、ショーンレミール内部に造営した兵舎に入るとのこと。見届け人として外国奉行と添え役2名の三名のみショーンレミールへの入境を許可するとのことでございました。」

「ほう・・・許可する、ときたか。」

「一応、不用意な衝突を回避するためということで通告が来ております。」

 

 シハンは目を細めながら、あからさまに不快感をにじませたが、ふうと息を吐いて、「わかった。オンドウルには、くれぐれも慎重に行動するようにと伝えてくれ。」と言い、また外を眺め見た。

 

 

 ―――――

フェン王国ショーンレミール近海

 ― 第三外務局出向皇国監察軍東洋艦隊司令官兼東方根拠地隊司令官 マクシミリアン・ヨーゼフ・ポクトアール

 

「閣下。艦隊の航行は順調です。当初の予定通り明日の昼頃には到着できます。」

「報告ありがとう。フェン側の見届け人もちゃんと呼んでいるのかな。」

「はい、本国の指示通り、ショーンレミール行政官の通達で外交部局の人間を呼ぶよう手配済みとのことです。」

「うん。下がってかまいません。本国にも現状問題ないことを知らせておいてください。」

 

 魔信官が司令官室から退出した。さて、ここまでの航海は当然ながら順調。それは寧ろ当然のことと言える。ただの航海だからな。問題は明日以降じゃ。

 カイオス局長からは平和裏の進駐を厳命されておる。それも勝手な進駐ではなく、相手国の外交上の権限ある人間の同席の下での進駐。列強パーパルディアが行う進駐じゃ。万が一にも他国からの干渉は避けねばならぬ。それ故の相手国の同意の下での軍事行動。そしてこの動きは周辺国にフェン王国が我がパーパルディア皇国の勢力圏であるということを示すことにもなる。

 カイオス局長が特に気にかけていた日本国。驚くべきことにこの国は、フェンとは目と鼻の先にあるという。すなわち、我が国とも近い位置にあるという。早急に対策を取らねばならないことは言うまでもないことで、カイオス局長は進駐に際して、東方根拠地隊司令官として特に留意してもらいたいことを挙げた。

 一つは、フェン国民を懐柔すること。日本国満洲国に関する情報を彼らの口から聞くことがまずは重要となる。特にフェン王国には日本国から多数の平民が旅行に訪れるのだという。平民が簡単に旅行できる国。それだけ平民階級が裕福ということだ。極めて脅威といえる。

 フェンの国民を懐柔して、彼らの口から日本国がどういう国かを聞き、纏めること。それがまず第一歩。

 そして次の段階が、フェン国民の中に我が国の協力者を作る事。端的に言えば買収ということじゃ。フェン国民を日本国に入国させ、いろいろと調べさせる。もしくは、フェン国民の身分を利用して、我が国の国民を身代わりに潜入させる。様々な工作活動ができるだけの人材は、第三外務局から国家戦略局に話が行っており、いつでも潜入可能な状況にあるという。

 ところが身分を偽装することが難しい。日本人は国外に移動するときは旅券なる日本国民であることを証明する身分証を持っているという。そして、第三文明圏外各国は徐々にではあるが、この旅券制度を導入しつつある。そして、この旅券を日本国及び満洲国に製造を依頼しているという。なんでも偽造を防止するための極めて高度な技術を旅券には施しているのだということで、国際戦略局では偽造は困難との結論に至ったのだという。

 偽造ができぬのであれば、他国の人間の旅券を借りるしかない。だが、旅券には本人の顔を描いた図が貼り付けてあり、差し替えることができぬようだ。国家戦略局の工作員が他国人の誰かに成りすますとすれば、旅券の申請段階からその者に成りすますしかない。身分の偽造はどの国でも重罪だ。とてもではないが、それだけの危ない橋を渡る関係というのはなかなか簡単に構築できない。

 つい先日までは、この旅券の作成も慣れぬ作業であったからか、容易に成りすますことができたようだ。ロウリアに潜入していた国家戦略局の工作員が、クワ・トイネのツテを辿り、クワ・トイネ人の商人の身分に成りすまして、日本国内に潜伏を開始した。その者はとても幸運なことに日本国内で魔導技術と科学技術の融合を研究している者の秘書として潜伏し、研究結果の横流しに成功していると聞く。

 だが、このような時期は既に過ぎたようで、旅券を作成する際は、町や村の役人が本人かどうかを調べるようになったようだ。本人の申告だけではなく、家族や近隣の住民から申請者が正しく申請者本人であるかどうかを確認する手続きが必須になったようだ。なりすましは容易なことではない。

 

 とはいえ、日本国及び満洲国の正体を探る事、これは喫緊の課題だ。可能ならば、日本国や満洲国の外交官との接触も考えなくてはなるまい。日本国及び満洲国は我が国との国交樹立を急いでいないらしい。何故かはわからぬが、クワ・トイネ公国の我が国の大使館を窓口にして、全く動かぬ交渉を繰り返しているということらしい。カイオス局長も、日本国か満洲国が自身と直接交渉を望んでくれれば助かると言っていたが、これを我が国の側からいう訳にはいかぬということだ。まあ確かにその意図するところは分かるが、日本国の中央にやる気がないのだからやむを得ぬところであろう。

 

「難しい任務だ。だが、慎重に慎重を重ねねばな。」

 

 わしは本国の方角に目をやり、決意を新たにした。

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