大日本帝國召喚   作:もなもろ

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パーパルディア、フェン進駐の裏で新たな事件?発生。


満洲帝國新京特別市 統帥本部 2675(興信27・2015)年9月22日(火)

 満洲帝國統帥本部。満洲帝國陸軍軍令機関の官衙であるとともに、実質的に満洲帝國軍全軍の指揮権を有する機関である。満洲帝國軍はその設立の経緯から陸主海従の傾向が強い。ロシア、モンゴル、中華民国と言った国々と国境線を接していることから、陸軍が国防の主体となった経緯は当然といえる。

 元号が昭徳と変わった頃、より具体的に言えば、日本国の佐藤内閣が陸海空軍の上位の統率機関として「大本営」を常置化した頃、満洲帝國でも同じく陸海空軍の統合調整機関が必要という議論が起こり、幕僚総監部が設置された。これまで、軍令機関は、陸軍の統帥本部、海軍本部、空軍本部が独立して設置され、それぞれに官衙を構えていた。大日本帝国憲法を参考にして作られた満洲帝國憲法は「皇帝は陸海空軍を統率す」と規定する。これがため、日本のそれと同じく統合調整機関をおくことをせず。各軍令機関を皇帝が直接統督することとなっていた。

 満洲帝國軍の体制は、実質的に統帥本部が握っていた。統帥本部総長は陸軍の参謀総長であると同時に海軍と空軍の参謀総長を指揮下に置くことができる状態にあった。これには、海空軍の軍令機関の所属地の関係もあった。海軍本部は大連市に本部官衙を置き、空軍本部は奉天市に本部官衙を置いていた。海軍本部は満洲海軍の艦隊司令部(日本海軍で言うところの連合艦隊司令部)を兼ね、空軍本部は満洲空軍の総軍司令部(日本陸海軍航空隊でいうところの統合総軍司令部)を兼ねていたためである。この頃の海軍は未だ沿岸警備隊よりも上等という程度の規模しかなく、空軍も領空警戒を行うだけで侵攻用の爆撃機などの保有は少なかった。こういう関係から、満洲帝國軍全軍の中央軍令機関が新京特別市に位置する陸軍の統帥本部しかなかったということが大きな原因でもあった。

 軍制改革は、海軍本部及び空軍本部のそれぞれの軍令機関に艦隊司令部及び総軍司令部のそれぞれの実戦部隊総司令部が兼任していた体制を分離させて、純粋な中央軍令機関として海軍本部と空軍本部とを新京に置くことで始まった。そこで問題となったのが設置する場所だ。

 満洲国は当初独立の軍令機関を置かなかった。軍政部に参謀司を置き、陸軍の軍令機関としての役割を与えていた。これは満洲全土の国防については関東軍が主任として当たっており、作戦計画も関東軍が主導して計画していたからである。後年、満洲国軍の体制が整うとともに独自の参謀部員の養成が進んだとみなされたときに、軍政部の一部局であった参謀司は独立して、統帥本部を設立するに至った。この統帥本部の庁舎を建設するに際しては、既に新京特別市の中央官庁街は建設が完了しており、土地の確保が難しかった。このため、中央官庁街とは少しはなれた場所に広大な土地を確保して統帥本部庁舎を建設した。

 海軍本部と空軍本部の移転先は、この統帥本部庁舎敷地内に移転することとなった。国軍の軍令機関を集中配備することには、治安上の問題が指摘された。他にも海空軍側から統帥本部の権力下に入っていくことに対して忌避感も存在した。しかし、他に適当な土地を見つけて分散配置するよりも効率が良いとして、結局は同じ敷地内に庁舎が設立されることとなった。この際に建設されたのが総合庁舎であり、統帥本部が一棟全てを使用するに対して、海空軍の本部は同じ建物内に同居した。後には、幕僚総監部も同じ総合庁舎に入ることとなり、満洲帝國軍全軍の統帥機関が、実は幕僚総監部ではなく、統帥本部であると言われる所以となった。

 

 ―――――

満洲帝國新京特別市 統帥本部第二司中央情報処理処

 統帥本部第二司長 カルステン・シュタインメッツ陸軍少将

 

 統帥本部の中央情報処理処は、満洲国軍全軍の情報集積所として統帥本部設立以来機能してきた。その責任者たる私は、処内で海軍から届く情報の確認を行っている。

 

「海軍本部第一司よりデータ転送。フェン近海にて情報収集中の我が海軍潜水艦「猟虎」より入電。パーパルディア艦隊、単縦陣にてフェン本土へ接近中。その数10隻。すべて木造帆船。先頭より3隻は戦闘艦。4本マストを認め、舷側に蓋のついた扉を40以上確認。事前情報によれば砲遁設備を有するものと認められる。4隻目からは3本マストの船を認める。こちらは舷側に窓を認める。事前情報によれば輸送船と認められる。この船に進駐陸軍兵が乗船しているものと想定す。同様の船型を有する船が4つ続いております。更に後方に2隻、舷側に窓のない大型船が続きます。そして最後尾に先頭の3隻と同艦型と思われる戦闘艦を確認。戦闘艦の艦尾に旗を確認。事前情報によれば、最後尾の艦が艦隊旗艦と思われます。先頭艦の進行方向から見て、ショーンレミールに向かいつつあり、此の速度を維持したとすれば、2時間後に港に先頭艦が到着するものと見込まれます。」

「海軍本部第一司に連絡。情報転送感謝す。引き続き、データ提供をお願いする。軍政部大臣、幕僚総監に連絡。作戦行動中の潜水艦より連絡あり、パーパルディア艦隊10隻、事前情報のとおり、フェン王国進駐に向けて航行中。本日中にフェン本土進駐の公算大。」

 

 情報処理を行う士官からの報告を受けて、私は即座に指示を出した。とうとうパーパルディア艦隊がフェン本土進駐を間近にした。

 国務院外交部からの連絡によれば、パーパルディア皇国がフェン王国国内に建設中の植民地にパーパルディア皇国軍を駐屯させるとの情報が、フェン王国の外交部局から駐フェン満洲公使へ知らされ、フェンの外交部局は我が国がパーパルディア軍進駐を認めるかどうかを見極めているとのことらしい。国務院の方針は直ちに決まった、情報の収集と事態を複雑にしないために様子見とすること。これには海軍本部からの異論も出た。フェン王国が存在する場所は日本の長崎県の西。つまりは、我が国の大連港からクワ・トイネやクイラ、アルタラスに向かう船舶の航路から離れていないということになる。通商路の安全を考えると、パーパルディアという仮想敵国の軍艦が近くに駐留していることは問題ではないかということであった。これに対しては国務院は日本海軍と連携して通商路の安全に務めるようにとの連絡であった。

 該当海域には満洲海軍だけではなく、日本海軍の潜水艦も作戦行動中であると聞く。これらをもってすれば、パーパルディア艦隊などは鎧袖一触であろう。それは、ロウリア戦と変わることは無い。だが、民間の非武装船となればどうか。タンカーや貨物船などの通商用の船舶は、パーパルディア艦が積んでいる大砲の砲弾を食らった時にどの程度の被害を受けるのか。今のところパーパルディアは我が国に敵対行動をとっていないが、パーパルディアは拡張主義的な危険行動をとっている国であると複数の国交を樹立した国から聞いている。

 今回はパーパルディア皇国軍の進駐と言う緊張状態である為に訓練の名目で潜水艦を派遣することができた。今後はどうなるかは分からない。

 

「シュタインメッツ司長。」

「蒋司長か。珍しいな、貴様が情報処理処にやってくるとは。いったいどうした?」

 

 統帥本部第一司長の蒋雄山少将から名前を呼ばれた。ふむ。陸軍軍人が海軍からの報告に興味を抱くか。

 

「いや、海軍本部から通信が届いたと聞いてな。確認にやってきた。」

「なるほど。パーパルディア艦隊は本日中にフェン本土に到着、午後にも進駐が開始されるという状況のようだな。」

「そうか・・・」

 

 蒋司長は軍事プレゼンスの有効性を十二分に認識しそれを全面的に押し出すことを重視している人物である。今回フェン王国で開かれる軍祭にも大部隊を派遣して、周辺国に満洲軍の強大さを理解させればあとは政治が何とかすると考えている。だが、その動きは国務院によって否決された。既にロデニウス大陸で軍事プレゼンスは充分に友好国には示している。これ以上の展開は威圧になる。というのが国務院の判断だ。

 

「面倒だな。パーパルディアの勢力がフェンに伸びてくるとは。日本側も何らアクションをしないし、これではパーパルディアの勢力が増大し、厄介なことに巻き込まれるぞ。」

「まあ、そういうな。国務院からの説明も聞いただろう。時間がたつにつれて、我が国の国力は他国に浸透する。性急に事を進めれば反発を招くこともある。アルタラスの王女がいい例じゃないか。あれなど時間を掛ければ、もっと違った展開を引き出せた可能性もあっただろう。」

「貴様はそういうがな。いや、本題はそこではない。貴様昨日からこの部屋に泊まり込みだったな。外に出ていないのか。」

 

 妙なことをいう。昨日の幹部会議で、今日明日がパーパルディア艦隊のフェン到着ということで情報司長たる私がいつどのような動きがあってもよいようにと泊まり込むことは伝えているはずだ。そのことを言うと、蒋司長は分かっていると言い、手を振った。

 

「新聞を読んではないか。テレビは見ていないのか。」

 

 パーパルディアが万一平和的進駐から武力進駐の方向に転換した場合は、邦人保護の為緊急に部隊の召集と展開を行われなばならない。張り詰めた緊張感の中にいたのだ。そのような余裕はなかった。そう伝えると、蒋司長は私に新聞を渡してきた。

 

「パーパルディアが平和的進駐の路線を崩さないことが分かった以上、緊張は緩めてもよかろう。貴様にも読んでもらう必要があると思ったから持ってきた。」

 

ル・フィガロ新京支局版

2015年9月22日

 

本紙独占取材・ロウリアの今を知る

本紙記者、王都ジン・ハークへ潜入取材「この世の地獄とはこのことだ」

この地獄を放置すること、文明国の人間の資格なし

 

国務院がひた隠しにしている、ロウリア王国の惨状

「私は瘦せ細る赤子を見た」(本紙特派員談)

 

 

 新聞を読む手が震える。

 

「第一司長。これはっ!」

「どうも、駐満フランス大使が駐満アルタラス公使に便宜を頼んだようだな。アルタラス経由でロウリアへの入国ができないかを相談してアルタラス本国は駐アルタラスのロウリア大使に相談して、特別入国許可を与えたそうだ。おまけに、ル・フィガロの記者団は社会党・共産党の人間も引き連れて、カルーネス経由でロウリアに入国したようだ。そして、王都を取材したということだな。フランスは人権意識にうるさい国だ。社会党と共産党も尻馬に乗って、昼のワイドショーで、臨時国会を直ちに開いてロウリアへの食糧援助の法案を検討しろとの話だ。」

「政府は、国務院はどのような措置を。」

「どうもこうもない。外交部はフランス大使を召還して、苦言を申し入れたそうだが、フランス大使はフランス大使で、フランスは世界で初めて人権宣言を世に出した国。我が国の人権感覚からいえば、あのような状況を放置していることは、問題だ。という始末だ。フランス大使館は人道救援物資のためのクラウドファンディングのサイトを開設し、応募は殺到して既に予定額に達して締め切られた。我が国民もこの写真を見てしまったのだ。政府の目は、パーパルディアからロウリアに移りつつある。」

 

 吐き捨てるような口調で蒋司長が説明した。

 

「面倒なことになりましたな。」

「ああ、全くだ。」

 

 これで、パーパルディア研究の新規予算は一時ストップということになるだろう。政府としても人道支援のために予算を組み換える必要があるだろう。研究予算再開が早まることを祈るより他にない。

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