パーパルディア皇国皇都エストシラント パラディス城 地竜の間
― パーパルディア皇帝 ルディアス・パルテメシアン・フォン・エストシラント=パールトート
カイオス第三外務局長の奏上により、臨時の帝前会議が開かれることとなったのは一昨日のことである。本来、月末の定例帝前会議は月の最終金曜日に開くこととなっており、多少の前倒しとなる。数日待てぬのかと問われたが、定例会議は定例会議として開催し、今回は臨時の会議として召集してほしいとのことだった。各機関にいち早く伝えることがあるということだったので、了承して皇帝秘書官から各機関の長官に通達を出させた。
廷臣が出迎える中、地竜の間に入る。会議出席員が起立して出迎え、余に向かって一礼する。カイオスの姿を探した。ふむ、疲れが見えるな。
「カイオス。そなた、目の下のクマがすごいな。寝ておらぬのか。」
「はっ、申し訳ありませぬ。何分重要な資料作成の為部下に任せるわけにもいかず夜通し作成しましたゆえに・・・」
「そうか。」
第三外務局監察軍によるフェン進駐は平和裏に終わったと聞いたが、カイオスは一体何を我等に伝えるのか・・・。
「よし。皆の者座れ。これより、臨時の帝前会議を開催する。会議招集を訴願したカイオス局長、趣旨説明を始めよ。」
「はい。今回臨時の帝前会議を開催していただくよう皇帝陛下に上奏いたしました、第三外務局長クラウス・フォン・カイオスであります。まず、以前より各官庁に通知しておりましたフェン王国への皇国陸海軍の進駐に関しましてご報告いたします。昨19日にフェン王国に向けてケール軍港より出港しました監察軍は22日昼過ぎにフェン王国の我が国の根拠地ショーンレミール港に入港いたしました。ポクトアール提督は下船し、フェン王国の外交部局、外国奉行なる者から歓待を受け、根拠地治安維持の業務を開始しました。」
「おお!」
会議出席者たちから感嘆の声が聞こえる。フフフ。無理もあるまい。これまで皇国軍の動くときは流血とともにあったのだ。それが大量か少量かという違いはあれど、血にまみれた軍旗の下に皇軍は敵の国土に進駐を果たしてきた。それが今やどうだ。一発の銃弾も使わずに、一人の兵士の死傷もなく、目的を達成した。軍事力の行使による皇国の影響範囲の拡大ではなく、皇国の威による周辺諸外国への影響範囲の拡大。皇国はついに新たなステージへと昇ったと言えるだろう。
「実にめでたい限りですな。元来皇軍の動くときは莫大な財政支出が必要でした。此度の出征にかかった費用は通常かかる費用の10分の1もかかっておりませぬ。魔導銃の銃弾や魔導砲の砲弾などは途轍もない調達費用が掛かるものですが、今回は一発の銃弾も使わずに皇軍は目的を達しました。国家財政を預かる者としてはまことに恐懼に堪えませぬ。カイオス局長、御見事でございましたな。」
ハハ、ムーリめ。直截なことを。だが、紛れもない事実よ。おまけに死者がおらぬため、新しく年金の支払いが発生することもない。皇軍の強さを維持するためには、銃後の不安があってはならぬ。皇軍兵士はたとえ戦死したとしても、残された父母や妻子が困窮することのないように戦死年金を支払うこととしている。これまで皇軍は各地で連戦連勝を果たしてきたとあっても相応に死者が発生している。今回は新規受給者が発生しなくなった。それもまたよいことだ。
だが、これより派遣部隊には定期的に遠征の手当てが必要となる。これまでは侵攻先で略奪を認めていたため、そういった意味での国家財政の支出はなかった。だがこれからの皇軍は之を許さない。恐怖による支配を今すぐに変えることは難しい。徐々に変化させねばならぬ。それこそが、パーパルディアをまた一段と高い地位へ押し上げることとなろう。
「ムーリ閣下を始めとする陛下の重臣方からの祝辞ありがたく頂戴いたします。今回の会議招集に当たりましての本題はこれからとなります。明後日、25日ですが、フェン王国に於て、軍祭と呼ばれる軍事演習がございます。第三外務局は、こちらの軍祭に東洋艦隊司令官兼東方根拠地隊司令官であるポクトアール提督を観戦武官として派遣したい、と考えております。」
会議場がシンとした。ふふふ、無理もないわ。すっと手が挙がる、ふむ、アルデか。
「カイオス殿、それは如何なる理由によるものかな。文明圏外の軍事演習もどきに皇国軍人を出席させるなど、正気の沙汰ではないぞ。文明圏外の軍に対して皇国軍軍人が興味関心をよせていると知られる事、それ自体が皇軍が文明圏外の国の軍備への対抗措置を必要と感じているのだという誤ったメッセージを伝えることになる。皇軍の精強さは、軍そのものの強さももちろんあるが、文明圏外諸国の軍備がどのようなものであろうとも一切の関係はない。蛮族がいかに知恵を凝らした軍備を整えようとも、そんなものは皇軍の衝撃力を防ぐことはできはしない。故に蛮族の装備など調べる必要はない。見向きもしない。といういわば、宣伝によって作られたものも含んでいるのだ。その利点を捨ててまで、ポクトアール提督を軍事演習に参加させる。どこに利点を見出した。」
ほう、やはりアルデは反対のようだな。まあ、無理もあるまい。これまで我が軍が精強と謳われた原因の一つがこの伝説だからな。蛮族がなにを計画しようともそれは我が軍の強さには関係ない。小癪な策など打ち破られるものにすぎぬ、というのが文明外諸国に対するメッセージでもある。さて、カイオスはどう説得するのかな。
「統帥本部総長の疑念はごもっともかと思います。これには当然理由があります。一つは、諸外国に対する関係改善。これまで、我が国は他国の軍事演習など目もくれてきませんでした。理由はアルデ閣下のおっしゃる通りです。我々は他国に対する至高の存在として、下々のことなど目もくれぬという態度を取ってきました。これを改善する良い機会です。ポクトアール提督を派遣することで、この流れを変えたいと思います。」
「・・・。ふむ、他国を軍事力でもって併呑するのではなく、他国を皇軍の威を以て平伏させる。そのことについては先だっての会議で了承された事項だ。それはそれでよい。だが、カイオス殿のいうところは、飴と鞭でいうとのところの飴でしかない。我が国が対応を改めたということで我が軍の精強さを疑う国も出てくる可能性がある。それはどうお考えか。」
「実は、そのことでございます。今回の会議に於て実質的に皆様にお伺いしたいことは。」
カイオスの表情は暗い。その表情が会議全体を暗くしている。重臣たちも不安な表情でアルデとカイオスのやり取りを見つめている。
「アルデ統帥本部総長。軍祭には、日本国と満洲国が部隊を派遣いたします。」
カイオスの一言で、会議室全体に緊張が走った。イノスをミクリッツ男爵に叙した日から、帝前会議の場に於て誰も話題に出そうとはしなかった話題だ。だが、余の耳にも各種の報告は入る。皇国の上層部は秘密裏に日本国及び満洲国の情報を集めている。
「フェン王国が企画した軍祭という軍事演習に日本国及び満洲国が参加します。日本国及び満洲国はフェン王国からの求めに応じました。我が国としてこれを坐して眺めること、果たして正しい選択肢かと言えますでしょうか。」
アルデの顔が苦痛に歪む。軍部は軍部で情報部を通して日満両国の情報を集めている。凡その情報は知っているのだろう。だが、これは違うな。
「カイオス。少し待て。先だって、第一外務局より上申があった。フロイライン・マリンドラッヘ、余の重臣たちにも説明せよ。」
カイオスが一礼して席に座り、代わってエルトが席から立ち上がり、話し始める。
「先だって、我が国の駐ムー大使館から第一外務局に対して報告がありました。国交樹立のための大日本帝國及び満洲帝國の外交特使並びに説明の為と思われる駐クイラ国ムー大使を乗せた日満連合艦隊がムー国に向けてに航行中とのことでした。到着予定は10月上旬。順調に交渉が済めば11月の頭にもムー国と日満両国は国交を樹立する運びとなります。第一外務局としては、このムー国と日満両国の国交樹立後に開かれる来年の1640年の先進11カ国会議終了まで日満両国との国交樹立に関する動きを凍結する、そのような上申を致しました。理由としてはムー国の動向です。駐ムー大使館員がムー国外務省を探った限りでは、ムー国側では日満両国を先進国と認定し、会議への参加を要請するように来年の先進11カ国会議にて動くということがささやかれています。この通りに事が進めば、1642年の先進11カ国会議に日満両国は参加する運びとなります。おそらく、1642年の会議は先進13カ国会議と呼ばれることになりましょう。1640年の会議で日満両国が招聘されると決まったのならば、彼らはもはや蛮族とはいえませぬ。立派な先進国としての格を有することになります。それならば、我が国としても彼らと対等な関係を築くことが可能となります。それまでは、彼らと軽々に関係を結ぶことはできません。このような上申を第一外務局から行いました。」
喋り終わったエルトが席に座った。そして余を見る。うむ。あとは余が話すべきことだな。
「聞いての通りである。卿等も日本国及び満洲国についてはいろいろと耳に挟んでいることであろうが、そうであったとしても日満両国は未だ国際社会では蛮族の格なのだ。皇国としては蛮族と対等な関係を結ぶわけにはいかぬ。そんなことをすれば、属領の不満分子がどう動くかわからぬ。カイオス、余はこの第一外務局の上申を諒とする。今、日満両国とつながりを持つことは皇国としては難しい。料簡せよ。」
カイオスが頭を下げる。そして、更に発言を求めた。ふむ、この決定を受けてなおか。面白い、さあ何を言うのだ。
「皇帝陛下の御裁断が降りました以上、臣として異論はございません。ただ、日満両国と一切つながりをなくするということは我々の国土の位置関係からして難しいと拝察いたします。それゆえに後の国交樹立に向けた地ならしの意味を込めまして、ポクトアール提督と日満両国の武官との接触を考えております。外交官の接触を行うわけではないということをお含み頂きたいと思います。加えまして・・・、畏れ乍ら陛下、此処から議事録に留めぬお話をしたいのですが、よろしいでしょうか。」
「ふむ。よかろう。速記官はしばし退室せよ。」
ぞろぞろと、下級官吏が退出していく。議事録に残さぬ話である以上、下級職に聞かせる話ではないということだ。当然、速記官以外も退出していく。地竜の間の扉が閉まった。
「さて、統帥本部総長にお伺いする。」
「・・・何か。」
アルデの顔が引きつる。ふむ。やはりか・・・。
「統帥本部総長は、皇軍全体像を把握されておられる。その上でお聞きします。皇軍は日満両国と戦って勝つことができますか。」
アルデの顔が怒張に染まった。カイオスを睨みつける。そして目を強くつぶり、口をゆがめ、苦しそうな顔をする。アルデよ、苦しかろうな。皇軍の繁栄は其方の尽力によるところ大であった。その皇軍が負ける日が来ると言わねばならぬのだ。つらかろう。
会議室は小さな声で重鎮たちが会話を交わしているのが見える。カイオスが静かに待っている。アルデが返答するのを。もうよい、アルデ。貴様の苦衷は余がよく知っている。吐き出してしまえ。数分は立っただろう。アルデは席から立ち上がり、私に頭を下げて言った。
「臣は・・・、皇軍を陛下から預かる身に在りながら、まことに申し訳ないことを申し上げねばなりませぬ。今の皇軍では、日本国及び満洲国、そしてそのいずれか一国だけでも敵に回して戦争となった場合、一月もせずに、蹂躙される日が来ると申し上げねばなりませぬ。皇軍は壊滅的な被害を出して、敵に一矢も報いることができずに兵士を屍にすることになりましょう。そして、栄えある皇国は地図上から消えることとなると言わざるを得ません・・・。」
会議室はシーンとした。今度は誰も話さない。何も言おうとはしない。ただ、静けさだけが漂う。
分かってはいた。皇軍の装備では太刀打ちできぬこと。おそらく、重臣たちも口には出さぬが、うすうす感じていたことだ。今までは口に出すわけにはいかなかった。皇軍の敗北などあってはならない。だが、今この時、アルデが申し出てくれたおかげで、皇軍は事実を認めることができた。とても苦いことだが、直視せざるを得ない。
「只今、アルデ伯が私情を捨ててご発言いただきましたことは、皇国にとって最も直視すべきことでございます。そしてこれが先ほどの説明の続きです。まず、こちらの資料をご覧いただきたい。」
カイオスが作成した資料には、日本国及び満洲国の国力が記されていた。この資料を2,3か月前に余が見たのならば、おそらくカイオスを失職させていたであろう。それだけ、国家の重鎮でありながら、世迷言を口にするものとしてだ。この書類は、取扱いに注意する内容である。重臣たちは、「まさかここまでとは」とか、「信じられぬ。いや、だが、私の知る内容に酷似している」とか、「国境を接していたというのはやはり事実だったか。」などと言う声が聞こえた。
「皆、資料を読んだら、カイオスに返せ。今はこの資料外に出すわけにはいかぬ。カイオスは返却後数を数えよ。」
カイオスが一礼して、廷臣たちが読み終わり、書類がそろうのを待って再び話し出した。
「皆様もご覧いただきましたように、日本国と満洲国は強大な国力を有する国家です。同じ科学文明国のムー国やおそらくミリシアルも凌駕する国々です。それゆえに申し上げます。彼らは無視できる存在ではないということを。もとより先ほどの皇帝陛下の御裁断の説明にもありましたように、我が国は現時点で日本国と満洲国と正規の外交ルートで接触するわけにはまいりませぬ。従いまして、細いつながりだけは有しておく必要があります。それが、ポクトアール提督を通じた武官通しの接触なのであります。勿論、日本国と満洲国とつながりを持つこと自体は慎重な対応という意味合いだけではありませぬ。陛下、議事録の筆記再開をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか。」
「うむ。しばしまて。誰か、廊下で待機している文官連中を呼び戻せ。」
余の命令と共に、一番扉側に座っていた者が廊下に向かっていき、扉を開いて、中に入るようにと声を掛ける。文官たちが部屋に戻り、それぞれ所定の位置につき、仕事を再開した。
「参考人を呼んでおります。先進兵器開発研究所の主任研究者と実験機材をここに。」
カイオスが扉近くに待機していた伝令にそう命じると、伝令は部屋の外に出ていき、少し経ってから兵研の研究者が大きな機会と共に入ってきた。ふむ、あれは魔導通信機か。だが、以前見たものと比較するとやや、いやかなり大きな装置だな。重臣たちも同じような話をしているから、間違いはなさそうだ。
始めてくれとカイオスが言うと、兵研の担当者が魔導通信機に魔力を注入した。
「これは!」
「素晴らしい!」
「まるでミリシアルの魔導通信機のようではないか。」
魔導通信機が作動すると画面に映像が浮かび上がった。それも白黒ではない、色がついているではないか。まさしくミリシアルが保有していると言われている、魔導通信機器にそっくりではないか。
「只今、ご覧いただいております画面は、アルーニの魔導技術研究所の窓から見たアルーニの様子となっております。ボールトン所長、カメラの前にお願いします。」
画面にアルーニの魔導技術研究所所長のボールトンの姿が現れ、傅いた。
『皇帝陛下におかせられましては、ご機嫌麗しく存じ上げます。』
「うむ。新年の祝賀行事以来か、ボールトン。」
『はっ。私の顔を覚えておいていただけたとは、恐懼に堪えませぬ。』
「フハハ、何度も顔を合わせているだろうに。時にボールトン、この魔導通信機だが、お主も研究に参画しておるのか。」
『はい。但し、この魔導通信機の中核たる技術は兵研によるものでございます。詳しくはそちらの技術者からお聞きください。そろそろ映像が途切れますゆ』
画面からボールトンの顔が切れた。むう、なんだこの短時間しか使えないものは。これでは、使えないも同然ではないか。
『えに。ああ、画像が途切れましたか。それでは、誠に非礼ではございますが、これにて御前を退出させていただきます。』
「ああ、分かった。・・・さて、説明を聞かせてくれるな。」
兵研の研究者の説明によれば、この魔導通信機は、まだまだ研究中のものであるという。魔力使用量が桁外れに大きく、そのため使われている魔法陣の数もこれまでの魔導通信機の10数倍の数を必要としており、おまけに魔石の魔力変換効率も悪いのだという。
「それでは、軍用には適さぬではないか。失敗作ではないのか。」
アルデがそういうと、技術者はそうではないと言った。これまでの研究では、色を付けた映像を送受信する魔導回路の作成自体ができなかった。ミリシアルの技術を模倣しようにも我が国の技術レベルでは再現すら不可能であった。その段階の我が国が、どうして色を付けた映像を送受信できたのかという話になった。
「国家戦略局からレポートが届きました。全くの畑違いの部署からどういう訳だと思ったのですが、そのレポートに書かれてある内容は我が国の技術陣の目を見張るものがありました。それに書かれてある内容を魔法陣に落とし込み、若干の修正を加えて完成させたのがこちらの魔導通信機なのです。加えて、国家戦略局から届けられたものがございまして、この部分に結合している物体ですが、超小型の記録媒体なのであります。この魔導通信機が捕らえた映像だと10分音声ならばもう少しの間だけですが、記録することができるようになっております。」
研究者は、通信機から灰になった魔石を取り出して、新たな魔石を機械の中にいれた。そして、操作を始めると、通信機から先ほどの映像が映し出された。そして、ボールトンの顔が映し出されて、先ほどと同じように挨拶を始めた。会議室から「凄い!」、「なんだこれは」、「時を記録する魔道具とでもいうべきか」、「このような小型の記録媒体、ミリシアルでも持っていないのではないか。」様々な声が聞こえる。
「今現在では、映像の再生にも多大な魔力を使用します。ですが、兵研はこの機械の省力化を実現させてみせます。今回は、我等の研究の進捗状況を報告させていただく機会を設けていただきまして、カイオス局長ありがとうございました。それでは、御前を失礼いたします。」
兵研の研究者が魔導通信機を部屋から運びだしていき、その研究者も退出した。重臣たちも興奮しているようだ。
「只今ご覧いただきました魔導通信機ですが、日本国に潜入している国家戦略局のスパイが、日本人の魔法技術の研究者から得た情報を基にして、制作した機械であります。」
カイオスが発言すると会議室が静かになり、国家戦略局長イーリントン侯爵に視線が向かった。侯爵は立ち上がり、説明を始めた。
「ミクリッツ男爵より報告は受けております。当の男爵は現在出張中の為、帝前会議には欠席しております。確かに以前ロウリアに潜伏していたスパイがクワ・トイネのつてをたどって日本国内に潜入し、幸運もあったのでしょうが、日本国の魔法研究者の下に身を寄せて、彼の研究結果をこちらに流しておるようです。記録媒体は、アルタラス外務局に潜入していたスパイが持ち帰ったものであります。」
なるほど。国家戦略局の貢献は大であるな。侯爵の後を継いで、カイオスが発言を再開した。
「陛下の御裁断によるところは我が国の現状を考えるとまさしく正しいものでございますが、臣は国交樹立の時までの間、日満両国を避けて過ごすのではなく、少しでも日満両国の保有する技術を我が国に取り入れ、我が国の国力の底上げをすべきであると愚考いたします。それゆえ、外交部局として正式に動くことは不適切ではありますため、武官であるポクトアール提督を介した最小限の情報収集を行い、国家戦略局を通してこれまで以上に諜報活動を行う。この点を帝前会議の場に於て、諸卿の皆様にも御了解とご支援を戴きたいと思います。陛下の御裁断を仰ぎたく存じます。」
フハハ。そうよ、カイオスのいう通りよ。我等は負けてはおられぬ。現状では勝てぬ。だが、勝てぬ相手だからとすべてを諦めるわけにはいかぬ。
「よかろう。卿等に申し渡す。この中に日本国と満洲国を侮る者は最早おらぬとは思う。だが、我がパーパルディア皇国はこれまでも格上と言われていた国々を撃破して、列強の地位を確保した。恐れることは無い。これまでと同様に相手に食らいつくだけのことだ。対処には慎重に慎重さが求められる。故に情報の取扱いには充分に注意せよ。下手に下僚がこのことを知れば、混乱を招く。それは避けねばならぬ。よいな。」
重臣たちが起立し、余に向かって首を垂れる。負けられぬ。まだ見ぬ、日本国の皇帝よ。其方に余は傅くことはしない。ミリシアルの皇帝ともムーの国王とも対等な立場で接しようと努力してきた。今回もそれと同じだ。余はいずれ世界を統べるのだ。