大日本帝國召喚   作:もなもろ

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一般人から見たポクトワール提督について


或る家族の日常 (7)

 やってきましたフェン王国。福岡市百道浜に設置されたフェン領事館でビザを発行してもらい、練習名目に姉貴に強制連行され、学校ではクラス担任に説明して学校長の許可をもらい、姉貴の練習に付き合わされ、部活のほうでは高校代表というか県代表と言うかまあそんな感じでしっかりやってきてくれと激励され、姉貴から「私のタイムを超えてみよ!」と挑戦させられ、ご近所さんからも激励をもらい、姉貴から「私に負けたらごはん抜き」と理不尽な目に遭わされと、まあ、それなりの修羅場をくぐってきたわけなんだが、そんな地獄の日々も終わり、ここ阜縁王国首都アマノキにやってきたわけだ。街のあちこちに横断幕が設置されており、この大会に掛けるフェン王国側の意気込みが伝わってくるというもの。

 

「真一、ホテルに着いたら、荷物を置いて、その辺ぶらぶらするよ。」

「わしは疲れたからパスな。」

 

 姉貴は現在19歳。俺は17歳。未成年であるため、保護者として祖父が俺たちに付き添うことで父から大会出場の了承が出た。やれやれ、船旅だったんでおれも疲れてるんだけどな。

 港から町までは馬車で移動した。どこかで見たことのあるこの馬車の模様は、黒田の殿様の家紋。福岡市を中心とした旧大名家の黒田侯爵家は、福岡市内で人力車や馬車による公共交通機関「黒田交通」を経営している。交通会社と言っても基本的には観光産業としての交通機関であり、福岡城・大濠公園・博多駅附近や太宰府天満宮といった名所近辺で営業している。新世界転移後、周辺国家では、自動車などのインフラが皆無であったために、「黒田交通」を始めとした観光産業系の交通会社は新世界でのビジネスチャンス到来とばかりにクワ・トイネとクイラに営業所を設置して、交通産業を輸出した。主に租界内での移動手段として重宝され、徐々に営業活動範囲が広がっているという。そして、日本人観光客が多いフェン王国にもこれが広まっている。それ以外の国では、日本人に対する権利の保障が十分ではないということでなかなか広まっていないのが現状らしい。

 今回は、駐福岡のフェン領事から俺たちの話が黒田家にいったようで、馬車が一台廻ってきた。行きと帰りは之に乗って埠頭迄移動することになっている。

 

「俺も長旅で疲れたからホテルでゆっくりしたいんだけど。」

「なん、爺くさいこといいよーとね。お土産の下調べも兼ねとーちゃけん、あんたも来る!」

「真一、すまんのう。わしの代わりに彩香の相手ばしてやっとくれ。」

 

 はー。ついた早々姉貴に振り回されるのか。

 

 ・・・・・

 ホテル、というより民宿みたいな外観の宿舎に着くと、一人の女が玄関に待ち構えていた。

 

「来たわね、彩香。待っていたわよ。」

「ゲ、めんどいのと顔合わせたわ。」

 

 おお、あの姉貴が苦手な人間がいるとは。誰だろうか。姉貴と女性が相対する。背丈は姉貴のほうが5cmくらい高いか。スタイルは姉貴のほうがいいかな、女性のほうはすらっとした感じか。間違いなく体重は姉貴のほうが、あっ、何で寒気が・・・。

 

「今年は転移の影響で夏の東亜競技大会が無くて残念だったわ。だけど、その代わりにこの大会が開かれて、貴方が参加することになった。覚えているわよね、今のところ私の4勝3敗。私が1勝のアドバンテージを持っているわ。このアドバンテージ今回更に伸ばさせてもらうわ。」

「あー。なん、ちょーしこいとーとねアンタ。今回の大会で私らの記録はジュースになっちゃけん。いまん内に敗戦の弁ば考えとかんね。」

 

 強敵と書いてトモと呼ぶ。いや待って。姉さんここは玄関です。喧嘩はヤメテ。

 

「フッ。それは、どーかしらね。貴方の身体ちょっと油断してないかしら。」

 

 あっ、女の人、やめてあげてそれは。姉貴は近所の人や大学の人と連日に渡って壮行会やってたから、ちょっと油断してるんだから。

 

「あ?こんなんよゆーやけん。ま、水の抵抗の少ない尚香にとってはちょーどいいハンデやないとね?」

「あ?誰が貧乳やって!?こん堕肉が!」

 

 あ、姉さん、それダメ。そっちのお姉さんもやめて!

 

「堕肉じゃないもーん。ハリも弾力もありますぅー。」

「キーーーー!!ちょっと大きいからってそんなんでマウントとるとか卑怯もん!!」

 

 ああ、これもうどうすんだよ。ここ玄関やって。玄関。こんなとこで騒ぐのはやめてよね。

 

「オッホン!」

 

 救世主到来!!神様キタコレ!!

 

「あ、おじいちゃん。あのね、これはね、違うとって。」

「わっかもんは元気でよかねえ。ばってん、時と場所は考えんとね。」

「アッハイ。」

「まあ、友人通し仲良うしんしゃい。そいじゃ、おいは部屋に入っとくけんな。」

「あ、そのー、おじいちゃんあのね・・・。」

「心配せんでもよか。隆史にも、豊美さんにも、もちろんイネんやつにも黙っとっちゃる。」

 

 あ、それじゃ、とりあえず俺も部屋に入るか。

 

「真一、彩香をよろしくな。これ、両替したお金な。ちょっと一緒に遊んできてやってくれ。あ、ホテルのボーイさん。荷物、こん子らの分まで運んでくれんかね。」

 

 は?

 

「ほっほっほ。仲良きことは美しき哉。朋有り遠方より来たる、亦た楽しからずや。」

 

 ちょっと。祖父ちゃん。この二人の面倒を俺に見ろと言いますか???

 

「ねえ、あの人って、その、彩香のお祖父さん、なんだよね。」

「あー・・・、うん。」

「やだっ!!もう・・恥ずかしい・・・。」

「あー、その、ゴメン。」

 

 謝るなら初めからしないように。恥ずかしいなら初めからしないように。

 

 ・・・・・

「へー、彩香の弟さんにしちゃー、しっかりしてるわね。」

「そーでしょ。真一はしかーっとしとおちゃけんね。」

「なんで貴方がえらそーとよ。」

「真一はワシが育てた。」

「ちょww。やめてww。」

 

 あの後、俺と姉さんと尚香さんは、近くの茶店に入り、お茶とお団子を食べながら話をしていた。自己紹介を交わしたところ、この女子が姉のライバルと言われている孫尚香さんだと知り、驚いた。

 

「でも、貴方、彩香の弟君でありながら、彩香のライバルっていわれている私の顔を知らないってどういうことよ。彩香の試合見に来ないわけ?」

「はあ、まあ、俺は俺で試合がある時もありますし、部活もありますし、それにまあテレビでわざわざ見なくても試合の結果は姉さんが帰ってきたらわかりますしね。」

「うーん。そんなもんなん?」

 

 本音を言えば、姉貴が負けたところをみたくないだけだったりする。試合は勝つか負けるかわからない。姉貴が勝った試合なら俺もうれしいが、姉貴が負けたなら俺も悲しい。

 

「まあ、真一は水泳部だけじゃなくて、囲碁部も掛け持ちしてるからね。なかなか時間がとれんとよ。」

「ふーん。そんなもんかあ。」

 

 姉貴と尚香さんはお団子をほおばりながら、会話を交わす。お茶を飲む俺の顔を尚香さんは眺めながら、一つ頷いて話し出した。

 

「まあ、今回の試合はさ。さっきはああ言ったけど、正式な記録には残らない試合だからさ、ちょっとは気を楽にしてお姉さんの試合を観戦して上げたらいいんじゃない?」

 

 湯呑を動かす手が止まる。なかなか鋭い人だな。

 去年の高等部最後の冬の極東競技大会。尚香さんと一騎打ちの末に敗れた姉さんは、家に帰ってきて家族で残念会をした時には笑っていた。食事時には、やー負けちゃったよーと笑って言っていた姉だった。寝る前に一言お疲れ様を言おうと部屋に行ったときには、ベットに横になり腕で目を隠していた。その時にも、さっきと同じようにやー負けちゃったよーと言っていたが、声は少し震えていた。俺は少しその場にとどまり、気持ちを落ち着けてから、お疲れさまと声を掛けた。姉は目を隠しながら一つ頷いた。

 俺の顔をじーっと眺めていた尚香さんは、ニコニコしながら団子をもう一つほおばった。

 

「はー、弟ってかわいいもんやねえ。」

「あら、尚香、弟おらんやったっけ。」

「うちにいるのは妹なんよ。3歳下。でもあれよ、こないだ私のシャンプー勝手に使うし、お母さんは、シャンプーくらい一緒に使いなさいっているし、もーダメ。あれよ、転移前にまとめ買いしといたやつよ。もう手に入らないやつなんよ。」

「うん、それ、ギルティー。」

「でしょ!そこへ行くと真一君はしっかりしとるし、優しいし、いいね。グッド。ねえ、彩香。真一君、私に頂戴。」

「は?やらんし。」

 

 俺は物じゃないし。

 

 

 ・・・・・

 翌日快晴のなか開会式は始まった。入場の際の行進曲は君が代行進曲であり、国際大会での定番の曲だ。

 

「日影いいなあ。」

 

 姉貴がぼやく。入場行進は最後の国である、満洲国の行進が今行われており、俺たちは大会本部の正面に立っている。本部にはテントが張られ、日影ができている。本部テント内にいるのは、お偉方。フェン王国の政府首脳や各国の外交官などだ。

 

「それにしても、気合はいっとーね。こん暑かとに、あれ大礼服やなかと?」

「本当やね。でも、珍しいね。普通は宮中行事や国会開院式、親任式とか超重要行事の時に着るようになってるのにね。」

「そんだけ、この大会を大事にしとるっちゃろうね。」

 

 駐フェン公使が纏っている服は、文官大礼服。この服は、新首相以下の閣僚が宮中で親任式を経た後の集合写真で着ているのを見かけるなど、けっこうレアな服装だ。政府関係者も滅多に着ることはなく、帝國議会の開院式、それも通常国会の開院式に着るような服である。

 

「ま、日影にはおらんでも、その分私らは涼しい服装をしているからましかな。」

 

 俺は高等学校の夏用制服。姉貴は夏用の女性用スーツを着てきている。上着がない分、俺の方がよりましだ。

 

 ・・・・

「なんか、3軒隣の長浜さんとこのおじいちゃんに雰囲気似とるね。」

 

 正面の台上で来賓の挨拶を行っている人物を差して姉が言った。今挨拶をしているのは、パーパルディア皇国の海軍提督であるポクトアール氏だった。

 

「なんかテレビや新聞じゃ、パーパルディア皇国はヤバいとか言いよったけど、そうでもなくない?」

「いやでも、国家の政策と個人は別物だしね。」

「でもあの感じ、あれじゃない。縁側に座って盆栽に鋏を入れよー、長浜さんとこのおじいちゃんのホクホク顔のまんまやん?こんちはーって挨拶したら、ホイこんちはっていう感じでてなくない?」

「あー、まー、そんな感じかな。」

「そやろ。やっぱさ、どんな国にもヤバいやつがおれば、ああいう優しそうな人もいるってことよ。」

 

 まあ、姉さんのいうことは分かるけど、国家全体がどうとかっている話とその国の国民一人一人がどうかっていう話は別物だからなあ。

 

「やっぱあれよ。四海兄弟。八紘一宇。何の因果か知らんけど、ご近所さんになっとーっちゃけん、仲良くしていかないかんとお姉ちゃんは思う訳よ。そこんとこ真一はどう思うよ。」

「まあ、そうやね。あっ、そろそろ挨拶終わるみたいやけん、静かにせんと。」

「ほいほーい。」

 

 来賓の挨拶が終われば、大会の日程と諸注意。いよいよ本番だ。

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