大日本帝國召喚   作:もなもろ

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レミール暴走。その第一幕。


パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局 中央暦1639年9月30日(月)

 パーパルディア皇国外務局監察官レミリア・ブラウンシュバイク・フォン・レミール侯爵夫人の朝は早い。

 パーパルディア皇国外務局には全世界の各地からの情報が届けられる。神聖ミリシアル帝国が開発したカラー映像を受信する魔導通信機はエストシラントのミリシアル大使館に持ち運ばれているが、この魔導通信機はパーパルディア皇国への貿易品リストには含まれていない。そのため、パーパルディア皇国では、神聖ミリシアル帝国のテレビ映像を見ることはできない。ムー国における映像もまた同じであるが、こちらは科学技術と魔導技術と言うそもそも根本の技術の違いからである。よって、パーパルディア皇国外務局に届けられる世界の情報は、新聞や雑誌などの文字情報及び写真や魔写などの画像情報に限られている。

 新聞や魔写などの紙媒体の情報は、輸送されて届けられる。緊急の情報は長距離魔信を使用して紙に書いてある文字を読むことで本国に伝達する。そうでない情報や原本などはムー国が保有する航空機の定期便に乗せて届けられる。ムー国とパーパルディア皇国との間は定期便だと5日かかる。ムー国から届けられる情報は、毎週金曜日にムー国首都オタハイトの空港から飛び立った飛行機が数か所の中継地点を経て皇都エストシラントの郊外に建設されたアンハルト空港に翌週の火曜日に届けている。

 この届けられた情報は空港付近の貨物集積所で仕分けされ、各国家機関に届けられる。一度にたくさんの情報が届けられても処理できないため、一週間の内で、ミリシアル本国からの情報、第一文明圏各国からの情報、ムー国からの情報、第二文明圏各国の情報、第三文明圏など其の他の情報という形に割り振って届けられることとなっている。

 レミールは、外務局監察官と言う役職上、各国の情報に通じている。ムー国やミリシアルで発行される新聞や雑誌などは第一外務局長室や第一外務局の各課に届けられるほか、監察室にも届けられ、レミールもまた目を通している。あくまでも職務を遂行する上での前段階ととらえており、執務開始時刻前から目を通すことにしている。ただ、その量は膨大であるので、執務開始前に読み終わるものではない。

 

 9月30日。この日は18日の夕刊から25日の朝刊までの新聞やその週に発行された雑誌などを乗せたムー国からの定期便が外務局に届けられた。この日も朝早くからレミールは新聞に目を通していた。実父から勧められたヒノマワリ産のコーヒーを飲みながらムー国の新聞を読んでいたレミールが突如激怒した。

 

「なんだこれは!!」

 

 突然の怒号に驚いた秘書がレミールに声を掛ける。

 

「レミール様。いかがされましたでしょうか。」

「すぐに第一外務局長と次長を私の部屋に呼べ!」

 

 ムー国の新聞を握りしめながら秘書に命令したレミールは、自身の部屋に足早に戻っていった。

 

 

 ―――――

 マリンドラッヘ局長とオイゲンベルグ次長はレミールの執務室に駆け足でやってきた。

 

「来たか。エルト、ハンス。座れ。」

 

 第一外務局の責任者たちが応接椅子に座るや否やレミールは彼らの前に先ほど読んでいた新聞を見せた。

 

「其方ら、ムー国から届けられた新聞は目を通したか。」

 

 マリンドラッヘとオイゲンベルグはお互いに目を合わせ、首を振るとエルトが話し出した。

 

「いえ。第一外務局ではまず情報収集官が各国の情報源を精査して、記載された情報の重要度をランク分けして、私たちに報告を挙げるようになっています。まだ彼らからの報告は上がってきていませんので、私たちはまだ目を通してはいません。」

「情報が遅いっ!!!」

 

 レミールが一喝して、これを読めと新聞を差し出すと、マリンドラッヘはレミールから新聞を受け取り、紙面を読みだした。オイゲンベルクは横から顔を傾けて紙面を覗いている。中ほどの特集記事だとレミールがいうので、その面を探すと、そこには、アルタラス王国の王女ルミエスの全身像の白黒写真が写っていた。

 

「由々しき事態だ。第二文明圏のムー国の新聞に第三文明圏外国であるアルタラスの王女の演説が高評価と共に掲載されている。それも第三文明圏の盟主である我が国の支配に疑義を挟むような演説だ。」

「しかし、殿下。この評価はあくまでも新聞社、言い換えれば平民の評価です。ムー国の公式見解などではありません。」

「ハンス!!何を甘いことを言っているのだ。ムー国の政治体制は民主主義という平民層にも発言権がある体制だぞ!!その平民層が、第三文明圏外の国の行動を好意的に捉えているのだ。ムー政府内部にもこういう考え方に対して一定の支持層があるとなぜ考えないのだ。」

 

 レミールはオイゲンベルクを睨みつけながら、自己の見解をのべる。話題に挙がっている新聞、オタハイト・タイムズは、ムー国内では大手新聞社の地位にあり、読者数も多い。平民層にもアルタラス国に対する好意的な見方があるというレミールの考察にオイゲンベルクは、不見識な発言でございましたと述べて陳謝した。

 

「エルト。其方は何と見る?」

「まず、この紙面に挙がっている情報は、先月15日にアルタラスで開かれた講和条約調印式のことについての記事です。そのことに触れた記事が書かれたのが、今月25日。1か月と10日と言う期間です。第一文明圏外のことならいざ知らず、第三文明圏外の特集記事が一月ちょっとで書かれるというのは、これまでのムー国内の情報の取扱いとしては聊か異質です。彼らにとって第三文明圏は遠い地域の出来事のはずです。ニュースとしての価値も低い。速報記事ならばまだしもこういった特集記事がこんなにも早く書かれていることから考えますと、やはりムー国にとっては興味関心が強い内容だと考えられます。

「流石だエルト。して、其方ならどうする。」

「え、どうするとは?」

 

 珍しくマリンドラッヘが話についていけないというような表情になり、レミールに質問を質問で返した。そのやり取りにムッとしたレミールは口早に話し出した。

 

「どうもこうもあるまい。記事には、「見目麗しい」だの、「進歩的」だの、この田舎者の小娘をほめちぎっているではないか。せっかく、国家戦略局が私の名前を第一文明圏に広めようと策を練ってくれたというのに、この状況だぞ。何も手たぬなどありえぬ。パーパルディア皇国が出し抜かれたのだぞ。」

「は、はあ・・・」

「特にこの田舎者には相応の屈辱を食らわせてやらねば気が済まぬ。私よりも先にムー国の人口に膾炙されるなど僭越にもほどがある。」

 

 どうも、レミールの考えるところには、私情が含まれている感がないわけでもない。勿論結論としては首肯されるところではある。第三文明圏の皇族、それも次期皇后の名前よりも文明圏外の王女の名前の方が有名なんぞ、プライドの高い皇国ならば許しては置けない事態だ。

 

「しかし、殿下。このルミエス王女ですが、どうも失脚したようですよ。この条約調印式典以来表舞台に顔を出してはおりません。」

「本当か、ハンス。だが、この記事には、アルタラス外務局の方針転換についても言及されているぞ。見せかけだけということもある。注意が必要ではないか。」

「しかし、外3からは、そのような情報が届いています。ルミエス王女は、外務局で主に儀典官として奉職していたようですが、王宮の一室に幽閉されているとか。」

「うむむ。」

 

 レミールは腕を組んで唸る。オイゲンベルクが言う話は、マリンドラッヘと共にカイオス局長から聞いた話だ。カイオス局長には、アルタラスの大使館に直接指示できる者がいる。但し、その手ごまの地位は低く政策決定の権限はない。

 

「第三外務局のカイオス局長は、様々な情報からアルタラス外務局の外交方針には変化はないと結論付けています。殿下の御怒りのほどは分かりましたが、今ここでアルタラスに強く出るとそれはそれで、国家戦略局の政策意図を害しかねるのではと愚考いたす所存であります。何卒ここは、ご自重をお願いしたいと思います。」

「うむむ。ハンスはそういうが、しかし、この小娘には目に物を言わせてやらねばならぬとわらわは思う。これを放置しては、第三文明圏外国家群に対して示しがつかぬ。これ以降こういう増上慢が出てこぬとも限らぬぞ。」

 

 オイゲンベルクの意見に対して、レミールは全面的に拒否はしないが、尚も自身の意見を述べた。文明圏外国家になめられた態度を取られるというのは、皇国にとっては許しがたいことであり、第二のルミエスを危惧するという意見は確かに理解できる。

 

「それでしたら、カイオス局長にも話を通しましょう。アルタラスは何と言っても管轄は第三外務局です。我々が頭越しにいろいろと行うのも何かと問題が。」

「そうか・・・。それもそうか。わかった。エルト、カイオスに話を通してくれ。いずれカイオス局長からのアルタラスへの懲罰案を聴取したい。」

「了解しました。」

 

 結局マリンドラッヘが選んだ選択肢は先送りということであった。レミールの意見は確かに理解できるが、管轄違いの提案であるし、レミールの私怨的な感情も充分に垣間見えたため、冷却期間を置くことにしたのだった。マリンドラッヘの理解するとところでは、レミールは高等教育を受けた才女であるが、まだまだ子供な部分があるというところがあり、嫉妬心からの提案であるという見方をしていた。外1という先進国を相手にする部署の人間としては、その結論でも間違いはなかったであろう。

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