大日本帝國召喚   作:もなもろ

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やっと10連勤終了しました。本日から月末までまたちょこちょこやっていきます。
レミールの有能さをもうちょっと出したいところです。


パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局 中央暦1639年10月2日(金) 9時

パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局

 ― パーパルディア皇国第三外務局長 クラウス・フォン・カイオス

 

 第一外務局に呼び出しか。あまり、気分の良いものではない。

 カイオス子爵家は小規模ながらパールネウス王国の時代より代々外務局で奉公してきた。カイオス家の家格は、外務局の係長級から外務局の課長級の家格であった。現在の体制でいえば、各外務局の課長級から次長級の地位であった。

 皇帝陛下の即位の後官制改革が行われ、実力主義の人事体制が敷かれた。外務卿を代々務めてきた貴族は現在外交に何らの権限をもたない宮中顧問官として宮中に務めている。地位を剥奪されただけでは不満が出る。故に彼らは2年に1回の先進11ヶ国会議における外交使節団長を拝命している。代わりに皇帝陛下に見いだされたものたちが新体制の中核を担った。私もその一人で、第一外務局のミリシアル方面係長として抜擢され、次代の第一外務局長と目されていた。

 先代の第一外務局長がミリシアル大使として赴任することが決まり、後任決定の段階となった時、私に用意されたポストは第一外務局長ではなく、第三外務局長のポストであった。

 第三外務局は文明圏外が相手である。その上、皇国は常に領土拡大に邁進してきた。去年は第三外務局の管轄の他国であったが、今年は内務省の臣民統治機構の自国の領域に変化した場合も多い。将来の自国領を構成する他国の外交を管轄する関係上、一般の外交官の他に現地の情勢を観察する密偵や村落の調査員などの内政を探るための人員など、第三外務局は常に大規模な人員を必要とし、その人員は門閥貴族と呼ばれる層が供給してきた。

 国内担当の内務省臣民統治機構と国外担当の第三外務局が混沌していく状況は、他国それも列強国から、自国と他国の領域を峻別しない前時代的な政治体制、拡大主義、野蛮といった評価を受けた。皇帝陛下の統治下で更なる拡大を図る我が国に対する牽制であることは明らかだった。だが、その拡大の際に属領となった自国から富を収奪して、中央の軍備拡大に宛てた手法、門閥貴族門下の現地派遣貴族による現地民に対する奴隷的搾取構造は、先進国から厳しい批判を受けた。列強、先進国たらんとするならば、相応のふるまいを必要とするというのがミリシアルやムーの言い分であった。

 当時の第三外務局長は門閥貴族出身者であった。皇帝と門閥貴族の国内の融和を目的とした人事であったが、皇帝陛下は彼を罷免して、代わりに私を充てた。パールネウス王国の時代から続く、小さいながらも門閥貴族の庇護下に入らなかった独立貴族だ。皇帝陛下からは門閥貴族を抑えて、第三外務局のかじ取りを頼むと言われた。

 だが、外務局の中には私が左遷されたと吹聴する者がいる。それも当然だ。皇帝陛下の真意は説明するわけにはいかない。自分たちの抑えであるということであれば、当の第三外務局局員からの反発が予想されるからである。貴族はどこでつながりがあるかわからぬ。外1や外2の職員から外3の職員に話が行かぬとも限らぬ。故に外1や外2の職員にも私が第三外務局長となった経緯については知られてはおらぬ。

 先ほどから、外1の職員がちらほらと私のほうを見て、小さな声で話しているようだ。フン、一々癇に障る態度だ。

 

「お疲れ様。」

 

 第一外務局内の外務監察官室へと向かう途中で、かつての同僚から話しかけられた。

 

「ああ。マリンドラッヘ局長とオイゲンベルグ次長か。其方たちも同席してくれるのか。」

「ええ、エミール殿下の御様子は貴方も知っている通り、ちょっとね。まだ前のめりなところがおありですから。私たちが貴方と殿下の緩衝材にでもなればとおもってね。」

「ふむ。現在の我が国周辺情勢を鑑みれば、ご自重願いたいところだが。」

「ちょっと難しいわね。今の殿下は頭に血が上ってらっしゃいますから。ただ、まあ殿下の言わんとするところ、つまり狙い自体は悪くないというか、列強国としては見過ごせない事態であることは確かだと思うわ。そのあたりは貴方も同意するでしょう。」

「ああ、誠に不本意ではあるがな。」

 

 レミリア・ブラウンシュバイク・フォン・レミール侯爵夫人。ブラウンシュバイク公爵家出身の大貴族にして、現在は独立の侯爵位を保持しておられる。貴族籍にありながら、来年皇帝陛下との大婚儀を控えておることから事実上の皇族として扱われてもいる。

 

「ふう。なかなかどうして。このような話は骨が折れることだ。」

「同情はするわ。」

「では、其方が担当となってもらっても私は一向にかまわんのだぞ。」

「あら、アルタラスは第三外務局の管轄よ。横車を為せと。それはいただけないわ。」

「フン。言ってみただけだ。」

 

 オイゲンベルグ次長からそろそろエミール殿下の部屋に移動しなければと声が掛けられ私は再び足を進めることとなった。

 

 ・・・・・

 

「こうして仕事で会うのは初めてか、カイオス局長。」

 

 監察官室の主であるレミール殿下が私を迎えた。

 監察官室は書類の山となっていた。執務机の上には、アルタラス外務局編の『ル・ブリアス講和会議議事録』と『逐条解説「同盟國とロウリア王國との平和條約」』が置かれている。書籍の装幀が文明外国のそれには似つかわしくない厳かな仕上がりとなっている。通常、文明外国が発行するような書籍は貧相な装幀であり、我が国の上級貴族の書棚に並べるような仕上がりにはなってはいないが、この書籍は我が国の貴族の審美眼にかなうものだ。

 これだけの書籍を数日で発行できるとは恐れ入ったことだ。それもまた日満両国のなせる技術の高さがうかがえる。アルタラス外務局編とはなってはいるが、印刷と製本は日本と満洲の出版社が行っている。我等が相手するのはこの二か国。第三文明圏の周辺情勢に強い影響を与える国家群だ。ことは慎重に運ばればならぬ時期にあるというのに、この横槍は困る。

 

「はっ、レミール殿下の御尊顔を拝する栄誉を賜りまして、恐悦にございます。第三外務局長を拝命しております。クラウス・フォン・カイオス子爵であります。」

 

 二言三言挨拶を交わして、応接椅子に座るよう促された。ふむ、やはり上級貴族の座る椅子というのは出来が良いな。ふわりと包み込むような感覚がよい。だが、装飾の類は上級貴族の格を考えるといささか心もとないといえるか。

 

「椅子が気になるかな。」

 

 レミール殿下が問い掛けてきた。何やら面白そうなものを見つけたという顔をしている。

 

「これは、不調法を致しました。」

「よいよい。マリンドラッヘ局長とオイゲンベルグ次長も最近はよく部屋に訪れて、この椅子の座り心地を楽しんで居る。斯くいうわらわも最近は執務椅子には座らずにこの椅子で執務を取ることが多いのでな。皆の気持ちはよくわかるというものだ。」

 

 マリンドラッヘ局長とオイゲンベルグ次長が苦笑しながら殿下の顔を見ている。殿下も目だけ彼らに向けて笑っている。

 

「この椅子はな。最近父から贈られたものだ。公爵家出入りの御用商人からの献上品なのだがな、その商人どこからこの椅子を手に入れてきたと思うか?」

「はて、これだけの座り心地のよい椅子ともなりますと、やはり出所は限られましょう。民生品の出来は国力にも作用しますが、この椅子は失礼ながら公爵家の格を考えますと、いささか装飾が物足りないとも思われます。そうなりますと、貴族の権力が強いミリシアルよりもそのようなことにあまり頓着しないムー国製とみるべきかと思われますが、公爵家出入りの商人が貴族の格にこだわらないムー国製の品を献上したともなかなか考えにくいというべきで、いささか答えを出すのには躊躇しております。」

「ほう、躊躇ときたか。エルト、ハンス。カイオス局長は未だ緊張していると見えるな。」

 

 当然ではある。宮中や夜会などで姿を見たことはあってもこうして話したことはなかった。

 

「まずは、我が方の手札を切るべきであろうな。カイオス局長、この椅子はな、わらわの実家の御用商人が、マオ王国に於て買い求めてきたものであるということなのだ。」

「なるほど・・・」

 

 これだけの物をマオ王国の職人が作り上げることなどできるはずがない。なるほど、マオ王国の商人が隣国から輸入したものを我が国の商人が買い受けたということか。

 

「やはりカイオス局長は驚かぬか。御察しの通り、この椅子は満洲国で造られた品だ。当たり前の話ではあるが、職人の手作りの一品ものではない。ムーやミリシアルでいうところの工場で造られるような平民向けの大量生産品だ。つまるところ、私が使うことは憚られるものだ。外務監察官室、つまりは公務で使う部屋であるがために、格の落ちる品を置いていたとしても、まあかまわないということだな。」

 

 顔には出さぬが、内心私は驚いていた。この国でも最上位に属する貴族、それも皇族籍に半分足を踏み入れているほどの人間が日本国や満洲国の存在を知り、あまつさえその国の品を使用している。

 

「なるほど。先ほど私は、民生品の出来は国力にも作用すると申しました。それは、つまり、」

「左様。日本国と満洲国。この二国、いずれの国とも我が国は敵対すべきではない。この件は畏れ多くも皇帝陛下にもご理解いただいている。」

 

 理解が早い。私が何を言いたいのかを理解し、そしてその先、真に言いたいことを口にしてきた。

 

「この件は、実父もおそらく同じ考えであろう。この椅子を頂戴したときに、そうと解することができるような手紙を受け取っている。そして、実父と同じ立場にある家、リッテンハイム侯爵もまた同じ考え方をしているだろうことは又聞きとはいえ、手紙に書いてあった。」

 

 皇帝陛下と皇国の大派閥が対日満政策について一定の了解を得ている。これは重要な点だ。我等が真に恐るべき敵がどのようなものであるのかを理解している。

 

「だが、同時に皇帝陛下は、我が国が列強の地位を自分から降りるようなことをすべきではないということもおっしゃった。そこで、お主がこの場に呼ばれたということになる。」

「・・・やはりそうなりますか。日満両国と正式に国交を樹立し、現状を維持するという手もあると思いますが。」

 

 私がそういうと、レミール殿下は席を立ちあがり、執務机のほうへ歩いていく。そして、一つの書類を持って戻ってきて、私にそれを提示してきた。

 

「第三文明圏公用語に翻訳された満洲国内で発売されていた新聞の記事の一部を抜粋したものだ。ロウリア王国首都ジン・ハークの惨状について記してあり、王都では食べ物がなく、王都の民は飢餓の憂き目に遭いつつあった。だが、それを座視して眺めているのは文明国の人間のすることではない。たとえ昨日の敵とはいえ、人道上、手を差しのべるべきであるということだ。その後、国内で支援の輪が広がり、昨日まで戦争をしていたロウリア王国に大量の食糧が届けられたそうだ。そこで聞こう、カイオス局長。我が国の属領の取扱いについて、満洲国や日本国の民が目を向けたときに、我等の我が国に対する目はどうなるか?」

 

 くっ。この記事を手に入れているとは。まだ10日程度しか経っていないのに。なんという耳の速さだ。

 

「それは・・・、我が国も属領に対する姿勢について、何らかの配慮を行うことで、批判の矛先を変えることができるのではないかと・・・」

「其方は、この皇国の繁栄が、皇都エストシラントの物流が何に裏付けられているのか、それを知ってのその物言いか。」

 

 頭が痛いことだ。パーパルディア皇国の繁栄は、属領から吸い上げた富によって成り立っている。

 

「属領の中には我が国に反抗した者共もいた。それらの連中は、力を持って排除し、押さえつけてきた。今ここで、その方針を変えるとしてだ、それらの連中が再度反抗してこぬという保証はどこにある。あるいはだ、機をみてカイオス局長のいうように統治手法を改善すべき時期が来るかもしれぬ。しかしその時にはウェストミンスター憲章のようなものは、認めるようなことがあってはならない。」

 

 む?聞きなれぬ言葉だ。

 

「殿下。その、今おっしゃられたウェストミンスター憲章というのは?」

 

 再び殿下が席を立ち、今度は書籍を持って戻ってきた。

 

「これは、日本国内の大学で使われている国際法の教科書、その第三文明圏公用語訳だ。著者は、李甚太郎という教授。日本国の大学の中でも最高峰に属する東京大学の人間だ。書籍の内容の権威は高いと言ってもよいだろう。そして、この国際法への理解が日本国や満洲国の対外政策を理解する一助になると考えている。現に日本国や満洲国は、元居た世界の国際法の一部をこの世界の各国、国交を結んだ国に対しても適用するように働きかけている。」

 

 その書籍には、日本国の前にいた世界のイギリスと言う列強について書かれている。かつてイギリスは世界に跨る大帝国を築き上げたが、様々な状況の変化からそれまで支配していた自治領に対して極めて広範な、あるいは独立とでもいうほうが正しいというような自治権が与えられることとなった。そのことを記した規定がそのウェストミンスター憲章だ。

 

「臣民統治機構の監督下での各属領の自治は認めてもよい。今のままでは、ミリシアルやムーがうるさいからな。だが、その自治は、我々が管理したものでなければならぬ。そしてそれは、今この時ではない。ミリシアルやムーに言われて行うと言ったような状況を作り出してはならない。それはもちろん、日本国や満洲国に対してもだ。アルタラスの王族が我が国の地域支配に挑戦するような発言をした。その状況を放置していては、その流れが我が国内の属領に波及しかねぬ。」

「しかし、下手に日本国や満洲国を刺激すると、危険ではありますまいか。アルタラスの王女については、日満両国の国民が好意的な評価を与えています。国家の指導部ではなく、我等の国民を刺激することになりませぬか。」

 

 まだ我々は日本国や満洲国を良く知らぬ。ここで冒険する意義は薄い。フェン進駐に対する反応をもっと調査し、分析してからでも遅くない。

 

「其方も『ル・ブリアス講和会議議事録』を読んでいるだろう。あの中で記された日満両国の動きを読み解けば、日満両国が我が国のアルタラスに対する懲罰に対して異議を挟んでくるとは思えぬ。自分たちで積極的な外交活動は行わずに、クワ・トイネやクイラの全権がロウリア側と対応している。勿論、同盟内部では意見の調整は行われていよう。それでも、ロデニウス大陸のことはまず、クワ・トイネとクイラに任せるという意思が読み取れた。それに、わらわは、エルトたちを通じて、あからさまな懲罰とは見えぬようにと言う条件も付けた。それはわらわにとって最大限の譲歩である。アルタラスに対する懲罰は決定事項である。さあ、其方の考えた懲罰案を報告せよ。」

 

 已むを得んか。まだ、状況について調査分析する時間が欲しかったが已むを得ん。

 

「わかりました。それでは、ご説明申し上げます。」

 

 私の説明に対して、レミール殿下は不機嫌であった。懲罰としては軽いということだろう。だが、アルタラス政府をして強気の交渉で飲み込めさせる不利益ということであれば、この程度であろう。多少の飴も用意しなければならぬ。だが、アルタラス王女の発言に対する制裁を考えると時期的にこれ以上伸ばすわけにはいかぬ。時期的に離れすぎると、関連性が薄まる。そう説明を付け加えて、皇帝陛下の裁可を待つこととなった。

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