大日本帝國召喚   作:もなもろ

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「手記」持ち主:外務局職員ヤゴウ (4)

2月6日

 

 本日の出来事は、報告書には書けないことがある。これは書いてはならない。だから、自分のためだけの手記に記して置く。この感情は記録されなければならない、それだけは確かだと思ったからだ。

 

 午前は、日本陸軍の閲兵を行うこととなっていた。日本の陸軍は、師団という基本単位で行動するらしい。この師団というのは、戦場で自由に動ける最低の単位ということで、主戦力となる歩兵部隊に加えて、大砲を扱う砲兵、戦車を扱う騎兵、戦場において工作作業を行う工兵、飛行機械を扱う飛行兵、後方支援を担当する輜重兵、戦傷者を救護する衛生兵などを一まとめにした部隊を指すとのことだ。1個師団にはおよそ1万人近くの人間が所属しているらしく、戦時には倍の人数に膨れ上がるという。日本の全国各地に師団は存在し、担当地域があるそうで、その師団の人員は原則としてその地域の人間が担当することになっている。こういった形式の師団が、日本国内には、全部で25個存在する。

 しかし、今日閲兵を行うのは、この25個ある師団のうちの一つではない。近衛師団という師団であり、この師団の人員は全国各地から選抜されて、はじめから1万5千人くらいで編制されているらしい。その任務は平時にあっては君主の守護に当り、戦時の際には敵軍攻撃の尖兵として果敢に戦闘を行うことを想定しているらしい。

 

 今回この近衛師団を閲兵するにあたっては、ハンキ将軍から、ビデオの撮影を十分に行うよう頼まれている。日本の軍備の調査は重要だ。特に日本国に到着してからその思いは強くなっている。

 先日行われた歓迎会、台北でのそれも、東京でのそれも極めて盛大に行われた。我が国に対する日本国およびその国民の印象は悪くない。いや、非常に友好的だ。これは、日本に到着した時の高雄港での市民の歓迎の様子や台北の北にある基隆港を視察した時の日本の民間人の丁寧な応接を受けたときにも感じた。

 そして、基隆港を視察した時に見せてもらった、小麦の備蓄倉庫。転移前にアメリカやヨーロッパと呼ばれているところから輸入していたとされる小麦の量を考えると、日本は食料の輸入を喫緊の課題として扱っていることが確認できた。そして、このような港がいくつもあり、穀物の輸入をしているのだという。基隆港は、日本国の中の一地方港だ。その一地方港湾であれだけの途方もない量を扱っている。その総重量はいくらになるというのだろうか。

 本国から輸出可能とする余剰農作物の総量についての調査結果はまだ魔信で届いていない。しかし、それは当たり前だとも思った。日本国が有しているような計算機器、コンピュータは我が国にはないのだ!!各公国直轄領・貴族領からの調査を待つといっても、その各領がどのようにして計算を行うというのだ。基隆港での計量機械、計算システムの解説を受けて私は愕然としている。本当に我が国で具体的な数量など出るのだろうか。そして、それは信用に値する数字なのか。

 日本国が我が国に好意的なのは、今のところ、我が国で生み出される食料が日本国の役に立つと考えられているからに他ならない。ハンキ将軍はこのように分析していた。そして、好意的な態度がいつまで続くのだろうかということを見極めなければならない。思うような食糧輸入の交渉が整わないとすれば、日本は軍事力を使って、我が国から食料を強奪するかもしれない。防衛のためには日本国の軍事力を調査する必要がある。ハンキ将軍は、そのようにおっしゃって今日に臨んでいる。

 

 近衛師団の閲兵は、歩兵部隊の行進受閲から始まった。近衛歩兵第一聯隊2000名が、軽快な音楽を背景に我々の前を通り過ぎていく。ハンキ将軍は、日本側の担当者に次々と質問を投げかける。

 先頭の兵士が持っている棒と紐みたいなものは何かと。あれは連隊旗であると答え、兵士にとっては旗手は非常に名誉な役目なのですと答えた。旗には見えないと思っていると、連隊旗は戦地にも持ち込むのですが、度重なる戦闘によって旗の布がぼろぼろになり、周りの房だけが残っております。このような状態の旗を持つというのは、それだけ激しい戦陣を潜り抜けてきたという戦果、名誉の証であるという。わからなくもないが、新調はしないのかと聞いてみたが、連隊旗は大元帥陛下から授かる大切な物であって、新調はしないのだという。なるほど、わからなくもない。

 続けて、ハンキ将軍は、兵士が持っている杖のようなものは何かと聞くと、歩兵銃という小銃なのだと答える。銃とは、パーパルディア皇国も使っている火薬を使って弾を飛ばす武器かと聞くと、パーパルディア皇国の使っているものが何かは分かりませんが、基本原理は同様であると答えた。日本の兵士はあれをすべて持っているのかと聞くと、歩兵は必ず持っていると答えた。

 私が、パーパルディア皇国の大使館に勤める同僚から聞いた話では、同国でも銃を配備した兵士が多いと聞く。とすると、日本は列強パーパルディア皇国並みの軍事力を持っているという話になる。これまでの日本視察で、日本の国力そのものは、パーパルディア皇国を大きく上回ることは分かり切っていた。実際の軍事力についてはわからなかったが、これで少なくともパーパルディア皇国と戦っても負けはしないであろうことが確認された。ハンキ将軍の顔が硬い。

 歩兵連隊の行進が終わると、砲兵大隊の行進が始まった。長い筒を突き刺した鉄の箱が進んでいく。あれも銃なのですかと聞いてみると、あれは自走野戦砲というと答えた。ハンキ将軍がさらに銃と砲との違いを聞いてみると、陸軍では口径20mm以上が砲、それより下が銃として扱っているとのことであった。あの砲はどれくらい飛ぶのかと聞くと、最大射程は30kmであると答えた。30km先から攻撃されるとなると、どうあがいても防ぐ手はない。列強国以上の軍備ではなかろうかとも思えた。

 騎兵部隊の行進が始まった。同じように長い筒を突き刺した鉄の箱が進んでいくが、先ほどのとは形が違う。聞いてみると、あれは戦車というと答えた。戦車について詳しく聞いてみると、強力な火砲による高い攻撃能力と、装甲による高い防御能力、そして無限軌道によって道路以外場所を走行する能力を持った車両であるとの答えだ。どれくらい先まで飛ぶのかと聞いてみたら、2kmから3kmくらいという。先ほどの車両より短いのかと思って聞くと、自走砲は遠くの目標を吹き飛ばす砲であり、戦車砲は近くの目標を破壊する砲であると説明された。

 ハンキ将軍に小声で尋ねた。我が国がこれらの兵器に対処するすべはあるかと。まだわからないが、ワイバーンをどう使うかだろうと答えられた。陸上戦闘では、手も足も出ないだろう。我々は複雑な気持ちで閲兵を続けた。

 

 

 日本国との戦争になっては、陸軍を我が国に侵入させてはならないことを確認した我々は、この後、日本国の君主との午餐会に臨んだ。日本の君主、天皇の住む宮城は、自動車が走り回り、さまざまな音が反響する大都会東京の中にあって、極めて静寂な空間であった。

 宮城内の宮殿は、迎賓館と比べると華美な印象はしなかったが、この静寂にして、厳粛とした雰囲気はどうだ。なぜだろうか、自然と心が引き締まる思いにとらわれていた。

 連翠という部屋で天皇を待つ我々に、天皇の侍従が室内に入ってきて、天皇陛下が間もなく出御あらせられますので、御起立願いますと声を掛けられた。君主の面前で立ってよいのだろうか、膝をつくのではと問うてみたが、我が国の儀礼では、起立敬礼となっておりますので、膝をつく必要はありません、との回答であった。とまどっていたが、日本の儀礼に合わせることとした。

 

 冒頭に記したが、これから先のことは私は本国に出す報告書に書いてはならないと思った。天皇が部屋に入るや否や日本人が斜め45度に頭を下げる。我々もそれに合わせた。

 

 クワ・トイネ公国の方々、この度は日本視察の任誠にご苦労様です。

 

 なぜだろうか。天皇の言葉を聞くだけで、私の心が引き締まっていく。静寂な雰囲気にあてられたのであろうか。凛とした言葉の底に染み渡る我々へのねぎらいの気持ちがすとんと心に入ってくる。決して威圧的な人物ではない、しかし、威厳を兼ね備えた者の持つ声だ。そういえば、日本の天皇家は2650年以上の歴史を誇るという。長く積み重ねた歴史を継承する者が持つ雰囲気がそうさせるのであろうか。服従を求めるものではない。しかし、自然と頭を垂れされる権威者という者が確かにこの世界には存在したのだ。

 これは、本国に出す報告書に書いてはならない。私は、クワ・トイネ公国の外交官なのだ。決して天皇陛下の臣下ではない。

 隣のオランゲを見ると顔が赤くなっていた。少し震えてもいたようだ。逆隣のハンキ将軍を見た。必死で目を閉じていた。首筋から一筋の汗が流れていた。

 

 日本視察を通して断言できることが一つある。日本がクワ・トイネ公国に侵攻することはない。これだけは確信をもって言い切ることができる。日本国を統治する天皇陛下に謁見したこと。これが根拠だ。何を書いているのかと自分でも信じられない。ただし、これは報告書に記載することはできない。もどかしいことだ。




あれです。ポルナレフ状態ってやつです。
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