大日本帝國召喚   作:もなもろ

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アルタラス崩壊のカウントダウンが始まりました。カイオスたち上層部の意図とは少しずつずれていきます。


パーパルディア皇国皇都エストシラント 宮内府国璽尚書秘書局 中央暦1639年10月16日(木)

パーパルディア皇国皇都エストシラント 宮内府国璽尚書秘書局

 ―国璽尚書秘書官 コンラート・ツー・ファルケンベルク

 

 宮内府の職掌は皇帝・皇族の私的な近侍役、彼らの私的な荘園の管理運営、宮殿の維持、皇国貴族の管理と多岐にわたっている。宮内府の長は宮内府大臣と言い、皇族が務める。現宮内府大臣は皇帝陛下の叔父君であらせられる、フランツ・オイゲン・フォン・オットー大公殿下である。その部下にも皇族や大貴族が名を連ねている。

 現国璽尚書であるオイゲン・コンスタンティン・フォン・ヒンターマイヤー=パルネス侯爵は、六代前の我が国の君主、パールネウス国王の弟が叙爵された家の現当主である。侯爵ということで格式だけは高いものの、領地はエストシラントからもパールネウスからも遠い地に叙封された。当時のリッテンハイム侯爵家が目を付けた「他国」。不思議なことにその「他国」の王家の男子が次々に落命した。残った女子に対してパールネウス王家の王弟が婿入りして成立したのが、ヒンターマイヤー=パルネス侯爵領。ヒンターマイヤー王国はこうしてパールネウス王国入りした。侯爵領設立の経緯から、リッテンハイム侯爵家とのつながりが深い家である。

 皇国の皇族は、帝位継承権を持ち、かつ当代の皇帝から5親等以内の者とされている。当代のヒンターマイヤー侯爵は2代前の侯爵が当時の王室から正妻を迎えているので、純然たる皇族の籍に在る。

 国璽尚書の職掌は皇国の璽と皇帝の璽の両方を所蔵することである。官吏の任命書に皇帝の璽を押したり、外国への皇帝の親書に国璽を押したりする。基本的には官吏の任命書そのものは各官庁から送付されてくるので、我々の仕事はこれに皇帝の璽を押すことにとどまるが、大臣や軍の高官などの任命書の場合は皇帝が自ら任命するという体裁をとる為清書も我々が行う。他にも皇帝の発する国外への親書もまた我々が清書を行い、国璽を押す。文面そのものは、下書きが各部局で作成されるので、我々はその内容に口を挟むことは無い。

 

「第三外務局からアルタラス国王への皇帝親書の原稿が届きました。清書をお願いします。」

 

 王璽尚書秘書局所属の庶務が書類を持ってきた。王璽尚書秘書局は王璽尚書の実働部隊である。10名の書類の運搬、局内の雑用、掃除などを行う庶務、5名の書類を清書する秘書官、そして国璽・皇帝璽を押す秘書官長という人員構成である。

 

「ふむ・・・」

 

 原稿を読みながら清書用の羊皮紙のサイズを考える。この内容であれば、一番広いサイズを使うべきだが。しかし、この原稿ひどいな・・・。

 

「秘書官長、ちょっとよろしいでしょうか。」

 

 書類の内容に疑義があったので、原稿を持って秘書官長の机を尋ねた。

 

「おや、ファルケンベルク君。どうしたね、原稿など持って?」

「第三外務局から皇帝親書の清書依頼が届きました。しかし、こちらの原稿の記載なんですが・・・」

「ふむ・・・」

 

原稿記号

・『』(追加)

・<>(削除)

 

神聖にして至高、神の恩寵下にあるパーパルディア皇帝ルディアス・パルテメシアン・フォン・エストシラント=パールトートは、アルタラス<王国>『島を領有する』ターラ・ド・ラ・ファイエット<陛下><『大卿』>『陛下』に対して、パーパルディア皇国及びアルタラス<王国>『島』双方の友好及び繁栄の為以下の提案を行う『<光栄を有す>』。

 

一、アルタラス<王国><『島』>『王国』政府資源管理局が管理し、ラ・ファイエット<王>『王』家が所有するところのシルウトラス鉱山及びハルトマイム鉱山について次の提案を行う。

 この所有権をアルタラス王家からエストシラント=パールトート皇帝家に移転すること。この管理についても<王国><アルタラス島を領有する現地政府>『王国』資源管理局から皇国財務局理財部に移転すること。

 言うまでもなく、魔石は魔導文明における必要不可欠の資源である。然るにアルタラス島は文明圏外に位置しており、その資源を有効に活用しえていないのが現状である。皇国の優秀な技術及び設備を以て魔石の採掘効率を上昇せしめ、アルタラスの鉱山の価値を高める。また、高品質の魔石の増産は、世界各国の利益にも合致する。アルタラス国王に於てもこの意義<は理解し得るものと信ずる>『を当然に理解し得ることと朕は確信している』。

 

一、ターラ・ド・ラ・ファイエット<陛下><『大卿』>『陛下』の第一王女ルミエス・ラ・ファイエット<殿下><『嬢』>『殿下』に関して次の提案を行う。

 <第一王女とパーパルディア貴族ラムズドラーヘ伯爵家の家督相続予定者との婚姻を承認す。>『朕はパーパルディア貴族<ラムズドラーヘ男爵>『ラムゼイドラーヘ子爵家の男子』と第一王女との間の婚姻を許す。』

 アルタラス王家とパーパルディア貴族の間に新たな関係を作ることで、両国両家の間の紐帯を強めたいと考える。ターラ陛下の第一夫人もまたパーパルディア貴族からの出身と聞いている。朕はその縁を更に強めたいと考えている。<書面に記した貴族は、皇国でも有能な男であり、中央騎士団に所属している。><『書面に記した貴族は、皇国の大貴族リッテンハイム侯爵家に連なる家格を持つ。』>王女には皇都での輝かしい生活が、栄光の日々が約束されている。『この栄誉に預かれることを名誉に思わぬ者はおらぬと朕は確信せり。』

 

以上の如く、朕はターラ国王とその愛する王女そして王国政府に対して有益な提案を為したり。速やかな提案の<合意>『実施』に向けての事務手続きを進めるよう朕は朕の政府に命じたり。ターラ国王においても国王陛下の政府に対して提案の<合意>『実施』についての手続きを開始されるよう指示されたし。

 

中央暦1639年10月11日

 

パーパルディア皇帝ルディアス・パルテメシアン・フォン・エストシラント=パールトート(パーパルディア皇国の印)

 

「なんとまあ、第三外務局は一体全体何を考えてるんだろうねえ。こんなに校閲をしたものをそっくりそのまま渡してくるとは・・・。ちゃんと推敲済みのきれいな原稿を持ってくるのが、礼儀と言うかマナーというか・・・。」

「はい、それもあるのですが、こちらのルミエス王女の処遇についてなのですが、元々記載のあるラムズドラーヘ伯爵はパールネウス王国期から存在する古い貴族なのですが、こちらの最終記載に挙がっているラムゼイドラーヘ子爵という家は皇国貴族には存在しないと思うのです。」

「何?それはおかしいな・・・。だが、帝国貴族の数は多い。その全てを君は頭に入れているというわけでもあるまい。」

「ええ、勿論です。たまたま典礼局から貴族年鑑を借りてきていたので、調べてみたのですが、名前を見つけられないのです。」

 

 私はそう言って、『貴族年鑑』を秘書官長に渡した。とても重い本だ。片手では持てない。

 

「どれどれ・・・・。ふむ・・・。確かに名前がないな・・・。これは弱ったな。」

「ええ、しかし、こちらのラムズドラーヘ男爵のほうですが、年鑑に名前があります。リッテンハイム侯爵家の寄子である駐アルタラス大使のアルベール・ハイトベルグ・ツー・カスト伯爵の寄子として記録されています。アルタラス王国の王女の嫁ぎ先ということであれば、アルタラス大使が仲人として立ち振る舞うことになるのはおかしなことではありません。むしろ自然なことと言えましょう。こちらが本来の表記ではないかと思うのですが?」

 

 各国大使は皇帝陛下の代理人である。この親書はアルタラス大使から渡されることになる以上、王女の嫁ぎ先について世話をするのはカスト大使だ。諸々の調整についてはカスト大使が当たられるということであれば、カスト大使の縁者が選ばれるのが自然と言える。

 

「だがなあ、もともとの記載ではそれこそカスト大使どころか、リッテンハイム侯爵家とも縁の浅いラムズドラーヘ伯爵家の家督相続予定者が嫁ぎ先として勅許を得ているのだぞ。いくらラムズドラーヘ男爵家がラムズドラーヘ伯爵家から枝分かれした家と言ってもだ、『年鑑』の記載を読む限りだと、家通しの付き合いは薄そうだ。そういう家をわざわざ候補者として選んでいるのだ。その線は薄いのではないか。」

「しかし、それではカスト大使の面目がつぶれるのではないかと思うのですが。」

「うーん、それはまあ確かに。」

 

 そうなのだ。アルタラスから嫁を迎えるというのであれば、その調整はアルタラス大使の職分だろう。カスト伯爵家と縁のない人間の世話をさせるというのは、第三外務局は貴族の常識を知らないというより他にないのだが。

 

「しかしなあ、この文書だが、至急印の前にわざわざ「大」の文字を書いている。つまりは、大至急処理してくれということだ。皇帝秘書官の署名も2人分ある。間違いなく皇帝陛下の裁可が降りた書類だ。これを一々問い合わせるというのもなんだぞ。越権行為ではないか?」

 

 秘書官長の意見は一にも二にも道理がある。これまで何人もの人間がチェックしており、そして、そのチェック者には、皇帝陛下も名を連ねている書類だ。下級官吏如きが口を挟んでいい問題ではない。

 

「あるいはだ。この書簡の重要なことは寧ろその前のシルウトラス鉱山の割譲についてなのだろうと思う。かの有名な鉱山の利権を我が国が奪取する。王女の嫁ぎ先など実際問題どうでもよいことなのではないか。だから、こうした適当なことが書いてある。我々が気に病む必要はないのじゃないか。」

 

 なるほど・・・。確かにそうだ。この書簡の大事なところは、鉱山の利権を奪取することにある。それからすれば、アルタラスの王女のことなど些末な問題だ。

 

「まあ、それに、年鑑に名前がないということは、新たに貴族に取り立てる予定があるのかもしれないよ。そう考えると、カスト伯爵のほうでうまくさばいてくれてということかもしれないしね。こちらで指定するのではなく、カスト伯爵の裁量で家を決めて、再度の勅許を願い出るという方針なのかもしれないね。」

「なるほど。確かにそうですと、カスト伯爵の手腕が評価されるということで、勤務考課の一材料ともなりますね。おまけにカスト伯爵家も信頼にたる寄子を一人得ることができます。納得です。」

「まあ、あくまでも私の推測でしかないんだけどね。さあ、大至急の書類らしいから、さっさと仕上げて、第三外務局に渡してあげて。」

 

 了解しましたと言って、私は貴族年鑑と原稿文を持って自分の席に戻っていった。しかし、この書簡、読みづらいな。おまけにアルタラス国王に陛下の敬称をつけているとは、第三外務局は一体どうしたってんだ。

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